―――三沢米軍基地地下第八層。
「グッ、まさかッ!? 貴様ら―――」
グシャリと巨大な機械椀が通路一杯の土嚢やジェルが充填された壁を殴り壊して掘り進む。
その合間合間にある巨大な隔壁の部屋のあちこちには殺されていなければオカシイ米兵達が次々に屍のように倒れ込んでいた。
「貴様ら人形に用は無い。邪魔だッッ!!!」
機械椀を存分に振う少女。
嘗て、東京の一角を溶かし崩した者。
CEXの隊長たる彼女は次々に襲ってくる米兵。
いや、米兵が操る人間型のドローンを消し飛ばすように砕いては隔壁を物理的に破壊し続け、爆破された土砂で埋まる場所すらも綺麗に刳り貫いて通り抜けた。
その刳り貫いた土砂は彼女の手の先で何故か消失しているし、崩れない穴はまるで重力を無視しているかのようだ。
『まさか、此処で魔族側の邪魔が入るとは……』
女の耳元で声がする。
「本当にどうなっている!? 何故、バレた!! 言い訳してみろ!!?」
『さて、それはこちらとしても相手に是非にも訊きたいところだが、君の造ったアレ相手に3体で善戦する頚城だ。良い撒き餌にはなったな』
「必ず捉えろッ。奴らは手強いぞ!!」
彼女が自爆攻撃を仕掛けて来る米兵達の高速での低姿勢でのタックルと銃剣突撃に鎧袖一触で円形に切り払う。
バラバラに散らばるジェル、爆薬、機械油にフレームの金属片。
そこへ更に射撃とRPGのフルコースが味方の被害も構わずに投射され、全てが吹き飛ぶかのような大爆発が起きた。
「やったか?!」
が、その爆発が奇妙な程に途中で歪む。
いや、消え去るというのがただしいだろう。
「火力を投射し続けろ!!」
爆発中にその光景がコマ送りされて、爆発の中心部分にいる彼女の周囲だけが機械椀で現実を塗り替えられたかの如く。
爆破の影響を受けていない状況になっていた。
だが、実際に爆発自体はあったらしく。
その影響外の床などは爆発の跡に融け崩れている。
「死を供給しない通路に命無き人形か。だが、それで私を止められると思うな!!」
吠えた彼女の声が衝撃波となって、周囲の壁を湾曲させ、大量のまだまだ配置されているドローン兵達を数百単位で拉げさせて爆破させていく。
通常の体育館程もある区画が完全に内部から弾け飛ぶかのような威力。
逃げようもない程の巨大な衝撃。
しかし、やはり彼女の周囲だけは秒速kmで動く機械椀の一振りで一切の影響を受けない虚空の領域を維持している。
内部から外側に広がる衝撃は壁に反射して内部を攻撃しているはずだったが、腕が高速で動いて霞んでいる間、一切の余波は彼女の髪一本揺らがせる事は無い。
物理法則がまるで違う空間にいるようにも見える。
彼女は歩き続けた。
止まっていない。
馬鹿なとドローン越しに米兵達は喉を干上がらせる。
が、ソレをドローンは出力しない。
人海戦術。
ドローンが一体幾らするのか知らないが、既に数万単位で消費されたソレはしかし尽きぬ泉の如く彼女の行く手を遮り、破壊され、フレンドリーファイア前提で爆破され、相手に手間を取らせ続けていた。
『分かっているじゃないか。米軍も……精神は何も変わらない。苛立たせて判断力を奪う。人命を使わず、決してこちらに利を与えない。卵の将軍もよくやる……』
男の声は徹底的な合理主義を貫き。
強襲してすら1人の人間も殺せていない事に驚きを禁じ得なかった。
最初から三沢の司令部に生きた人間は1人も務めていなかったのだ。
全てドローンで何処からか人間によって操られていた人型。
それも通常の人間にしか見えないように偽装されていた。
