異世界の騎士、地球に行く   作:Anacletus

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第138話「乙女と淑女」

 

「騎士ベルディクトォォオオオオオ!!!?」

 

 ズドドドドドと何かの野生動物の群れが物凄い勢いでやってくるような光景。

 

 目を血走らせつつ興奮した様子で鼻息も荒くやってくるのは陰陽自研の白衣の一団であった。

 

 現在地は陰陽自の善導騎士団の領域内だ。

 

 すぐ近くに転移用の最下層の儀式場がある関係で出入りにはかなりの制限が掛かる。

 

 しかし、フリーパスでやってくる白衣達にとっては10mの隔壁も単なるドアなのか。

 

 彼らはやってくるなり、私室で座禅スタイル。

 

 後ろにハルティーナを従えてポケットをフル活用する態勢になっていた少年にキスしそうな程に近く顔を寄せて目をギラギラさせた。

 

「ぁ、あの、何か?」

 

 さすがに引き気味に少年が訊ねる。

 

「遂にッッ、つ・い・にッッ!! ディミスリルの原理が解析出来ました!!」

 

「あ、本当ですか?」

 

「ええ!! ですので、出来れば、かなり緊急に全体会議を開きたいのですが!!」

 

「え、ええと、実は今それどころじゃなくてですね。ポケットの流動量限界まで使って色々やってるので精神集中が解けないというか。お昼休みも時間が無いというか……数日後になりませんか?」

 

「む……そ、そうですね。我々とした事が失念しておりました。今は復興の最中でしたか」

 

「はい。後、復興関係の会議に身体を入れ替えて出なければなのでデータだけ置いて行って頂ければ、後で拝見します」

 

「了解しました!! 大変失礼を!! では、全体会議の決済だけでも!!」

 

「分かりました。そちらはお任せします。書類の方は今日中に電子書類で。決済はすぐにやっておきますから」

 

 白衣の研究者達は大きく満足そうに頷いて、この快挙を他の連中と分かち合わねばと大規模な研究成果を報告する為に各研究室や派閥の連中を巻き込まんと再び走り出して通路の先へと消えていったのだった。

 

「ベル様」

「何ですか?」

 

「今、ヒューリアさんと妹さん達、それからフィクシー大隊長が来るそうです」

 

「あ、はい。今日は此処でですか?」

 

「いえ、たまには外でという話で演習場付近の方へ。部隊は今も日本中の山間部のゾンビ掃討作戦中ですし、静かだろうと」

 

「分かりました。じゃあ、お願いします」

「はい……」

 

 ちょっとだけハルティーナが恥ずかしそうにコクリと頷いた。

 

 少年をまるで王子様がお姫様を抱っこするようにそっと抱えた少女はそのまま静々とそこからあまり人目に付かない通路を使って目的地へと歩き出す。

 

 肉体に殆ど力を入れられない程に精神集中した少年は近頃ずっとそうやって自分の護衛に抱き抱えられての移動が多くなっていた。

 

 理由は単純だ。

 車椅子が不便なのと。

 

 もしもの時は少女の手の中の方が安全というたったそれだけの話である。

 

 緊急時は車椅子を使うので問題無しである為、バリアフリーなんて考えていない基地内部もスイスイとその状態で進むのがこの数日陰陽自や善導騎士団本部で見られる光景であった。

 

 ちょっと羨ましそうな顔のヒューリやフィクシーであったが、先日の事件から会議や反省点を洗い出しての戦術構築や各地の被害地域への視察と課題のまとめなどを周囲の人々と行っている関係から通信以外では会っていなかった。

 

 家にも帰っていない為、緋祝邸にはFCの姉弟と緋祝姉妹だけだ。

 

 少年の秘書である明神とミシェルはどちらも現在は少年の代わりに重要度が低い会議に出席しており不在。

 

 対魔騎師隊の面々は通常業務に戻っていたが、黙示録の四騎士との戦闘データの解析とレポートの作成、更にデータを元にした戦術の再構築や装備の見直し、改善点の提示などやる事は山積みであった。

 

 結果として少年は約束していたハルティーナへのボーナスも未だ出せていない。

 

 まぁ、その偉業を成し遂げたはずの当人は少年の横でいつものように真面目に立ちっ放しだったり、お茶を入れたり、飲ませたり、ニコニコして甲斐甲斐しく世話しているのだが。

 

「到着です」

 

 地下から出て演習場の一角が見える廃墟にしか見えない周辺監視用の廃ビル屋上にまでやってきたハルティーナはさっと片手で少年を抱えて、少年が導線で取り寄せた花柄の大きなシートと染み目な色の座布団を敷いて、少年を座らせてから同じように取り出した弁当。

 

 緋祝邸に用意していた明日輝の弁当という名の重箱を5つ重ねて中央に置き、今は静かな演習場……現在は実弾演習も無く単なる一般人の町内会とか市町村議会の高齢者達がMHペンダントを付けてハフハフと基礎体力を付けて演習しているのを横目に少年の横に付けた。

 

 基本的に今の彼らがやらされているのは体力作り及び屋内や陣地、家屋を用いた戦闘の基礎的な陰陽自のカリキュラムだ。

 

