異世界の騎士、地球に行く   作:Anacletus

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第168話「明星至りて宵を憮る者達」

 

 その日、ニューヨークは廃墟街の1割程が浸水する被害を受けた。

 

 今や誰も舗装する者も無い公道にはゴミと海藻と生物の死骸。

 

 Z化した海獣がウヨウヨと蔓延り。

 

 外出禁止令が出され、ニューヨーク・シェルター通称【ビッグ・クレイドル】は3日の完全閉鎖を敢行。

 

 人々の多くはシェルター内の下水処理が間に合わなくなるかもしれないという恐怖に震えながら眠り、兵士達の多くは小さな異常も見逃すまいと閉鎖中の各通路の傍で海獣の襲撃に備えていた。

 

 そんな彼らのシェルターが突如として轟音の下に砕けたのは地下最下層の一角。

 

 地下を掘るZ化した海獣でもいたのか。

 あるいはシェルターの欠陥か。

 はたまた世界最後の日が来てしまったのか。

 

 多くは地震という言葉も考え付かない程に錯乱していた。

 

 だが、その現場に急行した守備隊が見たのは一隻の船だった。

 

 何という異常事態。

 

 船はシェルターに地下から突き刺さっていたのである。

 

 壁を突き抜けての事である。

 馬鹿なと言うなかれ。

 

 まるで石の中に突如として現れてしまったような状態でソレは地下からシェルターに突入していた。

 

 ニューヨーク守備隊の最大戦力であるポラリスが2名招集され、この船を彼らは探索する事になった。

 

 まさか、いきなり爆発してくれても困るし、何もせずに黙っていたところでシェルターが安全かも分からない。

 

 ならばと彼らは勇気を出して踏み入ったのである。

 

 船の隔壁の一部が破壊されており、その大穴から内部へと入る事は出来そうだった事も幸いした。

 

 彼らは内部に入ってようやく。

 本当の意味で驚く事になる。

 彼らの聴き慣れない言語。

 

 無数の文字列が虚空に乱舞し、彼らのあらゆる情報を集め始めた。

 

 そして、ポラリスの調査隊員は驚きつつも、それが彼らの知る世界からの代物であろう事を理解した。

 

 彼らの前に七本の剣が突き刺さった丘のエンブレムが現れ、一つの大陸地図が提示されたからだ。

 

 船内部のシステムは生きており、数時間の彼らの調査中の会話から小さな単語を拾っては文法を策定。

 

 拙くはあるが、簡易の翻訳辞書までも作って見せた。

 船はそのプログラム故に聞いた。

 

 ―――死体が動いている。

 ―――何か困った事はあるか。

 ―――汚れた姿をしているが、何か足りないものはあるか。

 

 まるで、機械というよりは使える主を探す従者のように。

 

 彼らは現状を伝えた。

 そして―――船は願いを聞き届けた。

 

 医療物資、食料生産方法、動く死体や海獣に対する武器の製造までもプラント化された船の一部から齎された。

 

 それは米軍から齎せられるギリギリの量の支援の数倍にも達したのだ。

 

 これを喜ばない人間はいない。

 

 ニューヨーク前市長アーク・シモンズは人々の顔に活気が戻った事に大きく安堵しながら病没。

 

 その後の市政はその片腕となっていた息子。

 

 ジョセフ・シモンズが受け継ぐ事になった。

 

 優秀とは言い難いが、無難で何事も卒なくこなす彼は人当りも良く。

 

 人柄で支持されるタイプのリーダーとして次のニューヨークの代表者となったのである。

 

 だが、しかし、この一時の安寧は善導騎士団の登場と共に破られる事になる。

 

 嘗てとは比べ物にならない程の海獣類の襲来。

 それに何とか同盟関係にある者達と抗していた

 

 が、その関係にも亀裂が入る。

 

 船から1人の少女が降りて来た事にそれは始まった。

 

「彼女は七教会の技術審議会と呼ばれる場所に所属していた技術者であると名乗りました」

 

「アストラリウス・フェル・クオリネッタ・ヴェデウス……」

 

 フィクシーが資料を読みながら目を細めて呟く。

 

「彼女曰く。中央諸国の中枢である七教会の総本山直轄の組織に勤務していたと」

 

「ヴェデウス……ヴェデウスは確か……」

 

 ヒューリが何処かで聞いた事ある姓だなぁと首を傾げる。

 

「現アルヴィッツ議長の姓ですよ。銀獅子陛下の片腕です。中央諸国における政治のトップって各地の式典で見た事ありません? 実質的には七教会の事務方トップである禿げた方を相手にした政治側の調整役ですけど」

 

「ああ、昔確か御爺様への贈り物に名前がありました」

 

「ヴェデウス姓は上限8名までの有限姓の中でも元々はアルヴィッツを支える幾つかの有力貴族達の数名にだけ許された代物で伝統的には本家の数名と分家は分家当主のみとなります」

 

「く、詳しいですね。ベルさん」

 

「中央諸国に来る前、魔導の勉強で魔術師系の有名な家の名前は覚えたので」

 

 少年の横でメイが頷く。

 

「確かにアストラリウス。アリスはあちらの大きな政治の家の出だと」

 

「それで七教会の技術審議会って……アレ確か……」

 

 ヒューリの言葉に少年が頷く。

 

「まぁ、単純に言うとフルー・バレッサ様の高弟です」

 

「あ、ヤバイ人達ですね!!」

 

 ヒューリの身も蓋も無い言葉に少年が苦笑気味に頷く。

 

「ま、まぁ、ツッコミも出来ない事実なので何も言いませんけど」

 

「ベル。そんなにか? そちらの話には疎いのだが……」

 

「ああ、魔術師には関係無い分野の話なので。ヒューリさんが知ってるのは純粋に学校の進路が理由ですよね?」

 

「はい。大陸中央標準4倍くらい知能が無いと受からない学校の倍率2000分の1の門を潜って、その内の成績上位3位以内の人材が10年研究者した後に1年に1人ないし0人くらいが受けれる厳しい試験を通過した頭のオカシイ人達って事は知ってます。学校で大陸一の学校に入れるかどうかテスト後に幾らかの確率が示されるんですけど、私3%くらいでした」

 

「スゴイですね。一般人だと0.0001%以下くらいなんですよ。確か」

 

 フィクシーが最初から何になるか決まっていた自分には縁の無い会話だと分かって肩を竦める。

 

「取り敢えず、フィーに分かり易く言うと大陸中央諸国。いえ、大陸で上から数えた方が早い頭の良さな人です。そのアストラリウスさんという方が本当に技術審議会で仕事をしていたとすれば」

 

「それでメイさん。そのアストラリウス。アリスが今回の反乱の火中にいると?」

 フィクシーに大きくメイが頷く。

 

「アリスはこの世界が滅び掛けているという話を聞いた後、船にはまだ何人か凍結状態で保存されている人達がいると。でも、この世界の技術では恐らく治せないし、助からない。だから、彼らの代わりに自分が此処で出来る限りはニューヨーク・シェルターを支援したい。そう言ってくれました」

 

「なる程、我々と同じような立場になったのだな」

 

「ええ、彼女が船のプラントを使って製造してくれた武器や防具は大きく被害を減らしてくれました。でも、Z化した海獣の数は多過ぎて撃退出来ても重軽傷者や疲労で倒れる守備隊の人達が多く……その上、その武器の出所を知ったゲルマニアは彼女を引き渡して欲しいと……」

