異世界の騎士、地球に行く   作:Anacletus

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間章「留守番」

 

―――ASEAN北部。

 

 暗黒街。

 

 そう言われている世界は人類生存領域の6%にも及ぶ。

 

 その多くは過去の治安悪化地域やノーゴーゾーン、ファベーラに代表される各国にあったスラムの成れの果てである。

 

 難民の多くはこの暗黒街と呼ばれる領域に住まう、()()()()()()

 

 彼らにとって其処はある種の市場だ。

 

 売りたいモノと買いたいモノの出会いの場。

 

 それが需要と供給として成り立っている限りにおいて退廃的な享楽や暴力が蔓延る巷はある種の難民達の不満をガス抜きする歓楽街……まぁ、それよりは極めて悪辣な感じのマーケットとして見られていた。

 

 各国にしてみれば、地下経済の3割近くを占めるソレを強制的に潰すという事は殆ど不可能。

 

 いや、そうしたくても人類を身内でわざわざ減らして内乱状態になりたい輩はいなかったというのが殆どの国の為政者及び行政従事者達の感想であった。

 

『オペレーション・ラッシュホード開始されます』

 

『各国軍の方々は12番スクリーン以下をご覧下さい』

 

『スクリーンに各地の地域名と地図が表示されます』

 

 今、各国の要人達の前にあるのは善導騎士団が設えた簡易のASEANでの活動拠点の司令部であった。

 

 国から借り受けた用地に巨大な要塞染みたコンクリート製の要塞が突如として3日で出来ては彼らとて相手の実力を知ったつもりになっていたところに肌身を以て感じる以外無かっただろう。

 

 騎士団は今や全ての国家を超える規模の力を有していると。

 

 だからこそ、彼らは思ったのだ。

 

 枷と呼べるものだっただろう自分達の弱さ。

 

 ソレは善導騎士団によるオーストラリアの暗黒街一斉撃滅に端を発して箍が外れると。

 

 各国の政府及び軍隊はこれ幸いにと善導騎士団に協力を打診。

 

 これを騎士団は内部から逃げ出そうとする人々の保護に割り当てる戦力として周辺に配置。

 

 北米ニューヨークへのセブン・オーダーズの派遣翌日から1日後。

 

 遂に開始されたASEANの暗黒街。

 

 人類最後のスラムは消滅の時を迎えていた。

 

 浸透する善導騎士団謹製のドローンは完全に現行犯を見逃さず。

 

 更生不能の犯罪者を射殺。

 

 市街には大量の死体の絨毯が積み上がり、その前で呆然としている人々は半数程であった。

 

 弾丸は彼らを打ち倒さなかったが、心理解析結果としてクズ及び人間扱いしなくてよいと判断された層は片っ端から誘導弾の餌食になっていった。

 

 150cmのコンクリート壁を貫通するディミスリル弾である。

 

 何処に隠れていようが、地下に潜ろうが関係など無い。

 

 防空壕やシェルターの正面から銃弾を撃ち込んでやれば、それで片は付く。

 

 内部の悪徳マシマシな食人悪鬼だろうと、暗黒街の泣く子も黙る大物だろうと、関係無く脳を現場にブチ撒けて即死。

 

 正に大虐殺だと各国軍の軍人ですら顔が微妙に青かった。

 

 が、問題はその死体の周囲の状況だ。

 

 被害者と判断された生きている人々の多くの状態は凄惨を通り越して凄絶。

 

 彼らの保護にご協力下さいと騎士ベルディクトの片腕。

 

 一部では【騎士団の大明神】等と揶揄される眼鏡のスーツ姿の女。

 

 明神の笑みに各国の政治家も軍の佐官、将官も頷く以外無かった。

 

『人間爆弾にされた子供達を保護しました』

 

『こちらCP。爆弾ベストは脱がせて温かいシャワーでも浴びせて上げて下さい』

 

『一部の子供には覚醒剤及び大麻や合成麻薬が使われているようです。対処に当たります』

 

『術式解凍……すぐに良くなりますからね。そしたら、ちょっとお休みしててね?』

 

『投薬された子だけではなく脳の一部を破壊されている子もいるようです。ロボトミーですか。まったく……MHペンダントを掛けた後、全てエヴァン医師のいる後方医療拠点に転移で輸送して下さい』

 

 武装したり、爆薬を纏ったり、死んだら起爆するベストなんて凝ったモノを使っていてすら無駄。

 

 それを更に子供にすら強要した連中は精神、肉体、脳、内臓、あらゆるものを破壊して人を支配しようとしたらしいが、それもボタンを押す暇もなく消えた。

 

 子供に薬を売って人間爆弾にしてストックしていた連中が軒並み何かをする前に死んだ様子は拍手喝采の中で映像を見ている高級軍人達に受け入れられたのである。

 

『素晴らしい手並みだ。善導騎士団』

 

『いえ、罪のある者も罪の無い者も救える限りは救うのが騎士団流ですので』

 

『そうかね? レディ・ミョウジン』

 

『ええ、此処で死んだのは救えないモノと救う必要性がないモノとの事です』

 

『日本は倫理や道徳に煩いと思っていたが……』

 

『子供の腹の中に爆薬を詰めて敵を爆殺しようとする連中に語る道徳や倫理は持ち合わせが生憎とありませんもので……』

 

『同感だ……』

 

 起爆スイッチなど最初から電磁波の照射で無力化済み。

 

 電子兵装で戦えるのは同じレベルで電子戦が可能な人間だけだ。

 

 生憎と善導騎士団の技術力は相手に電子戦など許さなかった。

 

 全ての監視装置は一瞬でダウン。

 

 そして、ダウンして数秒後には各地の暗黒街は一斉にドローンの突入で約1分で沈黙したのだ。

 

 ばら撒かれた弾は最小限度。

 

 高々数十万発だ。

 

 大隊規模の軍隊からすれば、戦争でもしていれば、数日間持つか怪しいオヤツ。

 

 それが人間の頭部に1人1発。

 

 だが、通常の機械で作る場合の製造コストが一発数万のディミスリル弾なら死なない方がまったくどうかしている。

 

 超技術集団と呼ばれて久しい彼らは現状まったく名前負けする要素も無かった。

 

『拠点包囲完了しました。各地の対象に意志あるゾンビを8体確認!!』

 

『魔術師の撃滅を開始して下さい』

『了解しました。各黒武照準!!!』

 

『突入部隊!! 現在、各地の魔術師の陣地内部に転移開始!! 人質及び生贄、各種資材化された一般人の確保完了まで凡そ1分』

 

『陣地の多くで使い魔などが湧き出しました!! 事前予測通りです!!』

 

『全中隊CPに通達。確保離脱完了まで内部から出て来た雑魚をお相手して差し上げて下さい。あちらの気を引いておくように』

 

『了解!!』

 

 ASEANは島が多い。

 

 その幾つもある島々の中には無人島化している場所も多々ある。

 

 そもそもゾンビ禍の渦中で所属国家単体では無力である事から、各国の国家主権をほぼ統合した事で生まれた共同体だ。

 

 旧時代と呼ばれるようなゾンビ禍流行前の禍根は全て強引に武力で封じ込め、各国の軍部主導で各地の物資を牛耳る事で何とか永らえた経緯から、どの人類生存圏よりもASEANは治安の不安定な地域が多い。

 

 そんな最中に庵や陣を構える術師もまた多いのは道理だろう。

 

 が、今やその半数程が暗黒街内部から仕入れた材料で魔術を行う者達となっていた。

 

 彼らにもまた心理解析後に鉄槌が下る。

 

『く、来るか。善導騎士団!! 使い魔を出せ!!』

『結社こそが正義!! 結社の敵に死を!!』

『外殻の使い魔が放たれました!!』

『くくく、死霊に銃弾など効かん!!』

『沼地には泥の精。奴らは地面に呑まれて死ぬ!!』

『おお、首領!! 偉大なる御業は我らと共に!!』

 

 自分達のやっている事に自覚のあった多くの魔術師やその集団。

 

 結社化された人々は自らを護る為に武装。

 

 騎士団の情報を民間から買って対処する事になっていた。

 

 彼らが危機感を持ったのは数日前。

 

 ASEAN各地に持ち込まれた改造済みのパラボナアンテナが搭載された黒武が術式を超広域で発信した時だ。

 

 その全てを理解し切れたわけではなかったが、彼らはすぐに気付いた。

 

 それが選別する為の代物だと。

 

 術式が解凍されて、反応が返って来れば、それは間違いなく人類社会に害悪の類であると九十九の太鼓判を押してくれる()()()()であったし、その事実を彼ら自身は知らなくても漠然と騎士団が己の敵になると確信出来たのだ。

 

 それくらいには彼らも己の所業には理解があった。

 

『こちらスマトラ島中部第三中隊。陣地、工房から溢れ出した悪霊ですが、ディミスリル弾の前じゃ形無しのようです。やはり、魔力の吸収は物理無効でも効くようですよ』

 

『よろしい。悪霊死霊の類は魔力吸収弾を基礎として刻印を』

 

『こちらには肉体を持った使い魔が大量に湧いております』

 

『弾の効果は?』

 

『どうやら思考中枢があれば、即死です』

 

『こちらスライム型が出現!! ですが、焼き払うだけで良さそうです』

 