 広い陰陽自の演習場では基礎体力を養わされ、屋内ではシェルターに備え付ける事が決まっている重火器の講習が行われている。

 

 講習と言っても数時間単位での連続射撃。

 

 それも屋内に攻め込まれたりした場合が想定されている。

 

 他にもシェルターを背後にして陣地での防衛訓練も行わされている為、これはもう陸自の仕事だろとぶつくさ言う高齢者は多かったが、彼らは行軍するわけではない為、根本的には拠点防衛戦術に限っての実地訓練のみだ。

 

 実は今現在造られている全てのシェルターに陰陽自や善導騎士団のコードが発令されたら屋内のガンケースが解放される仕組みが導入された。

 

 人に向けて撃てないが、ゾンビは撃てる高性能な電子機能搭載済みの重火器(羽毛のように軽過ぎるいつもの蒼いヤツ)が火薬を用いないディミスリル製ケースレス弾込みでぶっ込まれている。

 

 ついでにシェルター内には欧米並みの射撃場や防衛装備の演習場も完備した。

 

 銃社会な米国を見習えとは言わないが、最も素人がゾンビを駆逐するのに必要な火器が使用環境と共に大量供給されたわけである。

 

 まぁ、安全面を考慮して弾薬が魔力式になったり、撃つ為の安全装置がガッチリ色々と付けられたりしたのでそう文句は出なかった。

 

 抵抗感はあったに違いないが、あの事件の後である。

 

 銃以外にも色々と魔術師技能や変異覚醒者用の装備や善導チャンネルなどで配布を予定していると言っていた一般人用の防衛装備も順次配布が始まっている。

 

 例えば、カードに魔術を込めて、ゾンビ相手にだけ撃てるようにした追尾機能付きのお札系アイテムとか。

 

 人間には攻撃出来ないPCやゲーム筐体で操る人型の拠点周囲でしか使えない防衛用のディミスリル系ドローン(人型や乗り物系)とか。

 

 そういうのを大量に造る為の設備なども一緒に復興と共に少年は造っていた。

 

 日本各地の陸自基地や善導騎士団支部に設けられた生産設備は順次稼働を開始しており、それに対するディミスリルや魔力の供給も同時にこなしているのだ。

 

 身体を動かす事にすら集中力が割けないという話も無理はなかった。

 

「ベルはん」

「あ、シュピナさん」

「お暇?」

「はい。一緒にご飯食べて行きませんか?」

「……いいのん?」

「ええ」

 

 コクリと頷いたシュピナがいつも通りに少年の横に座布団を持ってきて並んだ。

 

「ベル。来たぞ」

 

 ビルの下から飛び上がって来たのはフィクシーであった。

 

 数日間、働き詰めであったのだが、ようやく少し時間が取れたらしく。

 

 ヨレッとはしていないものの。

 

 少しだけ、その飛び上がって来た足取りは重かったかもしれない。

 

「ベルさ~ん」

「お姉様。お弁当は?」

「はい。今日はお重なので色々入ってますよ」

 

 三姉妹もほぼ同時に到着したのか。

 同じようにビルの背後から動魔術で飛び上がって来る。

 

「皆さん。お疲れ様です。疲れてませんか? ハルティーナさんが準備してくれたので、座って下さい。お昼にしましょう」

 

「あ、シュピナちゃん」

「シュピナさんですね」

 

 悠音と明日輝が少女を見て少し驚く。

 

 このメンツの中で唯一普通にテレビでアイドルとか見たりする事のある二人にしてみれば、事前に聞かされてはいても、芸能人が少年と知り合いというのは実際に見て見ないと中々にして実感出来なかった事だった。

 

 取り敢えず、シュピナへの姉妹達の挨拶も程々に昼食となった。

 

 メインとなる話は復興関係だ。

 

 ヒューリは全国のシェルターへの物資搬入関連で食糧関係を諸々手伝っており、フィクシーは復興に関する全体会議で善導騎士団の立場を代表して秘書達と手分けして事に当たっているので少年とは話がある程度分かる。

 

 それの横では対魔騎師隊と一緒に痛滅者関連のデータのまとめや当時のレポートを書いたり、提出している姉妹達が少年へ諸々の意見や不満を語っていた。

 

 1人語る事もないシュピナであるが、少年の話に相槌を打っているだけで楽しそうである。

 

 一応、食事こそしているが、一時も気を抜かずに微笑んでいるハルティーナは難しいのは難しいのが得意な人達に任せておこうという体でお茶を注いだり、少年の皿にお重から綺麗に盛られたミニハンバーグだのから揚げだのを取りよそっている。

 

「で、どうなのだ? そちらの進捗は?」

 

 フィクシーの言葉に少年が此処だけの話として今現在の復興状況を教える。

 

「今現在、2割くらいです。ただ……」

「ただ?」

 

「僕のポケットだけじゃ手が足りてません。それでなんですが、【魔導機械術式(HMC2)】に乗り換えた人達に魔導の空間制御系の術式のみに絞っての習得を指示しました。まだ、自動化出来ない部分があるんですけど、数日以内にはソレ単体なら初心者にも手動の調整込々で駆動出来るようになると思います」

 

「遂にか?」

 