 

「此処でゲルマニアが出て来るのか?」

 

 カズマがよく分からんという顔になる。

 

「ああ、それは彼らの技術が全部七教会関連で占められてるからですよ」

 

 ベルが捕捉した。

 

「そういや、あの高格なんちゃらって鎧ヤバイってハルティーナが言ってたけど」

 

 カズマがハルティーナの戦闘情報や映像を脳裏で思い浮かべる。

 

「はい。ヤバイんです。ですけど、恐らく大陸で現役使用されてる普通の旧式にすら劣る性能だと思われます」

 

「え? かなり、ヤバイって聞いたんだが」

 

「はい。経年劣化、未調整、本来の乗り手が不在、術式の大半が不使用。で、ハルティーナさんがウチの専用装甲とデフォルト・スーツ着用状態で超高速戦闘してて破壊するのにマウント取って無防備な相手に数十手必要なくらいの対魔王汎用兵装です」

 

「(・∀・)……本来の力が発揮されてたら?」

 

「最初から完全な状態だったら……軽く1千体で各種族の頂点存在を打ち滅ぼせるって言うのが通説ですが、主神級の邪神狩るなら超越者を載せれば数十人以下でイケたそうですし……まぁ、僕らが軽装備なら2人以上で全力出して倒せるかどうかですかね。無限者や痛滅者を使用していたら、それなりに優位、くらいでしょうか?」

 

「もういいっす(´・ω・`)」

 

「ちなみにカズマさんの疑問への答えは単純明快です。ゲルマニアがこの数年で新規に出来た国家ならば、科学者は殆ど不在。その技術力は低いと見ていいでしょう。大陸標準言語の解明やリミッターの解除や整備方法も不完全なものしか分からないし、出来ない。となれば……」

 

「喉から手が出る程にその造ってた連中の技術者が欲しい、と」

 

 そのカズマの言葉にメイが頷いた。

 

「アリスもそう言っていました。あの時の船がこの世界に辿り着いてたんだって」

 

「あの時?」

 

「詳しくは……ただ、知っている風でした。でも、だからなのかもしれません。あの子、それ以来自分の事はゲルマニアに話さないでくれって船に籠るようになってしまって……時々、気晴らしにアップルパイをお土産にして外に連れ出していたんですが……それも近頃はあまり……」

 

「そりゃそうだよな。狙われちまったのが分かってるんだし」

 

「ジョセフもそれには同意しました。やんわり断って情報も制限していたのですが、あちらは海獣の掃討時には戦力を出し渋るようになって……」

 

「そもそもどうしてニューヨークとゲルマニアは関わってたんだ?」

 

「ゲルマニアのトップを最後まで前市長が支援していたからと聞きます」

 

「なる程、顔が広かったのか」

 

「はい。そして……それはBFCに対してもでした。前市長の時代にBFCの市長と懇意にしていて、実際ニューヨークは先進技術の実証実験都市としてBFCからの技術供与や技術協力が為されていたんです。BFCの末席に身を置いていたとご本人の口から……それ故に我々の最後の戦地はニューヨークだったんです……」

 

「質問。BFCの内部資料みたいなのは残ってないのか?」

 

 クローディオがそうメイに訊ねる。

 

「我々ポラリスは末端でしたので……七つ有った大隊の生き残りも7人のみ。それも尉官級以下ばかりで繰り上がって現場指揮権を継承した者もいますが、本来の士官達が持っていた情報は何も……」

 

「ニューヨーク側にはどうだ? 前市長なら持ってたんじゃないか?」

 

「それは……調べて見なければ何とも……ただ、今はリーダーも我々の動きを掴んでいる事で警戒を強めているはずです。本拠地にしている国連本部の置かれた場所の地下から伸びる通路は全て固められているでしょう」

 

「強行突破しようとしたら生き埋めか?」

 

「はい。元々地上設備がゾンビにやられても生き残れるようにシェルター機能や通路の爆破機能。更にシェルターから外への掘削機能やらが付属してまして。籠城される可能性もありますし、通路は地下で繋がっていて生活に必要不可欠なものなので……他の民間人も戦闘に巻き込まれてしまう可能性があります」

 

「そもそもの話なんだが、さっきまでの流れから更に事態が悪くなったのはBFCの研究者だったか? そいつの接触が有ったからなんだよな?」

 

「はい」

 

 メイが資料の一部を示す。

 

「ヤツが現れるまで我々は何とかゲルマニアとの間に確執を抱えながらもやっていました。ですが、先日のイギリスでの一件の前後にシェルターの一部に海獣の侵入を受け、被害が出た時、それをゾンビで何とか抑えていた我々を助けたのがヤツでした」

 

「ロナルド・ラスタル。BFCの市長の右腕、ですか?」

 

 コクリとベルにメイが頷く。

 

「彼はBFCと決別した為、四騎士とBFCどちらにも追われていると。ですが、その手足となる同型のゾンビを大量に送り込んで海獣類からシェルターを護った。これで何度かの交渉を行って欲しいと掛け合って来て……」

 

「それで君達の反乱になったわけか」

 

 フィクシーの言葉にメイが唇を噛んだ。

 

「彼は今後、将来的に外部環境が人の住めない状態にまで拡大すると言いました。外の環境は確かに悪化の一途。外で何とか栽培していた菜園に被害が出ていましたし、ニューヨーク近辺で取れる蛋白源は繁殖した野生動物や港から上がる海産物なのですが、それにも少し陰りが見えていたんです」

 

 メイが資料の一部を見せる。

 

「ロナルドは我々にこのままではニューヨークが抱える人口を養い切れなくなるのは間違いないと言いました。ですが、同時にそれを回避する手段があるとも……」

 

「それが……」

 

 メイが拳を握る。

 

「そうです。人間の頚城化……我々が受けた手術の最新式を施す用意があると」

 

「それがゾンビになるかもしれない手術だと知って受ける人間はいるのか? 一時的にでも七教会の船からの物資で充足していたのだろう?」

 

「……ロナルドは合理主義者でまったくの考え無しではありません。技術を見せようと我々の超長期の例外的な活動で朽ちる寸前だった仲間達を可能な限り修復してみせました……実際に仲間達が救われ、彼の技術は証明されてしまった……」

 

「受けないという選択肢もニューヨークの存続を考えれば、無かったわけか」

 

「ええ、人間には戻れませんが、ゾンビに近かった我々が細胞の疑似的な再生や幾らかの能力を取り戻し、実際外見上も人間に戻った者もいます」

 

「成程、君達が彼にしてみれば、最も雄弁な身体で見せられる技術の被験者だったわけだな?」

 

 フィクシーにメイが悔しそうにしながらも頷く。

 

「ロナルド・ラスタルの技術は本物でした。先日、ウチに持ち込まれた術式や詳細なデータから色々と解析してみたんですが、メイさんの身体が頚城としての精度が高まった事で猶予を得ている事は確かなようです」

 

「頚城の構造に精通していると?」

 

 フィクシーに少年が頷く。

 

「ミシェルさんやラグさんのデータとも比べてみましたが、十年近く無調整な精度の低い頚城として活動していたメイさんの今の状態は破格と言えます」

 容赦なく事実を告げる少年の声に一番無い肩を落としたのはメイであった。

 

「だが、それでもゾンビになる可能性を背負ってまで手術を受けたい層はいるのか?」

 