元々、彼らBFCが創ったアンドロイド系の技術ではあったが、真っ当に人型として研究が重ねられた跡が見られ、通信が途絶してもオートで動く。
それも最初から四騎士やBFCの襲撃に備えて、あらゆる通路や隔壁が魔力を遮断あるいは伝導して逃がすような作りとなっており、対爆、耐圧、対熱、耐衝撃能力は折り紙付き。
ついでとばかりに空間を越えようとすると。
BFCが遺していた嘗て生きていた頃の四騎士などの転移に備える為の妨害用機材が基地を囲むように配されており、彼らが転移で基地中枢に入ってから作動される始末。
つまり、徹底的な対策で逃がさぬ為の檻と基地は早変わりしたのだ。
『だが、やはり、こちらが身を切って来るとは考えていなかったようだな。生きている君を留められる程の戦力はさすがに用意出来なかったか』
「当たり前だ。もうすぐ此処の中核。必ずアレを我らBFCの下に!!」
彼女が4つ目の広場を抜けて地下の最終層に隔壁を刳り貫いて突入。
地下430m地点。
通路は爆破されたドローンと刳り貫かれた隔壁の跡で埋め尽くされているが、其処は金属の箱が多重に積まれた倉庫のようになっていた。
「ッッ、あの男!?」
『あっははは!!! 本当に嫌がらせが好きだな。どの箱にも魔力を漏らさぬ遮断薬剤が塗布済み。ついでに頑強に作ってあるのか!! まったく、彼の探すのに苦労させようという健気さは乙女並みだな』
「ならば、全て破壊する!! 頚城は運用者さえいれば、破片からでも再生するのだからな!!」
鉄腕が瞬時に掻き消える。
巨大な箱が密集してあちこちにタワーを作っている現場が次々に砕かれて嵐のように巻き上がり、内部から次々に何かが零れた。
『避けろッ』
その警告に彼女の姿がブレる。
そして、瞬時に今まで通って来た刳り貫かれた通路の内部へと姿を現した。
「アレは―――」
彼らの目の前で箱から零れたものがザラザラと落ちていた。
透明な粒子だった。
まるで硝子の粒にも見える。
だが、違う。
よく見れば、それは薄暗がりのような黒曜石のような黒さと内部に星々の煌めきを鏤めたような輝きを有している。
『米軍もよくやる……こんなものを……量産していたとは……』
「ッ、どうする!? コレは……ッ、コレだけは我々は……」
『参ったな。“命の砂”をこれ程の量で貯蔵していたとなれば、どれだけ連中は……クローニングで間に合う量なのか? その空間の容積のほぼ限界まで箱に詰めてあるとすれば……』
「こんなところで足止めされているわけにはいかないと言うのに!!?」
『まだ、
「……いいだろうッ!! 市長の為だ!!!」
彼女が意を決した様子で粒子が未だに舞う中に躊躇無く突入した。
「砕けろぉおおおおおおおおおおおおお!!!!」
機械椀が霞んで消える。
巨大な倉庫状の内部にあった金属製の箱が紙でも千切ったかのように細切れになりながら、大量の粒子を噴出させ、内部は完全に黒曜石のような煌めく輝きを宿した粒子の充満で宇宙の如く染まってしまった。
その数秒後。
彼女の姿がヌッと室内から粒子の濃度が低い刳り貫いた通路に戻ってくる。
「ッ―――ぐ、かは?! ぐ、が、ぐうぅぅううぅう?!!」
まるで毒に藻掻き苦しむ人間のように女が自身の装甲を掻き毟る。
もう片方の腕でガリガリと胸元を引っ掻きながらビクビクと陸に揚げられた魚のように躰を跳ねさせて脂汗を流す。
『此処に無いとは……三沢以上に安全な場所があるはずもないが、これだけの罠を仕掛けておきながら頚城を移動させた? いや、北海道にコレと同規模の施設は無い。他の米軍基地にもだ。密かに運び出したとて、反応をいつまでも隠し続けられるわけもない……まさか、米軍に適合者が?』
