異世界の騎士、地球に行く   作:Anacletus

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第170話「ロング・ロング・グッバイ」

 朝霧黒亥は近頃起きた事が無い。

 

 白昼夢を毎日見ているだけで寝ているというのは彼にとって夢を見ないと同義であり、毎日が夢のワンダーランドだ。

 

「ミシェル様がコレを……ええと、いい? クロ」

 

「うん? 何だ? 確か今ミシェルさんはニューヨークだったよな?」

 

「そう。アリアが届けてくれたの」

 

「!!」

 

 ドヤ(´▽`*)顔でメイドさんがフクヨカな胸を張る。

 

「どれどれ。イヤホンで聞いてって事か? メイドさん。あ、映った。ミシェルさんいつ見ても本当に美人だよな」

 

「(。-`ω-)……」

 

 リト。

 

 帽子を被らず紅のリボンでショートの髪をツインテールにし始めた少女がちょっとムスッとした顔で少年から視線を逸らす。

 

『クロイさん。本日はお頼みしたい事があり、このように個人的なビデオメールを送らせて頂きます』

 

「頼み? オレにミシェルさんが?」

 

『いつも貴方がリトに優しくしてくれている事。常から聞いています。友達として付き合ってくれてありがとう』

 

「え、あ、はい……」

 

『それでこれは折り入って頼みたい事なのですが……』

 

「(;゚д゚)ゴクリ……」

 

『リトを貴方好みの二十歳くらいになるまで育てて頂けないでしょうか?』

 

「スタァアアップ?!」

 

 一時停止された端末。

 

 叫びが上がったのは昼休み中の人気が無い講義用の大教室。

 

 とはいえ、人の出入りが無いわけではない。

 

 思わず周囲の人間に見られて、小さくなったクロであるが、構わずメイドさんが再びその細やかな手で端末を操作して映像を再生させた。

 

『何もタダとは言いません。成人までの基本的な生活資金として1億5000万程を用意しました』

 

「スタァアアァアップ!?」

 

「!!」

 

 ビスッとメイドさんが煩いクロの頭を叩き割る勢いで黙らせ、一時停止した映像を再び再生させた。

 

『突然の事に驚かれていると思いますが、コレはラグとも話して決めた事です。その子は元々からハンドレットとして生きて来ました。ですが、今後ゾンビや黙示録の四騎士との戦いが激化すれば、頚城として狙われる事にもなりかねません』

 

 思わずクロが横の少女を見やる。

 

 しかし、少女は未だ何か思い悩むというか。

 

 ブツブツと独り言を呟いている。

 

 だが、イヤホン中の少年には聞こえようも無かった。

 

『(確かにミシェル様は美人だけど……ブツブツ)』

 

「!!」

 

 メイドさんが何処から取り出したのか。

 

 白いマスクに赤いバッテンマークが付いた代物をクロの顔に掛ける。

 

『その子は戦いが基本的に向いていません。最低限、身を護る実力は必要ですが、それ以上に危険なのが現状……私はいつ死ぬか分かりません。セブン・オーダーズに入っていると言っても、死の危険と隣り合わせ……だから、後見人が必要なのです……その子が本当に心の底から信頼出来る人間が……』

 

「ミシェルさん……」

 

 映像の中のミシェルが済まなそうな笑みになる。

 

『その子は貴方が気に入っているようですし、その子の半身にも等しいアリアもまた貴方をちゃんと評価している様子です。だから、貴方に善導騎士団とは関係なく個人的にこのようなお話をする事にしました』

 

「オレ、んなちゃんとしたヤツじゃないんだけどなぁ……買い被られてる気が……」

 クロがポリポリと頬を掻く。

 

『法律的な事は関係ありません。そもそも戸籍も無ければ、騎士団以外にその子が登録されている事実も無い。である以上、全ては貴方の心一つ。ああ、ちなみに若い内は避妊だけは術式でしっかりして下されば、後はお付き合いに関しては何も言う事はありません』

 

「ブッホ、ゲホゲホゲホゲホゲホッッ、ゴホォオオオオ?!」

 

 思わず咽たクロが『煩いヤツだなぁ……(T_T)』という顔になった周囲から白い目で見られる。

 

「ッ、だ、大丈夫?! クロ、何処か痛い?」

 

「な、何でも、ゲホッ、無い……アクロバティックにちょっと咽ただけっすハイ」

 

「そ、そう……」

 

 メイドさんが背中を摩る最中も映像は続く。

 

『あの子が毎日毎日報告してくれるんです。貴方との事を嬉しそうに……朝から晩までの血圧や尿意の間隔やお風呂でどんな匂いのシャンプーを使っているかや食事の内容や男性として必要な行為を何回くらい致し―――』

 

「スタァァアアアアァアァアップ?!!?!」

 

 七転八倒する勢いで一時停止ボタンが押された。

 

 もはや不審者がいるレベルで見られた。

 

 クロもさすがにリトを連れて、その場から駆け出す。

 

「ど、どうしたの? クロ!? あぅ……」

 

 思わず驚いた様子になるリトであったが、すぐにその握られている手に少し赤くなって為されるがまま一緒に走る。

 

 やがて、ようやく完全に人気が無い休憩所の一角に彼らは辿り着いていた

 