 次々に集められた各国の要人達の前で悪辣な魔術師達が己の身を護ろうと特注した歩兵役の駒達が打ち砕かれていく。

 

 莫大なリソースを用いた自慢の力だ。

 

 何百人の魂が、何百人の生気が、長く根を下ろして自らの地に掛け続けた魔術が、霊的に管理して来た彼らの庭が生み出すのだ。

 

 強くないわけがない。

 

 実際、並みの軍隊相手ならば、余程に戦力差が無ければ、撃退可能な力であった。

 

 だが、それはあくまで囮。

 

 大規模な魔術で一斉に敵を倒す為の誘因役―――そう最初から上司に知らさている彼ら一般隷下部隊は何ら畏れる事なく。

 

 逆に大群となって迫る無数の化け物達を弾で打ち倒すなり、焼き払うなり、切り伏せるなり……数十秒もせずに半数を落としていた。

 

『こちら物理無効と威力が意味を為さない敵が現れました。摂氏数千度の炎の塊のようです』

 

『こちらには影のようなものが』

『こちらは水のようです』

『光にしか見えない何かだ』

『大規模な結界の発動を確認』

 

『こちら解析班。五行系の陣地破壊もしくは要となる要所の破壊が必要となる敵のようです。直ちに狙撃犯に予測位置を送信します』

 

『こちら狙撃犯。狙撃開始』

 

 弾が効かない。

 どんな物理量も無効。

 そんな敵が現れ始めると。

 

 今度はそれを現実に固定化しておく為の中枢が置かれた場所が各地の包囲網の最も高度が高い建物や山間部から秒速数kmの狙撃として放たれる。

 

 彼らが使うのは狙撃用のディミスリル弾だ。

 

 重く固く速い。

 

 既存の劣化ウランやタングステンを凌ぐディミスリル化された純度100%金属を用いて生成されたソレらは敢て魔導以外で造ろうとするならば、一発数千万。

 

 ソレが予測された中枢のある地点を遠間から貫いた。

 

 まるで巨大なバンカーバスターが直撃したかのような威力が魔術師達の陣地の内部に上がっては直撃地点の地下数十mまでも砕いていく。

 

 爆薬は使われていない。

 

 単純な威力による爆発は土煙と土砂だけを噴き上げ、クレーターが次々に出来ては不死身の化け物達は消えて行った。

 

 しかし、それが終わるよりも先に各地に潜入した隊員達からの撃滅する以外の人員の確保、制圧、保護完了の知らせが入る。

 

『HQより各CPへ。これより最終段階を開始する』

 

 転移で最後の1人が魔術師達の陣地や工房内から犠牲者達を掴んで跳んだ瞬間。

 

 各地に展開する全黒武の榴弾の雨が陣地や工房のある場所をピンポイントで吹き飛ばし始めた。

 

 爆風、爆光、魔力の激発、数千度の熱量、-200℃近い凍結、数千万Vにも及ぶ電流、数千気圧にも及ぶ爆圧、あるいはその規模での瞬間的な減圧、世界が終わるような無限の音がASEAN各国全域で空震となって空を渡り、各種の現象の輝きが観測され、異常気象の如く発達した砲弾の威力故の低気圧や高気圧が天候を滅茶苦茶にし、人々はいきなり襲い掛かって来た極秘裏での作戦の余波に何を知らずとも……世界の終わりを肌身を以て感じる事となった。

 

『………(´Д`)』×一杯の軍人と政治家の人々。

 

 映像でソレを詳細に見ていた人々は複数のモニターから齎される終焉を前にして生きているモノがその光景の先にはいないと確信する。

 

 生憎と人類を滅ぼし得るモノと戦う為に組まれた戦力たる善導騎士団一般隷下部隊のフル装備を前にして高々旧世紀の人間を人間と思わぬ魔術師風情が出来る事は……大人しく死を受け入れるか、抗って死ぬかの二択であった。

 

 そして、今日もまたブラック企業よりブラックな職場で戦う医者が1人。

 

 馬鹿な連中の犠牲者や怪我人や人間の形をしてない人々を前にして次々部下達に指示を飛ばしつつ、メスや鋸で人体を切り刻んでは継ぎ接ぎしていく。

 

『エヴァン先生!! 臓器の無い患者達が運ばれてきました!! 頭部を術式で生かされてるようです。年齢は一桁のようですが、血液型が稀なものなようで―――』

 

『終わりの土のポットに突っ込んで植えておけ。後で余分は成形する!!』

 

 首しかない生きている少年少女がポスッと彼らが立ち働く医療病棟横の壺染みたタンクに突っ込まれていく様子は悲劇のはずだが喜劇のようであった。

 

『エヴァン先生!! りょ、両目が無いんです!! この子達!! 後、舌も耳も鼻も!?』

 

『いつもの終わりの土の顔面パックがあるだろ!! アレを顔に突っ込ませておけ!! 挿管してからだぞ!!』

 

 顔面パックと称されたソレは正しくそのようにしか見えないが、肉厚な仮面のようでもあった。

 

 無貌の者達が口と鼻の部分に開いた穴以外は何も無い白面をビスビスと白衣の天使達によって張り付けられていく。

 

 此処はカルトの修行場所か。

 

 あるいはデスマスクを取る気の狂った医者の病棟か。

 

 そんな光景であった。

 

『エヴァン先生!! こ、この子、心臓が無いのに生きてるんです!?』

 

『何かの魔術か? さっさと解析班回せ!! 原理が分かったら報告させろ!! 血液操作系の変異覚醒者が確か日本の騎士団にいただろ!! 転移で呼んで来い!!』

 

 PCを高速でタイプしている者達が次々に連絡を入れて、出前並みに五分で来いとか無茶振りを騎士団の総務に伝えまくる。

 

『エヴァン先生!! 赤ちゃんが400人詰まった方が搬送されて来るそうです!! 全長20m!!』

 

『どっかのHENTAIか血筋を残したい魔術師がやったんだろ。北米の例の出産センターに連絡入れろ!! 特別な患者を送るってな!! あそこの若いのは見所がある!! この間は120人やらせたから、腕は確かだ!! 特別室分娩室を魔導師連れていって作ってやれ』

 

 先日の北米での新種族爆誕に立ち会った医療従事者達に建ち上げさせた変異覚醒者専門の医療出産設備の開発現場が一瞬で修羅場と化して、休みや帰ったばかりの人々が次々に招集されては車がセンターに戻り始めた。

 

『エヴァン先生!! 解析班が危険な化け物を受胎している女性が400人程運ばれてくると!!』

 

『何処の生贄大好き野郎だ!! 仕事増やしてんじゃねぇ!? クソ!! 今すぐ人体分離術式出来る奴らを100人どっかの本部から引っこ抜いて来い!! 通常のオペは閉じさせて、上半身と下半身の分離400人分やるから道具揃えて来いと伝えろ!!』

 

 日本や北米やイギリスで未だに通常の過労死ラインの4倍働いている義肢接合術式を行える医師免許を取得している人員の大半が何をしているかも関係無く。

 

 妻とのディナーや夫との夜の営み。

 

 あるいは娘や息子との仄々した時間を打ち切り。

 

 便所を急いで出るやら、ネクタイをする暇も無く速足で一時集合場所へと向かっていく。

 

 軍隊並みにキビキビと人類を護るお仕事に付き始める様子はもはやプロフェッショナルというよりは何かに取憑かれているかのようであった。

 

 まぁ、一番優秀な医者からの招集である。

 

 しかも、嫌味だし、皮肉屋だし、腕だけはいいので食って掛かるだけ無駄という類の悪魔であると彼は思われて久しい。

 

『先生!! お嬢さんから電―――』

 

『ああ、オレだ。何だ? どうした? 何? 日本でボ、ボーイフレンドが出来たぁあぁ!? おま!? どういう事だ!? ええ?! 会わせたい? まだお前は小さいんだぞ!! ボーイ・フレンドってのはもう少し先にした方がいいんじゃ、え? パパ頭固いって? 分かった!! 分かったから!! そんな怒るなって!! それじゃ、一週間後に善導騎士団本部でな!! 今は忙しい!! 後で顔送ってくれよ!! イケメンじゃなかったら、オレが直々に成形してやるって、そのボーイ・フレンドに言っておくといい!!』

 

『エヴァン先生。あの―――』

 

『これが倒すべき(ボーイ・フレンド)の顔か。ふ……イケメンじゃねぇか。クソ……ウチの娘に手を出してタダで済むと思うなよ? 女にしてやろうか。それともウチの魔術師殿のように改造人間にしてやろうか。まずは騎士見習いクラスの事が出来なきゃ交際は認めんとガツンと言ってやるべ―――』

 

『先生。その子、確か騎士団で見習いやってる子ですよ。先日、先生に送られてきた騎士団主催の関係者懇親会の写真で娘さんと一緒に映ってました』

 

『分かった。女にしてから改造人間ルートだな? くくく、娘と改造されて女になってまで付き合えるかな?』

 

『(親馬鹿なのさえなければ、口が悪いだけの最高のドクターなんだけどなぁ)(=_=)』×一杯の善導騎士団医療部門関係者の皆様。

 