「はい。元々、魔導への大系転換はやってましたから。それを更に簡便にした大系が開発された時点でそうしようとは思ってたんです。再記述が完了したのがこのタイミングでかなり助かりました」

 

「これで実質的には魔導関係の空間制御はお前だけの専売特許ではなくなるのか?」

 

「ええ。でも、何分、記述量が膨大で、再記述時の仕様変更に伴って色々と弄らなきゃならない部分が多過ぎて……今僕がやってるような錬金技能との合わせ技や制御空間内での物質加工を全部出来るようになるにはまだ数か月掛かります」

 

「つまり、道程は遠い、と」

 

「はい。でも、転送に関しては完璧になるはずです。僕よりも制御空間の容量は大きくしたので一気にピンポイントな物流関係は改善すると思います」

 

「苦労を掛けるな」

 

「いえ、僕の仕事ですから。それにそちらから色々と術式を取り込んだので数日でこっちの容量も増えます。そうなれば、もっと速度は早まるはずです」

 

「復興が捗るな。我らの兵站係は優秀なようだ」

 

 ちょっと照れた少年に少女達は凄い凄いと持ち上げるものだから、さすがの少年も恥ずかし気に小さくなった。

 

「あ、そう言えば、ベルさん。マヲーとクヲーを見てませんか?」

 

 ふと少女がそんな事を尋ねる。

 

「え? いないんですか?」

「実はユーネリアとアステリアがここ数日見てないと」

「そうなんですか? 悠音さん。明日輝さん」

 

 少年が姉妹達の方を向く。

 

「うん。猫ちゃん達、御夕飯にも顔を出さないのよ。何処に行ったんだろうってお姉様と一緒に話してたの」

 

「一応、猫ちゃん達用に多めに作ってたんですけど、ラグさんとミシェルさんが頑張って平らげてくれました。後で胃薬持って行かないと……」

 

 明日輝が頑張って平らげてくれたここ数日の二人の様子からそう微笑む。

 

「ああ、だから、何か朝からミシェルさんもお腹を摩って……分かりました。ちょっと、覗いてみますね」

 

「覗くって何?」

 

 悠音が首を傾げる。

 

「使い魔とはチャンネル間で強固に繋がってるので相手の現在状況とか分かるんですよ。二匹のプライベートとか覗くのは悪いと思って、いつもは閉じてるんですけど……」

 

 猫にプライベートはあるのだろうかという顔になった姉妹達であったが、大陸……特に中央諸国では使い魔にも人権並みに使い魔権が認められていたりする。

 

 特に知的な能力に長けた者には大きな権利が与えられる。

 

 まぁ、そんな事は知らずとも猫達のプライベートに興味があるのは誰もが同じであった。

 

 少年が術式を展開し、自分を通じて猫達の視ているモノが見えるようにし、更に全員が見えるよう前方の虚空に映像として視界を投影する。

 

 その途端―――だった。

 

 グシャァアアアアッという音声付のスプラッター映像が流れた。

 

 思わずビクリとした三姉妹。

 

 シュピナは興味津々で少年の後ろから見ており、思わずフィクシーも見入ってしまった。

 

 それは……明らかに昼時に見る映像では無かった。

 

 何処にいるのか。

 

 猫ズの眼前には同型ゾンビが大量に屯しており、異相なのか。

 

 暗い真空に星々が鏤められたような空間で次々に視界内に収められている同型ゾンビ達が猫パンチや手招きらしい仕草で砕けてはフヨフヨと漂っていた。

 

 だが、それがあまりにも馬鹿馬鹿しく思える程にゾンビ達は大量で空間内には埋め尽くさんばかりに溢れている。

 

「これは……」

 

 思わずフィクシーが目を細める。

 

「どうやら、何処かの異相で同型ゾンビを狩ってる、みたいですね」

 

「ね、猫ちゃん達ってこんなに強かったの!?」

 

 思わず悠音が目を見張って少年を見やる。

 

「え、ええ。どれくらい強いのかは知りませんけど、まぁ……大魔術師以上くらいの能力はあるんだろうなぁって思ってはいました。リスティアさんを蘇生させてたので今更なんですけど」

 

「あ、そう言えば、リスティアさんを蘇らせたって前に聞いてましたけど。本当に強いんですね。あの猫ちゃん達……」

 

 いつも虚空に箸を持ち。

 

 自分の料理をがっついている猫が猫型使い魔であると思い出した様子で明日輝がマジマジと映像を見やった。

 

「それにしても同型ゾンビがこれ程に……()()()だ?」

 

「分かりません。でも、BFC側のじゃないのは確かですね。異相って事はもしかしたら先日の事件で同型ゾンビが出て来なかったのは……」

 

「そうだとすれば、高級料理くらい食わせてやらんとな」

 

 普通のゾンビだけだからこそ、あの状況でも死傷者が数十万規模で済んだという側面がある事は言うまでも無く陰陽自にも善導騎士団にも分かっていた。

 

『マヲ。マヲヲヲ。マヲーヲゥ!!』

『クヲ~~~ククヲクク? クークヲヲ』

 

「あ、来週くらいには帰ろうかって言ってますね。たぶん」

 

 ハルティーナが猫語……いや、クヲ語とマヲ語をシレッと翻訳した。

 

 それが分かったのは後は少年と明日輝、ヒューリくらいだ。

 