「……先日のイギリスの一件で化け物になって暴走する民間人が出ました」

 

「ッ」

 

 クローディオが資料をペラペラと捲って最後の欄にその情報を見付けた。

 

「こちらでは変異覚醒者と言うそうですが、恐らくは魔力とやらが大量にばら撒かれたせいだろうと。それで何人か死人が……そして、これからもその状態は継続するとロナルドは……ただし」

 

「頚城化すれば、化け物になって暴走はしない、と?」

 

 少年の言葉にメイが瞳を伏せた。

 

「我々の時代の頚城化の手術では高度な運動機能を獲得し、戦場での飲食や排泄などが不要になるなどの低補給環境下での活動継続がメインの能力でした」

 

「局地戦で補給が滞ると予想されていたんですね……」

 

 ベルに頷きが返される。

 

「ですが、ロナルドが言うには新式の頚城化は寿命が無くなり、食事排泄の必要も無く、眠る事も無く……疲れず、身体は傷を負っても再生し、超人的な身体能力と特別な力……魔力や能力に目覚めると」

 

「正しく魔法の身体かよ。でも、それって……」

 

「ま、人間止めたのと同じだわな。そういう連中はまず精神が死ぬぞ。大半の連中は」

 

 カズマの言葉にクローディオが肩を竦める。

 

 大陸において超越者や高位魔族がその条件に当て嵌る。

 

 しかし、その多くが幸せになる為に苦労する事は当事者達と戦ったり、共に生きる者達には普通の一般常識だ。

 

 眠らなくていいのは眠れなくなるのと同義。

 

 食事しなくていいのは食べる興味を薄れさせるのと同義。

 

 寿命が無ければ、命の扱い方は雑になり、長い時間で蓄積される情報から多くの者が物事に対する新鮮味が失われ、感動や感情が薄れていく。

 

 疲れなければ、身体の損傷度合いで止まる事も難しい。

 

 再生するならば、再生するからと無茶をするようになり。

 

 超人的な能力はそれに拍車を掛ける。

 

 故に彼らの多くは戦いのような刺激を求めたり、刺激を求めないのならば、愉しい人生を送る為の娯楽に飢えている事が殆どだ。

 

「リーダーは他の北米の二都市のように善導騎士団と掛け合う用意もしていましたが、ニューヨークの生活物資の4割は未だ米軍に依存しています。その米軍から善導騎士団との交渉は控えて欲しいとの圧力がありました」

 

「あっちにしてみれば、オレ達はいつ敵になるかも分からん相手だからな」

 

「……多角的な物資の生産や輸入を訴えたリーダーでしたが、米軍はこれを泥沼の交渉にして時間を稼ごうとしたようで……少しずつ支援物資が遅れるようになって……」

 

 メイが俯く。

 

 きっと腕があれば、拳を握り締めていただろう。

 

「ジョセフさんは3択を迫られたわけですね?」

 

「はい。七教会の船の事は米軍には前市長の遺言で絶対に黙っているようにと言われていて、米国も知りません。ですが、それを知っているゲルマニアは米国からの圧力の中でも支援要求の話は蹴りながら、アリスの引き渡しを要求」

 

「米軍に知られれば、問題は更に複雑化して支援の途絶も有り得たと」

 

「はい。その米軍は善導騎士団との交渉の開始を良しとせず、アリスやゲルマニアの事を知れば、彼らを利用しようとして我々に支援物資をチラ付かせて脅迫するでしょう」

 

「そして、ロナルド・ラスタルの事もですか」

 

「ええ、ロナルドはこの状況下でも生き残る術として頚城の技術を提供し、見返りに受け入れて欲しいと言いましたが、その代価は恐らくBFCからの直接アプローチを引き出してしまう」

 

「それを米軍に知られてもやはりマズかったわけですか」

 

「はい……我々ポラリスは一番助けてくれそうな善導騎士団へ米軍に構わず支援要請するべきだと訴えました。ですが」

 

「ジョセフさんはロナルドと組む事を決めた」

 

「実は数週間前までリーダーは悩んでいました。ロナルドの件と同時に善導騎士団との交渉も考えていた。ですが、ロナルドが何か資料を渡してから数日部屋に籠ってしまって……」

 

「その後、彼はロナルドと組むと言い出した?」

 

 フィクシーにメイが頷く。

 

「それも騎士団との交渉の件は無しになったと宣言しました」

 

「恐らくは心変わりを促すような資料だったわけか……」

 

「数日、籠っている間に彼は人が変わったみたいに頬がコケてしまって……その時、部屋の中が見えたんです……彼が大切にしていた前市長の写真の入ったフォトフレームが粉々になって床に散らばっていました……」

 

「BFCとして前市長がしていた何かの情報で父親との関係性が変わった。そして、我々とは協力出来なくなった、か。ならば、その情報は確かめる必要があるな。恐らくはそれが……」

 

「ええ、僕ら大陸から来た四騎士を取り巻く人間達と彼らBFCの間にある秘密なんでしょう。あちらの世界の人間に見られてはマズイと思う程の……」

 

『おーい。騎士ベルディクト。見えて来たぜ』

 

「あ、はい」

 

 車両の屋根から顔を出して見張りをしていたラグからの声に彼らが窓を開けて見るやら操縦席で運転するミシェルの横まで顔を出して確認する。

 

「あれがニューヨーク……」

「はい。我々の故郷です」

 

 メイが唇を噛み締めるようにして険しい顔となる。

 

 現在時刻は午後3時半。

 

 遠目には巨大なビルが乱立する地域とも見える。

 

 だが、その廃墟街の広さから考えて、普通ならばゾンビがウヨウヨしていそうと思うのが善導騎士団や陰陽自衛隊の隊員であろう。

 

「ゾンビは市街地の領域から2km以内までは寄って来ません。ただ、私が抜けたせいで市街地を囲む形で内部には支配領域の空洞がある為、その中では活動が出来るでしょうが、外から侵入されない限りは大丈―――」

 

『北東9km地点の市街地近辺から複数のゾンビ集団の足音を確認。それと殆ど護りや戦闘の気配が無ぇぞ!! 外側からの直前の高高度ドローン観測には何も引っ掛かって無かったはずだろ!!?』

 

「え?」

 

 思わずメイが運転席まで顔を出す。

 

 すると、確かに都市部の方から僅かだが音や土埃が立ち昇っているのが見えた。

 

「う、嘘!? こんな近くに!? 守備隊は、みんなは何やってるのよ!?」

 

 蒼褪めたメイであったが、セブンオーダーズの対応は早かった。

 

「クローディオさん」

 

「了解。狙撃位置探して偵察と支援だな? 行ってくる」

 

 車両の屋根裏に向かって、クローディオが車体の外へと身を投げるようにして地面に着地。

 

 そのまま加速してあっと言う間に市街地の内部へと消えて行った。

 

「フィー隊長は―――」

「現場指揮を執る。分かっているとも」

「ラグさんは本車両の直掩と敵陣観測を」

「了解だ」

 

「お父様。恐らくですが、この大結界に外部からの観測を阻害する機能が働いているかと思われます」

 

「ヒューリさんは僕を連れて先行して下さい。ミシェルさんは現場の2km後方に停車後、周囲に結界を張って陣地を確保して隠蔽隔離を」

 

「はい。お任せ下さい。お父様」

「ベルさん。開きますよ」

 