男の声は女の耳にも届いていた。
まるで彼女の苦しみを理解しない呟き。
『しまったな……此処で無駄な時間を使わせられた。それと君のとっておきだが、頚城連中に逃げられたようだ。ただ深手は負わせた。追撃すれば、ほぼ確実に捉えられるが……此処での時間のロスが痛い』
溜息が零された。
『鎧が無いとなれば、探さねばならないが、南極はもう持ち去られた後。北極は市長の策が動いている途中。あの卵の将軍を追い掛けるならば、大西洋だが……頚城の場所を探し出すには恐らくまた数日は掛るだろう。このままニューヨークで裏切り者を始末してから探す手もあるが、どうする?』
「どいつも……」
『?』
「こいつも……」
『言いたい事は分かるが、往々にして現実は理想を裏切るものだ』
「何故、分からん!! 何故、理解しない!! 市長の方法だけが人類を絶滅から救い!! 人類を永劫に繁栄させ続ける事が出来るものだと!!?」
女が苦しみながらも汗を浮かべて怒りに吠えた。
『凡人と衆愚とは民草の別名と歴史は語る。フランス革命が気高い思想のままに完結したかね? 黒人解放が本当の黒人の奴隷的な扱いの完全解消になったかね? キリストが気高くとも、キリスト教の十字軍の行いは気高かったかね? そういう事ではないかな』
「クソォオオォォオ!!!?」
『理性を失うな。市長の教えだ』
「くッ……私のアレはまだ使えるか!!?」
『ああ、少し修復は必要だが』
「北米だ!! 北米にアレを向けろ!! あの二つの都市にアレを仕掛ける!!」
『理由を聞こう。何を目的にする?』
「米軍が大西洋中心に動いているのならば、騎士団の目が北米に動いている間に事態を進めようとするはずだ。奴らの目的はユーラシア遠征の成功。遠征に必要なものは頚城の大本たる鎧。そして―――」
『そうか。四騎士は今動けない。なら、これ幸いにと各地の秘匿戦力が動き出すわけだ……』
「我々を迎撃出来る設備はさすがに三沢だけ。ならば、連中は喜望峰航路で戦力を日本に集結させる為に動き出す。それを叩き潰されそうになれば、どうする?」
『例の太平洋航路は二都市が存在していてこそ使えるわけか。航路が使えなくなれば、戦力の移動は難航。代えが効かない戦力を護る為にはどちらの都市を護るにも鎧を持ち出さざるを得ないと?』
「もし見捨てるならば、ユーラシア遠征は頓挫する。善導騎士団の戦力はこの状況では代えが効かない。ソレは同時に奴らの希望が、人類の希望が打ち砕かれる事と同義だ」
『卵の将軍も見過ごせないわけか』
「騎士団に全てを持って行かれても連中には後が無い。世界を滅ぼした責任を取れなければ、関係者が吊るし上げられる未来しかないのだから」
『……いいだろう。北米、ロス、シスコへの投入を決定する。我々はその合間にニューヨークと航路襲撃で二手に別れようか。どちらを希望する?』
「言い出したこちらが襲撃に行こう」
『良いだろう。では、裏切り者の始末はこちらで付ける』
女の機械椀がギシギシと軋みながらも真上を向いて霞んだ。
途端、頭上から地表までの全ての隔壁と土砂が貫徹され、その内部断面はツルリとして砕ける様子も無く。
消失した質量もまた周囲に散らばる事は無かった。
飛び上がった女が三沢上空2000mまで上昇するのに20秒も掛からず。
襲撃を受けた基地はまるでゴーストタウンならぬ静けさに朝から包まれていた。
全ては真夜中の夢の如く。
局所的な地震が三沢を震源に十回以上周辺地域を振るわせてはいたが、微細な振動であった事や日本政府に米国が何も告げなかった事で事件は正しく無かった事になったのだった。