 自動販売機には飲料のみならず。

 

 成人男性御用達のムフフな本までもが今月のラインナップで大人の玩具と共に売られている。

 

「ゴフォオオオオオオオオ?! ここ何!? え? え? 騎士団内にこんなところあったの!? マジで?!」

 

 それに気付いた少年が更に七転八倒する勢いになるものの。

 

 人家が無いのは此処だけで通路の曲がり角の先からは人の足音がする為、心臓に悪いどころか。

 

 精神を病みそうなよく分からない動悸に苛まれつつ、メイドさんの持っていた端末の画面にある再生ボタンを震える指で押す。

 

『その子がどうしてそんな事を知っているのかと疑問に思うでしょう。ですが、それがハンドレットの能力の一部なのです。頚城は死より魔力を汲み上げる事が出来る階梯まで精度が高ければ、基本性能として多くが自らの資質や能力を特化させます。その子は感覚型……』

 

「感覚型?」

 

『ラグと同じタイプです。私のような術者型とは違って、その子の五感は第六感に近い高次の感覚器に等しく。通常の脳の処理では分からないような五感情報の扱い方が出来るのです……言うなれば、現在過去未来の状況を周辺状況を察して本能的に理解出来る機能、と言うべきでしょうか』

 

「………」

 

『五感そのものは人間のものですが、それを複雑に処理する事が出来るその子は人が知り得ぬモノを知り、人が分からぬモノが分かる……』

 

「………」

 

『この話でお解りになるかと思いますが、戦闘において……それも広範囲での戦略規模での戦闘ともなれば……入って来る情報だけでその子の精神には強いストレスとなるでしょう」

 

「………」

 

『そうなれば、その子は再び心を閉ざしてしまうかもしれません。世界は優しくない。残酷なのです……だから……』

 

 瞳を伏せたミシェルが再び画面に向けて真っすぐな表情となる。

 

『貴方にその子を、アーシュリト……いいえ、リトを任せたい。私がいなくなったとしてもその子を傍で見守り続けてくれる人として私は貴方を認めます』

 

「………」

 

『勝手な事は百も承知です。ですが、それでも二つだけ貴方に提示出来る現実的な利益があります」

 

「………」

 

「一つは貴方の力をその子が増幅してくれるかもしれないという事。もう一つは貴方が()()()として生きて行くとしても……その子は同じように時間を生きていけるという事』

 

「ッ……」

 

『我々、FCの頚城は最適な肉体年齢から歳を取りません。貴方が殆ど死んでいながら()()()()()()()ように……頚城の術式は私達をそういうものとして固定化するのです……』

 

 ようやく少年は長い溜息を吐き出す事に成功していた。

 

『……詳しい事は後日。ただ、私が貴方にこの話を託そうと思ったのは……あの子が本当に嬉しそうに貴方の事を話してくれるからなんです……それはきっとどんなに生きていても本当の意味で得る事は難しく、幸運な出来事だと思うのですよ』

 

 ミシェルが深く頭を下げる。

 

『あの子をしばらくお願いします。任務が終わって帰って来たら、その時は食事でもしながら話しましょう。その子のお泊り代として前金を僅かですが、振り込んでおきました。一緒に生活するのに使って下さい。では、これで……』

 

「クロ?」

「………………」

 

 少年は美人な少女の姉からの言葉を己の中で噛み締めながら思う。

 

「考えるのやーめた。あーやめやめ、こういう空気オレ、ダメだわ。もう寝るわ。寝てるけどね!!」

 

「?」

 

 何か微妙な顔になったメイドさんが少年がグッと伸びをして返した端末を懐に仕舞い込んで、結局こいつはどうするつもりなのだろうという顔になる。

 

「メイドさん。話は分かった。だが、断固拒絶させてもらう。金なんぞいるか!! オレはオレの意志で今日からリトとお泊り会を開催する事にした!!」

 

「!?」

 

「一般隷下部隊の賃金舐めんな!! ちょっと数か月くらいウチ系列の映画館上のホテルで二部屋取ったって給料の七割くらいしか飛ばないもんね!!」

 

 実際には10割飛ぶが男の子には女の子の前で見栄が必要な時もある。

 

「今までの貯金と合わせて毎日外食……は出来ないかもしれないが、料理くらいは出来るんだよ!! 独り身高校生男子の生活力舐めんな!!」

 

「!!」

 

 思わず驚いた顔になっていたメイドさんだが、そのちょっと怒った少年……そう、どうして当人の話を聞かないんだと怒るクロに笑みを浮かべて頷いた。

 

「!!」

 

「うわ?! ちょ、何して!? 豊満か?! いや、豊満だけども!!?」

 

 メイドさんがその豊満な胸元で少年の頭をギュッとする。

 

「え!? アリア!? 何してるの!? ギュッと抱き締めてる? 分かってるよ!? そんな事!? それより今のどういう事!? お泊りってナニ!? ミシェル様のクロへのお話って何だったの!?」

 

「いや、それよりもリト?! 人のプライバシーが駄々洩れなんですが?! 何ミシェルさんにアレやコレや話してんだ!? って言うか!? ストーカーか!?」

 

「すとーかー? 知ってる!! 愛に生きる狩人の名前!!」

 