「あ、あの!! 私も連れていって頂けませんか!! ご迷惑はお掛けしません!!」

 ヒューリがスライド式のドアを開けようとしてベルを見やる。

 

「お願いします」

 

 メイに頷きが返されたのを確認して、二人を両脇に抱えたヒューリが速度を上げた車両から飛び降りて走り出す。

 

 最初こそ一瞬だけ後ろに置き去りにされたが、速度を上げた少女はデフォルトスーツに各員共通の黒のトレンチコート姿で加速してキャンピングカーを追い越した。

 

「は、はや?!」

 

 思わず驚いたメイであったが、更に驚くのはすぐの事。

 

 少女の背後に黒い硬質な金属の翅のようなものが迫出して低空で飛んだ。

 

「ッ~~~!?」

 

「ヒューリさん。高度10mを維持して市街地に突入。一応、狙撃や高射砲に気を付けて下さい。事前にメイさんが教えてくれた場所や監視網に掛からないよう」

 

「分かってます。地図は暗記しましたから」

 

 ビルが林立する地域に突入したヒューリが看板や監視装置のある場所を避けながら迷路を進むかのように路地を縫うようにして現場が確認出来る場所の屋上までやってくる。

 降りた二人が共にビルの上からその現場を見た。

 

「どういう事!?」

 

 メイが今にも飛び降りそうな程に手摺を掴んで唇を噛む。

 

 彼らのいるビルからもよく見えるストリートの一角では犇めくようにして同型ゾンビ達が互いに殴り合って銃撃戦を繰り広げていた。

 

 だが、問題はそこではない。

 

 その殴り合うゾンビ達の一報が優位に立って、もう一方の同じ部隊構成の同型ゾンビ達を倒しているところにあった。

 

「アレは―――みんな?」

 

「どうやら同型ゾンビ集団の一方はポラリスの人達が操ってるようですね」

 

「あれが……ポラリスの……」

 

 ヒューリの視線の先。

 

 ビルの前に陣取ったゾンビ達の一団が正しく兵士のように周囲を警戒しながら陣地を築いて、指示を出している様子のゾンビに見える軍人や人間に見える青年層が数名端末を見つめていた。

 

「ベルさん。どうやら現地を端末の先のカメラで確認しながら指揮しているようです。無線機が無い事から、恐らくはお話にあったゾンビの掌握能力を用いているんじゃないでしょうか」

 

「今、この地域に利害を有しているのはBFCとゲルマニア。そして、ゲルマニアは同型ゾンビを使わない。とすれば」

 

「ロナルドとかいう研究者の人へのBFCからの刺客となる部隊をこちらのポラリスがBFCのゾンビで防いでいるって事ですか?」

 

「恐らく。でも、BFC側もゾンビの制御には気を付けているはずです。そもそも彼らの技術でポラリスの人達は頚城になった。なら、制御を奪われるというのは考えにくいはず……」

 

「きっと、ロナルドが……ヤツはニューヨークの市街から外れた場所に一時的に逗留してたんですが、広い場所を所望していた。きっと、あのゾンビはヤツが引き連れていた……でも、こんな数は前連れていなかったはず」

 

「ベルさん」

 

 メイの言葉にヒューリが少年を見やる。

 

「同型ゾンビの生成方法や詳しいデータが分かれば、倒すのにも有用なはずです。出来れば、確保の方針で。ヒューリさん。行けますか?」

 

「はい。魔術と徒手空拳だけでもあの数なら大丈夫だと思います」

 

「……クローディオさん」

 

『今、付いた。投擲物も確保した。あんまり早く動かないでくれよ。こっちは生身で1km先だ。手元が狂うと当たるぞ』

 

 クローディオが経路(チャンネル)経由の魔術越しの通信で返す。

 

「だそうです。基本的に魔術で一網打尽にしてもいいですが、相手に手の内を明かすのは今の段階だとちょっと……気を付けて」

 

「はい。行って来ます」

 

 少年の言葉にヒューリが頷いて上空から翼を仕舞って跳ぶ。

 

 一瞬の跳躍でトレンチコート姿が掻き消えて、ストリートの交差点が爆発的な粉塵の吹き上がる衝撃で次々に周囲を砕けさせ、同型ゾンビの群れ。

 

 籠手付き、空飛ぶ黒骸骨、地上を歩く骸骨などをバラバラにしていく。

 

「な、こんな―――これが変異覚醒者の本当の……」

 

 メイが魔力の力に震えた様子で目を見張る。

 

 まるで爆薬を地下で起爆させたような一撃だが、炎は吹き上がっておらず。

 

 それが腕力……衝撃のみの力であるとすぐ理解しただろう。

 

「ヒューリさん……(´・ω・`)」

 

「ご、ごめんなさい。ちょっと思ってたより道が脆くて……」

 

「クローディオさんがダメだこりゃって┐(´д`)┌顔で肩竦めてますよ」

 

「うぅ、今度から気を付けます」

 

 そう言っている合間にもクローディオがばらけて交差点から遠くまで飛ばされ、まだ無事だった同型ゾンビに投擲した。

 

 瓦礫や鉄パイプの類が突き刺さっては次々に四肢が欠損して倒れていく。

 

『お父様。結界に変調を確認。恐らくですが、何らかの効果が現れている可能性が高いです。何か異変を確認出来ませんか?』

 

「………異常………あ、変ですね」

 

『何処がでしょうか?』

 

 ヒューリが噴煙の中で次々にゾンビを拳と蹴りで砕き倒していく。

 

 その様子はまるで煙の中で巨大な獣が荒れ狂っているかのようだ。

 

 蠢くコンクリートの粉塵は不気味にすら思えるが、当人は不気味じゃありませんと憤慨するに違いない。

 

「空飛ぶ骸骨が小銃を持ってません。籠手付きもガントレットの砲撃兵器がありません。転移で此処に来たなら、持ってないのは不自然です」

 

 転移で中に入れないというのは通常の転移方法を用いる少年達であるからこそ。

 

 相手は異相の中でも特殊な概念域から直接現れている。

 

 そもそも内部に出て来れるというのならば、兵器類を持って来るはずである。

 

「それです。恐らく、結界内に禁則事項を織り込んだ制限系の代物かと」

 

「まぁ、僕らは色々持って来たとはいえ、一応は装備もまだ作ってませんし、あっちは引っ掛かったんでしょうか……」

 

『お父様。現場での武器の使用はお勧めしません。指揮されている方のゾンビにも武器が見えないという事は恒常的な制限を受ける可能性があります』

 

「ですね。実際、ポラリスの人達も兵器類を所持していないように見受けられます。大丈夫そうなのは通信機や監視カメラを見る端末くらい。兵器頼りの相手の強みを殺して同じゾンビが戦術使ってきたら、まぁ勝てないですよね」

 

 少年が観察している合間にも交差点内の煙に巻かれたBFC側のゾンビの多くが高速で動くヒューリの拳と蹴り。

 

 いや、体術と呼んで差し支えないだろう一撃で五体をバラバラに衝撃で砕かれて動かなくなっていった。

 

 ゾンビの死体を使うコア・ライトなどがいる気配も無く。

 

 突如として降って湧いた援軍を前にしてニューヨーク側も静観しつつもゾンビ達が背後に下がっていく。

 

「下に降ろして下さい!! お願いします!! みんなに敵じゃないと伝えないと!!」

 

