異世界の騎士、地球に行く   作:Anacletus

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間章「戦う理由を探して」

 

 嘗て、異種と呼ばれる種族が大陸中央諸国において乱世の時期に巨大な国家として合流しようという時、人々は多くの点で違い過ぎる彼らを受け入れる為に多大な労力と犠牲を払った。

 

 犠牲というのは文字通りの意味であり、戦乱で死んだ人々の凡そ1割が短期間に決着したその異種国家との戦いで亡くなったのである。

 

 彼らもまた多くの犠牲を払って最終的には各国の安定した地域に溶け込む形で暮らすようになった。

 

 そんな異種達であるが、その多くは僅か現実から異相側に近い空間に居を構えているだとか、少し薄暗い場所から行くと通常空間とは違う領域が出来ていて、コミュニティーを形成しているだとか。

 

 まぁ、言わば、国家の裏側で生きる者達と言える立場となっていた。

 

 それもまた時代が流れ、七教会が発足後は通常の人々と同じように普通の暮らしを選ぶ者が増えたものの、昔ながらのと称されるような生き方をする異種もおり、そういった者達は人々の騒がしい喧騒を離れて幻想的な領域を自ら産み出して暮らすだとか、辺鄙な田舎で人々と牧歌的な生活をするだとか、静かな場所を求めている場合が多い。

 

 だから、異種達の祭りなどが執り行われる際に普通の人類種と呼ばれる中央諸国の元々の民が出掛けていくと正しく異世界の静かながらも絢爛で悠久の美を尊ぶ建築様式や中央諸国でも古い様式の建築物の群れの合間にうろつく同じ国の民に驚き。

 

 あるいは礼儀正しく。

 

 その祭事の屋台や露天で夢心地のような一時を味わうというのは子供時代のあるあるである。

 

 通常の領域とは違う世界に迷い込んだ時の心地。

 

 そういうものを嘗て経験した事のある層ならば、その迷路染みた通路に感じる違和感から何らかの結界が張られている事を察するだろう。

 

『何で辿り着かないのよぉ!?(≧◇≦)』

 

 アリス。

 

 そう呼ばれる彼女はユニットをゴテゴテ付けた空飛ぶ機械鎧姿。

 

 それも天使の如き翅まで付け、何処か彫像染みた姿で怒っていた。

 

 彼女の塒から射出された後。

 

 誘導に従って次々に出て来るゾンビらしきものを通り越しながら移動し続けているのにかれこれ120kmも人間とは出会っていない。

 

 貌の部分に当たる丸い球体状のパーツには顔文字が浮かんでおり、彼女の心情をよく現わしていた。

 

 様々な装具や武具で全幅が2m、全長が3m近い彼女であるが、その本体部分は割と小さく。

 

 あくまで鎧や装具のユニットが豪奢なドレスのように着飾っているだけである事が分かる。

 

 それも可変可能な事から通路を出っ張った翼や腕を折り曲げ、内側に畳んで身を縮めるよう進む姿は微妙に卵っぽい。

 

『あのポンコツ!! 絶対、こうなると分かってて、ビーコン替わりにしてぇ!? くぅうぅ!? 異相領域に食み出てるの?! こんなに広いなんてオカシイ!? どっかに領域の固定化核があるはず―――』

 

 次々に通路に出ているゾンビを置き去りにしながら加速する装甲。

 

 その最中で必死に脳裏で周辺をマッピングした装甲の機能の一部からの情報を元に予想演算する彼女であったが、思考の埋没は遠く遠く意識を記憶の底へと呼び込んでいく。

 

―――?年前、大陸中央諸国西部エスノレア南東部郊外。

 

「君……君か。この論文を出したのは?」

 

「は、はい。何か御用でしょうか? アルバル教授」

 

「この論文の体を為しているとは言えないコレを採点する身にもなってみたまえ」

 

「は? ど、どういう事ですか!? ちゃんと様式は満たしているはずですが!?」

 

「満たしている、が……何で消えないインクなんだ? 私の論文と本が君の論文の上にいつの間にか乗せられていてね。分かるかね? 色々と消すのに苦労したよ。それから君のこの論文だが、全面的に評価し兼ねる。理由は3つ。まず技術的に可能かどうかについてだが、ソレは可能だろう。だが、問題はソレが―――」

 

「可能ならば、造れるのが道理だと考えます」

 

「……可能だから造っていたら、問題しかない。そもそもだよ。資金は何処から捻出する? これを持って七教会にでも掛け合ってみるかね? 私の研究の為に大陸中央諸国の年間国家予算の10倍をポンと出して下さいと?」

 

「それは……」

 

「二つ目に検証したデータが正しい場合、君は七教会の研究倫理義務違反に問われる可能性がある」

 

「な!? それは違います!! アレは自分で試しました!! 誰にも迷惑は掛けてませんし、実験そのものは合法のはずです!!」

 

「そんなの建前だよ。此処も七教会から莫大な予算を割かれて運営されている。君の研究が革新的で優れているのは認めよう。だが、その実験が現実化された場合には様々な柵や規制が待っている。合法ではあっても、問題はあるという事だ」

 

「ッッ、だ、だったら、最後の一つは何なのよ!!」

 

「直情的なところも社会に出る前には直しておきたまえよ? 大人に食って掛かる度胸は買おう。だが、それで何かを変えられる程に社会は甘くもなければ、君に優しいわけでもない」

 

「ぅ……」

 

「最後の問題に付いてだ。君は本日付けで大学を除籍だ」

 

「な―――」

 

「理由はこの論文が目を付けられたから」

 

「だ、誰に!?」

 

「帝国の技研が君の論文に興味を持って接触してきた。そして、同時に君の研究に資金を出したいとの話も来た。一応、我が大学の公的な卒論集に乗せてはいるが、それを短期間で入手して君に接触を図って来たという事は……悪いが君には二つの道しかない」

 

「二つの道?」

 

「この論文を抹消して大陸中央諸国で生きて行くか。この論文を持って南部に行くか、だ」

 

「そんなッ?!」

 

「悪いが君自身が招いた事だよ。七教会の保安部門も動き始めていると聞いた。帝国に確保される前に君の研究は抹消される可能性がある。未だ人類には早過ぎる力として」

 

「……此処まで来てッ」

 

「同情はするよ。だが、何を貫くのかは決めておくといい。除籍に付いても免責事項がある。倫理違反研究者に関する処分の規定だ。悪いが、後は自分で何とかする事だ。決めるのは君だ」

 

 熱い夏の日。

 

 彼女は人生で初めて本当の挫折とやらを味わった。

 

 そして、トボトボとクシャクシャにした論文を白衣のポケットに突っ込んで、大学の敷地内にある夕日が一番綺麗と噂の丘の上から全てが一望出来るベンチに腰掛けて。

 

 消えないインクが沁み付いた両手の指を見ながらどうしようかと空を見上げた。

 今、混沌としている世界に対して出した彼女の答え。

 

 それが今度は世界からの答えを出されて霞んでいる。

 

「あ~あ~やる気、無くなっちゃうなぁ……」

 

 彼女が手の甲に付けた正方形の銀の星型のマーカーを見る。

 

 人体という有機物と無機物や他の生物の細胞を一時的に物理結合して通常の細胞には得られない能力を獲得する。

 