「違うわ!? お前ちょっと常識を学べ!? 何でネット関連の偏ったとこだけ知ってるんだよ!?」

 

「え? ケージバンて何でも答えてくれるんだよ?」

 

 無垢な瞳が首を傾げた。

 

「ちゃんねるの話を鵜呑み?! ダメゼッタイ!? ロクな大人になれませんよ!?」

 

 親になったノリで少年が今からネットの闇ズブズブそうな少女の肩を掴む。

 

「ボクがクロにはいつも負けてばかりって話したら、勝てる方法まで教えてくれたんだから!! ふふ」

 

「何で自信満々なんだ?! つーか、勝てねぇよ!? オレ、才能ないけど真面目にカリキュラムやって実質9年くらい主観時間使ってんだぞ?! 勝たれたら泣くわ!?」

 

「お話したら、リトの弱点を突いてお布団の上で戦えば勝てるって……お泊りするの? ミシェル様がその話をしてくれたの? ねぇ、リト」

 

「ぅ……」

 

 思い詰めていた時とは打って変わって少女の笑顔は輝いていた。

 

 思わず『カワイイじゃねぇか』という言葉を喉の奥に呑み込んだ少年は脳裏のミシェルが18禁ワールドな事を呟き始めるのを首を横に振って消す。

 

「と、取り敢えずだ。ミシェルさんはしばらく任務で帰って来ないから、オレがお前を預かる事になった。ホテルにお泊りだ。あ、素泊まりになるからメシは自炊だぞ。悪いがさすがに余裕が無いんで」

 

 と、少年が言っている合間にもメイドさんが返された端末をポチポチ捜査して、少年に差し出す。

 

「ん? 今度は何だ、って……コレ、オレの預金残高照会!? 何で呼び出せるの!? これ普通の銀行の方でしょ?!」

 

「?」

 

「いや、そんな顔されてもオレが聞きたいんだけども?!」

 

「!!」

「アリアが取り敢えず見ろって」

「え、ええと残高が……ブッホ?!」

 

 思わず吹き出したクロが目を剥く。

 

 預金残高がこの数か月で百万くらいになったのだが、その桁が更に一つばかり増えていた。

 

 そして、メイドさんが更にディスプレイを操作してババンとクロに見せ付ける。

 

「ええと、何々……ミシェル先生の正しい女の子の服の買い方? どうか買って上げて欲しいって……コレ……」

 

 ミシェルが書いたのだろう女性の衣服の買い方や選び方が分かり易く絵文字やら画像で表示されていた。

 

「……分かった。分かりましたよ。ミシェルさんは男の子の扱いが下手どころかよく分からん人だって事がな!!?」

 

「?」

 

「いや、あのなぁ!? 下着の選び方とか。可愛い下着を2人で買って親密度アップとか。何か余計な事まで書かれてある上に何でランジェリーショップにオレが出入りする事前提なんだよ!?」

 

「?」

 

「男は横の紳士服売り場で待ってるに決まってんだろ?!! というか!? これはメイドさん案件なのでは!?」

 

 メイドさん。

 

 アリアが『甲斐性の無い男……』というジト目になる。

 

「う、そんな目で見ても下着だけは付き合わないからな?! 予算はそれ分だけ使うってのでいいんでしょ? あ~もう明日からの予定が……まぁ、無いけど……ぅ、オレの青春の闇が自己言及されたぞ?! ダメージ、デカいわッ!?」

 

 自分で言って凹んだクロであったが、横でお泊りの単語にワクワクした様子になっているリトを見て、頭をボリボリ掻く。

 

「取り敢えず、今日の訓練や講義は終わったし、ちょっと街に繰り出すぞ。それで幾らかブティック? 回って、色々買うからな。それからホテルに行くけど、まずは10日くらいで」

 

「クロとお泊り!!? やった!! アリアもね?」

 

「え、あ、あ~~ッ!? そ、そうだよな……」

 

「!!」

 

 メイドさんが主人の喜びように自分も嬉しくなった様子でキャイキャイと手を握り合っていた。

 

「ぅ……や、やっぱり、メイドさん分くらいは出して貰おう、かな?」

 

 さっそくヘタレたクロはそうしてホテルの部屋を三部屋予約しようとして殆ど無料で泊まれる騎士団専用のホテルが現在から来年先まで満室という事実に気付いて絶望し……仕方なく騎士団割(東京中のホテルにおいて実施されている騎士団関係者や騎士団への来訪目的の割引制度)が効く場所を探し、セブン・オーダーズの面々が常々愛用している例の宿泊施設しか三部屋取れる金額のところが無いという事実にニッコリ笑顔で撃沈した。

 

「うぅ、何で此処だけ普通の部屋より3人部屋がキッカリ数十日分予約無く空いてて安いんだよ!?」

 

 クロは知らない。

 

 それがミシェルの権力であるという事を。

 

 世の中には人の行動を先回りして準備する人々がいるという事を。

 

 準備。

 

 それこそを少年から学んだミシェル・バーンには死角など無かった。

 

 こうして彼らは3部屋が数十日間激安で空いていた日本で一番騎士団に愛用されてて予約するまでもなく最初から彼らが来る事を知っていたホテル従業員に持て成される事になる(3人部屋朝食夕食付き3人で1日1万円也)。

 