*
セブン・オーダーズがニューヨークに向かってから2日。
朝から褐色美少女を夢に見た朝霧黒亥が彼女の要請で実績作りとやらに同行する事になってから数時間後。
東京本部の頭上にある巨大駐車場では隊員達による息抜き企画。
東京グルメ大食い大会が開かれていた。
『おっとぉおおおおお!? 巨大オムライスの黄金色なバターライスは食べれば食べる程に重たくなる魔の一品だったぁあぁ!? 濃厚さを更に際立たせる香辛料がパンチを効かせ、今や挑戦者達はグロッキー寸前だぁあぁあ』
その中心となるステージには今や一般隷下部隊の隊員はいない。
彼らを押し退けてデッドヒートしているのは二人の白黒のメイド服に身を包んだ純正メイドさんとコスプレメイドさんであった。
『スゴイ!! スゴイ勢いだあぁああぁ!! メイドさんが二人!! メイドさんが二人のみで巨大オムライス&チーズドリアを平らげていくうぅぅぅ!!?』
彼女達の前には8人前の卵とバターライスとチーズと肉の塊があった。
脇にチキンソテーが濃厚デミグラスソースと共に盛られており、皿の半分には厚切りベーコンがゴロゴロ入ったグラタン風チーズドリアが存在感を主張している。
ドリアの中に入れられたマカロニが水分を吸ってより重く濃厚になる中。
ベーコンの油がチーズにも米にも沁み込めば、もはや胃袋はヘヴィー級のパンチを喰らったかのような衝撃でノックダウン寸前であろう。
常人ならば、確実に途中でギブアップ。
隷下部隊の殆どが棄権して大人しくテイクアウトするやら横でゆっくりと仲間や家族で突き始める中、二人のメイドさんは正しく激突していた。
先に肉から片付けるカラフルな髪に瞳のコスプレメイドさんの胃袋は鋼か。
それを追撃する純正っぽいメイドさんは肉よりチーズと米を先に掻き込んでいるのにまったく顔色が変わらない。
両者にカメラが向けられており、司会者はテレビ局の有名アナウンサーであった。
二人のメイドさんの横ではタレントと大食いチャンピオン連中が軒並み死んだ魚の目になって自信を失っている。
『善導騎士団大食い選手権!!!』
テレビ番組の大食い企画に騎士団がゴーサインを出したのだ。
だから、全国放送になったのだが、一般の参加者達が軒並み8人前と言いながら実質20人前くらいありそうな巨大オムライス&チーズドリアで撃沈している。
その横で正規の参加者である隷下部隊は善戦しつつ、格の違いを見せつけた。
のだが、それも霞む速度で飛び入り参加のメイドさん達が雌雄を決していた。
これはどれだけ隷下部隊の人々が健康で健啖な肉体を持っているかを示す為のプロパガンダであったはずである。
大食い女王だろうが大食いタレントだろうが魔導や各種の技術で身体能力を底上げされている隷下部隊の食欲には敵わない。
というのが副団長貴下の秘書達の筋書きであった。
が、それも善導騎士団東京本部糧食部門の誇る騎士団食堂の料理人達にはまったく笑ってしまう程に甘かった。
彼らは真面目な料理人で魔術師で魔導師で遺伝子科学の専門家で食材の生産者で同時にまた最適な料理を研究し続ける料理研究家であり、来るべきユーラシア遠征においては騎士団の胃袋を陰陽自衛隊の料理人達と共に全て引き受ける事になっている超人料理系サイエンティストだ。
今なら仙丹だって作れちゃいそうという形容に偽りは無い。
人間の限界を超える医薬品の創造主でもある彼らは正しく医食同源を体現する肉体管理のスペシャリストであった。
そんな彼らが騎士団の命令で『大食い用の美味いメシを創れ』と言われたのだから、彼らは真面目に作るに決まっていたではないか。