 彼女が考え出したのは有機物と無機物の融合技術。

 

 一時的なソレは人の免疫機能によって阻害されず、融合を解けば、再び通常の細胞に戻す事が出来る。

 

 本来、魔術師が己の肉体を改造する時、多くは人の免疫機能や強化用の薬剤や細胞や諸々の魔力の影響が防げずに様々な後遺症に悩まされるのが常であった。

 

 だが、この技術が実用化されれば、一時的に重症を負った肉体に魔術具を筆頭にした様々な道具を融合させて機能を代替。

 

 移植や治ってから取り出して元の身体に戻すという事が可能になる。

 

 彼女の技術の肝は言わば、珈琲とミルクを注いだ器からミルクだけを取り出す技術だ。

 

 そのミルクがどんな代物でも行えるように技術を改良するにはあらゆる物体の融合検証データが必要になる上、その技術で上がる能力などがどのようなものなのかも知る必要がある。

 

 融合するモノを選べば、様々な事が可能になる夢の技術と言えた。

 

「大学やーめた。飛び級なんて面倒な事するんじゃなかったなぁ。へーんだ。どうせ、後から泣いて謝って来るんだから!! フン……」

 

 彼女の母親はこの数年の争乱の中で死んだ。

 

 地方諸国の国で彼女の目の前で災害に巻き込まれて。

 

 だが、中央ならば死なずに済むはずの傷だった。

 

 魔導師が居らず。

 治癒系の魔術師もいない。

 辺鄙な田舎。

 

 大規模な土砂崩れでその地域に根を張っていた術師の一族が壊滅。

 

 以後、人が掛れる医者代わりだった魔術師を呼ぶにも数日単位の時間が掛かるようになった。

 

 そんな場所だ。

 

 通常の医療器具と魔術具と治癒用の術式で辛うじて保っていた母にもっとマシな場所へと向かえる体力は無く。

 

 彼女の前でゆっくりと衰弱しながら母は死んだ。

 

「……ばっかみたい。人の為、なんて……自分が死んだら意味無いじゃない。七教会の言葉なんかに乗せられちゃってさ……」

 

 大学の購買で買ったパンを一口齧る。

 

「やっぱ、購買が不味い大学なんか止めときゃ良かった……」

 

「そうだよねぇ。購買が不味いところは予算ケチってるし、あんま感じ良くないよね」

 

「?」

 

 彼女の隣にはいつの間にか近付いてきた少女らしきものが1人。

 

「誰?」

「七教会の方から来ました」

「詐欺?」

 

「あははははは、うん。うん。合格!!」

 

「な、何が?!」

 

 思わずビクリとした彼女は目の前の大笑いした少女を見つめる。

 

 綺麗な子だな。

 というのが第一印象だった。

 何から何までお嬢様という感じ。

 

 元々の家での教育や品格が感じられる仕草が滲んでいた。

 

「先進技術審議会って知ってる?」

 

「知ってるわよ。それくらい。アレでしょ? 頭のオカシイ集団」

 

「何かスゴイ、ゴカイを感じる表現ね」

 

「何処が誤解なのよ? 世間的にはこっちの方が普通でしょ」

 

「ねぇ、私あなたの事、気に入っちゃった」

 

「え?! ど、どういう事?! ストーカー!?」

 

「愛の狩人の別名よ。ソレは」

「やっぱり、危ない子?!」

 

「違う違う。あなたをスカウトしに来たの。個人的な助手に欲しいなぁって」

 

「……学位持ってる?」

「20個くらい持ってる」

 

「ッ―――そんな年齢で入れるものなの?」

 

「ウチの親のコネもあるから、案外簡単だったよ。成績は1番通過だったけど、七教会の信者なわけでもないし。あ、祭事や冠婚葬祭はそっちだけどね」

 

「………審議会の会員は漏れなく七教会の信者じゃないの?」

 

「違うよ。フルー様は別にそんなの基準にしてないし。面白い。頭の出来が良い。後、自分の言ってる事を理解するか愉しんでくれる人なら誰でも大歓迎って言ってたわ」

 

「本当に……」

 

 少女は立ち上がる。

 そして、何処から取り出したのか。

 

 購買のパンを一本手の中で割って彼女に差し出した。

 

「あなたの技術が私の研究に凄く使えそうで有用そうで恐らくコレだけが回答ってくらいに相性がいいんだ。だから、あなたの研究とあなたとあなたの時間を私に貸してくれない?」

 

「お断りよ。大学除籍になったし、七教会から抹消されそうってだけで誰も取り上げてくれない研究をその原因になった連中にくれてやる気なんて無いもの」

 

「うん。だから、私個人に貸して欲しいの」

 

「ソレ本気? 七教会がソレを許すの?」

 

「ううん。許すかじゃない。許させるの。それくらいの権力はウチにもあるわ。そして、あなたが望んだ人を救う方法の幅が広がる事は確約する。研究は必ず世に出します。ギアスで契約してもいい」

 

「……良いとこのお嬢様ね」

 

「うん。そうよ。だから、家の力は全部使うわ。自分の夢の為に妥協なんてしたくない。でしょう?」

 

「………」

 

 パンを受け取って口にした彼女は大口を開けてパンを齧る少女を見つめる。

 

「契約の代価は?」

「私が一生面倒見る」

「は?」

 

「お金で苦労させない。毎月十分な額も送金するわ。文字通り、死ぬまで」

 

「……何かプロポーズみたいね」

 

「ハッ、殿方からされた事はあるけど、する方は初めてかも?」

 

「……く、くく……ふざけてるのか。本気なのか。でも、いいわ。それが嘘でも本当でもどうせこの研究は今のままじゃ朽ちてくだけだもの……」

 

「じゃあ、交渉成立ね?」

「忘れないでよ。約束」

 

「うん。忘れないよ。ありがとう……それはそれとしてあなた“終わりの土”や“屍者の石”って知ってる?」

 

「知らない」

 

「うん。じゃあ、これから知ってね。私の名前と一緒に……私の名前は―――」

 

 少女は小声で彼女に名前を告げた。

 けれども、すぐに苦笑して。

 

「でも、長いの好きじゃないの。アリスって呼んでよ。いいでしょ?」

 

 そうして彼女の名前もまた呼ばれた。

 それは熱い夏の日の夕暮れ時。

 夕闇が黄金に輝く。

 空煌めいた日の出来事であった。

 

「―――こんなところでゾンビになんて構ってられないんだから!!」

 

 いつかの時間を瞬きの合間に垣間見ながら、彼女は進む。

 

 持ち前の反抗心を糧に自身のいる場所を中心にして微妙な重力の歪を解析し始める。

 

 巨大な迷路染みた空間。

 

 時空間を扱う多くの能力において重力の均衡や歪みは切っても切り離せない代物だ。

 

 どれだけ広い迷路でも出口さえあるならば、辿り着く事は可能。

 

 彼女の周囲から無数の1mm程にも満たない光の玉が発生し、無限に分岐しそうな通路の分岐点の数々の先へと放たれていく。

 

「………移動距離が無限だとしても、空間自体の容量は有限のはず。なら、使われている領域の変化をリアルタイムで観測すれば、何処かに同じ空間に繋げられた痕跡が発生する。繋がってない先まで伸びる空間だけを辿っていけば……」

 