 変異覚醒者として雇われている猫耳20代なコンシェルジュの最初の一言にはもはや彼も顔を引き攣らせる事しか出来なかった。

 

「お客様。お連れ様とのお部屋でございますが、実は手違いがありまして。三人部屋なのですが、寝台は一つしかございません。大変ご迷惑をお掛けしますが、とても良い代物ですので皆様でご利用下さい」

 

 ウォーターベッド。

 回る。

 動く。

 

 部屋の浴室の壁はガラス張り。

 

 穴の開いた椅子。

 膨らんだマッド。

 

 アメニティには世界一薄いゴム製品。

 

 ついでにジョーク・グッズでヌルヌルするジェルが数本。

 

「ラブホかぁあああああああああああああああ?!!!」

 

 叫んだ少年の声が全てを仕組んだミシェルに届く事は無かった。

 

「ラブホって何? アリア、ケージバンで聞い―――」

 

「聞いちゃいけません!! オレの部屋じゃ問題ありまくりだからホテルにしたのに……うぅ……問題しかない。このホテル……」

 

 こうしてホテル住まいにクラスチェンジした少年はズブズブと沼に嵌るかのように次々襲い来るミシェルの仕掛けを前にして気を遠くさせていくのだった。

 

 *

 

 ―――陰陽自研地下研究施設秘匿域。

 

「どうやら騎士ベルディクトが戦闘に入ったようです」

 

「そうか。詠唱部隊の動向は?」

 

「現在、展開中。周辺地点のゾンビの掃討を極秘裏に行っており、確保までは数日掛る見込みです」

 

 通常の九十九とのリンクでオペレートする司令部機能は陰陽自にはちゃんとあるが、陰陽自研で極秘作戦用の指令部相当の設備がある事はあまり知られていない。

 

 白衣の男達が次々に送られてくるデータを即時そのまま解析して敵の能力や状態を丸裸にする為のシステムは正しく全てを暴く為の力だ。

 

 此処に詰めるのは解析力に長けた陰陽自研のトップ層。

 

 同時に直感や閃きに長けた変異覚醒した研究者が多い。

 

 自分の研究の片手間で騎士ベルディクトから送られてくる大量の情報を解析しているだけで極めて愉しい事になる層が一杯。

 

 オペレート用のコンソールが並ぶ一角の壁際では議論が戦わされていた。

 

「視覚情報にのみ映るゾンビのような敵か。例の概念魔術系統の事象に似ているな。本体がこちらに顕現する為の鍵が何処かにあると推測するが、如何に?」

 

「ゾンビは概念域側に術式の本体があるようですし、身体を持たないゾンビというものなのかもしれませんね。ですが、その場合は現実でカズマ3尉の攻撃で消えた理屈が説明出来ません」

 

「空気中に微粒子の形で鍵が漂っているというのは?」

 

「ディミスリルを用いた敵という事ならば、特異点の微弱な反応が観測出来るはずですが、そういったものは観測出来ていません」

 

「では、ニューヨーク内にそれを一括管理する何かがある。と考えるのがいいか。そもそもニューヨークという限定した地域に出現しているし、概念域側から引き出され得る事象ならば、世界の何処でも発現していなくてはおかしい」

 

「妥当なところですね」

 

「では、すぐに騎士ベルディクトに伝えて来る」

 

 白衣の男達の一部オペレート用のコンソールに向かった。

 

「……それにしても武装が持ち込めない領域、か。応用出来たら、随分と社会の安全度が増すな」

 

「管理社会万歳になりそうだけどな」

 

「はは、そう言うな。例の計画を早める事も決まっているし、人類総旅行計画も動いているしな。混乱しない内に終えるには良さそうな素材だろ」

 

「確かに……それにしても銃弾一発も持って行けないんじゃ、やっぱり不安になるな」

 

「今の騎士ベルディクトに武装が必要かどうかは意見も分かれるぞ? 無くても大丈夫だろう」

 

「お前の技術が使われてりゃ、そりゃ自信満々だろうよ」

 

「ははは~~その気になれば、人類には明らかなオーバースペックな能力が露わになって超絶カッコよくなっちまうな~~」

 

「その意見には賛同するが……事実上、現存の通常兵器で倒せなくなったな」

 

「魔力使っても、ディミスリル使っても倒せないだろ」

 

「カズマ3尉との相性も抜群だ。タッグを組めば、月くらい余裕で吹き飛ばせるのが何とも……」

 

「思えば遠くに来たもんだ」

 

「まぁな。事実上、四騎士と直接近接戦闘で勝利出来る戦力は6人くらいか」

 

「騎士ベルディクト、騎士ヒューリア、騎士クローディオ、騎士フィクシー、片世准尉、カズマ3尉……3人に対して6人。優勢ではあるが、倒せなくなったからな……問題は制圧方法が今のところ見付からないって事だ」

 

「BFCや魔族への対抗策も万全とは言い難いが、あのシステムならば……どちら相手にも対等以上に戦えるはずだ」

 

「武装が使えなくなって、まさか玩具が活躍するとはなぁ……」

 

「力はただ力。それをどう使うかだ。騎士ベルディクトが持ち込めるかどうか一番心配していた胸元のアレが持ち込めた次点で相手の空間による制限はガバガバどころの話じゃない」