「来週。わ、分かりました!! 猫ちゃん達に豪勢なお料理を作る事にしますね!!」

 

 グッと明日輝が拳を握って宣言する。

 

「そうしてやってくれ。もういいぞ」

 

 すぐに映像が途切れ、ちょっと食事の気を削がれた少女達であったが、残りは夕飯時に出してもいいからとそろそろ解散かな、という時。

 

 ふとシュピナが未だに膨れたままの明日輝のお腹を見やった。

 

「……ベルはんの赤ちゃん?」

 

 ブホッと噴出したのは三姉妹だ。

 

 さすがにフィクシーは耐えたようだが、不意打ちだったのか。

 

 思わずゴホンと咳払いした。

 

「ち、ちち、違いますよ!! わ、私まだベルさんの赤ちゃんはで、出来てません!!」

 

 今まで誰も突っ込まなかったものが突如として突っ込まれた事で明日輝が顔を赤くして主張する。

 

 ハルティーナなどは事情を聞かされていたので別にノーリアクションだったのだが、改めて明日輝のお腹を見てからマジマジと脳裏で何かを想像して、少しだけ照れた様子になった。

 

「ええと、明日輝さんは精霊の赤ちゃんをお腹に宿していて……」

 

 詳しい事は言わずとも少年がそう説明する。

 

「ん~~? 赤ちゃん……やっぱりベルはんとの?」

「だ、だから、違います!?」

「そやの?」

「は、はいッッ!!」

 

 明日輝が赤い頬のままで全力否定する。

 

「ベルはん。赤ちゃん欲しゅうないのん?」

「え?!」

 

 さすがに赤ちゃん欲しくないと聞かれて虚を突かれた少年が狼狽える。

 

「ウチ、ベルはんの赤ちゃんなら産んでもええよ? お母様が赤ちゃんを作る時はイイ人と作るんよって言うてた」

 

 思わずその場の全員が赤くなった。

 

 まるで一緒に料理を作ろうとか言い出すくらい少女は気軽だ。

 

 しかし、その笑みはとても……そうとても……真意である事が分かるくらいに期待に満ちていた。

 

「え、ええと……」

 

「だ、ダメです!! さ、最初にベルさんの赤ちゃんを産むのは私ですから!!」

 

 思わず、なのだろう。

 

 妹達の前で赤ちゃん産みます宣言をかましたヒューリが頬を赤くしながらも叫んだ。

 

 それでなのか。

 

 フシュウッと頭からは微妙に湯気が上がり、魔力の転化によるものか。

 

 瞬間的にユラッと周囲に陽炎が立ち昇ったかと思えば、その額の両端にメキョリと角らしい黄金にしか見えない飾りとも見えるものが育って頭部に沿って後方へと伸びた。

 

「え?! ヒューリお姉ちゃん!?」

「ヒューリ姉さん!?」

 

 妹達が驚いたのがその宣言にだとでも思ったのか。

 

 ちょっと、ヒートアップしたヒューリがいつの間にかリスティアが陰陽自研と共同で造った魔眼封じのコンタクトレンズが剥がれたのも分からず。

 

 その多重の虹を閉じ込めたような虹彩を輝かせる。

 

「うぅ……」

 

 僅かにふらついた様子で頭を抱えてヒューリが呻く。

 

 その間にもその背中には黒い鉱石と黄金の金具を混じり合わせたような彫刻染みた片翼2m程の翼が突き出した。

 

 それのみならず。

 

 少女の衣服が次々に内部からの魔力の噴出で敗れたかと思うと全裸を飾るように肌が黒く変色し、耳や指に翼と同じような黄金の金具染みた部分が浮き出し、尾てい骨辺りから生えた撓る革製にも見える複数の尻尾の先に付いた黄金の飾りが少女の股間や胸元を蔽って、首や両手両足に金輪のように絡みついた。

 

 乳房は丸見えだったが、最低限の羞恥心というか。

 大切な場所は本能的にガードしたらしい。

 

 黄金の角はまるで山羊の角を象形化したかのような飾りにも見える。

 

「ヒューリさん!!」

 

 慌てて少年が駆け寄ると。

 少女の髪にも変化が起きた。

 

 その黄金色がサァアッと白髪へと変化したかと思うと急激に綿状にモコモコと膨れ上がって、髪の毛というよりは羊の毛を思わせる質感となって……まるでそういうフードを被っているかのような状態にまで変化した。

 

 残っていた黒革を編み込んだような尻尾の先の金の金具が次々にモコモコ髪を編み込むように動いたかと思うとキュッと最後には髪飾りのように先端を縛って固着する。

 

「ぅ……ベルさぁん」

 

 涙目で少女がヒシッと少年を抱き締める。

 

「ヒューリ姉さん!?」

「ヒューリお姉ちゃん!?」

「これは……」

 

 思わずフィクシーが瞳を細めて、少年に寄り掛かるようにしてハァハァと息も絶え絶えなヒューリの傍に近付き観察しながら、そっと肌に触れる。

 

「ひゃん?!」

 

 ビクッと震えたヒューリが甘くも恥ずかし気な声を出した。

 

「ベル。外套を」

「は、はい!!」

 