その準備は数日前から始まっていた。
『あ、肉の生る樹。Ver変わったんですね。おめでとうございます』
『はは、お待ちかねの特上サーロインと改良した骨芽細胞製の牛骨だ。いやぁ、新人のおかげで高級系お肉の量産が捗っちゃってさぁ』
『それは良かった。遺伝資源の採取に飛び回ってるとか聞きましたが』
『そうなんだよ。先輩は研究、こっちはフィールドワークで遺伝資源を稼いで貢献しますって研究室に寄り付かなくって。はは』
『良い新人さんですねぇ……(また耐えられなかったのね)(`・ω・´)』
彼らは合成蛋白質を用いて最高級の牛サーロインを狂気の肉の樹木から生み出しては研究者と握手し。
『バターに合う香辛料? ああ、あるよ。元々はイギリスのお菓子作り用にって注文されてたもんなんだけどさ』
『ああ、コレですコレ。よくありましたね。種』
『いやぁ、世界中に採取ドローン派遣して今、香辛料になる植物の遺伝資源を回収してるんですよ。これもそれも陰陽自研様々で』
『そうですか。彼らも自分の研究のお供の種類や味が増えて喜びますよ』
『でも、この香辛料随分と品種改良されたもんで』
『え? そうなのですか?』
『ええ、遺伝資源の改良技術が飛躍的に早くなったおかげで1週間で新品種が出てここ最近だと30種類くらい従来の香辛料の香りが向上したり、また独特の別の香りになったり、とにかく種類も質も量も増えました。全部一度に降ろされるので現場は嬉しい悲鳴ですよ』
『スゴイですね……(ソレ単に新品種選別するのメンドイから現場に投げたんじゃ)(`・ω・´)』
バターライス用に北米から最新研究の成果である香辛料を輸入し。
『こんにちわ~~善導騎士団です』
『ああ、お話は伺ってます。今朝搾りたてのミルクです。どうぞどうぞ』
『いやぁ、この牛舎もすっかり変わりましたね』
『ええ、乳牛の乳以外は出荷しなくなりましたから』
『廃牛もいなくなったんでしたか?』
『ええ、子供が生まれなくても妊娠状態を維持出来るようになりましたし、肉用の牛も筋線維や内臓の一部をほんのちょっと針の先で抜き取って再生すれば、良くなりました。同じ肉質の肉が騎士団さんの合成蛋白質の増殖プラントで造れるようになったのは大きいですね』
『そう言えば、使い魔さんも働いてますね』
『ええ、牛さん美味しそうって言うので毎日プラントから直接持ってきた肉を食わせてるんですが、牧羊犬には大き過ぎますかね。モフモフでイイ匂いではあるんですが、娘が毎日乗り回すのでハラハラしてて』
『3mは大きいですよねぇ』
『はい。でも、前からやって来ていたヴィーガン崩れに二重の意味で批判される事が無くなりましたよ。ははは』
『それは良かった………(そのヴィーガン、牧羊犬=サンのお腹の中に収まってない?)(`・ω・´)』
搾りたての乳脂肪分の高いミルクからバターを作り。
『野菜取りに来ました~~』
『はーい。あら~~騎士団さん。こんにちわ』
『はい。こんにちわ。おばあちゃん』
『野菜なら朝採れのが横にあるわよ。いやぁ、朝から大変ねぇ。こんなに大量のお野菜必要だなんて何かイベントでも開くの?』
『実はウチで大食い大会がありまして』
『んまぁ!! そうなの!? じゃあ、これとこれとこれとこれとこれも持って行きなさいよ!! 日本を。いや、世界を護って貰うんだもの。精を付けて貰わないとね♪』
『あ、ありがとうございます………(89歳でHMP20本育てるとかバイタリティすげぇ)(`・ω・´)』
牛骨と野菜のスープとじっくり炒めた玉ねぎで白米を焚き。