 

「確かに……アレが持ち込める次点でな」

 

 彼ら研究者にしてみれば、少年が毎日のように定期的に送って来てくれる少年の胸元に埋め込まれた動力炉の稼働データは値千金を地で行く代物であり、その本格的な戦闘稼働データが稼げるとなれば、もはや笑いが止まらない状態。

 

 事実上、胸元のソレを暴走させれば、世界を滅ぼせるようになった少年は彼らにしてみれば、自らが育んだ技術を全部載せした究極の成果に等しかった。

 

『地下班による突入が開始されました』

 

「おっと、見逃すところだった」

 

 彼らが瞬時に網膜投影の術式で送られてくるノイズが出ている映像や現地の情報を見ながら、手分けして魔術師技能で情報を整理解析していく。

 

 そうして彼らが再び周辺状況の解析で現地の動き方を模索している頃。

 

「( ´Д`)=3 フゥ……手強い復元でした」

 

「……まぁ、復元されるの片っ端から削れば、そりゃ貫通するよな」

 

 ヒューリが良い汗掻いたぜと額をハンカチで拭う。

 

 それを見て、クローディオが肩を竦めた。

 

 車両の助手席に納まったヒューリがカードをスラッシュした玩具に魔力をガンガン送って削れた傍から復元が開始される地下を難なく掘り進んで10分程。

 

 到着した穴の先は薄暗い倉庫の一角で丁度大量の物資の物陰となった角に突き当たっていた。

 

「ご苦労様でした騎士ヒューリア。クローディオ大隊長。此処からは此処に陣地を張って情報収集とコンタクトが図れるかどうかを確認していきましょう」

 

 ミシェルが車両を止めて瞳を閉じ、魔術の構成を練りながら全員に通達する。

 

「フィクシー副団長代行は意思決定者としてクローディオ大隊長の護衛の下、メイさんを連れて話が出来る人間を探して下さい。リーダーであるジョセフ氏と接触し、事の真相を」

 

「分かった。ミシェル。お前は残るとしてヒューリとルカはどうする?」

 

「お父様からは遊撃隊として内部の情報収集をするようにと」

 

「まぁ、妥当だな。あまり車両から離れないように気を付けろ」

 

「了解しました。フィー達も気を付けて下さいね。この地下、何だか嫌な気配がします。ラグさんが言ってた通り、これが神の気配だとすれば……」

 

「分かっている。もしもの時は此処に一直線に戻ってくる。此処から車両で出るルートはメイ殿が書いてくれた地図を参考に変化していても掘削して壁をブチ抜けば、どうにかなるだろう。各自、健闘を祈る」

 

『了解!!』

 

 こうして更に地下班は二手に分かれる。

 

 本来は纏まって動くのが安全面では最良であったが、情報収集しながらやらねばならない事をこなすには分かれるのが妥当であり、もしもの時は壁を抜いてそのまま駆け付ければいいという強引な手法が取れる事で極めて彼らの行動は迅速に行われる事となった。

 

 倉庫はかなり広く2km四方程の大規模な代物であった。

 

 迷路のようになっているのは物資搬入口からゾンビが侵入しても時間を稼ぐ為という事で実際に迷う者が出ると困るとの事から地図が頭に入っていなければ、20m程上の天井近くまで積み上げられた物資の山の中で埋もれてしまう。

 

 先に貰っていた地図を頼りにミシェルをその場に残してヒューリとルカは周囲からの情報を五感だけで拾いつつ、まずはシェルター内の民間人の状況を確認する為、居住区へと向かう事になった。

 

 二人の移動はスムーズだ。

 片方は超人的な肉体。

 

 片方は自身の能力を使って肉体をスーツの重力軽減で浮かせて加速。

 

 倉庫内で速度は出ないとはいえ。

 

 それでも自動車並みのスピード天井近くの隙間を縫うようにして行けば、地上を歩くよりも遥かに簡単な迷路踏破となった。

 

「出入口はあの少し階段を昇った先の扉ですね」

 

「周囲に監視カメラが幾つかあるけど、要所要所にしかないみたいです」

 

「ルカさんはバックアップを」

「はい。ヒューリさんも気を付けて」

 

 ルカが自身の太ももからディミスリル製の針の束を引き抜く。

 

 手掴みで握れる針の本数は千本近い。

 全ては技術の進歩故だ。

 

 針の穂先は殆ど単原子化されており、魔力でシーリングしてあるが、対象物との接触時に解放。

 

 あらゆる物質を原理的に貫く事が可能となっている。

 

 そんなのが散弾染みて飛んで来れば、殆どの敵を貫くのに問題は無いだろう。

 

 扉に辿り着いた二人はそっと扉を開いて内部へと潜入した。

 

 通路は常夜灯のような灯りで照らされており、40m程先まで続いていた。

 

 それを静かに音を立てずに駆け抜けた彼らが見たのは―――世界最大規模のシェルターとして作られた北米最後の砦。

 

 基地機能も併せ持つ軍事設備としても使用されていたビッグ・クレイドルの巨大な縦穴の横に多数の部屋がハチの巣状に置かれ、梯子が虚空に掛けられている姿であった。

 