 彼女の脳裏で流れていく数列と情報と現在地に関する解析データが噛み合うと次々にオカシな空間の歪、重力の歪みが検出され、その痕跡の無いルートが露わになっていく。

 

「そこかぁ!!!」

 

 彼女の左手に剣が腰元から飛び出して握られ、瞬時に振られた。

 

 途端、彼女の行く手にある壁が切り裂かれる。

 いつの間にか。

 彼女の手は振り切られていた。

 

 光の速さで壁が斬撃によって破壊され、その内部に突入した彼女は続いていく通路のあちこちを剣による見えざる斬撃で破壊しながら、加速。

 

 遂には最後の壁を切り裂いて、その場所へと出た。

 

 急停止した彼女の目に映り込むのは巨大な白亜の塔。

 

 いや、肉の塔だった。

 全長300m以上。

 

 周辺の壁は棟に沿うようにして円筒形をしており、壁までの距離は50m程あるだろうか。

 

「これが迷路の中心。普通なら、コレを攻略して核を破壊して、とか。そういうのやるんでしょうけど、生憎とこっちは気が短いのよ!!」

 

―――【おめでとうございます】

 

「ポンコツ!? 今更、何通信送って来てるのよ!? 知ってて、放り出した癖に!!」

 

―――【解析データから、この領域のマッピングと通信拠点の確保に成功しました】

 

「今から、コイツを破壊する。それでいいんでしょ?!」

 

―――【いえ、それはどうかと思われます】

 

「どういう事?」

 

―――【内部に大量の生命反応が確認出来るはずです】

 

「ッ、まさか? これにみんな囚われてるの!?」

 

―――【いえ、生かされているというのが正しいかと思われます】

 

「生かされてるって何なのよ!?」

 

―――【数百時間以上前のデータになりますが、シェルター内で大規模な変異覚醒現象が起きて暴走事案が多発し、それに連鎖するようにシェルター内の市民が化け物に変化するという事件が起きました】

 

「はぁあ?!」

 

 彼女の目の前にノイズの入った監視カメラらしき映像が複数映し出された。

 

 その中では普通の人々がいきなり獣や蟲や斑色のブニョブニョした口と瞳だけの化け物になったりしていく様子が克明に描き出されていく。

 

 しかも、そのシェルター内で連鎖するその化け物への変化と並行して口と瞳だけの乱杭歯を剥き出しにした軟体流動系の生物と暴走した変異覚醒者が骨肉の争いを始めた。

 

 互いに喰らい合う様子はもはや地獄。

 

「ッ―――こ、こんな、一体何がッ、それより!! 何で黙ってたの!?」

 

―――【寝起きには悪いと思われました】

 

「このポンコツ?! じゃあ、あの中にいるのは化け物になった人達って事!?」

 

―――【いえ、その後の映像をどうぞ】

 

 彼女の前で止まっていた映像が更に流れ出す。

 

 その化け物達の争いを止めたのは白い触手だ。

 

 シェルター内の何処からか溢れ出した乳白色のソレが次々に化け物達に張り付くと同時にシェルター内の戦闘が沈静化。

 

 気を失った様子で大人しくなるモノ達の姿が人間に戻っていくとソレを引きずるようにして白い触手は奥へ奥へと彼らを連れて行った。

 

 そして、シェルター内の荒れた場所が次々に復元されてのも束の間。

 

 急激に変化して迷路のように入り組んだ通路が大量に出来ていく様子が見て取れた。

 

「変異覚醒を抑えた? 結界に相乗りされた? 一体、コイツ何なの……」

 

―――【分かりません。ですが、今結界を解いたとしても、問題は解決されません】

 

「急激に変異覚醒が進んだ理由は?」

 

―――【例の大西洋のアレの活動が活発化した為と推測されます。監視データは活性化と同時に事件が起きた事を示しており、偶然とは考えられません】

 

「……分かった。コレは今はこのままにしておけって事ね?」

 

―――【はい。この内部に突入して現実まで突破出来れば、すぐに騎士団と合流は可能でしょう。外ともこの方式の通信は繋がっています。あちらは米軍も動き出したようで、どうやら今は合同で国連本部付近の捜索を行っているようです。それが終われば、恐らく現実側からこちらへと突入してくるでしょう】

 

「待ってるのは性に合わないわ。突入して、あっちへ行くわよ」

 

―――【分かりました。御武運を】

 

 彼女の言葉と同時に対侵食シフトで接近戦想定。

 

 装甲のあちこちが僅かに罅割れるようにして内部から魔力の転化光を噴出し、装甲を蔽う。

 

 と、同時に両腕部に剣が装備された。

 

「抜けるわ!!」

 

 彼女が突撃を掛ける。

 

 白い巨塔の壁が剣が振られたと同時に破壊され、内部に隙間から突入した少女は上に伸びる巨大な砲身のような内部にビッシリと人間が埋もれている事に気付いて歯噛みしながらも、上空へと駆け抜けていく。

 

 壁の一部から次々に触手らしきものが音速を越えて彼女へ食らい付こうと蒼い瞳と口だけで狙いを定めて襲ってくるが、追い縋る事も難しい速度で振り切り、行く手に展開された触手の網と落ちて来る無数のソレが両腕が掻き消えるように乱舞すると同時に切り裂かれて瞬間的に内部を潜るような形で突破した。

 

 その様子は光る弾丸が砲身内部を射出されていくようにも見える。

 

「退けぇえええ!!!」

 

 最後の触手の網の包囲を切り裂いて抜けた彼女が急激に重力が変動したのを確認しつつ、内部から続く通常の洞窟のような部位に出た事に安堵するも、その先には人間らしき体に白い触手達と同じ化け物の口と瞳を持った餅のように延び膨れた相手を視認。

 

 ソレがポラリスの人員の一部だとすぐに悟ったものの、元に戻せるかどうかも含めて可能性は低いと彼女の支援を行うシステム側からの無慈悲な回答を受けて首を切り落として背後に抜けた。

 

―――【本来の空間に戻りました。このまま天井まで刳り貫けば、復元が終わるまでに抜けられます】

 

「シールド・ユニット展開。姿勢制御。次元相転移(ディメンジョン・フェイズシフト)開始!!」

 

―――【砲撃開始まで五秒。対ショック制御。耐えて下さい】

 

 彼女の頸部から腰部に掛けてのリアクター部位が神々しい程に美しい七色の転化光を内部から迸らせ、左腕の翼を模して重ねられたシールド・ユニットが展開しながら腕の周りを一周し、その手首の部分を中心にして4重に内部から展開して魔導方陣らしき模様を腕の先に照射、高速回転し始めた。

 

 ソレから数秒後。

 

 相手を制止するように掌を斜め上に翳した彼女の前方の空間が光を失って黒く変色し、同時にまた黒くなった領域内部に小さな燐光を複数舞わせ、円運動するソレが瞬時に一点へ凝集。

 

 キラリと輝いた。

 

 途端、周囲が猛烈な爆風に見舞われる。

 

 彼女の腕から直線状の全てがほぼ放射状に融け崩れて外を見せていた。

 

 何かが射出されたとしても見えていない。

 

 見えたのは結果のみだ。

 

 巨大な大穴と昇華された地表までの全物質の爆発的な解放がキノコ雲を立ち昇らせるも一瞬で上空へと加速する。

 