 こうして悲劇という悲劇の大半は死んでさえいなければ、善導騎士団医療部門でお仕事に従事する人々の献身と努力で解決されていった。

 

 生憎と今の騎士団は脳さえ生きて残っていれば、蘇生可能なレベルでの医療技術を持っており、内臓が無いだの、首から下が無いだの、五感を司る器官が無いくらいの話では深刻な気配すら漂わないブラックな医療の最先端であった。

 

 *

 

「世界が滅びるとは一体どのような状態を示すと君は考えるかね? 親友」

 

『さて、随分と考古学者には難しい話だ。我々は滅んだ後に滅んだ前の世界に思いを馳せる人種であるからしてなぁ』

 

 もうそろそろ壮年も過ぎようという男達がそう画面越しで話していた。

 

「今更だったな。だが、それこそがこの世界を救う鍵であると思うのだよ。私は」

 

『ほう? 陰陽将殿の見解を聞こうか』

 

「此処に一つのコップがある。世界とはこのコップに入った水だ」

 

『ふむふむ』

 

「では、君は水を自由にしていい権利を得た。君の水だ。好きにしたまえ。そう言われて、まず最初に何をするかね?」

 

『飲むな』

 

「では、世界は空になった。だが、器はそのままだ。この器にまた水を注ぐ時、君はまた世界を前にして悩むわけだ」

 

『成程……世界とは宇宙の中に発生した単なる事象に過ぎないと』

 

「左様。君は空になったコップを叩いて掘って状況を調べる魚みたいなものだ。嘗ての水がどんな水であったか調べてはいるが、その根幹には然して意味が無い」

 

『まぁ、世界が滅んだ理由が分かったところでコップに注ぐ水が作れるわけでもないからな』

 

「私にとって世界が滅びるとは正しく水が無くなる事だ。いや、その前の段階。変質するのを防ぐのが仕事と言うべきかな」

 

『水が腐らないようにすると?』

 

「水が腐ってコップの中に住めなくなる人々が大勢いれば、そうなるだろう」

 

『今は水が変質する最中なわけだ』

 

「我々はコップすら割る方法を見付けた。だが、問題は水を元に戻す方法なのだ。それを分かればこそ、我々は大勢の人々を救う事が出来る」

 

『元に戻せなかったら?』

 

「ウチの協力者が水を元には戻せないが別のものに変える方法や水の中で生きる人々自身が変化した水でも生きていける方法やコップの外に飛び出す方法を模索中だ。まったく度し難い程に優秀だろう?」

 

『人類の故郷地球も彼らに掛かれば単なる水の張ったコップか。面白い話だ』

 

「綺麗過ぎる水には魚も住まないというのがウチの国の諺でね」

 

『今更、綺麗にしたいわけじゃないと?』

 

「過去の例を見るまでも無く。環境に適応出来ない種は淘汰されるのだよ。僅かな変化、遺伝子の差異、それが種の中から新たな分岐を産む。我々もまた人類という種から新たな生物へと向かう途中」

 

『変異覚醒者やMU人材と呼ばれるものがいつかはレギュラーになると?』

 

「淘汰される可能性もあるが、彼らの登場でその線は薄くなった。新種の登場で起こる混乱すらも最小限になったと我々は考える」

 

『永遠に生き残る種は無い。それは嘗ての世界を見れば自明だ。過去の種族が未だに生き残っている例は少ない』

 

「だが、化石になってやるには我々人類は色々と進み過ぎた。科学技術や社会制度の発展が人類の基礎として確立された今だからこそ、試されているような気にもなるのだ」

 

『四騎士が試練だと?』

 

「世界が滅ぶというのなら、その滅ぶ世界に対応し、滅んだ世界に適応し、生きて行く事を指向する。それが我々であり、今その現実が彼らの協力の下で進んでいるのだ……冗談のように宇宙や別の星に人類総数を連れていく事すらも……」

 

『残された我々は昔ながらの適応を余儀なくされ、人類は新たな新天地を目指すSFな日々に突入か』

 

「真空の宇宙には死の無い領域が多過ぎると彼は言った。つまり」

 

『安全地帯は遥か天の階昇った先、と』

 

「逃げ出すネズミのように惑星から外へと向かって初めて人々の意識は変質するのかもしれん」

 

『まるでアニメだな』

 

「闇を畏れては進歩も無い。今、人々が恐れるべきは敵ではなく。己の中にある歩みを止める理由だ。過程で振り落とされそうになった人々を彼らは救った。である以上は責任は取って貰おう」

 

『コップの中で朽ちる最中である我々には興味深い観察対象だな』

 

「だろうな。君は敢て残って我々が消えた跡を掘っていそうだ」

 

『分かっているじゃないか……その点で我々はもう決別している』

 

「光を掴めるのに地面を叩いて笑みを浮かべる。君はそういうヤツだからな」

 

『昔から光に手を伸ばすよりも土を掘ってる方が性に合っていてな』

 

「尤も今、頚城に詳しい人類側の人材だろうに惜しい話だ」

 

『本来の頚城……それは光として生まれた。それはデータで送った通りだ』

 

「それそのものになってすら、土を掘る変わり者が言うと信憑性も高いか」

 

『はは……そう言われると複雑だな。そもそも頚城とは考える限り、人間の魂と肉体を新たなステージへと引き上げる為のものだ』

 

「ゾンビを造る術式。そう言われていてすら、術式の研究者達はソレを美しいと言っていたな」

 

『そうだ。頚城は見れば見る程に美しい螺旋を描くコードで編まれていた。米軍から拝借したのは随分と雑に見えて手直しもした。だが、それでも恐らく本来のものには程遠いだろう』

 

「BFCの頚城と思われる連中が手に入れば、そこも解明出来るかもしれんか」

 

『本来の頚城の術式はあの鎧に入っていた代物。それの抽出や織り上げる手並みが粗雑だったという事だ。原本であるオリジナル。それも書かれてある全ての頚城を手に入れなければ、完全なものにはならんだろう』

 

「我々としては頚城の術式は大陸に帰る為に過去のガリオスの魔導師が組んだ代物という意見が大勢を占めているが、そちらはどう見ていた?」

 

『頚城化された人類は普遍的な人間が克服するべき命題を全て克服した状態と考える。それが不完全だからゾンビになった。だが、逆に高精度の頚城は人類を越えた超人として来るべき問題に立ち向かうモノではないかと考えていた』

 

「それは滅びではないのか?」

 

『いや……異相空間、概念域と呼ばれる領域に脚を踏み入れ、同時にまた不死となった人類に科される命題だ。そもそも滅びの定義が惑星の消滅に類する環境の悪化ではないと考えられる』

 

「なる程。頚城となれば、既に環境など問題の争点ではないのか……」

 

『各国にばら撒いた頚城達は理解していたよ。自分達が到達したステージに対して課される問題は恐らく領域に到達した後だと。人類の消滅を食い止める為の方法は幾つかあるが、その一つが別世界へ旅立つ事なのは言うまでもない。彼らはその航海士としての資格を得たと解釈した。ノアの箱舟の記述もあったしな』

 

「アレが聖書に書かれたモノであろうというのはウチでも考察されていたが、道理で見つからないわけだ……別の空間に在ってはな」

 

『アメリカも……いや、BFCの市長も恐らくはソレを察して箱舟を創った。各地の魔術関連の情報を持っていた諜報機関は多い。ナチのアーネンエルベを例に出すまでもなく。眉唾なのに厳重に資料保管されてた黴臭いレポートが未だ彼らの脳裏にあった事は誠に人類の物持ちの良さとして美徳と言える』

 

「ほう? 箱舟の情報も持っているのか?」

 

『艦隊の艦長クラスの一部が知っていたよ。どうやら、北極海に行った時、死んだ将官クラスから聞かされていたらしい』

 

「なる程。そちらの情報収集能力も侮れないな」

 

『オリジナルがゲルマニアによって出土したと見ていいのだろう?』

 

「よく知ってるじゃないか」

 

『あのイギリスの放送は見たからな。事態を神話などと繋ぎ合わせると各国の伝承に残る船の原型はアレだ。そして、魂を司る機能を持っていると見ていい』

 

「三途の川の渡し船。あるいは忘却の川渡る船。アルゴノート。ノアの箱舟。何でも呼び方は同じだろう。別の世界に向かう為の特別な乗り物という点は……」

 

『嘗て、世界中で恐らく船の機能を使える者達がいた。神あるいは魔導師と呼ばれる者達。だが、彼らは様々な神話を見る限りは滅んでいる。人間として死んだか。高次の生物となって世界から離脱したか。あるいは頚城化したが、何かしらの理由……戦争等で死んだか』

 

「君はどう見る?」

 

『ガリオス古代遺跡。そこに全ての真実があるかどうかは分からんが、発掘調査は我が人生。やらせて貰おう。水先案内人という程に詳しいわけじゃないが……いや、そちらの方が詳しいまであるか』

 

「随分と謙遜するじゃないか」

 

『そちらの兵站を預かっている者の実力を身を以て知ればな』

 

「食糧問題は解決したようで何よりだが、今は何が問題だ?」

 

『戦力化したものの。彼らは結局のところは子供だ。そして、艦隊も然して我々が好きなわけじゃない。人道と倫理を死んだからこそ大切にしたいという連中なだけだ。それとて全員の総意ではない』