 バラック染みた梯子のあちこちには人が住んでいる様子すら有り、実際に使われていたのだろう様々な生活用の排水ダクトや下水処理用の柔らかそうなパイプが大量に繋がっていた。

 

「此処が4番地……縦穴は外にも幾つかあって、何処かがゾンビに汚染されても密閉して隔離する事が出来るんだそうです」

 

「人、いませんね」

 

「はい。稼働していない場所も含めて12の番地が有り、私達が向かうべき場所は1番地の縦穴で此処は商業地だって話でしたが……」

 

 ヒューリとルカが監視カメラに気を付けながら人がいたと思われる横穴を幾つか見て回った。

 

 内部はハチの巣状の部屋にトイレと洗面台や寝台。

 

 それから私物が置かれたものというのが基本であったが、何処も無人。

 

「埃は積もってません。でも、数日誰もいなかったみたいですね」

 

「……何処に彼らが行ったのか調べないとですね」

 

「はい。ルカさん。九十九とはまだ繋がりますよね?」

 

「こっちでも魔術で接続出来る事は確認済みですよ」

 

「じゃあ、九十九の解析で人の移動経路を見て見ましょう。九十九、人の出て行った方角を」

 

 そう言った途端。

 

 彼らの網膜に投影されている九十九からの電子データが解析結果を提示する。

 

 二人の網膜が捉えた情報から足跡の流れを特定。

 

 通常の導線で流れていく足音が浮かび上がり、数日間の人の流れが立て穴内の映像に被せられる。

 

 それが突如として一方向に流れていく事で二人は縦穴の中層階の大きな通路から別の場所に映った事を理解し、追っていく事となった。

 

 その通路は人が並んで10人通れるくらいの幅があり、奥は電灯が切れている。

 が、ルカとヒューリは魔術師であり魔族だ。

 

 通常の人間よりも見える波長が広い。

 

 普段は人間並みに本能的セーブしているものの。

 

 それでも術式を用いたり、知覚能力を少し引き上げれば、奥の奥まで見通せた。

 

「行こう。ヒューリさん」

「はい……」

 

 二人が通路内部に罠やカメラが無いかと確認しながら風のように通路を通り抜けてシャッターの閉まる地点まで辿り着く。

 

 小さな門が左手の横に付いていて、そこからはセキュリティが働いているのか。

 

 壁にコンソールが置かれて通電している様子であった。

 

「九十九」

 

 ヒューリがコンソールに手を付いて内部の回路に直接干渉する術式を起動する。

 

 魔力による電子回路への介入は同時に九十九と術者が繋がっている限り、背後にスパコンが控えている状態でリンクするに等しい。

 

 すぐに九十九が解析を開始して、アメリカから持ち込まれたデータにシェルターに使われているセキュリティーシステムを発見。検索したデータから読み込んだ開錠方法が現地で再現出来ない場合はハッキングで無理やりに門を開く。

 

 ガコンとロックが外れた門に2人がそそくさと突入した。

 

 次のエリアは第7番地。

 

 人がいない無人エリアだったはず、であった。

 

「な―――」

 

 此処で二人が驚く。

 

 突入した番地内部は……まるで洞窟内のような土と岩に覆われた空間で縦穴ですら無かった。

 

 九十九との通信が瞬時に切れる。

 

 慌ててルカが門から後ろに戻るとチャンネルが復帰した。

 

「ヒューリさん。一端出よう」

「はい。此処、明らかに……」

 

「うん」

 

 二人が出てから九十九とのリンクを回復させ、陰陽自研に記憶や見た映像のデータを送る。

 

『お二人とも聞いて下さい。どうやらその先は通常の空間とは隔絶された一種の出入り自由な結界のようです。ただし、内部の物体は完全に実物。魔力で再現したわけではない本物です』

 

 オペレートしている研究者達の1人が彼女達の網膜に現状の状態を文字で書き出していく。

 

『概念魔力や魔術に近しい物体の顕現。能力による結界。高次の魔力波動の検知。恐らくですが、そこが神の巣。もしくはそれに近い場所ではないかと』

 

「神の巣……」

 

 ヒューリが目を細める。

 

『自立稼働型のドローンが投入出来ていない事が切実に悔やまれます。騎士ヒューリア。1mm単位の使い魔を10億体程作って送り込んで下さい。術式はそちらにありますが、恐らく武装の類ではない為、大丈夫でしょう。情報そのものを内部でリレー出来れば、手を中に入れた状態から受け取れるはずです』

 

「分かりました。ルカさん」

「周囲の警戒は任せて下さい」

 

 ヒューリが門の内部に手を突っ込んで集中する。

 

 彼女の魔力を微細に小分けにして予め脳裏にあった幾つかの術式を解凍。

 

 使い魔の生成を開始する。

 

 膨大な魔力を持つヒューリだからこその芸当だろう。

 

 見えない魔力の塊に近いソレが瞬時に分裂して手の中から大量に放たれ、洞窟の奥へと浸透していく。

 

 次々に迷路染みた世界の隅々にまで充満していく使い魔達からのデータは腕を通ってヒューリの脳裏から九十九へと蓄積。

 

 即座に解析へと回されていく。

 

『相当に深い。現在地が地下400m……まだ下がある……人気が無い……』

 

 そうして2分程が経った時だった。

 