 彼女の真下で惨憺たる有様となったニューヨークの大通り。

 

 その一角に大量の同型ゾンビの消し炭がバラバラ落ちていく。

 

 しかし、それも数秒後には元に戻っていった。

 

「あ、何かゾンビ吹き飛ばしたわ」

 

―――【問題ありません。人間を周囲500m圏内に未だ観測せず。沿岸部から米軍はゆっくりと各地を制圧しつつやって来ていたようで被害はありません】

 

「あっそ。騎士団は国連本部ね?」

 

 ―――【はい。通信は未だジャミング中です】

 

「分かった。ゾンビ共は全部消えたの?」

 

―――【いえ、一部は現存し、増えているようです】

 

「放っておいてもいいわね。今は騎士団との合流が最優先よ」

 

―――【了解。引き続き支援を続行】

 

 彼女は飛ぶ。

 それは絆である故に。

 

「(世界が如何に残酷でもあたしが幾ら酷薄でも……それでも望むのならば、他が為に征くものは……)」

 

 それは流星にすら届かない儚い夕暮れ時に見た陽の最後の一欠けのように空の中に溶け込んでいった。

 

 *

 

 ロナルド・ラスタルにとって世界は玩具箱だ。

 

 ただ、自分の玩具が入っていなかったという点において、彼は幼い頃から不満を抱えていた。

 

 彼が初めて心を開いた相手と出会ったのはまだ研究者に成り立ての頃。

 

 その男は世界各地の研究所を渡り歩く助っ人とも呼ばれ、様々な幅広い研究において見当違いにも思える他分野の知識を導入する事で様々な壁を突破し、多くの功績を残す。

 

 そんな、本当の天才だった。

 

 彼は初めて自分以外に玩具箱へ玩具を投げ込んでいる同類を見付けたのだ。

 

 自分よりもまったく早く。

 

 人生を掛ける程の事でもないと言いたげに遣り遂げて去っていく背中を都合3度、彼は違う研究所で見る事となった。

 

「………人は見掛けに寄らないとは言うものの。人類を救うというのもコレで骨が折れる。あの迷宮を突破してくるとは」

 

 彼は空を見上げ、地表を見下ろしていた。

 

 空には本当の空よりも尚瞬く星々が鏤められた運河の如き星々の流れ。

 

 地表にもまた現実のニューヨークの姿に小さな星々のような光。

 

 人間の因果の輝きが煌めている。

 

 中間に立つ男の周囲には数体の屍が身を屈めて胎児のように揺蕩っている。

 

「アレがもしも例の船だとすれば、ガリオスにはまだ発掘されていない幾らかの秘密が眠るという事になるが……連中気付いているだろうな」

 

 男はボロボロの親指の爪を噛んではブツブツと呟いている。

 

「だとすれば、此処での最適解は古巣の彼らが来る前に全ての仕込みを終わらせる事だけ。だが、時間が足りない。この地に眠るアレと船が関連していた場合……何処に……仕方ない。もう少し死を増やすか。あまり連中を呼び込むかもしれない行動は得策ではないが、リスク無しにリターンは無い。最終的に目的さえ達成されるなら、此処は出し惜しむべきでもない」

 

 男がギョロリと真横の2体を見やる。

 

 それと同時に身を屈めていた肉と金属の塊らしきものが体躯を露わにして立ち上がる。

 

「米軍に全個体で波状攻撃を掛けろ。途切れる事なく連中に殺させろ。可能な限りだ」

 

 二体のソレらが地表の星々の中へとまるで二次元が三次元に這い出るかのような違和感を持ちながら落下していく。

 

 それを見送った男は再び思案へと入った。

 

 ニューヨークを見つめながら、再び帰って来た故郷と旧い友人の息子がまた運命にも抗おうと苦悩する姿を網膜に映し出しながら。

 

 *

 

 国連本部が放棄されたのは数年前。

 

 ニューヨークから米軍が完全に撤退時の事になる。

 

 以後、ポラリスによって守護されたビルの地下施設はその基地として機能し、各地のシェルターとの直通路を持つ鋼の要塞として運用されて来た。

 

 地表から上の設備は殆ど使い物にならないが、内部は違う。

 

 米軍から供与されてきた幾つもの機器が未だにBFCが遺した小型核融合炉によって駆動し、ニューヨークから電力が届く可能な限りの監視カメラや観測機器を稼働させ続けている。

 

 こういった警戒網やデータを纏める情報機器無しには海獣類との戦闘も不可能だったのだ。

 

 だが、米軍の特殊部隊に御膳立てされて、その一部と共にキャンピングカーで乗り付けたセブン・オーダーズの面々が見たのは放棄されて数日経っていると思われる機材と未だに通電しっ放し、動きっ放しのデータルームや司令部だけであった。

 

 書類だのデータだのを少年が魔導方陣を九十九に繋げて、直接通信でぶっこ抜いたのだが、分かるのは数日前までのポラリスの動きだけであった。

 

『シェルター内で変異覚醒の暴走です!!?』

 

『何だ!? この数はッ!!?』

 

『現地の部隊に即座対応させろ!!』

 

『だ、ダメです!! 四番、七番の守備隊からの応答が途切れました』

 

『クソッ!? 化け物になっちまうのか。オレ達も!!?』

 

『リーダー!! リーダーは!?』

 

『狼狽えるな!! 今、彼からの協力を取り付けて来た。悪いが、此処からは少しショッキングな事になるが、黙って見ていてくれ。市民を護るには今はこれしかない!!』

 

『は、はい!!? 何か出来る事は!!』

 

『1番地に全隊を集合させろ。それと変異覚醒者と戦って死んだ者の遺体を諦める事に同意してくれ。これから起こる事を……承知して欲しい』

 

『……解りました。各隊の損害報告!! ダメなところはいい!! とにかく無事な部隊と負傷者の輸送を急がせろ!! 一番地だ!!』

 

『な、何だ!? 白い触手みたいなのが変異覚醒した連中を!!?』

 

『で、でも、元に戻ってるぞ!? どうなってるんだ!?』

 

『今はとにかくリーダーに付いていくぞ。1番地に走れ!! 医療物資もそちらへ!!』

 

 暴走した変異覚醒者達が触手によって地の底へと生きたまま引きずり込まれる様子にゾッとした様子ながらも人間に戻っていく状況を見て、一応の納得をしたポラリスの守備隊が次々にシェルターへの直通路から1番地シェルターへと向かって行った。

 

「これが此処であった出来事……」

 

 ヒューリが内部に向いた監視カメラの映像を見終わって横を向く。

 

 そこには少年とフィクシーがいた。

 

 外にはクローディオがキャンピングカーの警護に当たっており、内部の制圧は米軍に任せて彼らは中枢へとやって来たのである。

 

「どう思います? フィー隊長」

 

「恐らくだが、変異覚醒を無理やり前の状態に戻したな。神の力と言っても万能ではない。迷宮の神とやらにどんな能力があるのか分からないが、人間に戻したのには理由があると見た」

 

「人間以外は寄生対象にならないとか。食わず嫌いとかですかね……」

 

「かもしれん。原始的な思考を持つ神は存外そういうものだからな。喋れなくてもアレの邪悪さは感じられた。人を更なる絶望に突き落として捕食、不の感情を喰らうくらいの事はありそうな気もする」