 すぐに少年が少女に外套を被せた。

 

「済まないな。今日の昼食は此処までだ。シュピナーゼ殿はお帰り願えるか?」

 

「ウチ?」

 

「済みません。ヒューリさんの体調が思わしくないようなので今日はここまでで。すみません」

 

「また、来てええ?」

「はい」

「じゃあ、また」

 

 さっぱりした様子で少年に片手をちょっと上げて応えた少女は瞬間的に転移で消える。

 

 周囲に散らばったお弁当関連は少年がすぐに導線で片付け。

 

 その場の全員で善導騎士団本部へと彼らは向かう事になるのだった。

 

 *

 

 先日、明日輝を見てくれた女医が今日は眼鏡姿でヒューリを診察し終え、寝台に寝かせた少女に魔族用の麻酔薬。

 

 フィクシーが儀式用に製造していた調合剤を処方した後。

 

 先日と同じように診察室の一室でベルとフィクシーを前に結果を報告していた。

 

「取り敢えず、大まかに言うとコレは高位魔族の肉体かと思われます」

 

「やはりか……」

 

「前々からその前兆はあったのでは? 恐らく、それがここ最近の巨大な魔力が大量に使われた事件を受けて表出したのではないかと」

 

「そうなんですか。じゃあ、リスティアさんや悠音さんや明日輝さんと同じ……」

 

「何かあったようですが、其処はお聞きしません。取り敢えず、診断結果だけを申し上げるならば、もう騎士ヒューリアは排泄の必要が無くなったようです」

 

「それは……高位魔族特有の生態機能の高度化ですか?」

 

 フィクシーの言葉に女医が頷く。

 

「はい。魔族特有の高次の食事が可能となったようです。対応する不の感情などを喰らったり、魂なども食料の一つとなるでしょう。他にも内臓はやはり女性体として子供を儲ける器官に特化されているようですね」

 

「全体的には?」

 

「各種の細胞が人間の強度を超えています。さすがに高位魔族の肉体を見た事はないので何とも言えませんが通常のハーフや血統を受け継ぐ方と比べても数万倍の能力差だと思われます」

 

「数万倍……」

 

 少年が横で静かに眠るヒューリを見つめる。

 

 面影はあるのだが、透き通るようなエキゾチックな黒色の肌に白い髪、黄金の輪などが見えると外見ではすぐに少女と知り合いだって分からないだろう。

 

「ただ、肉体の急激な変化で負担が掛かったようなのでしばらくは絶対安静です。あまり興奮させないようにお休みさせて下さい。魔力の高ぶりがあまりにも大きくなると命に影響は無くても周囲で災害が起きる可能性があります」

 

 フィクシーが頷いた。

 

「後、尾てい骨から伸びた尻尾が変質した金具ですが、これらは一種の外皮のようなものと考えて下さい。体の一部ですが、固くなった爪や皮膚みたいなもので当人の意志で変形、変質させられると思われます。身一つで再生した魔族が己の肉体を蔽う鎧としてそういうものを一部変形させる事は知られた事実ですので訓練次第でどうにでもなるかと」

 

「分かりました。ありがとうございました。先生」

 

「いえ、お大事に。それと騎士ベルディクト」

 

「はい」

 

「これは女医ではなく女としての意見なのですが、今現在の状態は騎士ヒューリアにとっては恐らく不本意な状態でしょう。ですので、元に戻そうとするのではなく。彼女の心に応え、彼女を労り、愛しんで上げて下さい」

 

「わ、分かりました……」

 

 取り敢えず、諸々の説明を受けた二人はヒューリをベルの外套で包んでストレッチャーに載せ、不可視化の魔術を掛けて緋祝邸まで帰る事にした。

 

 騎士団本部の地下から陰陽自の地下へと転移で帰り、そのまま姉妹達と共に戻った少年はそろそろ仕事に行かねばならないフィクシーと二人切りで玄関先で話し合う。

 

「しばらくは急病でお休みって事でいいですか?」

 

「ああ、それで構わん。別に魔族関連の血統であるというのは大陸中央なら、そう問題になるような事でもないからな。実際、七教会は高位魔族も一応は受け入れているし、普通にそういう者達も暮らしていた。問題は……」

 

「魔族側ですね?」

 

「ああ、高位魔族として覚醒した以上、狙われる可能性が高い。BFCの拠点は先日の一件で壊滅したとはいえ、魔族側の進出は赤鳴村で未だに続いている」

 

「何が目的なんでしょうね……」

 

「見ていると思うが、現地で交流しているようだ。老人達に言葉を教わったりもしているが、後はその健康を気遣うだけでゾンビ達の拡散は今も続いている。陽動の可能性もある以上は気を抜くな。クアドリスの配下が何人いるのかもまだ定かではないのだから」

 

「分かりました。今まで以上に三人やリスティアさんには僕の方から目を配っておきます」

 

「私はどうしても此処を開けがちだからな。よろしく頼む」

 

「はい!!」

 

「この件はクローディオや副団長にも伝えておく。それと……」

 

「?」

 

 少しだけ言い淀んだフィクシーが瞳を伏せてから、少年をまた見つめる。

 

「……私はこういう状況だからと手を休めてやる程、お人好しでもない。だが、あの寂しがり屋をお前が放置しておけるはずもない。だから……」

 