『反応有り。広い場所に出たようです。騎士ヒューリア。先頭の使い魔から赤外線と音響による探査を』

 

「はい」

 

 ヒューリが言われるままに紫外線と音響による探査を行った時だった。

 

 瞬時にマッピングされたデータが解析されて九十九によって映像に直される。

 

 簡易の使い魔を透明化しているのだ。

 光波を用いなければ、映像が受信出来ないのは道理。

 

 だが、真っ暗闇の中で紫外線と音の反射から計算されて再現された内部構造が露わとなった時、思わずヒューリとその情報を同時に受信していたルカの血の気が引いた。

 

 ―――地下900m地点の大空洞凡そ100m四方の巨大な空間内部は壁面をビッシリと人間の頭で埋め尽くされていた。

 

「「ッ」」

 

 研究者達も息を呑む。

 

 巨大な空洞内は何処か有機的な白い細胞で出来た壁のようなもので形成されており、それにめり込むように身体を完全に埋没させた人間が意志も消え失せた虚ろな瞳で暗闇の中で瞳孔を開きっ放しにさせていた。

 

「死んでるんですか?」

 

『い、いいえ、肉体の反応はあります。使い魔を壁面に触れさせないようにして人間の頭部へ。各種のデータを解析します」

 

「はい……ッ」

 

 ヒューリの使い魔達が次々に人間の頭部に取り付いて、脳のデータを送信し始める。

 

『受信しました……この反応は……』

 

「何か分かりましたか?」

 

『どうやら生きてはいるようですが、彼らは夢を見ているようです』

 

「夢?」

 

『ええ、夢を見ている人間の脳の動きそっくりな状態です。ただ、エンドルフィンやドーパミンなどが放出されている事から、愉しい夢を見ているのではないかと推測されます』

 

「それって人間に夢を見させて大人しくさせているって事ですか?」

 

 ルカが訊ねる。

 

『はい。ですが、通常の夢と違って脳の一部の活動が高い状態で維持されており、更に身体の―――何だコレは?!』

 

「どうしたんですか?」

 

『今、映像化して肉体内のデータを』

 

 二人が送られてきた情報に目を見張る。

 肉体の小腸の当たりに何か大きなものが蠢ていた。

 

「……寄生虫?」

 

 ルカが厳しい表情でそう呟く。

 

『どうやら腸から彼らに栄養を送っているのがコレのようです。コレ自体が肛門の一部と同化している様子でそこから栄養を送られて生かされているのではないかと推測されます』

 

「一体、何の為にこんな……」

 

 思わずヒューリが唇を噛み締める。

 

『分かりません。ですが、これでは救出は今のところ困難なようです。白い壁や寄生虫のデータを取って対策を立てねば、恐らく人々を此処から解放する事は不可能だと思われます』

 

「そうですか……」

「ヒューリさん」

 

 すぐにでも助けたいとは思っても、それで相手が死んでは元もこうも無くなる。

 

 それは分かっているからこそ。

 

 苦渋の決断ながらもヒューリは白い壁の一部に僅か使い魔を接触させて、その表層の細胞を取った後、すぐに引き上げさせた。

 

『お二人には此処は一端後回しにして貰って、他の番地の確認を。使い魔に結界外まで細胞を運んで頂いて、転移で出張させた簡易の研究設備を積んだ黒武内に移動させます。結果に付いては終わればすぐに連絡を。対策はこちらで考えますが、一端全員で合流後に議論した方が良いかもしれません』

 

「分かりました。他の場所にもこういうものが無いか確認してきます」

 

「ヒューリさん。行こう。そして、必ずまた此処に戻って来よう」

 

「はい。必ず!!」

 

 二人が扉を一端閉める。

 

 再び潜る時は全てを解決する為の方法を携えて来なければと誓って。

 

 どれだけ彼らが力を増そうとも悪意と狂気の壁は高い。

 

 世界が滅ぶというならば、彼らに求められるのは単なる強さではなく。

 

 どんな状況下でも人々を救える力に他ならなかった。

 

 *

 

 ―――日本秩父山中。

 

「大失態だったようだな。CEX隊長」

 

「貴様は!?」

 

 山間部。

 

 黒き沼地が現れた地表からゆっくりと陽炎のような何者かが夕暮れ時の最中、1人の女の前に現れていた。

 

 巨大な機械椀が擡げ、その折り込みを解除して、その幻のように霞む黒い相手を前に指先の爪に殺意を籠らせる。

 

「最後の大隊が動き出した。本隊の到着までに必要数の削減に決着が付けられなければ、君は降格人事だ」

 

「ッ―――」

 

「市長も同意なさっている。ベルト・コマンダーズの多くを失った事はまだいい。だが、この数か月、君は自らの役目を果たせていない」

 

「く……ッ」

 

 傲慢な程に東京で見せた顔とは裏腹に彼女の瞳には焦燥が宿る。

 

「争点は北極へと移った。君の任務は失敗だと判断された。現在、ニューヨークに差し向けたコマンダ-程度では恐らく現在の善導騎士団には敵うまい。裏切り者ロナルド・ラスタルの処分は私が市長から直々に承った」

 

「そんな!? 何故、貴様のようなイリーガルに!?」

 