 

 そんなフィクシーと少年の会話に顔を僅かに顰めた年若い米軍の黒人女性士官が口元を軽く抑えた。

 

「おっと、魔術師の会話は刺激が強過ぎたようだ。済まない。だが、現状を正確に把握出来なければ、救える者も救えないのでな」

 

「い、いえ……小官が口を出す案件ではありませんから」

 

 リリー・ベイツ少尉。

 

 分隊長として特務強行偵察分隊の指揮官。

 

 カーキ色のデジタル迷彩スーツ。

 

 フィクシー達が使うデフォルト・スーツにも似たソレを切る18の才媛は目の前で平然と最悪の未来を予測する少年少女を前にして自分より若い上官を持つというのはこういうものなのだろうかと部下達に少しだけ優しくしようと思う。

 

 彼女達がニューヨークにやってきたのは殆どキャンピングカーがニューヨークに到着したのとほぼ同時であった。

 

 彼らはBFCの男女を追い掛けて長距離を密かに進んでいたのだ。

 

 二人の影が通ったルートを征けば、結界とやらを感じる事もなく電子機器満載の装甲車両も内部に侵入する事が出来たのである。

 

『こちらフォックス・リーダー!!!』

 

 爆発音とほぼ同時。

 

 彼らにも聞こえた外部からの衝撃に窓や扉が割れて破壊される音に外部で周囲を制圧していた部隊の隊長から通信が入る。

 

 それに遅れて外部では衝撃波が幾らか建物を揺らしたらしい。

 

 パラパラと施設の内部でも埃が落ちて来る。

 

「どうしたの!? 外からの衝撃は何!?」

 

『南東方向の市街地。コマンドー型の密集区域が吹き飛んだ模様!! 1区画が吹き飛んだ模様!! 詳細は不明!!』

 

「巻き込まれた部隊は!?」

 

『巻き込まれた部隊はどうやらいないようだ。全部隊からの応答を確認。何かが地下から爆発したとの報告が、いや待て―――観測班から空に鎧のようなものが飛んでいると入電!! 何、四騎士か!? 形状が違う?! 新手か!? 待て!! 撃つな!! 様子見だ!!』

 

 どうやら混乱している様子の現場からの通信が途切れる。

 

 そんなリリーを見て、少年達が頷いた。

 

「ヒューリさん。前衛を任せます。少尉はフィー隊長と一緒に来て下さい」

 

「了解!!」

 

 彼らが走り出し、先導するヒューリが地下から外への階段を上がって通路の先から外に駆け出していく。

 

 その速度は常人を遥かに超えており、超人的な脚力にリリーが驚く。

 

 その数秒後。

 彼らが外に出た時だった。

 

 キャンピングカーから外に出ていたクローディオとカズマが上空に火器を構える寸前で何かを見つめていた。

 

 上空から何かが降りて来る。

 ソレが10m程上空で滞空した。

 

「何者ですか?」

 

 少年が全員を背後に進み出てヒューリを背中に訊ねる。

 

『私はアリス。善導騎士団ね?』

 

『アリス?! アリスなの!?』

 

 キャンピングカーの内部から思わずメイが顔を出して駆け出してくる。

 

『メイ!? こんなところにいたの!? そう……騎士団を連れて来たのは貴女だったのね』

 

 翼を纏った鎧。

 

 だが、雄々しい天使の彫刻にも見える体躯と無数の翼を全身に折り畳んだ姿は明らかに通常の七教会の標準的な高格外套とも違う。

 

『貴女が無事で良かったわ』

 

 降りて来た鎧の顔面。

 

 球体部分にアリスの顔が浮いた。

 

 金髪に僅か雀斑の残るまだ14程くらいにも見える純朴そうな少女。

 

 しかし、その瞳は鋭く。

 

 現在の状況を把握しようと周囲の警戒する米軍に向けられていた。

 

 彼女が地表に着地すると同時に鎧がガパリと裂けるようにして内部を露出させ、球体も割れて、内部から少女が降り立つ。

 

 その途端、鎧のパーツがまるで内側に圧縮されているかの如く。

 

 次々に自己を折り畳んで少女から外れ、背後で巨大な鉄柱のようになって静止した。

 

「私は七教会の技術審議会に所属していた者です。善導騎士団。今、この都市は危機的な状況にあります。情報を共有し、速やかに問題を解決出来ねば、恐らく世界は滅びるでしょう。どうか力を貸して下さい」

 

 少年が少女を前にしてニコリとする。

 

「善導騎士団所属。騎士ベルディクトです」

 

 握手が交わされた。

 

「貴方が噂のチビッ子ね。話は聞いてるわ。そちらの車両の中で話したいんだけどいいかしら? 此処じゃ人目が有り過ぎる」

 

「分かりました。ヒューリさんや皆さんは周囲を警戒して下さい。お話が終わるまで中でフィー隊長と僕が話を聞きます」

 

「分かりました。ミシェルさん!!」

 

「はい。一時的に結界を多重展開します」

 

 車両の周囲が次々に半透明の結界によって封鎖されていく。

 

「同行しても?」

 

 リリーの言葉にフィクシーがアリスを見る。

 

 アリスにメイが頷いた為、共に話を聞くという事で話が付いたのだった。

 

 *

 

「まず、私が知る限りの危機に付いてまずは共有させてもらうわ。メイ。この危機は貴女が見付けてくれたのよ」

 

「え?!」

 

「その危機を防ぐ為にこの都市と周囲に張った結界は私が今住んでいる船。フィラメントによるものなの」

 

「フィラメント?」

 

 少年が訊ねる。

 

「ええ、あちらの大陸で異相側において巨大な外なる神々を迎え撃った時に七教会が技術審議会に造らせた新造艦。フルー・バレッサ様が封印した幾つかのシステムを搭載した汎用艦……別動艦隊の旗艦よ」

 

「ちょっと待って下さい。アリスさんはいつの時代から来たのか教えて貰えますか?」

 

「何時の時代?」

 

「此処に来る人々は皆時間軸がズレてます。黙示録の四騎士を始めとしてガリオスも多くは過去に飛ばされたと推測されてます」

 

「ッ―――ちょっと待って!? そんな話は初めて……ああ、そうか……あの時の転移で時間を……私はガリオスの名前も知ってるし、ガリオスが無くなった事も知ってるわ。そっか、貴方達はガリオスの人間だったのね」

 

「僕らが消えた後の事を教えて頂けますか?」

 

「ええ、今は時間が無いから簡潔に。ガリオスが無くなってすぐに南部帝国が組織した魔王連合と中央諸国の間で戦争になったわ。その時、ガリオスは何もない中央諸国と南部の境の主戦場になった。その殆ど開戦直後に私は飛んできたの」

 

「ガリオスが消えた後、戦争に……」

 

「ええ、帝国は魔王を頂きにして、七教会はそれを認めなかった。反七教会派は帝国に付いたから、それでね。私が船に載ったのはその直後よ。縮小した異相側に巨大な反応が近付いていたの。恐らくは異相が縮んで宇宙の外側と近くなった事から外からの来訪者と呼ばれる生物達がこの宇宙に来易くなった。七教会の戦力の殆どは中央諸国に魔王連合との戦争を任せて、極秘裏でその生物群を迎え撃ったの」

 

「それで結果は?」

 