 スッとフィクシーの手が少年の頬に当てられ、顔を上向けさせる。

 

 唇が不意打ちのように少年に触れた。

 

 そして、すぐに甘く温かなものが少年の口内を満たして、そう時間も掛けずに引いていく。

 

 艶やかな唾液の細い糸を一本残して、ちょっと恥ずかしそうにフィクシーが少年の唇を己の親指で拭った。

 

「そう、呆けた顔をしてくれるな。これでも一杯一杯だ……四騎士の一人を斃した今だから、少しは自分に褒美を取らそうと思ってな。嫌だったか?」

 

 思わず少年が首を横に振る。

 

「ふふ、良かった……なら、いい……お前が誰を選ぼうと……選ばざる事を選ぶとしても……私の気持ちは変わらない……だから、お前も素直な気持ちであの子に……いや、あの子達に応えてやれ……女とて独占欲くらいある……でも、それよりもお前が明るく笑っていてくれる方が私は嬉しいのだ……この気持ちを誰が何と言おうと……私にはお前がそう歩んでくれる事が大切に思える」

 

「フィー隊長……」

 

 今度はそっと頬に唇が降る。

 

「男なのだろう? ならば、男らしく全てに応えてみせろ。私のベルはそういう度量がある、大きな男だと私に信じさせてくれ」

 

「ッ―――はい」

 

 少年が唇を引き結んで少しだけ潤みそうな瞳でしっかりと頷いた。

 

「ふふ、凛々しいぞ。カワイイ顔もいいが、そっちの方が夜ならば魅力的だ。では、数日後にまた」

 

 艶めく唇を僅かだけチロリと悪戯っ子のように出した……普段ならば考えられないくらいに乙女らしい……いや、年頃の少女らしいフィクシーはそうして竹林の奥へと歩き去って行った。

 

 それを見送ってから少年が玄関を閉めて後ろを振り向くと。

 ちょっと頬を膨らませる姉妹達がいて。

 

「ベル……」

「ベルディクトさん……」

「え? あ、い、今のはですね!?」

 

 慌てて言い訳しようとしたものの。

 少女達は溜息一つ。

 困ったような笑顔で少年を迎えて。

 

「ほらほら、ヒューリお姉ちゃんの看病して!!」

「そうですよ!! ご飯の支度や諸々は私達がしますから」

「わ、分かりました!!」

「ベル様。お仕事の方はどうなされますか?」

 

 いつの間にか傍にいたハルティーナが少年に訊ねる。

 

「ちょっと流動量が減りましたけど、ヒューリさんの傍にいても仕事は出来ますから」

 

「分かりました。では、家の中から出る時は声を掛けて下さい」

 

 そう言われて頷いた少年は促されるままにヒューリの自室へと向かう。

 

 東京本部にも私室は持っているが、今は三姉妹揃って殆ど住んでいるような状態である為、ヒューリの自室はちゃんと誂えられている。

 

 仕事が忙しいと帰って来ない事もザラなのだが、掃除は行き届いているようで四方を襖で左右を囲まれた和室には似付かわしくない天蓋付きのシングルベッドとクローゼットとノートPCの乗った事務書類だらけの机が置かれていた。

 

 畳みが痛まないように色々と工夫されているらしく。

 

 室内は魔術具が置かれている様子で空気清浄機やエアコンが常時稼働しているような状態で安定して過ごし易い環境になっていた。

 

 寝台の上では下着を着替えさせられたヒューリがすっかり変わってしまった姿ながらも金属の金具などがあまり痛くないようにとの配慮か。

 

 クッションを山盛りにした上に寝かせられており、今は安定した様子でスヤスヤと少年の方を向いてブランケット一枚で寝入っている。

 

「大丈夫ですからね。ヒューリさん」

 

 そう呟いて、少年が寝台に背中を預けるようにして座禅状態となる。

 

 そうして目を閉じて己のポケットを用いてあらゆる物資の移動、加工を行い続けて数時間。

 

 天井付近に掛けられている小さな縦長の時計が夕暮れ時を指し、使い魔を通して各地の視察を行っていた少年はふと視線に気付いて目を開けた。

 

 すると、パッチリと目を開けたヒューリが虹色の多重の虹彩を煌めかせて、少年を見ていた。

 

「あ、起きたんですか。ヒューリさん」

「………」

「ヒューリさん?」

 

 ハッとした様子で少女が思わず毛布を被り直してフルフルと震えた。

 

「ああ、良かった……意識が戻ったんですね」

「……良くないです」

 

 呟くように少女は言う。

 

「お医者さんから絶対安静を言い渡されたので魔力が落ち着くまではお仕事はお休みって事になりました」

 

「……これも私の魔眼のせいなんでしょうか」

 

「分かりません。でも、要は悠音さんの角や尻尾の凄いバージョンてだけですし、そんなに深刻に考えなくても大丈夫ですよ」

 

「深刻です!! だ、だって、わ、私別人みたいになっちゃってます」

 

「見る人が見れば、ヒューリさんて分かると思いますよ?」

 

「……そうかもしれません。でも、私の胸の奥から声がするんです」

 

「声?」

 