「分かりました。今、動魔術で降ろしますね」

 

 少年の指が弾かれると同時にヒューリが煙に紛れて少年のいるビルの路地まで入って姿を消す。

 

『みんな!! 帰って来たよ!!』

 

 メイが煙の中から姿を現し、彼ら仲間達が視認出来る距離まで走る。

 

 そして、彼女が笑顔で善導騎士団との交渉を纏めたと叫ぼうとした時だった。

 

 数体のゾンビが同時にメイに四方から襲い掛かり、その腕で貫こうとした瞬間。

 

 4連射されたクローディオの投擲がゾンビの腕を砕いて突撃の態勢を崩させた。

 

「え?」

 

『オイ!! あの連中、表情が無いぞ!! 少なくとも人間味が感じられん!! 操られてるに一票だ!!』

 

「ヒューリさん。メイさんを拾って撤退します」

 

「了解です」

 

「メイさん!! その場で仲間に叫んでみてください!! もしかしたら、彼らは操られているかもしれません!! 反応がどうやら普通ではないとの話です」

 

 メイが予め脳裏に送られていた通信用の魔術から受信した声を聴いて、そんな馬鹿なという顔をするもすぐに兵士の顔となって叫ぶ。

 

「アン!! ルーカス!! クレイ!! どうしたの!! みんな!?」

 

『やっぱ、反応が無い。まるで人形みてぇだな』

 

「メイさん。此処は撤退を。もし操られているとすれば、今のメイさんもゾンビの標的の可能性が極めて高いです」

 

「ッ……此処まで来て……これもあいつが……ッ」

 

 唇を噛んだメイだったが、背後から翼を出して飛んでくるヒューリにキャッチされ、そのままビル街の方へと低空で突っ込んでいく。

 

 それを追おうとした空飛ぶ黒骸骨達であったが、クローディオの投擲したコンクリート片や鉄格子やパイプの切れ端で態勢を崩して追跡相手を見失う。

 

「総員、一端ニューヨーク市街地の外に出ます。一時偵察用の使い魔を飛ばしますので情報が出揃うまでしばし待ちましょう」

 

 少年もまたビルの上から背後のビルに跳ぶようにして走り、ヒューリやクローディオと合流しようと消えていく。

 

 やがて、追跡が不可能という判断をしたのかどうか。

 

 ゾンビ達と共にポラリスの男女数名がゆっくりと近くの駅構内へと入っていく。

 

 だが、それから彼らが消えた後すぐに異変が起こった。

 

 ヒューリによって破壊された交差点が陽炎のように揺らめいたかと思うと次の刹那にはビルが建っており、周囲のビルや道の位置も変化してしまった。

 

 傍目には先程まで戦闘が行われていたという事を垣間見る事は出来ないだろう。

 

 不気味な程に静寂を保つニューヨークの廃墟街。

 

 その最中にはビル風すらも吹いてはいなかった。

 

 *

 

「で、どうなってるんですか? コレ」

「うわ。完全に無かった事になってる?」

 

「どうやら結界の効果のようです。この事象時に観測した魔力波動や結界変動のデータから察するにですが」

 

 ヒューリが使い魔の記録した情報を見て目を細め。

 

 ルカは面倒な事になったようだと肩を竦め。

 

 ミシェルが結界の観測データを脳裏で幾らか処理して告げる。

 

 現在はニューヨーク市街地から少し離れた郊外。

 

 ダウンタウンよりも更に後方。

 

 廃墟となった陸橋の下にキャンピングカーと共に彼らは今後の予定を詰めていた。

 

「おかしいですね。魔力波動の係数が異様に高いのに魔力自体があまり使われてない……波動錬金学的には波動で物質を構成したように考えますが、魔力そのものが殆ど使われて無いって事はどちらかと言うと超常の力に近い?」

 

 少年が使い魔達がニューヨーク各地に散らばって集めているデータを脳裏で受信しながらフムフムとおかしな点をメモ用紙に書き出していく。

 

「まさか、ポラリスのみんなが……ロナルド・ラスタル……ッ」

 

 メイが唇を噛み締めた。

 

 後部座席でテーブルを囲む彼らは隠密偵察に赴いたラグ、カズマ、クローディオ待ちであった。

 

「この波動の波形。高次の魔力が使われてる形跡があります」

 

「そうなんですか?」

 

 少年が虚空に展開した解析用のデータ処理を行う方陣には次々に記録されたデータが呼び出され、様々な既存の魔力と照合が試みられていた。

 

「でも、何か微妙に2つ以上の魔力が観測されてますね。分かり難いですが……一つは周辺の風景が元に戻る直前。もう一つは周辺の道や建物が変化する直前。もしかしたら二つの能力が干渉してるのかもしれませんね」

 

 少年がデータを垂れ流しにしながら持って来ていたクッキーを齧る。

 

「……メイさん」

「はい。何ですか?」

 

「こういう何かを復元する能力を持った人はニューヨークにいませんか?」

 

「い、いえ、そういうのは……それなりの人数がいますけど、そういう情報の殆どは内政を司る人達しか知らない事なので」

 

「そうですか。この結界に関しては分からない、でいいんですよね?」

 

「はい。その結界がどうしてあるのかとかも私には……私が出発した時には無かったものですから……ただ、アリスが……」

 

「アリスさんが何か?」

 

「船には強力な都市を護る機能がある。そう前に……」

 

「結界がもしも船の機能だとすれば、説明は付きますが……そもそもロナルドが関わっているかどうかも……これは内部調査が必要な案件です」

 

「どうするんですか? シェルターにこっそり潜入します?」

 

 ヒューリが既に潜入用の装備……と言っても薄汚れたパーカーや靴を履きながら如何にもシェルター民ですという体で少年に首を傾げる。

 

「先程の復元や変化からしてシェルターに普通の侵入経路で突入しようとしたら反応して位置がバレるとか有り得ますし……そうですね。此処はプランCで行きましょう」

 

「プランC?」

 

 ミシェルがそんなの有ったかなという顔になった。

 

「シェルターそのものまで地中を貫通させて都市の復元効果範囲を調べつつ、ひっそり突入しましょう」

 

「あの~~こう言うのも無粋なんですけど、そんな機材ありましたっけ?」

 

「あります(・ω・) 玩具を持ってきたので」

 

「玩具?」

 

 少年がゴソゴソとテーブルの下から複数枚のカードが束になったデッキらしきものを出してきた。

 

 ついでにカードホルダーとそれをどうやらスラッシュする為の機材らしい腕に付けるタイプの籠手らしきものも……どう見ても子供の玩具並み感が半端無い代物であるが、小さな装甲を元にしてるからか。

 

 その鈍い色ながらも翼のシルエットを刻むレリーフと銀のカードリーダーの弓を番えるような装填部位は洗練された彫刻のようだ。

 

「コレ何です?」

 

「今、日本と北米両都市の子供達に大人気……になりつつあるマギアグラムのカード系付属品、の大本です」

 

「大本?」

 

「はい。魔術を一々カード封入タイプで読み込み速度を遅くして、わざわざデータを別々に内蔵している時点で合理的に見て無駄なカッコ良さと安全性重視の()()です」

 

「あ、はい……何か言いたい事は分かりました」

 

 ヒューリが少年が近頃女の子ばりに女の子の下着に詳しくなってしまった悲哀からか、ストレスを何か趣味にぶつけていた少年の姿を思い出す。

 