「辛うじて艦隊は勝利したわ。艦隊の2割を喪失したようだけど、実際には救援も間に合っただろうし、私達の艦隊はフィラメントが囮になって逃げる事にも相手を滅ぼす事にも成功した」

 

「その時の事故で此処に?」

 

「ええ、フィラメントに搭載されていたシステムの力が働いて完全に鉄屑寸前まで破壊されたにも関わらず最後の力で敵をエネルギーに変換したの。でも、そのエネルギーが莫大過ぎて……吹き飛ぶのを避ける為に超長距離転移の為にそのエネルギーを使った。世界を超える程にね」

 

「通常転移では使い切れなかったから長距離移動で無理やりにエネルギーロスを極大化させたんですか?」

 

「そうよ。で、宇宙の果てに跳んだと思ったら、この有様よ」

 

「それでこの世界に……この世界の概況に付いては?」

 

「知ってるわ。ゾンビが出る。滅び掛けてる。黙示録の四騎士って私と同じ異世界人らしき人間達がその元凶って事は知ってる」

 

「米国大統領の放送聞きました? 後、神様の事とか知ってます?」

 

「何ソレ?」

 

「ええと、こういうのなんですけど」

 

 少年が魔導で外部のアーカイヴからアップされていた映像をアリスに見せ、自分達が見た白い迷宮の神に付いて諸々のデータも提示する。

 

 数分後。

 

「なる程? アレは神様だったわけか。そして、この世界の米国が全ての元凶。過去にもガリオス人がいた。この時代にやってきた彼らを実験体扱いしたら、反逆されてゾンビ一杯のワンダーランドになった、と」

 

「ええ、要約すると」

 

「………そうか。だから、アレが……」

 

「アレ?」

 

「メイが発見した危機の事よ。今、見せるわ」

 

 彼女が指を弾く。

 すると、虚空に映像が浮かび上がった。

 

「……卵?」

 

 少し罰が悪そうだったリリーが思わず首を傾げた。

 

 気味の悪い色をしたツルリとした表面が見えたのだ。

 

「いえ、卵みたいな形にも見えますけど、これって……仮面じゃないですか?」

 

「顔?」

 

「この色は……屍蝋か。即身仏の類は見た事がある」

 

「?!」

 

 思わずリリーが顔を強張らせた。

 

 映像の中の表面には確かに薄くだが、笑みのような単純化された目と口がある。

 

「え? あ、あの……発見したの? 私が?」

 

「ええ、貴女が発見したの。アップルパイ持って来てくれた日、外に出たわよね? あの時、見付けたのよ。あの島で……貴女が一瞬だけ……ゾンビになった時に……」

 

「ッ」

「どういう事ですか?」

 

「メイ……あの日の事、覚えてる?」

 

「う、うん。それは……」

 

「頚城としての寿命とか何とか言ってたわよね。あの日、貴女が私に襲い掛かって来た時、コレが見付かった……」

 

「コレが世界の滅ぶ程の危機?」

 

 リリーが自分には理解不能の世界の話に汗を浮かばせる。

 

「大陸で久方ぶりに起こった魔族の大襲撃に重なるようにして前後して起こっていた一連の西部での争乱、何て言うか知ってる? チビッ子」

 

「ッ、それって仮面絶神戦争の……」

 

「そう、ソレよ。あの時、七教会は異相側に艦隊を派遣して色々と化け物と戦ってたそうよ。その根源は屍蝋の仮面、何らかの世界の外と繋がる契約によって引き起こされた生物の怪物化じゃないかって後々推測されてたの」

 

「仮面、契約……待て……ソレは()()()()だ?」

 

「いい質問ね。騎士団長さん」

「副団長代行だ」

 

 フィクシーが訂正する。

 

「これはね。誰のものでもない。このニューヨークの仮面よ」

 

「何? 契約が都市単位? 地域……いや、そうか。儀式術的には存在でさえあれば、要件を満たすような幅の広い代物なのか?」

 

 フィクシーが呟く。

 

「言ったでしょ。私達は世界の外から来たモノと戦っていたと。恐らく、船が此処に来たのも偶然じゃないのよ。だって、イギリスで封印されたあの触手の神様だって、どう見ても外から来たモノでしょ? この世界の歴史や文献は色々と見たけど、旧い時代からそれらしい姿は見受けられていた」

 

「海洋神殿はまだ調査段階に無いのだが、恐らくは……」

 

 フィクシーがイギリスからの報告の一つ。

 

 大英博物館の地下施設に付いて思いを巡らす。

 

 ()()()()ロンドンで唯一、其処だけが残っていた、という報はある種の異様さがあって、一般隷下部隊にフル装備させて調査させたのだが、魔力の魔の字も無いのに多数の古い時代の蔵書だけが無事だったのだ。

 

 まだ、それ以上は何もしていないが、それにしても普通ではない何かが存在するという事実は彼女にも実感として理解出来ていた。

 

 そう……神の事にしても古い時代からいたのだと考えれば、ガリオスと共に何が流れ着いていたのかという話をする時、この世界は大きな影響を受けていると言わざるを得ない。

 

「あのゾンビ共も世界の外に動かす為の仕掛けがある。此処には世界の外に繋がる沢山の要素があるのよ。いや、逆なのかもしれないわね。此処にコレがあるから、米国に彼らは現れた。そして、ポラリスは特別な力に目覚めた……そう考えていいのかもしれない」

 

「ッ、この仮面の力が……」

 

 虚空に現れたツルリとした卵のようにも見える仮面は見ているだけで何処か引力を発しているかのように人を引き付ける力を秘めていた。

 

「具体的に何が危険なのか訊ねても?」

「ええ、簡単よ。Z化が進むの」

「Z化が?」

「メイ。この人達に食料関連の話はした?」

「え、ええ、収量が落ちてるって」

「それ肝心な話が抜けてるのよ」

 

「え?」

 

「現場で採れる魚や野菜がね。変化してるの。何の原因も無いはずなのに異様に固かったり、毒素を含有してたり、そういう食材に限ってZ化の兆候があるのよ。動物には今までそういう事実があったけれど、植物にも及んでる。私が調べた限りだけど」

 

「そ、それって?!」

 

「ここ最近食料供給が滞って来た理由がその仮面よ]

 

「断言するだけの情報があるのか?」

 

 フィクシーに頷きが返される。

 

「Z化した遺伝子の一部には旧い時代のものが含まれてて、それが全体に波及するように変質する。癌細胞みたいに変質した細胞が周辺の細胞を取り込むの。違うのは一瞬で他の細胞を塗り替えるような働きがあるって事。種族的な固定化現象も起きてて、変質自体は領域内では永続するけど、外に出たとしても解消されるようなものじゃないわ」

 

「なる程。変異覚醒現象と似ているな」

 

「だけど、それ以上の状況になってると見ていい。私もついさっき知ったんだけど、シェルターの人達が変異覚醒して中には化け物みたいになってる人達がいたわ」

 

「それって!? 国連本部の地下基地でも同じような監視カメラの映像が有ったの!!」

 

 メイの言葉にアリスが瞳を細める。

 

「そう……間違いないようね。よく考えて見れば、Z化が人間に作用した場合、どういう事になるのかちゃんと誰も知らないのよね。生きたままゾンビになる事が無かったから……でも、メイのように生きたまま頚城になる事が出来た。なら、生きた人間もZ化現象に晒された結果は……」