「君の失態で色々と予定が繰り上がったのだよ。本来、日本に顕現するはずだった本隊は別地点の選定に入った」

 

「ッッ」

 

「頚城の回収率もまるで悪い。高純度の頚城無くして、我々の目標は達成する事は出来ない。君が例の頚城を捉える事が出来れば、市長のお考えも変わるかもしれんがね。今の君に倒せるかね?」

 

「倒せるかだと!!? 決まっている!! 私を誰だと思っている!! 私はッ、私はCEXの隊長だぞ!!!」

 

 激情に駆られた女が吠える。

 

「良いだろう。亡命政権の高純度な頚城達の確保の失敗は大目に見よう。現地の権限では私が上位だが、君の私の作戦への帯同を許す」

 

「ッ、了解、した……」

 

「まぁ、だが……君の事を私は評価しないでもないのだよ。善導騎士団、最後の大隊、魔族、彼らに秘密裡で此処までの準備をした事は賞賛に値するとも」

 

「……心にもない事を」

 

 女の瞳が細まる。

 

「いや、本心だ。だが、既存の使い方では恐らく対処されて終わりだな。彼らの力は短期間で極めて洗練され、高まっている。此処は協調してやろうじゃないか」

 

「協調、だと?」

 

「北米から最後の大隊が引き上げた。四騎士はユーラシア中央の遺跡に陣取っている。四騎士の1人が墜ちた事で予定も繰り上がった。魔族は裏で何かをやっているようだが、今は関係ない。つまり、此処が最後の邪魔者が少ない時期だ」

 

「どうすると言うのだ」

 

「あの考古学者は北米で興国の真っ最中。米軍はだんまりだ。恐らく所有する最後の一つを一番安全な場所で護っているはずだ」

 

「落とすつもりか?」

 

「卵の将軍はユーラシア遠征に全てを掛けて各地の秘匿施設をフル稼働させる為に奔走しているはず……であるならば、あそこは今がら空きも同然だ」

 

「我々の活動を制限されるのだぞ? どうやって深部まで突入する」

 

「何、簡単な事だ。この身体を捨てればいい」

 

「何?」

 

「聞こえなかったのか? 死ぬ身体になれば、あそこは突破出来ると言ったのだが……」

 

「―――それは、正気か?」

「ああ、正気だとも」

 

「死を克服した我々BFCが再び死ぬ身体で戦うというのか?」

 

「何か問題が? 市長の理想を実現せしめる為に我々は全てを捨て去ったはずだ。全てをもう一度捨て去る程度の事がどうして出来ないと?」

 

「……考えるまでもない。私はッ、私はッ!!」

 

 機械椀が軋みそうな程の力がその腕に込められる。

 

「事態が動くまでまだしばらくあるはずだ。それまでに三沢を落として頚城の強奪を完遂しろ。その後、ニューヨークの裏切り者を抹殺し、アレを奪う。これで君の失態は帳消しだ」

 

「了解した……」

「プレゼントだ。受け取り給え」

 

 陽炎が女の機械椀に小さなカプセルを載せる。

 

「これは……例の?」

 

「そうだ。対黙示録の四騎士用に市長直々に開発の陣頭指揮を取っていたアレだよ……君は―――」

 

 機械椀がカプセルを口の中に放り込んだ。

 

 ゴクリ。

 そう喉が成る。

 それと同時に女が倒れ込んだ。

 

「ぐ……ッッッ」

 

「説明する間も無くとは恐れ入る。怖くないのかね?」

 

「構……わん。市長の為ならば、私……は……」

 

「大した忠誠心だ。さて、君の身体が現実に定着するまで10時間と言ったところか。明日の朝には三沢に向かおう」

 

 揺らぐ陽炎が夕暮れ時の宵が過ぎた山中でようやく揺らぐの止める。

 

 まるで闇が結実したかのような溶けたソレそのものが形を朧に取ったような、骸骨……そう黒に紅を混ぜ込んだような色彩の骸骨が結実していく。

 

 だが、その骨は人間には有り得ない程に多く。

 

 その肉があるべき場所にもまた骨が幾重にも詰まり、人間では有り得ない骨格が露わとなっていく。

 

 骨の詰まった躰の周囲にローブ状の銀と金の蔦が刺繍されたマントが現れて被さると。

 その内部から鋼の身の丈2m程の杖らしきものが飛び出した。

 

 姿形だけを見れば、大陸においてはリッチーなんて言われる不死者の類に見えなくもない。

 

 だが、ソレが地面に杖を突いた時。

 

 薄っすらと彼らのいる地域の明度が僅かに下がる。

 

「良い出来だ。これならば、囮としては十分だろう」

 

 ニヤリと頬の無い骸骨の口角が上がった。

 ような気がしたのは気のせいでは無いだろう。

 カタカタと顎が僅かに震えている。

 

「さぁ、人類最後のパーティー……その前哨戦と行こうか。まったく、魔術師を止めて、人間を止めて、今度は化け物を止める事になるとは……何とも面白い生に産まれたものだ……」

 

 骸骨は嗤う。

 

 世界が滅ぶ瀬戸際で踊る者達に選曲する指揮者の如く。

 

 傲慢な瞳を上に向けた。

 

 その目にはしっかりと善導騎士団の衛星軌道部隊の姿が見えていたのだった。

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