 先日はプラモを作るノリでハルティーナの専用の()()()を作っていた。

 

 アレも少年に『何を作ってるんですか?』と聞いたら、『ハルティーナさん用の乗り物です』とシレッと答えていたが、周囲のドックの技術者や開発者は微妙に汗を浮かべていた。

 

「恐らく兵器として開発してなきゃ大丈夫だろうと持ってきました。ちなみに電子部品0です。魔術の読み込みやら諸々も全部魔力頼みで意匠と魔術言語を刻印しただけの簡素な造りなのですぐにコピー可能です」

 

「これで地下に穴を?」

 

「はい。カード自体は魔術や魔導の事象そのものを封入した消耗品式ですが、直接殺傷系の術式は入ってません。そうですね。言わば、非殺傷系の術式や魔術具の能力、現在環境情報を入力しなくていい簡易術式を入れ込んだ代物ですかね」

 

「便利道具ですか?」

 

「はい。ちょっと使ってみましょう。このデッキのホルダーからカードを取って、この溝にスラッシュするとディミスリルが魔力を解放して消失」

 

 カードが瞬間的に煌めく魔力と化して消滅。

 転化光が籠手に宿る。

 

「ディミスリル・クリスタル・ブーストの原理を応用したので魔力が無くても使えます。この状態でストックされた演算完了済みの効果解決を待っている状態の術式の解凍処理が実行されます」

 

 籠手からヒュッと虚空に向けて透明な何かが奔る。

 

 それが消え去ると周囲の温度が一気に10度程下がった。

 

「魔力を込め直す場合はスラッシュ後に籠手の翼のレリーフになってる内側のレバーを立てて掴んで後ろに引いて下さい。1回引くと術式の許容限界の2割。引いたまま元に戻すまで5秒でフルチャージします。体内の魔力を吸収して威力がブーストされた術式は最大威力。逆に魔力を体内に充填する場合、威力を低くする場合は反対側のレバーを逆に押し込んで下さい」

 

「な、何か本格的ですね。というか、魔術具としてはかなり高性能なような?」

 

「あ、いえ、大陸標準だとそうなんですが、こっちの最先端が便利過ぎるのでやっぱり玩具なんですよね」

 

「玩具の定義が変わりそうな話ですね。お父様」

 

 ミシェルが『本当に玩具?』という顔になる。

 

「ちなみに穴を掘る術式は塹壕掘り用なのがあるので」

 

「塹壕……やっぱり、実用なような?」

 

 ヒューリの前で少年がズラッとデッキからカードを取ってテーブルに広げた。

 

 名前が日本語なものの、美麗な絵柄がちゃんとそれと分かるタイプなので陳腐な玩具にはまったく見えない。

 

「凍結、電撃、熱量、掘削……あ、何かカテゴリ毎に細かく分かれてる。とうか……このカード薄過ぎません? これ、1千枚くらいありますよ?」

 

 掌に乗るサイズのデッキであるが、そのカードの薄さは驚く程であり、0.001mmを越えていないのが誰にも分かった。

 

「ディミスリルを用いた強度と薄さを兼ね備えた建材の派生技術です。透けてもいい硝子資材なんかは軽量化して一般車両にも使われます。絵も3Dプリンター方式で分子一繋がり分の層を刻印してるので厚くはなりません」

 

「そんなのをカードにしたんですか? ブロマイドは結構厚いですけど」

 

「アレは観賞用でコレクター()()なので。こっちは技術の粋を集めて無駄でカッコイイを指向する()()ですから」

 

「で、これを使って突入すると」

 

「はい。掘削系のカードを魔力容量限界までチャージして放てば、シェルターには到達すると思います。ちなみに人数分あります。カードは状況に応じて魔術師技能でホルダーから出せますから」

 

 少年が床下からトランクを取り出し、玩具の籠手を人数分テーブルに置く。

 

「腕に付けると案外コンパクトですね。服の上からOKなのも良さそうです」

 

 ヒューリがさっそく付けて見た感想をそう呟いた。

 

「ちなみに魔力さえ込めれば、魔力の弾で攻撃出来ますよ。状況に応じてはこっちの方が早くて簡単でしょう。一発の出力上限と弾の形状や弾道、弾速、威力は設定可能。制圧用なら単純に散弾や砲弾+撃ちっ放しでヒューリさんと僕なら幾ら使ってもいい感じですかね? 追尾機能や近接信管機能はデフォルトですが、切って制圧用にも出来ます」

 

「あの……玩具?」

 

 ヒューリがその言葉にそっちの方がやばいんじゃぁ……という顔になる。

 

「はい。玩具です。マギアグラムのEスポーツ系の魔力戦闘系のゲームの応用ですね。まぁ、この世界の大抵の人達の魔力って、殆ど大陸標準でも低位なので大丈夫ですよ」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「はい。ちなみにカードで付属効果を付与させたり出来ます。カードを一杯スラッシュして複合すれば、その分だけ効果が弾丸に乗ります」

 

「玩具とは一体……」

 

 ミシェルがその明らかに呪われているとしか思えない威力になる事が約束されている玩具?に汗を浮かべて瞳を細めた。

 

「ミシェルさんも僕と一緒です。フィー隊長は大威力に出来ますけど、魔力が有限なのであんまり……M電池込みなら一定時間戦闘中は自身の魔力を使わずに出来るのでそっちをお勧めしておきますね。電池は首から下げていてもいいですが、グリップの裏に嵌め込めるので道具の威力重視で使うならそっちですかね」

 

 その場にいる全員が思う。

 

 玩具とはこんなに物騒で便利そうなものだっただろうかと。

 

「そ、そう言えば、フィーは何処に?」

 

 ヒューリがそう無理やり話題を逸らした。

 

「フィー隊長ならもう一方の玩具を渡したので傍で訓練してるかと」

 

「もう一方?」

 

 ヒューリがそう発言した時だった。

 外からズゴッと重い音がした。

 ヒューリ、メイ、ミシェルが窓から外を覗く。

 

 すると、フィクシーが巨大なハンマーを振り回して地面へ打ち付けた場所が僅かクレーター状に凹んでいた。

 

「あの……玩具?」

「はい。玩具です」

 

 少年はヒューリにニッコリ(`・ω・´)であった。

 

 *

 

 カズマ、ラグ、クローディオの三人が戻って来て1時間。

 

 市街地の詳細な情報と現在の地図を映像データで取って来た彼らは大いに役立ったのみならず、重要な情報も持ち帰って来ていた。

 

「なんつーの? アレだよアレ。イギリスでヤバイ気配がしてる時にいるアレ」

 

「……神格?」

 

「そうそう。あの気配が何かシェルター付近の地面で強くてよ」

 

 ラグが一番身のこなしが軽いという事で即時離脱出来る態勢で潜入した時の事を掻い摘んだ。

 

 曰く。

 何かヤバイのがシェルターにいる。

 

 その言葉にメイは蒼白になり、ソレが現在もイギリスが危険地帯である理由であり、イギリスの国土が滅んだ理由でもあると知ってヒューリなどに落ち着くようお茶を出されていた。

 

「神格ですか……主神級がいるとは考えられませんが、そもそもの話としてニューヨークにそんなのが前はいました?」

 

 ブンブンとメイが首を横に振る。

 

「ですよね。という事は考えられる事は3つですね。一つ目はイギリスの神格が逃げて来た。二つ目はBFCの攻撃で神格が使われた。三つ目はロナルド・ラスタルが生み出したか連れて来た。というところでしょうね」