 

 化け物に成った人々の映像を思い出して誰もが僅かに顔を引き締める。

 

「このまま影響が波及すると、どうなる?」

 

「ポンコ、ごほん。フィラメントのメインシステムが張った結界はね。変化を拒絶して元に戻す事に特化した波動錬金学の技術を応用する復元用の代物よ。波動錬金学の精粋にして秘奥。元々は七聖女様の変化を拒絶する結界が元になってるって話」

 

「それで変質を抑制していたのか?」

 

「そう。食料資源のZ化を防ぐ目的でね。でも、その結界内ですら変異覚醒の大暴走が起きるなんて……どう考えても引き金となった事があるとしか思えない。こんな事なら寝なきゃ良かった……」

 

「あの、アリス……寝てたの?」

 

 メイの言葉に少女が僅かに赤くなった。

 

「貴重な時間を無為に過ごすくらいならシステムの支援で凍結してもらって寿命を節約した方がいいじゃない。どれくらいの間、あのままなのか分からないんだもの」

 

「そ、そうね……ごめん」

 

「船の生存者もこの世界の技術じゃ助けられないし、システムの管理者やメンテナンス出来る知識を多少でも持ってる私がいなくなったら、誰も助からない。だから、大人しくしてる時は寝てたのよ」

 

「それで結界とやらに武器の持ち込みを禁止する事項が入っているのはどういう事だ?」

 

「武器の禁止って……どういう事かちょっと問い合わせるから待ってて」

 

―――【禁則事項です】

 

「(どういう事!? 禁則事項ってナニ!?)」

 

―――【具体的には聖女様の使用する戦闘用術式に対するプロテクトの為、お話出来ません】

 

「(そういう事か。武器を持ち込めなきゃ相手は戦い用が無いって事でしょ。どうせ?)」

 

―――【禁則事項が解除されました。おめでとうございます。賢き人】

 

「(このポンコツッ、気付いたら禁則事項が解けるとか。アンタをプログラムした連中アタマおかしいんじゃないの?!)」

 

―――【頭オカシイは誉め言葉とアーカイヴにはあります】

 

「(もういい!! 緊急事態以外は黙ってなさいよ!!)」

 

―――【了解】

 

 ブチリと経路(チャンネル)越しの通信が切れた。

 

「どうやらそうみたい。悪いけど、これ結界の基本的な能力らしいから、能力の解除は悪いけど出来ないわ。恐らく、フィラメントのシステムも海獣類が来れば、一部結界そのものを解除する方針だったんじゃないかな。自立式プログラムだから、知らないとこで何かやってたりするのよ」

 

「そうか。まぁ、同型ゾンビも同様のようだし、構わないか……」

 

「それで今後の方針なんだけど、仮面には手を出せないわ。アレを滅ぼす方法が今のところ見付かってないから。単純に破壊するのは試したけど、すぐに再生したし、跡形も無く消し飛ばしてもダメだったの」

 

「厄介な……」

 

 フィクシーが通常の攻撃方法すら持って来てない現状ではどうにもならないかと瞳を細める。

 

「ウチのシステムの話だと因果律系の術式みたいな根本的に消去する方法。少なくとも概念消去(ブランク・ワード)くらいの力がいるらしいけど、ソレ自体は持ってないのよ。貴方達に期待してみるけど、どうかしら?」

 

「……一応、その系統の術式は保持している。だが、限定的な代物の上、武具系にしか効かない。恐らく、不可能だろう」

 

 フィクシーが己の持っている武具という概念を破壊する大魔術を脳裏に思い浮かべたが、すぐにダメだろうと肩を竦める。

 

「じゃあ、プラン的には……まず、神様に囚われてる人間の確保方法と内部の寄生してるのを除去する方法を考えて、その上で変異覚醒や化け物になる干渉を遮断する方法も考えて、メイの仲間をロナルドとか言うヤツから助けて、リーダーを説得するにしろ監禁するにしろ確保して……気が遠くなるわね」

 

「だが、一つずつ問題に解決案を提示していくしかない」

 

「……フィクシー・サンクレット、でいいかしら?」

 

「ああ、好きに呼んでくれ」

 

「私の家になってるフィラメントは危険になれば、このニューヨークを出るわ」

 

「アリス!?」

 

「私にも護らなきゃならないものがある。貴女に護らなきゃならないものがあるようにね。メイ……悪いとは思う。でも、コレは私の基本原則なのよ」

 

「ッ……ごめんなさい」

 

「謝られたら、こっちが泣きたくなるから止めて。取り敢えず、理由は以下の三つ。変異覚醒者や化け物が出たとしても、私は私の仲間達を諦められないし、このままこの都市と心中するつもりはない。二つ目はこの結界で押し留められない干渉を誘発する程に仮面の力が高まった理由が私やシステムには分からない。三つ目にこの現状は長く維持出来ないからよ」

 

「維持出来ない。それは動力的な問題だろうか?」

 

 アリスの首が横に振られる。

 

「いいえ、維持だけならまだまだ出来るわよ。問題はリーダーの暴走でしょ。しかもBFCに付いたって事は私は狙われるわよね。でも、外から抉じ開けられないから、周囲をゾンビで囲ってた。でも、このままじゃ何れ開けられるかもしれない」

 

「フィラメントとやらは危険に晒せないと」

 

「ええ、そうよ。ゲルマニアだろうが、米国だろうが、BFCだろうが、連中が信用に足る組織だと思う? 私にはそう思えないわね。今までニューヨークは信用に足りたから、此処にいたの。でも、その信用は失われた。此処にいる理由は純粋に今までの付き合いでニューヨークから得た恩恵を返しているだけなのよ」

 

「結界の維持はこちら側で代替出来ないか?」

 

「ウチのメイン動力炉は壊れてるけど、サブだって随分高性能なのよ? それを全部代替出来るって言うなら、術式単体だけ提供出来るけど」

 

「それなら僕らでもどうにかなるかもしれません。幸いにして結界のエキスパートがウチにはいますし、無限動力機関の開発にも成功したので」

 

「ッ、そう……騎士団も結構スゴイのね」

 

 アリスが驚きながらも感心した様子になる。

 

「私達が逃げても結界そのものは維持出来るなら、私はただ逃げ出す事はしないわ。此処にはお世話になった人達がいる。現実的に艦の安全を保障してくれる組織が此処にいて、私達に手を差し伸べるなら、だけど」

 

 その言葉にメイが複雑なようでいても何処か嬉しそうに唇を歪める。

 

 何だかんだと言いながらも出来る限りの事はしようとしてくれている。

 

 それが彼女には何よりも嬉しいに違いなかった。

 

「騎士団は同郷の人間を歓迎する。少なくとも人類の敵ではない相手ならばな」

 

 フィクシーが頷いた。

 

「なら、交渉成立よ。貴方達がウチの艦の代わりを創るなり、持ってくるなりして、引継ぎが可能になるまで艦の保全をお願い。私はそれまでの間、ニューヨークの現状の維持と幾らかの武力を提供して協力もしましょう」

 

「助かる。武力とはあの鎧の事だろうか。七教会の高格外套にしては随分と違うように見えるが」

 