 

「卵の将軍が失脚した今、君達も米国とは付き合えると思うが?」

 

『ヤツがこの程度で諦める玉ならとっくの昔に決着は付いている。大統領も言っていたはずだ。人類の代弁者だ、と。我々は果たして人類に入ると思うか?』

 

「………微妙、だな」

 

『ああ、微妙だ。だからこそ、問題は2つに絞られる。この状況で艦隊が合衆国に吸収される場合。もう一つは合衆国がソレを良しとしない場合、だ』

 

「拒絶すると?」

 

『頚城に関する何もかもを撃滅を以て良しとする可能性が低くないと見ている』

 

「あの男、前々から危険だとは思っていたんだが、核を使うのに憂慮はあっても躊躇が無かったと政府筋からも聞いている。笑顔で酒を酌み交わして明日には銃弾で殺し合えるタイプだ」

 

『人の事は言えんだろう?』

 

「はは、ではあるが……」

 

『ニューヨークの一件に片が付いてからが本番だ。日本国に我々アルカディアンズ・テイカーが取引で要求する事は2つ。艦隊の保護と引き上げ時の身元保証。それと北米両都市に作られたとされる彼らの自治区域への一部人口の編入だ。往来の自由も保障して欲しい』

 

「……後で〇〇系住民の数が云々とか。そういちゃもんを付けられる未来が来ない事を祈る次第なのだが?」

 

『生憎とナチスや旧ソ連の常套句は好きじゃない。その国に行ったなら、そこで頑張れというのが我々のスタンスだよ。彼らは孤児だが、決して単なる子供じゃない』

 

「今こそ世界には愛が必要だな」

 

『愛もよりけりだ。幸せに暮らせる場所を提供するのは愛ではなく。明確な法と政治と経済だ。それを愛というならば、今の君達には愛を提供してくれる友人がいる』

 

「分かった。副団長と両都市の市長、有力者との調整を始める。で、今度は何を提供してくれるのかな?」

 

『少人数のFCが現在のロスアラモスの爆心地点の近距離偵察に成功した。それと北極に四騎士級の頚城の反応が3つ出現し、膠着しているようだ』

 

「―――どうやら外野も騒がしくなって来たな。いいだろう。後で結果の報告と手続きに関して終わったら送ってくれ。ちなみに個人的に北極の件はどう思う?」

 

『1つは封印されていた代物。後の2つは互いに別勢力。そう考える』

 

「理由は?」

 

『この時期に北極に利害を有する頚城を持った組織は3つ。米国、BFC、四騎士だけだ』

 

「尤もな話だ。では、これで通信を終わる。ああ、そう言えば、言って無かったが、別に一々老人の姿を取らなくてもいいだろう」

 

『そうもいかなくてな。人の上に立つにはこれで色々苦労している』

 

「ふ、すっかり政治家染みて来たな」

 

『状況が変われば、変わらざるを得ない。そういう事もある』

 

「では、次の定時報告は3日後に」

 

『ああ、では、また』

 

 日本との通信を切った男が老人の姿から幻影を剥ぎ取る。

 

 白衣の下にガンホルダー。

 

 PCを閉じた青年が僅かに赤い瞳を揺らして世界を見上げる。

 

 北に数百km。

 

 そこで起こっている現象は頚城には薄くだが感じられていた。

 

「Dr!!」

 

 そこにパーカーや学校の制服らしきものを来た美少年美少女。

 

 背中に穴を開けて触手をうねらせた者達がやってくる。

 

 待機組と呼ばれる者達だ。

 

 生後数日から生存の為に誰もが働き詰めだったアルカディアンズ・テイカーであるが、現在は食料生産に余裕が出た為、支配領域を拡大後は遊兵を作らない程度に休養や休暇を取らせて、ついでに後方での座学を含めた各種の人格形成に必要とされていなかった情報の教育を開始していた。

 

 前線で戦い続けるのが性に合っているという戦闘系器質の者は全体の3割程であり、その他は後方での生産能力の改善と自活の為の従来の方法をサバイバル以外で学ぶという状況なのだ。

 

 軍隊とは大喰らいであり、工業製品の成果物が無ければ、維持が難しい。

 

 事実として彼らは食料こそ何とかなっているが、武器弾薬は稀少になりつつあって、これを身体能力と魔力でどうにかせねばならない現状に陥っていた。

 

 それを改善する為にこそ、生産力を上昇させる為の各分野の基礎知識と工業製品を作る為の道具、機材の発掘などの後方拡充政策は急務であった。

 

「学校で何かトラブルでも?」

「は、はい!! 娘様が!?」

「どうかしたのか?」

 

「どう話してよいのか分かりません。とにかく、現場へご同行願います!!」

 

「分かった。随分とお転婆になった気がするな……」

 

 近頃、自我の芽生えが顕著になってきた娘。

 

 いや、元高位ゾンビから名前を取った少女は現在学校に通い始めていた。

 

 肉の塔が活動を停止した為、母親と呼べるモノはおらず。

 

 しかし、彼が父親というわけでもない。

 

 あくまで助手としての教育を手掛けて来たガラートであったが、同年代の少年少女がいるのだからと後方生産能力の拡充ついでに始めた学校教育の現場に放り込んだのだ。

 

「ハティア様~~~降りて来て下さい~~」

 

 現場の学校ではちょっとした騒ぎが起きていた。

 

 校舎屋上の外。

 虚空を歩いている少女が1人。

 

 何かペンキらしきものでヌリヌリと何も無い空中に夢中で何かを描いている。

 

 今日もフードを被っているが、日系のスクールの制服を着込んでいるもので一部の男子生徒は目をキラキラさせるやら頬を赤くするやら、女子生徒はそれをジト目でまったく男子は……的な視線で見つめつつ、その男子達の目を覆うのに躍起となっていた。

 

 無論、スカ―トの下は覗かれっぱなしだ。

 

「……空にお絵描きとは面白い事を考える」

 

「言って無いで、どうか降ろして下さい。こちらの声は届いていますが、今は夢中なようで聞こえていないらしく」

 

 眼鏡の女生徒。

 

 自分から生徒会長になった細い少女が溜息を吐く。

 

「いや、待て。これは……全校生徒を退避させろ」

 

「危険なものなのですか? あの絵」

 

「……分からんが、力有る象形が書き込まれている。アレは魔術……いや、魔導方陣だ」

 

「え?」

 

 ガラートが動魔術で虚空に飛び上がって少女の下へと辿り着く。

 

「何をしてるんだね? 助手君」

 

「おえかき」

 

「そうか。何を書いてるんだね? 助手君」

 

「かわいいの」

「カワイイの?」

 

 少女はコクリと頷いて、虚空に塗り終わったらしき方陣に手を置いた。

 

 途端、ブワリと都市全域の空気が変質する。

 

 それに気付いた者達が次々に空を見上げ始めた。

 

 すると、中心となっている校舎上の方陣がユラリと融けて空気に馴染むように薄く薄く消えて行ったが、瞬間的に遠方に色彩の豊かな空間が次々に生まれ始める。

 

 方陣の巨大化。

 

 それも都市全域を覆う程の代物がゆっくりと重苦しい音を立てて動き出した。

 途端、変質していた空気が元に戻る。

 

 しかし、上空で動く方陣はそのままだった。

 

「何か起こったか司令部に確認してくれ」

 

『は、はい!! ただいま!!』

 

 生徒会長が稀少な軍用無線で問い合わせる。

 

 すると、十数秒で異変が報告される。

 

「都市領域外の幾つかの地点に例の生きた森が出現したと報告があります!!」

 

「アレか」

 

 ガラートが目を閉じて都市全域を覆い回転し始めた円環の全景を捉える。

 

「……門? いや、違う。これは鳥居か……鳥居と樹木……朱と緑……」

 

「?」

 

 首を傾げる少女がガラートを見上げた。

 

「そう言えば、可愛いの教育をした時、丁度鳥居のある神社横を過ぎていたな」

 

 少女は仕事は終わったとばかりに欠伸をしてから、伸びをして猫のように丸まって虚空で眠ろうとし、それをガラートが両手で抱えて地面に降りた。

 

「Dr。一体何が……」

 

「問題無い。この子のカワイイのが都市を護ってくれるだろう。アレは結界の類だ」

 

「結界ですか? ですが、これほどの?」

 

 呆然と訊ねる生徒会長が思わずハティアを見る。

 

「恐らく本能的に北部のニューヨークで起きている事を察知したのだろう。全隊にこれから一度引き返すように通達。都市内部に立て籠り、陣地防衛戦に備えるよう司令部に伝達。001には嵐が来ると。艦隊司令部には全人員の丘への退避。意志あるゾンビ君達には艦隊を指定の場所に陸揚げして固定化する作業を頼みたまえ」

 

「りょ、了解しました!!」

 

「この子は家に連れていく。収穫作業以外の屋外作業は一時中断。屋内作業や学習に切り替えるよう指示を」

 

「はい。すぐに」

 

 ガラートが後は生徒達に任せて眠った少女を抱えて校舎屋上に建てた一軒家。

 ちょっと広いバラック小屋。

 

 いや、どちらかえと言えば、研究室と言うべきだろう場所に戻っていく。

 

 小さな変化とは言い難いが、他国に知られる事もなく。

 