 

「四つ目。七教会の船が関係している。というのは無いのか?」

 

 フィクシーがベルに訊ねる。

 

「いや、どうでしょう? 船の管理者であるアリスさんが船に積まれていたものを使って神格を疑似的に作ってるとかなら、有り得るかもしれませんが……ラグさんがヤバイと表現する程の存在となれば、今まで使わなかった事も不自然ですし」

 

「ふぅむ(T_T) 結局は行ってみないと何とも言えないと」

 

「しょうがありません。ニューヨークを蔽う結界は外からの観測を妨げますし、それが無ければ、今頃はニューヨークの地下の全景をマップ化出来てたはずなので」

 クローディオがチラリと今まで気にしないようにしていたフィクシーの横に立てかけられた大きなハンマーを見やる。

 

「ベル……さっきから気になってたんだが、大隊長殿の横にあるの何なんだ?」

 

「武器も自動で生成する術式を地面に放ってみましたが、どうやら結界内だと武器と認識されると結界からの干渉なのか物質が結合を保てません。なので、持ってきた玩具を使う事にしました」

 

「玩具ねぇ……」

 

 クローディオが籠手を魔術で顕現させている腕に付けて微妙な表情となる。

 

「ハンマーはそもそも工具ですから。武器じゃないのでセーフみたいです」

 

「籠手や弓は武具だろ?」

 

「いえ、それもカードを読み込む為の魔術具でしかないので形は別に何でもいいんですよ。実は……」

 

「さよか。つーか、普通の魔術具レベルのものでも武具じゃなきゃ持ち込めるってのがどこら辺まで通じるのか分からんのがなぁ」

 

「取り敢えず、一通りの事は出来るので。後は肉弾戦と魔術でどうにかしましょう。メイさんに聞いた人気の無いシェルターの一角を目指して一直線に地下を掘り進みます。場所も先程の偵察で選定して貰ってたので此処から」

 

 少年が地図の一角を指差す。

 

「このビルの駐車場は地下4階。ここから直線距離で12km先まで掘れば、到達します。重要な地下の路線やライフラインはこのルートなら寸断しません」

 

「じゃ、このまま全員で突入か?」

 

「いえ、此処は二手に分かれます。片方は地上班。片方は地下班です。地上班はロナルド・ラスタルの停留地及び地上の国連施設の調査。地下班はシェルター内部との接触と状況の確認。地下はミシェルさん、ヒューリさん、フィー隊長、クローディオさん、ルカさん、メイさん。地上は僕とカズマさんとラグさんで行きましょう」

 

「大丈夫か? 外に3人だけで」

 

「いえ、これが最善です。地下に神格位クラスがいるとなれば、戦力はそちらに多く割り振るのが妥当です。カズマさんは能力と威力の関係で屋外戦闘向きですし、ラグさんの足が生かせるのも屋外ですから」

 

「分かった。ベル。では、合流地点はどうする?」

 

「もしもの時の合流地点はこの地点にしましょう」

 

「ハートアイランド……島か。理由は?」

 

「はい。ニューヨークで最も死が充満している場所です」

 

「お前の力を存分に振えるなら、どんな敵も怖くないという事か?」

 

「いえ、単純な理屈です。最も此処が黙示録の四騎士が襲来し易い場所だからです」

 その言葉に思わず驚く者が多数。

 

 だが、フィクシーはすぐに気付いた様子で頷く。

 

「……そういう事か。逃げる算段は?」

 

「あります」

 

「分かった。もしもの時はハートアイランドでだな。通信が途切れた場合や避難民が出た場合はどうする?」

 

「そういった事があった場合は信号弾を外に打ち上げて下さい。符丁は決めておけばいいでしょうし」

 

「了解だ」

 

 そうして、彼らが行動を開始したのは夕暮れ時が迫る時間帯。

 

 夜となれば、野外での活動では少人数ならば優位に働く。

 

 赤外線センサーやら暗視装置付きの監視カメラを誤魔化す程度の事は魔術でも可能である事から車両は地下シェルターへの突入班が持って行く事になった。

 

 地下駐車場に入る一歩手前で彼らは分かれる。

 

 黄昏時に陰影を刻む姿が互いに再び交わるまで魔術による通信も原則封鎖。

 

 此処からは忍耐の時間であった。

 

「ベルさん。気を付けて下さいね」

 

「はい。皆さんの事、よろしくお願いします」

 

 任せておけとヒューリが頷いてキャンピングカーの扉が閉められ、発進する。

 

 それを見送った三人が顔を見合せながら動魔術を用いて走り出す。

 

 夜影に紛れて向かうのはメイから聞いていたロナルド・ラスタルの野営地。

 

 人気の無い廃ビルの群れを縫うようにしてラグを先頭に中央に少年を置いて殿にカズマを据えた隊列での初めての行軍。

 

 直線状にビルが有ろうが、民家があろうが、市街地の踏破能力は全員が獲得している。

 

 登攀能力と魔術を用いた巧な侵入経路は人が通る事を予期していない部分を繋ぐ為、人の移動経路の導線に沿って付けられたセンサー類には掛かりもしなかった。

 

 夜半の風は冷たくなるだろうかと思うのが人情だろう。

 

 侘びしい廃墟群の中でならば、動きがあるものに心が反応するというのが普通だ。

 

 だが、生憎と風は吹いていない。

 大結界のせいなのか。

 あるいは神とやらのせいなのか。

 

 無風の都市はまるで巨大な鳥籠に入れられたような圧迫感を以て彼らの肌に重圧を載せていた。

 

「……騎士ベルディクト。風が無いのはまぁまだいいが……アレ」

 

「?」

 

 ラグが進行方向を見てビルの上で止まった。

 横に並んだ少年とカズマが同時にソレを見やる。

 

「思ってたより、BFCは此処を重視してるようですね」

 

「ッ、マジかよ」

 

 ニューヨーク・マンハッタンの一角。

 

 黒い沼地が虚空に泡立つストリートにはギッチリと同型ゾンビが犇めいていた。

 

 籠手付きや空飛ぶ骸骨が折り重なるようにして簀巻き型や飛ばない方の骸骨と一緒くたにすし詰め状態。

 

 その数だけで数万体は軽くいるだろう。

 幸いな事に武器を持っていないというのが救いか。

 

「迂回するか?」

 

 ラグが訊ねる。

 

「此処で叩いても無限に増えるだけでしょうし……ですね」

 

 三人がビルからひっそりと姿を消して迂回軌道を取る。

 

 ゾンビさえいなければ、喧騒の無い市街地は正しく無音に近しい静寂に包まれた世界だった。

 

「ベル。屋外にオレらを連れ出したって事は何かあるんだろ?」

 

「……カズマさんには敵いませんね」

「何だ? 汚れ仕事か?」

「いえ、単純に危険な任務になります」

 

 走りながら少年が遠方に向けた。

 

「恐らくですが、今回の一件で一番重要な情報は僕らを頼れなくなった現市長が知った事だと思われます」

 

「そういや言ってたな」

 

「恐らく地下には無いでしょう。現市長であるジョセフさんがそのままほったらかしにしているならば、別ですが……普通に考えれば、燃やしているなり、処分するなりしているはずです」

 

「で、それがオレらの行く場所にはあると?」

 