「ああ、アレは私の親友と私の合作よ。基礎は高格外套だけど、中身は殆ど別物ね。武器装備してるように見えるけど、たぶんアレも武器じゃないんでしょう。システム的には……」

 

「期待しておこう。話は纏まった。ベル、計画行動の策定に移ってくれ」

 

「もう出来てます」

 

「話が早いな。で、これからどうする?」

 

 少年が虚空に条件を色々と英語で書き出した。

 

「ロナルド・ラスタルの居場所を探っても短期間で見つけるのは不可能かもしれません。まずはリーダーの確保を最優先にします。それまでに陰陽自研でも今の条件で装備やら諸々を用意して貰わなければなりません。事態は流動的ですが、本格的に武力介入を行うのはロナルド・ラスタル及びBFCが大規模に動いた時です。それまでは地下に潜って神の居所や弱点や対処方法の発見、リーダーの捜索を……」

 

「いいか?」

 

「構わないわ。ウチの艦にも護衛を置いて貰わなきゃだし、艦そのものを地下探索の拠点にしてもいいわよ。どうせ1番地シェルターが見付からないと話にならないでしょ」

 

「助かる。では、また地下班と地上班に分かれる事にしようか。前回の班別けにするか?」

 

「はい。ただ、今回はミシェルさん。結界術式のエキスパートをフィラメント。そちらの艦に乗せて護衛にラグさんも付けます。僕とカズマさんだけで地上は賄いますから、皆さんは地下の方へ」

 

「そこまで戦力を分散するのか? 危険ではないか?」

 

「いえ、僕とカズマさんの相性は今のところセブン・オーダーズ中最強ですから、大抵の敵は問題ありませんよ」

 

「ヒューリアが聞いたら、膨れそうな話だ……気を付けるんだぞ。ベル」

 

「はい。では、これを全員に周知してさっそく行動に―――」

 

 その時、今まで話に付いて行けずに置物と化していたリリーの耳元のヘッドセットに通信が入る。

 

『こちらフォックス・リーダー!! あの爆発後に復元した地域からゾンビが急激に溢れ出して沿岸部に向かって進軍中!!!』

 

「ッ、騎士ベルディクト!! BFCのゾンビ達が動き出したようです!!」

 

「分かりました。他にも懸念する材料が山積みなのでカズマさん以外は地下に向かって下さい。こちらは僕らで対処します。アリスさん。メイさんはどうしますか?」

 

「リーダーの探索に向かわせて下さい」

 

「メイ。彼に何が有ったか知れないけど、あの状況をそのままにしてるって事だけは脳裏に留めておいて……前の彼と同じとは思わない方がいい」

 

「アリス……でも……」

 

「人は変わるの。そして、変わらない事もきっとある。それを忘れないで向き合えば、どう対応すればいいのか。分かるはずよ」

 

「うん。リーダーに真意を訪ねるまで私……」

 

「好きになさい。こっちはこっちで確認しなきゃならない事があるから、地上に残るわ。コレを……」

 

 少年にアリスが小さな光の玉を掌に浮かばせて差し出す。

 

 受け取った少年はソレがすぐ魔術による通信用の術式だと理解して掌に握って光が消えるのを確認する。

 

「コレでいつでもあっちのフィラメントのシステムと通話出来るわ。何か知りたい事があったら、あっちに聞いて頂戴。言える事なら言うから」

 

「分かりました。コレを他の人に配っても?」

 

「いいわよ」

 

 全員がキャンピングカーの外に出ると慌ただしくなった周囲で出ていた面々が米軍からの通信を聞きながら事態を把握。

 

 さっそくの出撃となって、全員が掃けていく。

 

 途中、また少年を見送るのが惜しい様子の黒羊モードなヒューリがギュッと抱き締めていたが、すぐに自分の為すべき事をする為に頷いてキャンピングカーを先導するように再び突入に向けて九十九が指定した掘削指定地点へと翅を出して飛翔していく。

 

「騎士ベルディクト。付いて来れる?」

「動魔術は近頃エキスパートです」

 

 自前の鉄柱の前で彼女が訊ねた。

 

「あ、オレは自前で爆発出せるから」

 

 横にいたカズマがシレッと言う。

 

 実際、カズマの肉体は装甲が無くても魔力で保護さえされていれば、背中や背部、四肢のあちこちに炎や爆発を起こして推進力を得る事が可能であった。

 

 魔術が超絶苦手でも内部に入ってから魔力電池は渡されていた為、強度の高い体にフィットして動く対象を保護する結界防御は既に躰を蔽っていた。

 

「超越者ね。階梯は?」

「カイテー?」

 

「ああ、大陸では超越者の階梯はざっくりしてるんですが、何に似ているくらいの感じです」

 

「オレ、何に似てるんだ? ベル」

「炎の低位神格クラスには届いてます」

「お、マジか。中々強いソレ?」

 

「神様なので。アレですね。普通の超越者相手なら経験値以外の能力の火力オンリーなスペックで勝る感じです」

 

「……中々じゃない。七教会なら幹部の手下くらいね」

 

「そっちの方が色々とアレなんだけど」

 

 カズマが思わずアリスの言葉に額へ汗を浮かべる。

 

「幹部連中は人間の癖に資質的な超人や超越者を超える。本当の意味でのヤバイ奴らよ。人間のままにそこまで行けば、もう神様扱いされたってまるで問題無い。戦乱当時なら英傑や英雄クラスの連中だもの」

 

「さて、お喋りはこのくらいにしてまずは殲滅に向かいましょう。肉の化け物の件もあります。まだ、あちらは一部地域で米軍のいる地域にも出ていないようですが、何があるか分かりません。戦力源になるシャウトを殲滅。概念域からの転移があれば、即時その領域へと火力投射して相手の貯蔵を打ち砕きます」

 

「中々、やりそうね。あなた」

「近頃、鍛えてますから」

 

「ああ、ウチのベルの()()()は半端じゃないからな。まぁ、部下連中が死んだ魚の目になるけど」

 

 三人が同時に跳躍する。

 アリスが跳躍すると同時に鉄柱が動いた。

 

 虚空で瞬時に変形し、少女を中央から内部に喰らうかのように取り込んだソレはそのまま変形しつつ背中の翼を広げて自分が元来た方角へと向かう。

 

 少年は自在に空を駆け、その背後から肉体の各部から炎を噴射させたカズマが高速で追い上げていった。

 

 三人の軌跡は都市内部にあっても天を見上げた米軍からは良く見える。

 

『こちらフォックス・リーダー。敵軍に向けて騎士ベルディクト、地下からやってきた鎧の少女、カズマ3尉を確認』

 

『引き続き。続行してくれ』

 

『了解。引き続き監視任務を続行します。大統領』

 

 ハワードの言葉にビル群の中から声が返る。

 

 あちこちのビルにはもう既に目となる人間が配置され、順調に人間の目による監視網は拡大し続けていた。

 

 彼らを見る者があれば、気付いたかもしれない。

 

 その瞳が普通の人間には有り得ない黄金色の輝きを湛ていた。

 

 虹彩の幾重にも重なったレンズを微小に収縮拡大させながら、通常の監視機器では無し得ない程の高精度なデータを生身で受け取っている。

 

 それが機械が本来存在し得ない結界内でどれだけ異質であるかを未だ予想するのは空を駆け抜けていく少年だけであった。

 

 

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