「………ベルさんを無理やり自分のものにしたいとか。ベルさんを奪いたいとか。い、いけない事とか……他の人を押しのけろとか……一杯……うぅ……っ」

 

「僕にはその声が本当のところは何なのかは分かりませんけど。それってヒューリさんの欲望とか。そういうのかもしれません。でも、それなら逆に安心しました」

 

「ど、何処がですか?!」

 

 思わず顔を出した少女は涙目だった。

 

「だって、ヒューリさんが病気になったり、魔族になったせいで別人格になりましたとか言われるより、ずっと安心ですし……それに……」

 

 少年はそっと変わってしまった少女の頭を撫でる。

 

「ヒューリさんがそんな風に悩んでくれるから、今も僕は無事なんですよね? じゃあ、ヒューリさんは大丈夫です……誰だって欲望に負けたりするのはある事です。でも、それが無かったら人生つまらないですよ。それもヒューリさんなら、程々に付き合っていけばいいんです」

 

「か、簡単に言いますね。他人事だから、そんな風に言えるんです!!」

 

「他人事ですから。でも、僕はそんなヒューリさんが……大好きですよ。ちょっと暴走する事もありますけど、毎日笑顔で色々僕を助けてくれて……沢山の人がヒューリさんの笑顔に救われてます。僕があの日、救われたように……」

 

「ベルさん……」

 

 思わず泣きそうな顔で少女が目元を思わず片手で拭った。

 

「痛滅者に乗っていた時も自分よりも悠音さんや明日輝さんを優先して守ろうと盾になった事、怒らなきゃいけないと思うけど、怒れません。いつもヒューリさんが僕の買った下着隠しちゃうのもおんなじです」

 

「ぁぅ……ぅぅ……」

 

 自分の罪を暴露されたヒューリはもうタジタジだ。

 

「苦しい事も辛い事も無かった事には出来ません。忘れられる事も忘れられない事も抱えて生きていくしかないんです。人間なら……それは魔族かどうかじゃなく、在り様の問題です」

 

 少年は人間ではない。

 人とは何処か違っている。

 でも、それが羨ましいくらいに真っすぐに物事の本質を捉えられる力の本質だとも彼女は思うのだ。

 

「怒った顔も笑った顔も悲しんだ顔も苦しんだ顔もみんなヒューリさんですよ。例え、ヒューリさんの過去にどれだけ酷い事があったとしても、僕はそれを否定出来ません。だって、此処にいるのはそれを苦しくても辛くても抱えて進んできたヒューリさんです。そうじゃなきゃ、僕達は出会わなかったんですから」

 

 少年の言葉は鏡。

 そうでなければ、出会わなかった。

 その事実が全てなのかもしれず。

 

 例え、どれだけ悔やんでも過去は変えられないのだと。

 そうしなくても良いようにと生きねばならないのだと。

 少女は自らの辿って来た道を思う。

 

 変えられるとしても、その先に少年と出会わない未来があったなら、自分はそれを選ぶだろうか。

 

 そう考えもすれば、おのずと答えは出る。

 

 妹達ともきっと出会わなかった……素敵な仲間達にも会う事は無かった。

 

 それを思うからこそ、自分でも思っていたからこそ、それをただ受け入れてくれる少年を前にして……少女の胸の奥から溢れるものは温かく。

 

「……ベルさんはずるいです」

「?」

 

 少女の尾てい骨から伸びた尻尾の一本がシュルッと少年の胴体に巻き付き、持ち上げると寝台の少し厚手のブランケットの中に引き摺り込んだ。

 

「あぅ?! ヒュ、ヒューリさん?!!」

 

 少女は金具みたいな自分の一部が少年を傷付けないようにギザギザだったり、角ばっている象形を丸みを帯びたものに軟化させた後。

 

 少年の胴体から尻尾を解いて、その顔を自分の首元まで引き寄せた。

 

「ぁ、あの……」

 

「そんなんだから、あの子達に押し倒されちゃうんですよね?」

 

「ぇ、ご、ごめ―――」

 

 その唇が尻尾の一本の先端で封じられる。

 

「胸の奥からベルさんを一杯色々しちゃいたい気持ちとか……また、溢れちゃいました。でも、ベルさんがそう言ってくれるから、そんな風に私を受け入れてくれたから、今の私があるんですよね……」

 

 艶やかに。

 でも、少しだけ仕方なさそうに。

 眉根を八の字に寄せて。

 まるで子猫を抱き寄せるような優しさで。

 

「こんな私ですけど……前とは違うの……少しだけ気に入ってるんです……お母様が死んだ事。お父様がこの世界で生き抜いた事。きっと、御爺様だってそういう事になってるかもしれません。でも、そうだとしても……私、此処でベルさんと出会えて……あの子達と一緒にいられて……幸せです」

 

 少女の唇がゆっくりと親愛の証を告げるように少年の額へと軽く。

 

「……そんな風に生きられるようになったのはベルさんが私を変えてくれたから、私にああいう風に言ってくれたから……それを私も無かった事にはしたくないです。だから……」

 

 今度は頬に軽く。

 

「ん……傍で見ていてくれますか? 私が死ぬまで……ベルさんの瞳で……」

 

「……そんなの……そんなの決まってるじゃないですかっ」

 