「その場合、FCであるラグさんと陰陽自衛隊であるカズマさんだけに教えておくのが良いかと思いました。お二人とも難しい事を考えるのは上に投げる人なので……いいですよね?」

 

「ちゃっかりしてんなぁ……分かったよ。報告はお前がしろって言わない限りって事でいいんだな?」

 

「よろしくお願いします」

 

「ま、どうせ、オレらはアンタに拾われた身だ。地獄の底まで付き合ってやるよ。騎士ベルディクト」

 

 ラグが肩を竦めて難なく言う。

 

「では、行きましょう。まずはロナルド・ラスタルの現在の塒を強襲します。もう来ている事はバレているでしょうし、派手に動けば陽動にもなります。地下班に求められるのは騒ぎにせず状況を探る事。こっちに求められるのは相手の動きを制限して責め立てて対処能力を飽和させる速さです」

 

「あいよ。カードをスラッシュして必殺技……日曜朝をしっかり見てたオレの小さい頃の望みが叶ったよ。ありがとさん」

 

「ソレ、オレも見てたぞ。確かにカッコいい」

 

「お、お前も分かるのか。ラグ」

「カッコいいは正義だからな」

 

 分かってんじゃねぇかと互いにニヤリとする彼らが同時にデッキホルダーからカードを一枚取り出し、籠手に通した。

 

 すると、カードは瞬間的に煌めきを残して消失。

 

 籠手に魔力の転化光が宿る。

 

「そういや、こいつの名前って何かあるのか?」

 

「あ、言い忘れてました。【占術者()】です。昔からカードは占う為の道具だったので」

 

「了解。そろそろ見えて来るな。あの川沿いの広い場所か?」

 

「どうやら学校の跡地に置かれた元司令部らしいです。グラウンド周辺は完全に塹壕地帯になってますが、地雷にも気を付けて下さい」

 

「じゃ、さっそく透明化してダイナミック・オジャマシマスするか」

 

「目的の資料がどんな状態で置かれているか分かりませんが、それっぽいのは全て集めてさっき渡したリングに入れて下さい。僕の制御領域で隔離解析します」

 

 そうして三人がビルの横を抜ける数瞬の間に掻き消える。

 

 光学系観測では見えず。

 市街戦や熱源もシャットアウト。

 ついでに匂いと音もだ。

 

 もはや見えざる3人を捉える事は現在知られている通常のゾンビでは不可能。

 

 彼らが真正面から侵入したのは学校。

 

 塹壕だらけのグラウンドから奥に見えるボロいテント群であった。

 

 至る処に地雷。

 ついでのようにワイヤートラップ。

 それも数年は経過しているような代物ばかり。

 

 此処は使われていないのだろうかと思いつつも、3人がテントの中を家探しする。

 彼らが見ているのは網膜投影されたAR空間だ。

 

 存在しないものを現実に投影して見せる新技術は今や九十九の戦闘時のガイドにも用いられている。

 

 通信が未だに届く事から最低限の処理を施された通信波が垂れ流されているものの、魔術師技能を用いて大結界の外に置いて来た自身の経路(チャンネル)を繋ぐ魔術具経由で送受信している為、発覚する可能性は極めて低い。

 

 無論、電波自体は出ているが、それそのものが異相側を微弱に通るだけである為、現実空間内では観測しようがないのだ。

 

「(ベル。此処には無さそうだ)」

 

「(分かりました。ラグさん。そちらは?)」

 

「(何か書類みたいなの見付けたが、米軍のだな)」

 

「(一応、放り込んでおいてください)」

 

「(了解)」

 

 彼ら三人が実際には見えていない仲間達と共にテントを4つ程見てから内部へと侵入する。

 

 裏の方の扉は開いており、罠が無いかとラグが先行して見ながら二人を招き入れる。

 元々学校だったので校舎は二階建ての4棟。

 

 グラウンド内からは伺えない中庭もあるようで三人が足音も立てずに侵入。

 

 倉庫代わりになっていた教室に滑り込む。

 

「(内部に生体反応無し。ただし、目視観測のみ)」

 

「(動いている動体反応や熱量の異常も発見出来ないな)」

 

「(何処かに結界でも張って入れてたら分かんねぇわけか)」

 

「(このまま探索を続行。一棟ずつ虱潰しで)」

 

「「(了解)」」

 

 三人が再び廊下から外に出ようとした時だった。

 

 その教室の横をヌッと何かが通り過ぎる。

 

 瞬間的に教室内の壁に張り付いた彼らが目を細める。

 

「(いるじゃねぇか……敵っぽいの)」

 

「(反応有りません。どうやら通常のセンサー類には掛からないタイプの何かみたいです)」

 

「(お前ら言ってる場合じゃねぇって!? 後ろ!!)」

 

 咄嗟に彼らが壁から離れた瞬間。

 

 爆砕したコンクリートが破片となって教室内を襲う。

 

 無論、その程度の攻撃で傷付くような柔な彼らではない。

 

 咄嗟にカードをスラッシュ、方陣防御が展開されていた。

 

 光の円環が周囲を回り、護られた三人の片腕に異変が起きる。

 

 籠手が異様に発熱していた。

 

「(あ、マズイです。方陣防御が兵器の類の判定に引っ掛かったかもしれません)」

 

「(マジかよ?!)」

 

「(一応、術式の方が崩壊しましたが、連続で使うと兵器判定されるかもしれないので皆さん攻撃方法と防御方法は各自の能力でお願いします)」

 

 カズマが瞬間的に校舎毎相手を焼滅させる威力の攻撃を準備し、ラグが手刀のように手を構えた。

 

 ヌッと粉塵の中から壁を跨いで何かが出てくる。

 

 それは―――臓器が大量にブラ下がった上半身と下半身が普通の人間のようにジーパンを吐いただけの何かだった。

 

 臓器は白く。

 

 まるで石膏のようにも思えるが脈打っているのが分かれば、少なからず単なるゾンビではないのは一目で分かるだろう。

 

「(おぇ……新型かよ。いや、そうじゃなきゃ通常の人間かゾンビの改造体か?)」

 

「(やっぱり、反応ありません。九十九もシステム上で認識不能だとの見解。僕らの視覚情報を共有させて解析を開始……どうやら実態を持ってないようです)」

 

「(実態を持ってない?)」

 

「(幻ですが、現実での質量や電荷、光波、重力、物質的存在ではない。そして、幻でありながら物質世界に威力を発現させている……未知の脅威ってヤツですね)」

 

「(取り敢えず、何かされる前に燃やしていいか?)」

 

「(直接接触は厳禁。飛び散らないようにお願いします)」

 

「(了解)」

 

 カズマが火力を絞って、その気色悪い臓器だらけのクリーチャーに熱量を同時に前方5方向から放射した。

 

 前左右上下。

 

 熱量放射が2000℃近い中心の敵を瞬間的に焼き滅ぼす。

 

「……何だ。普通に攻撃効くじゃん」

 

「そうみたいですね。でも、跡形もなく消えちゃいました」

 

「騎士ベルディクト。外だ」

 

「え?」

 

 ラグが校舎の外を窓際で見ていた。

 二人が周囲を警戒しながら窓際に行く。

 

「「―――」」

 

「どうやら閉じ込められたみたいだぜ? お二人さん」

 

 ラグが見ていたものは校庭校舎周辺の道路までもを埋め尽くす臓器の化け物達の群れであった。

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