 ひっそりと新たに歩み出した国はその初めて知る事になる嵐を前にして準備を着々と整えていたのだった。

 

 *

 

 夜の繁華街。

 

 昔ならば、危なくて近付くべきではない場所が大量に日本各地の大都市圏にはあったはずだが、ここ最近は風向きが変わったおかげか。

 

 風俗店の殆どが閉店し、経済ヤクザのシノギとなっていた店はバタバタと潰れて、残るのは個人店舗と大手の薄暗い商売をしていなかったところばかりとなっていた。

 

 お水系列の店舗で大量に悪女にジゴロが廃人寸前でお仕事を止めて、真っ当な建設業者の手足になるやら、飲食業や大手小売業の店員に鞍替えしたのは静かな変革であっただろう。

 

 ついでに危ない薬に頼って生活していた者達の多くが薬を精神的に使用出来なくなって薬効が断たれ、禁断症状で病院に運ばれ、MHペンダントのお世話になる事も多くなった。

 

『お店、少なくなったよねぇ』

 

『ああ、そうだな。ここら辺は特にヤバイの多かったらしいから』

 

『でも、新しい店舗入るって話でしょ?』

 

『確か善導騎士団支部の周りに色々出店するとか』

 

『やってるお店って確かに毒にも薬にもならない感じ?』

 

『毒になるのが大半潰れたからな』

 

『ああ、お家で廃人寸前なんだっけ?』

 

『そうそう。ま、今まで人間食い物にしてた連中の成れの果てだ。気にする程の事じゃないさ』

 

『あ、でも、気を付けた方がいいよ。あんまり悪口言ってるとクズになっちゃうかも』

 

『怖い怖い。あんまり他人を批判するのは控えるか』

 

『そうしなよ。私も仕事先の人の悪口止めたもん。その人はガッツリ倫理違反らしくてお仕事止めちゃったけどね』

 

『自制出来るなら、悪夢軽いらしいから、自制出来ない方だったのかもしれん』

 

『そう言えば、反省して自首した人達は悪夢から解放されてるんだっけ?』

 

『噂じゃ、ただ自首しただけじゃダメらしいな。心の底から反省するのが必要とか』

 

『悪い事はするもんじゃないねぇ……』

 

『まぁ、な。全国で数百万人以上が悪夢見てるらしいし……』

 

 結局、日本の薄暗い場所が完全に居場所とはなり得なくなった。

 

 というのが世間での事実だ。

 

 今までヤクザ者や半グレ、不良等と言われて闇社会の一部となっていた人々の多くが解放されて行く場も無くしたのである。

 

 これを彼らが恨むというのは当然の事であったかもしれないが、善導騎士団による人類善人化計画はその程度の問題を予期していないものではない。

 

 大都市圏の繁華街では現在、善導騎士団によるキャンペーンが行われていた。

 

『はい。お客さん。お仕事用の端末配るから並んでねぇ。ああ、生物認証式だから一度でも登録した人はソレを使う仕様になるから気を付けてねぇ。ああ、お金にはならないから気を付けて。コレ、一度登録したら、その人の下に何があっても戻ってくるから、何処かに売ろうとしても無駄よ。お客さんはテンバイヤー? テンバイヤー死すべし慈悲は無い。あ、若い子使っても無駄よ? お客さんの顔はもう警察に登録されて指名手配済みだから逃げるのも無駄。警察でじっくり怖い警察官さんの聴取受けて4年くらい刑務所に入っててね。え? もっと軽いだろって? はは、お客さん知らないの? テンバイヤー死すべし慈悲は無いの単語は善導騎士団さんの方から来た話よ。物資物流系の妨害行為はすげー重罪になったから。ちなみに今までの余罪が1件毎に加算されるようになったから、お客さんだとええと40年かな? 何で知ってるのかって? はは、当たり前でしょう。だって、犯罪者のリストを警察関係者が調べちゃ悪いのかい? という事で怖ーいお兄さんがあっちにいるから、並んでてね? あ、このバイトに来たの君初めて? なら、あの真っ青でガクブルして列に並んだ人とは違って罪は軽いよ。でも、次があったら、重くなるから気を付けて帰るんだよ。ああ、遊ぶ金が欲しいなら、真っ当なバイト探しなさい。ほら、騎士団のお仕事募集サイトよコレ。面接無し。書類不要。行けばお仕事が必ずあって最低賃金+300円で現場に向かう送料も無料よ。ちなみに何か偽ると賃金下がるから何も隠さずにね。え? 履歴書何で要らないのかって? そりゃそうよ。だって、彼らみーんな知ってるもの。だから、履歴書は要らないの。うふふ』

 

 繁華街に次々立っている看板の内容はこうだ。

 

―――お水商売止めた方。

―――娼婦や男娼止めた方。

―――ヤクザ止めた方。

―――お薬止めた方。

―――犯罪を止めた方。

―――お金が欲しい方。

―――全うに働きたい方。

 

―――全て善導騎士団にご連絡を。

 

―――騎士団は貴方に仕事とお金を渡します。

―――食べていくに困らない生活が欲しいなら働きましょう。

―――下種とクズは震えて眠るか。

―――あるいは真っ当に罪を償う為に警察へ自首しましょう。

―――敢て言おう。

―――人類を養ってやると言ったのは真実だよ何か質問ある?

 

『………って読めるんだけど(´Д`)』

 

『(`・ω・´)……質問しかねぇ』

 

 小難しい法律とオブラートに包んだ表現がズラリと並んでいたが、要はそういう事であった。

 

 善導騎士団は繁華街で生きて来た人々に仕事が無いならと金と仕事を一緒にポケットへ突っ込む政策を始めた。

 

 それも人の内心などお見通しだし、今更悪事を考える連中なんてお呼びじゃないと騎士団を使って金を儲けようとか、あるいは騎士団の弱みを握ってやろうとかやましい気持ちのある者を地獄に突き落としながら、列に並ぶ人々の半数以上に笑顔で応対したのだ。

 

『一番簡単なのはライフ・データ計測になります』

 

『変異覚醒者当人もしくは共に同居する親族や恋人などがいる場合は更に給金が増額されますのでご了承下さい』

 

『あ、武道経験有りの方はこちらのガチムチ・オニーサン・コースは如何でしょうか? こっちは警備部門担当で身体を鍛えてマッスルしながら、フシンシャ=サンを制圧したり、威圧したり、真面目に人々を護る系のガテン・マッスル業務なので体育会系の方には人気で―――』

 

『ああ、売り子志望の方はこちらでどうぞ。全国で騎士団関連の業務がある度に招集されますが、同時に幾らかの資格取得用の講座を受講して頂く事になります』

 

『通常のカリキュラムで教育系治験の方はあちらでーす。だいじょーぶ。痛くありませんよ~~善導騎士団製の痛くない魔術具を使ってますから~~』

 

 水商売が性に合っていない者達はこれ幸いにと騎士団の政策を唯々諾々と呑んだし、騎士団は色眼鏡ではなく今までの個人の実績や心理的なクズ度で他人を評価する旨がネットを通じて知られており、多くは自分の罪を自制しながら、悪く見られませんようにとちょっと祈りつつ、騎士団系のお仕事へと従事する事になったのだった。

 

 幾ら身綺麗だろうとも心が醜い存在にはそれ相応の地位と仕事と賃金になる。

 

 それが騎士団の流儀だ。

 

 どんなに立派な地位や身形も彼らにとっては些末な事である。

 

 それは嘗ての世界の価値観の完全な転換だ。

 

 人の心の美醜が視覚化され、数値化され得るという点でもはや今まで醜くても隠して生きていけたという人々は衰退の一途。

 

 社会で主要な地位を失う時代が到来したのだ。

 

 無論、能力は必要だが、必要な能力を扱う人間が信用出来ない場合はその限りではないし、能力は“授けられるもの”になったのだ。

 

 それが可能な程度には騎士団の力は嘗てとは打って変わって増大していた。

 

『クソ。どうすっかなぁ……オレ、クズかなぁ……恐喝見逃した事あるしさぁ』

 

『お前なぁ。出来る事と出来ない事があるだろ。それに問題は今のお前なんじゃね?』

 

『ぅ~~ん。仕方ねェ……バイト応募するわ』

 

『ま、そうしとけ。生活扶助関係は手厚いって話だしな』

 

『自炊出来りゃだろぉ? 食料現物結構だけど、売れるようなもんじゃねぇし』

 

『そりゃな。そろそろ料理くらい覚えたらいいんじゃね? 調理器具も送られてきたろ?』

 

『……肉をタレで焼いて野菜削ったもん添えるだけだけど、いい?』

 

『十分。白飯は……パンにでも挟むか』

 

『『………ウマ(´Д`)』』

 

 根が腐った連中程に自首する確率が高かった事もあり、ネットでプチクズ等と言われるようになったギリギリ自首は思い止まった人々は肩身の狭い思いをしながら、騎士団の募集する仕事に応募するかどうか悩む事が多かった。

 

 誰に知られていなくても自分がした行為は自分が一番よく分かっているのが人間である。

 

 心の底まで圧し折られるかもしれない恐怖は隠しようも無かったが、高齢者程に悩まず、若年層もその更生プランに乗ったのは空気が読めていたからだろう。

 