 少年が大真面目に頷けば、今度はその艶めく唇は少年の中心を捉えた。

 

「―――ちゅ、んく、んっ……んくんく……ふぁ……っ」

 

 まるでミルクをねだる赤子のように。

 あるいは恋人に己を分け与える乙女の挺身で。

 

 背筋をその行為で甘く焼きながら、燃え上がるような鮮烈に過ぎる痺れを己の中心に疼きと共に渦巻かせながら、少女は蕩けた微笑みで少年を抱擁し、微笑む。

 

「……フィーの味がします」

 

「っ」

 

 少年が思わず朱くなった。

 

「でも、いいです。どっちも私にとって大切なんです……だから、今度は私の味がするようにしちゃいますから……ふふ」

 

 上気した頬で僅かに呼気を荒くしながらも、再び少年を食する。

 

 それは貪るという表現に近いくらいに求めるものだった。

 

 しかし、同時に相手を愉しませ、相手に自分を求めさせようと誘うような甘美な動きでもあった。

 

 けれども、それよりもただ少年を愛しむような、想いを伝えるような、儚くも勇気を出した乙女の健気なくらいに献身的な奉仕でもあるのか。

 

 蕩け合うような時間が過ぎて。

 

 しかし、少女は呼吸すらも最低限で良いのかもしれない己の肉体の命ずるままにまた確かに人よりも呼吸が要らないのかもしれない少年と交感し合う。

 

 どれだけの時間が過ぎたのか。

 

 分からないくらいにただそのまま口元を汚して熱く一枚の毛布に包まる二人の時間が終わったのは……午後7時35分頃。

 

 襖がスゥッと相手、二人仲良く寝てるかなとそんな事を思って起こしに来た姉妹達が見たのは茫洋とした瞳で感じられるものを全て感じてしまったような表情で唇を離した後も舌を僅かに差し出した少年に再び姉が己の舌を重ねようとする場面であった。

 

「な、な、何してるんですかぁあぁあ!?! ヒューリ姉さん!?」

 

「べ、ベ、ベル!? だだ、大丈夫!? ヒューリお姉ちゃんにアレヤコレヤされちゃったの!!?」

 

「ッッッ!?!?」

 

 思わず我に返った少女は初めて、自分達の惨状に気付いたらしく。

 

 口元から顎やのどに掛けてテラテラと唾液で滑って胸元まで穢れ、少年が半ば意識を手放して自分を受け入れようとあまりにもそそる表情で待っている光景だった。

 

 無論、その口元も自分と同じように喉元までべっちょりである。

 

 それだけならばまだしも、密着した少女は少年の一部が色々とあれな状況で濡れてしまっている事までハッキリと理解してしまい。

 

 オーバーヒート寸前の頭脳がプツンと理性の糸を切った。

 

「こ、これはですねぇ……(・ω・)」

 

「「こ、これは? ゴクリ……(;゚д゚)」」

 

「ベルさんと私の愛の営みです!!!(≧ω≦)」

 

「「あ、愛の営み!!?(>_<)」」

 

「だ、大丈夫!! セーフです!! まだ、清いお付き合いですから!!(≧◇≦)」

 

「「(=_=)……(どう見ても爛れた性少年なんですが、という顔)」」

 

 ヒューリが取り敢えず無理を通して道理を殴り壊す感じに無茶な話をし始め。

 

「こ、この凄く美味し―――ちょっと、クテェッとしたベルさんはお風呂に入れて着替えさせてから、夕食に出て来ると思うので待ってて下さい!!」

 

「(お姉様!? 今、美味しそうって言おうとしたわ!?)」

 

「(そ、そうですね。さすがに此処は私達がベルディクトさんの貞操をガードした方が……)」

 

「だ、ダメです!! ベルさんにだって男の娘として見られたくない一線があるんです!! わ、私は鉄の理性と鋼の倫理観でお風呂には別々に入りますし、歯軋りしながら涙を呑んで拭くのを手伝ったりもしない事にします!!」

 

「「(;´Д`)……(スライムの理性と豆腐並みの倫理感とかの間違いなんじゃ、という顔)」」

 

「と、とにかく、私がベルさんの尊厳とか護るんですぅうう!!!」

 

 シュルッと尻尾が伸びて二人を部屋の外に摘まみ出し、ダダダッと元お姫様が少年をお姫様抱っこしてお風呂へと向かった。

 

 結局、ガヤガヤと騒がしい室内に気付いたハルティーナが半分魂が抜けた少年のお風呂の世話をする事になり、これなら安心と一息付いた妹達は姉を追求。

 

 小さくなった姉が姉のままな事にちょっとホッとしつつ、最終的には何を何処までしたのかを聞き出し、少年が前後不覚状態から復帰したのは食卓に付いて数分後の事だった。

 

 その頃には風呂に入ったらしいヒューリも上がって来ており、ワイシャツにスカートを着た状態。

 

 ハルティーナは何事も無かったような顔をしていたが、ちょっと得をしたようなほっこりする感じが滲み出ており、ヒューリに羨ましそうな顔をされていた。

 

 まぁ、何はともあれ。

 

 帰って来たラグやミシェルが何を聞こうが、彼らの午後は秘匿される事になったのであった。

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