 老い先短い老人と老い先長い若者の意見が合致したのだ。

 

 騎士団からの直接的な福祉を受けられなくても問題無く暮らせると思う層は安定した富裕層か高齢者層だったが、高齢者程にMHペンダントの必要性が高くなる以上、罪を犯して何とか自首せずに騎士団からの福祉政策にも乗らず暮らせるのは安定した健康を維持する20代から60台くらいまでの富裕層に限られたのだ。

 

 だが、こうして騎士団の思惑に乗った層にしても開示されたお仕事の内容には首を傾げていた。

 

 その殆どが自己啓発学習支援システムの治験という名の人間のクズを更生させるプログラムや変異覚醒者やその近親者のライフデータ収集に偏っていたからだ。

 

『これって変異覚醒者用のお仕事が4割占めてね?』

 

『傍で生きてるだけでメシの種になるのか。変異覚醒者』

 

『そういや……この間、人魚になったヤツと結婚したヤツが話題になってたっけな。足をどうするかで騎士団に相談して、結局元の人間の脚に戻したとか』

 

『不便過ぎだろ。普通に考えて』

 

『ああ、でも、触手系の脚になった連中はお手入れと履くもの以外は満足してるらしいぜ? トビ職とかガテン系の高い処に昇る仕事だと重宝するらしい』

 

『そう言えば、体が変化したアスリートが元の脚に戻して競技するか悩むって言ってたっけなぁ……競技は出来ないけど、変異覚醒者最速を目指せるからって』

 

 多くの仕事は今後を見越しての代物であったが、社会の底辺呼ばわりされていた層の学習支援や地位向上を目的にした教育主体のプログラムや変異覚醒者関連の実データと生活上の問題の吸い上げが急務とされていた。

 

 つまり、偏った層が彼ら騎士団に頼るのを前提で全ての計画が組まれていた。

 

 それ以外の全うなお仕事と言えば、騎士団関連の商品の売り子をするだとか。

 

 その政策で実働する人々の警備だとか。

 

 または各地の繁華街で夜回りする自警団になるとか。

 

 路上でマギアグラムの武器を使って始まるストリートファイトやEスポーツ系列の野良試合を見守る監視員になるとかであった。

 

『はい。そこぉ、力使って底上げするのはいいけど、規定領域外に攻撃飛ぶと莫大な賠償になるから、気を付けてねぇ。ディミスリル製のコート以外には飛ばさないよう注意よ~』

 

『はいはい。重火器系の方はこっちのコートでお願いしま~す。火力増強系の能力持ってる方もですよ~~』

 

『武道で殴り殺せない仕様とはいえ、痛いのは痛いので追撃は相手が気を失うまでですからね~~それ以上は違反減点ですからね~~』

 

『カード系の方がやっぱ扱い易くていいわ~~。無駄に重火器系の子ってぶっ放したがるのよねぇ』

 

『しょうがありませんよ。銃は男の子に人気ですから』

 

『刀とか剣とか刃物もね』

 

『ま、一番危ないのが素手で戦う系統ですから。アレだけはリミッター強めらしいですよ?』

 

『そもそも素手装備の大半て相手を殺さない為の代物だし、強者感あるわよねぇ……』

 

 最初から真っ当な仕事の定員は限られている。

 

 AIを使うご時世では小売りにすらも人員は要らなくなっている。

 

 結局、人間がするべき仕事が少なくなったのに対して複雑化した社会を支えるのは高練度の技能や特定の知識を備えた学問的な知見を持つ人々である。

 

 今や単純作業や単純労働はドローンが主流。

 

 この状況で繁華街の路地裏や建物の中で行われていた人間が必要なお仕事の大半を行う人々が完全無欠に警察のお世話になったら、どうなるか?

 

 お水商売で違法マッサージだの風俗業をしていた者は職を失い。

 

 AVを始めとするアダルト製造業界の半数近くが自首もしくは自主廃業、暗がりで春を売る者は映像だろうが肉体労働だろうが消え失せたのである。

 

『検事さん。そう睨まんといて下さい。我々、もう犯罪は犯してませんよ?』

 

『犯しようがない、の間違いでは?』

 

『いやぁ、牢屋に繋がれてちゃそうでしょうね。はははは』

 

『随分と陽気でいらっしゃる。で、善導騎士団に付いて司法取引で伝えたい事があるとか?』

 

『……あぁ、その単語、もう喋らないで貰えます。ええ、はい。オレはこれから地獄に落ちるが、連中に目にもの見せてやりたいんですわ。死ぬと分かってりゃ、大抵の事はどうにでもなるでしょ?』

 

『お聞きしましょう。貴方は何を知っているのですか? 強引にAV制作をしていたのは聞いてます』

 

『お手厳しいですね……連中の1人が言ってたんですよ。オレ達を叩きのめして全滅させた後、被害者を救う際にね。これで失職者の規定人数に到達ってね』

 

『……ほう?』

 

 単純に数で言えば、薄暗い風俗業とて数十万人規模の職の喪失なのだ。

 

 そういう人々に騎士団はまずは一番人権問題に煩そうな層が沈黙している間に中々取れないデータを取る為の仕事を押し付けた。

 

 ついでに高級職関係の就業支援教育を山盛りにして今足りない職業の人員としてモノにする為に徹底的な人生プランを突き詰めさせた。

 

 これ幸いにと日銭も尽きそうな彼らは教育プランに付随する知識を脳にブチ込む魔術の被験者として名を連ね、レベル創薬とはまた別に人類に大量の高級職人材を産む為のプランの生贄となったのであった。

 

 生贄という言葉が悪いとしても、実質そうとしか言えないのだから仕方ない。

 

 まぁ、毎日毎日自分が嘗て就きたかった職業の学習に励んで何故か治験だからと給料を貰ってデータを収集されながら、住む場所や着るモノや食べるモノまで全部渡される生活である。

 

『あ、山田さん。山田さんもこのプランに参加してたの?』

 

『ええ、秋山さんも? 奇遇ね』

 

『食べてかなきゃだからさ。でも、データ収集とか。普通に生活してるだけでいいってのがホントもう楽でいいわ。その時間を全部、教育プランで資格取得に当てられるし』

 

『それ分かるわ。アタシは昔の夢だった保母さん志望なんだけど、そっちは?』

 

『実は家の実家が染め物してて、簿記とか店の経営に必要な資格諸々をちょっとね。数字なんて久しぶりに計算したわ……』

 

『へ~~継ぐの?』

 

『家出してたんだけど、この間の一件で皆死んじゃってさ……遺産相続でどうするか悩んでたんだ。それを騎士団に相談したら、やるなら応援プランあるって言うから』

 

『ごめんなさい。大変ね……』

 

『いいのよ。水商売にも飽き飽きしてたところだもの。合って無かったのが今なら分かるわ』

 

『頑張ってね。アタシ、此処の4階なんだ』

 

『そう、じゃあ、時々遊びに行くわね。番号とメール先交換しましょ』

 

『愚痴くらい聞いてあげる。そういや、点数何点付けられた? アタシ、40点だったわ』

 

『23点……自炊頑張らなきゃなぁ……』

 

 自活の為に掃除炊事洗濯をやらされ、そのデータに点数まで付く日々である。

 

 プライバシーとやらはないが、それで武士は食わねど高楊枝なんて言葉を体現出来る屈強な人間なんて殆どいなかった。

 

 そんなのならば、そもそも彼らは騎士団に頼ったりしなかっただろう。

 

 欲望に塗れた自我と自意識増上慢な層はそもそも廃人コースで今や自首と自殺のどちらかを迷う有様で悪夢によって取り殺されている最中。

 

『よく考えたんですわ。無い頭絞って。で、結論ですが』

 

『ああ、もう結構。言いたい事は分かりました。つまり、彼らは犯罪組織を潰して失業者を増やした後、それを確保して新しい人材として育成を目論んでいた。これはつまり搾取する為に犯罪組織から更生可能な構成員や被害者を解放したのではないか、という事ですか?』

 

『分かってるじゃないですか。検事さん……』

 

『特捜部、その案件で取引持ち掛けられるのもう39件目なんですよ』

 

『え?』

 

『ああ、ついで言うと我々、騎士団の方から沢山の御助力を受けてまして』

 

『―――ッ?!』

 

『ちなみに搾取は確認されていません。彼らが吸い上げているのはデータ。変異覚醒者や犯罪者の更生プログラム作成や更新用のデータなんですよ』

 

『お、お前らッ!? 人権を何だと』

 

『おっと、犯罪者の語る人権程に薄っぺらいものは無いとお解りになって欲しいですね』

 

『ッッッ』

 

『いやぁ、心理解析プログラム、ですか? 世間で言われているようなものよりもずっと高精度なものが存在するんですねぇ』

 

『!!?』

 

『世の中から冤罪が消えて、地下に潜ってた悪党が一斉検挙出来ました。まぁ、殆どは自分から自首してきましたが、意志力の強い方は検挙可能だったので、言う程に手柄が無いという事も無く』

 

『正義は死んだな!? この権力の狗め!?』

 

『悪も死んだならお相子でしょう? ああ、そろそろ時間だ。それではハンザイシャ=サン。この世の終わりまで存分に償って行って下さいね?』

 

『この―――!!!!?』

 

『聞くに堪えない罵声だ。彼に更生はあるのかどうか。まぁ、悪党が消えるなら、この程度の事は……検事が不要になったら、何に転職しようかなぁ』

 

 他人の人生を食い物にしていた悪党と呼べる悪党の大半が善導騎士団の前には無力と化し、滅びそうなんてのは誰も言わないが真実でしかなかった。

 

 その事実を騎士団が正義を為した等と言わないのは当然だ。

 

 彼らにしてみれば『何故に絶滅寸前でこんなに悪が蔓延っていたのか分からない。取り敢えず、掃除しておこう』程度の事だったのだ。

 

 嘗て大陸中央諸国において七教会の勃興後に吹き荒れた悪徳を吹き飛ばす巨大な嵐は騎士団の手によって再現され、国家の光が射さないはずの暗部に晴れ間を作っていた。

 

 現在の大陸中央諸国という()()は七教会の勃興と共に全ての不合理と悪が軒並み()()された後に出来た国家群の名である。

 

 そして、その国内の改革の原動力となったのは教会そのものが用いる力も大きかったが、半数近くは魔導師……そう、1人の聖女が勃興した技を用いた人々であった。

 

 *

 

「ふぅ……終わった終わった」

「ぅぃ~お疲れ~」

 

―――【スコア43224点、撃破数1、所要時間24秒】

 

「いやぁ、今日も大変ご苦労様ですね。皆さん」

 

「隊長こそご苦労さん。ホント、日本人の勤勉さには頭が下がるっすよ」

 

「そんなそんな。君達の力あってこそですよ」

 

「それにしてもニューヨーク。オレ達も行きたかったなぁ」

 

「セブン・オーダーズ貴下の直接掌握部隊とはいえ。我々選抜者は全身兵器みたいなものですから」

 

「ほんとほんと~~こんなの倒せるようになったしね」

 

「仲間も増えたよなぁ」

 

「陰陽自衛隊員5人、海外軍人4人、民間人4人、MU人材8人、まだ定員割れ状態。当初は中隊分て話でしたが、小隊の規格、人数が縮小されましたから、増えたという気はしませんね」

 

「そっすか?」

 

「そもそもですよ。数か月前と違って我々よりも下の最精鋭の数が膨れ上がりました。ついでに質も跳ね上がった。当初の予定よりもこちらの方が大きいでしょう」

 

「一応、オレ達クラスが大隊規模まで拡充出来るんでしたっけ?」

 

「最精鋭の中から更に選抜者を引き抜きます。それ以外は後1か月くらい掛るかと。それが終われば、大隊まで膨れるでしょうね」

 

「対魔騎師隊も大きくなりましたよねぇ。オレらクラスが大隊分近く揃えられるってんだから」

 

「まぁ、君達のように四肢の義肢置換まで出来るのはまだ最精鋭でも1000名以下です。そもそも中核がセブン・オーダーズになりましたから」

 

「構想された当時は陰陽自衛隊が主戦力でしたもんね。つーか、オレら一回も上司になるセブン・オーダーズの人達と会った事ありませんよね」

 

「しょうがないでしょう。あちらは機密と色々な人材の詰め合わせです。部隊の錬成はしている旨は届けていますが、一緒に戦うのはきっと四騎士との戦いの終盤も終盤くらいでしょう」

 

「陰陽自衛隊も善導騎士団も規模がそろそろ合わせて100万に届きます。直接戦闘出来る部隊が半数とはいえ、それでも選抜者だけで対魔騎師隊が組織出来るとは……これも騎士ベルディクト様々ですね」

 

「本来は民間から更に実力者も登用するかもしれなかったんでしたっけ?」

 

「そうそう。そうだよぉ。僕らってその為に陰陽自でスカウトの訓練も受けてたし。セブン・オーダーズが出来て騎師隊の中核戦力はそちらに行ったから、今は僕らが殆ど留守を預かる主戦力だよね」

 

「そういや、オレらを抜いてオーダーズにコネで入った若造がいましたけど、あいつってどれくらいのもんなんです?」

 

「戦闘力自体は君達には一歩及びませんが、生身で超人です」

 

「おっ、隊長に言わせるのかよ。マジで超人すか?」

 

「頭の出来が違うというのは彼の為にあるような言葉ですね。性癖が歪んでいる以外はパーフェクトな努力家秀才タイプ。一部の才能に関しては天才、という評価で一致します」

 

「うぇ~~気味悪ぃくらい持ち上げられてる」

 

「ウチの居合の師範代の彼も太鼓判を押しましたし」

 

「おっさんもかぁ。そういや、オーダーズの方々って戦闘技能はそんなでもないって話の姉妹ちゃんもいるけど、どんなもんなんです?」

 

「ああ、あの子達は今なら技能だけで言えば、普通の軍人を10人倒せるくらいですよ。まぁ、能力が強力無比なのでここぞで使われる秘密兵器扱いですが」

 

「世界を創るに精霊を産むでしたっけ?」

 

「ええ、侵食領域下や敵の主要環境操作を相殺したり、緩和したり、激変させます。ついでに精霊の兵隊を魔力込みで無限に生成……魔力源が傍にいるので実質、やろうと思えば、騎士ベルディクトや魔力無限の頚城と合わせて兵力も無限ですね」

 

「本当に強力で困る……オレらの出番無いっすね。ソレ」

 

「まぁ、カズマ3尉が火力無限。ルサルカ3尉は物質の加速能力らしいですが、何やら装備次第でカズマ3尉並みの火力が出せるとか」

 

「やっぱ、あいつらバケモンだよなぁ。さすがに次期隊長言われてるだけある。オレらが言うのも何だけど。搦め手以外じゃ倒せないだろうし」

 

「技量や知識だけなら君達の方が上回っているかもしれませんね。ですが、実際の現場での実働経験と能力使用に特化して装備で補った場合の戦闘力は四騎士相手に引けも取らない」

 

「でも、片世准尉との戦闘訓練は今じゃやってないんですよね? 隊長」

 

「彼女、忙しいですから、我々相手にも訓練してますし。現実ではそうですね」

 

「うわ……夢でやってんのかよ」

「ええ、毎日欠かさずらしいです」

 

「そう言えば、隊長さん。クローディオ大隊長さんはスゴイッて聞きましたけど、本当?」

 

「ああ、そう言えば、訓練漬けで君達もあんまり外に出ないから知らないんでしたか」

 

「新規の衛星軌道部隊を創ったのは知ってるよ」

 

「彼、片世准尉に次いで技量高いですから。ああ、彼の戦闘経験を元にした訓練内容が此処一か月間使われてます」

 

「おぇ~~どうなってんだよ。あんなの普通の人間。いや、エルフが1人で経験してきたとか嘘でしょ?」

 

「大陸での戦争でゲリラ狩りやらやっていたらしいですよ。まぁ、それ以前に超越者相手の戦闘経験が豊富だったのが助かりますね。准尉は色々な意味で基準にならないので」

 

「あんなのが敵軍にいたら、絶対軍隊とか入らないですよ。オレ」

 

「同感に一票」

「フィクシー次期団長は?」

 

「何かサイキョー談義になってるんだけど、それでいいの? 空しくない?」

 

「いいの!! あの四つの腕で抱き締められたい層とかもいるの!!」

 

「うわ、HENTAI。近寄らないでくれる?」

 

「ヒド?!」

 

「副団長代行は……純然たる魔術師として恐らく現行のMU人材全員が敵わないレベルです。熟練魔術師が百人相手になってどうにか倒せるくらいの実力でしょう」

 

「それってヤバくね?」

 

「ヤバイですよ? 近頃、真面目に鍛え直したそうですが、それも単純に戦闘勘と近接の技量のみ。最初から魔術師としての技量は残っていたMU人材の上位層を越えていた可能性すらあります」

 

「でも、それっと殆どウチの実家とか、ここら辺の層の実家連中相手に言えます? 結構、化け物ですよ? 一応、都市一つなら軽く殲滅するくらいの実力あるし」

 

「滅ぼされた戦闘系MU人材達が生きていれば、どっこいどっこいか、あちらが上みたいな性能だったのでしょうが……後衛の純然たる研究職系では取り敢えず火力が足りません」

 

「火力って……副団長代行の現行の最大火力ってどうなってんです?」

 

「少なくとも国一つ焼く程度の魔術は乱打可能、くらいの話ですが、装備込みなのか。あるいは単体なのかは聞こえてきません」

 

「前訓練見てたら何か万能型って感じしたけどなぁ……」

 

「それは純然たる誤解です。彼女は自身の魔術の大系の反動で肉体や存在の頑強さに重きを置く為、近接戦闘もついででこなしているだけに過ぎず。技能や資質で見れば、最初から後方寄り。事実、先日の大物との戦闘も基本的には魔術を近距離で叩き付けただけに過ぎません」

 

「なーるほど」

 

「ま、日本全土を巻き込む方陣とか造れる次点でアレだとは思ったけども」

 

「そうそれ。無限の魔力があっても数時間で編むなんて普通じゃないよね」

 

「それ以前に次元とか空間関係の術式を今じゃHMC2でサラッと即席で組めるらしいし、無理ゲー」

 

「じゃあ、次はリスティア女史」

「彼女は完全に超越者寄りの技能者ですね」

「技能者、ですか?」

 

「ええ、純粋に魔族基準での技能者。高位存在としての戦い方を心得た人物でしょう。准尉が肉体極振りの究極の獣だとすれば、彼女は高位存在として人間型をした真っ当な技能の保有者です。人間準拠ではないのでスゴイように見えますが、本人は弱小で中衛と言ってましたよ」

 

「中衛……この間の痛滅者の模擬戦で130勝9敗でしたよね? しかも、1対8」

 

「人間と魔族の差を埋められる人材が少ないと嘆いてましたね。同じ技量を持っていてもシステムが同じなら、弱いのは人間という事実を教えてくれる稀少な教師役です」

 

「どいつもこいつも強過ぎ!!」

「人類基準だから……」

「人類じゃない基準でも弱くなさそう」

 

「はーい。じゃあじゃあ、騎士ヒューリアは? 野菜の聖女様!!」

 

「ああ、彼女はどうやら魔族化する事で肉体資質は片世准尉並みになるそうですが、魔力の絶対量が違うそうです」

 

「絶対量? そんな違うもんですか? 魔族になっただけですよね?」

 

「此処だけの話ですが、高位魔族は惑星を砕くレベルの能力や魔力があるらしいのですが、それが可能だそうです。実際」

 

「え、マジで?」

 

「はい。死から無限の魔力を汲み上げる我らが魔導騎士ですが、魔力源を必要とします。ですが、彼女はそれがなくても同等以上の魔力を自力で発生して確保出来ます。その出力方法さえ改善されれば、問題は魔力に身体が耐えられる戦闘時間だけです。それも専用装備を使えば解決。世界を滅ぼせる以上、四騎士相手でも引けは取らない。ただ、戦い方を考えねば、地球は真っ二つでしょうね」

 

「うわぁ~~~~ヤバ過ぎる。ウチの上層部そういうのばっかかよ」

 

「まぁ、近頃は騎士ベルディクトにべったりしてて恋する羊の女神様と専らの評判です。そっとしておきましょう」

 

「この間、騎士ベルディクトが告白された時、半狂乱で出撃しようとして止めた無限者が焦げ付いたらしいしね」

 

「もしもとなれば、人類が地球を捨てた後、騎士ベルディクトと共に最大出力で四騎士を惑星毎吹き飛ばす案もあるそうですし、怒らせないのが吉ですよ」

 

「洒落にならねぇんですけど」

「洒落じゃなくて単なる事実なので」

「じゃあ、最後に我らの魔導騎士は?」

「言う必要あると?」

「まぁ、そうですけど」

 

「我々に使われている技術は全て彼が自分で試した後に改良を重ねて使っています。最新技術も次々に使ってインサイド・マッスル、インサイド・ボーンを強化改造中。新型の錬金なんたら装甲だったかな? 人類が人類止められるヤバイ装甲を埋め込むのも真直との事です。無限の魔力。そして、無限の動力を地球を破壊出来る動力源として胸に抱く彼に今更何を況や」

 

「そういや、無限にディミスリルを増やせるとか聞いたんすけど、事実?」

 

「外で言わないで下さいよ? 無限再生能力を持った動力機関に熱量で無限に増殖するディミスリル触媒を入れたら、あら不思議。無限の動力を糧にして無限のD資源が出来ちゃう、とか。いや、そもそも錬金技能があるのであらゆる資源を無限に生成出来るんですがね」

 

「無限連呼疲れるので絶対やりません。隊長」

 

「ま、九十九並みの処理能力が無いと不可能らしいですが、魔術師技能での処理能力が常識的な値を越えて今も上昇しているそうなので……限界はあるし、出力は有限でも、出力時間は無限というのは出来そうですかね……」

 

「結局、オレらが秀でてるのは経験と技量だけなのな。超常の力と身体スペックだけで相手は殆ど格上。ついでにその究極系がいるから、オレら下位互換だよなぁ……」

 

「不死系の能力が無いだけで超常の力は優秀な方では?」

 

「あの~~不死者連中がオレらより下の時点で分かってますよね? アレって殆ど上位存在と戦う場合は足引っ張る能力だって」

 

「ま、死んでから生き返るまでのラグで1000回死ねるからな。そもそも死なないじゃなくて死んで蘇るってのがもう既に四騎士相手に不利だな」

 

「死から魔力を吸収されて無限蘇生に対して無限殺しされるらしいからしょうがない。何度も死ねるから逆に相手によっては相対的に弱くなるとか。哀しい現実を前に連中は健気な努力をしてるんだけどな」

 

「幾らでも死ねるから最初は対応力爆上げ期待してたんだろ? 上は」

 

「だけど、死にながら戦えるヤツが少ないせいで殆ど継戦能力特化。それも対応力を磨くのに格上相手だとそもそも生きて戻らせてくれないから、夢で限界まで対応力磨いてからじゃないとあいつらを投入したい相手に届かないらしい」

 

「不死者の能力のランクもマチマチらしいからな」

 

「ああ、結局時間逆行系は無いんだっけ?」

 

「ああ、そうそう。殆どが死んで生き返るのみらしい。死んで肉体が強化されるとかだったら、良かったんだろうがなぁ。つーか、魔術環境や地球全土の環境変化で蘇生系能力が弱体化したって話だぞ」

 

「本来よりも弱くなるのか?」

 

「ああ、何でも蘇り自体が世界から拒絶され始める感じ? そのせいで本来ならヤバげな蘇生能力を持ってるはずの変異覚醒者の連中が軒並みランクが数段階下がった、らしい」

 

「それも蘇った後の後遺症も酷いらしいぜ」

 

「後遺症かぁ。記憶喪失とか?」

 

「殆どは記憶が前後で飛ぶらしいね。ただ、完全蘇生らしいから。後はそもそも死なない能力があるって話だけど、死なないだけで傷付きはするから地獄だって話だ」

 

「マジかよ……映画じゃ継ぎ接ぎ人間が生きたマネキンみたいな事になってるが、そんなのもいるのか……人類滅んだ後に地獄しかねぇなぁ」

 

「でも、何だっけ? 不死者系の能力で一番見込みがありそうなのが確か才能無いヤツだって話だったはず」

 

「へ~~ソイツも哀しみ背負ってんな」

 

「何でも夢見るらしい。自分を」

 

「は?」

 

「オレもは?ってなったけども。アレだよ。アレ」

 

「アレ?」

 

「現実改変? に近い事が出来るんだと。不死者系の能力では恐らくソレが最強。ただ、現実準拠の思考を取っ払わないと改変事象や範囲が限定される云々」

 

「……使えねぇなぁ」

 

「でも、結構ヤバそうだろ? 何でも能力拡張で一番見込みがありそうだから、解析後に専用装備やら肉体や精神に改造を施せるよう陰陽自研で専用術式試作してるんだってさ」

 

「本人が無能なんだろ?」

 

「まぁ、資質無しで努力タイプだから、そこそこだよ。そこそこ……」

 

「現実改変ねぇ……アレか。オレはイケメンで絶倫で性格も良い、的な?」

 

「ジトー|ω・)」

 

「セクハラで裁判所に訴えられないのが悔やまれる。あ、これから話しかけないで下さい」

 

「品性を疑う人間が仲間にいると恥ずかしいよね~~?」

 

「たいちょぉおぉお!? 女共がイジメるぅうぅぅ!?」

 

「今のは君が悪いですよ。謝っときなさい。ちなみに彼、努力型なので割りと夢での継続訓練年数が上位に来てますよ。ざっと9年くらいですか」

 

「うぇ……ソレ、現実と夢の区別付かなくなりません?」

 

「ああ、そうそう。だから、凄く期待はされてるんですよ」

 

「え?」

 

「能力が夢を見る、ですから。夢の中で夢を見ている状態なので精神は摩耗しないらしいです。その結果として、夢での訓練年数が劇的に伸びていて、その内に騎士団で一番訓練してる方になるかもしれませんよ」

 

「あ~~そっちかぁ。訓練効率化系で優秀なら強くなれそうだよなぁ」

 

「百年単位まで到達したら、技量だけなら最優秀層に食い込むかも?」

 

「才能が無く努力と時間だけで伸上る最初の事例になるかもしれません」

 

「その時間が無いのが問題だったんだしなぁ。現実的か。な? サタちゃん」

 

―――【………………】

 

 男女数十人が駄弁っているのは巨大なゾンビの残骸の上だった。

 

 日本への大規模転移戦術によるゾンビ襲撃時、確保された異相側に身を潜めていたサタニック・ビーストと呼称される四足型の巨大ゾンビ。

 

 それがサイコロ・ステーキみたいな有様で周囲には散らばって床は黒い血で満たされており、その上で彼らは和気藹々と最強談義に花を咲かせる。

 

 休憩時間が終わったら、またバディを組んだ彼らが少人数で相手を狩る訓練に戻るわけだが、毎回毎回再生されてあらゆる方法で殺されまくるソレは微妙に涙目となっているような気がした。

 

 確実に血涙案件。

 

 だが、彼らから“サタちゃん”とかニックネームを付けられた狂気の産物は正気の理不尽によって今日も100回以上殺される事が確定しており、ブラック企業よりもブラックな業務体制下で死を生産し続けるのだった。

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