『料理長!! 米4000kg焚けました』
『料理長!! チーズ3種、完璧に仕上がりました』
『チーズ出来るの早いわね。え? 今回のにブルーチーズなんて使ったかしら?』
『いえ、実は試作したらコレが一番美味くて』
『この短期間でどうやって生やしたの?』
『陰陽自研が保存食用酵母や発酵用の菌類を幾つも試作してまして。その中で一番今回の料理に合いそうな菌を貰って来たんです。ちなみに2時間で3年熟成したような味になるんですよ。科学ってすげーっすよねぇ……』
『そう、味見してから良さそうならGOサイン出すわ……(それ大丈夫? 食べられる?)(`・ω・´)』
バターと同時に造ったチーズを3種類も配合し。
『料理長~~ベーコン燻し終わりました~~』
『はい。ご苦労様。ん? 桜のチップって指定したはずだけど、違う感じね』
『ああ、はい。試作した時、さくらよりもこちらのチップを使ったら、グンと深みが増しまして』
『ああ、そうなの? で、ソレ何のチップ?』
『実はHMPの刈り取った端材を加工したもんなんですよ。ソレに香辛料をプラスしまして』
『そうなの? ホント、良い薫り……』
『いやぁ、何か急速成長させて農業地帯を整備する時に成長促進剤の量を間違えた人が結構いるらしくて。各地で大樹化したHMPが茂り過ぎないように造園業者に頼んで刈り込んで貰ってるところが多いんです。この端材何かに使えないかって言われてよく燃える上に匂いも良かったので。燻製用チップに加工したらって話をしてたら、いつの間にか製品化されちゃいました。ちなみに何を育てているかで薫りが全然―――』
『そう、副業も程々にね………(ウチの厨房が知らない間に新規事業開拓させてる)(`・ω・´)』
サーロインで作ったベーコンを燻製にして炭火で焼き。
『料理長!! 採れたて卵が農家さんから届きました!!』
『そう、さっそくふわとろに仕上げなきゃね。ん? 何か3倍くらい卵大きくない?』
『あ、はい。ソレ実は契約農家さんの品種改良された鶏の卵でして』
『品種改良?』
『陰陽自研で卵一個当たりのcalと大きさの向上を目指して通常の鶏に遺伝改良用の遺伝子導入剤を注入する実験が行われてまして』
『え、大丈夫ソレ?』
『大丈夫ですよ。ウチの上層部の一部の衣服に大陸から持ち込んだコカトリスの羽が使われていたらしく。ソレから抽出した肉体を大きくする遺伝子を注入。今じゃ立派な鶏だなぁと地域で注目の農園になってるそうです』
『そ、そう。その鶏ってどんなの?』
『ほら、コレです。いやぁ、1mの鶏とか初めて見ましたよ。あ、横の12mの鳥さんは使い魔でコカトリス化した鶏を管理してる鳥のボスらしいです』
『餌代どうしてるの?』
『何でも雑食な上に雑草が好みらしくて。人の手が入らない山の枯れ枝や枯れ草や繁殖力の高い葛とか特定外来指定生物とか。とにかく、そういうのを大量に喰ってくれるらしいので重宝されてるとか。毒とか寄生虫も受け付けなくて、フンもすぐに発酵して土に還るので荒れた野山の救世主らしいっすよ』
『そ、そう……(それ本当に鶏卵って言って出していいのだろうか)(`・ω・´)』
朝採れの卵とミルクでフワフワ半熟トロットロの膜を生成し。
『フゥ……ようやく完成ね』
『はい。では、最後の盛り付けに取り掛かりますね!!』
『感激です!! ようやく我々の努力が実を結ぶんですね!!』
『オムライスとドリア。夢のコラボですよ!!』
ドリアとして皿の片方は艶やかに焦がし、片方はフワフワ卵のオムライス。
『鳥肉灼けたよ~~魔術は早くていいわ~~~』
ソテーした鳥肉はジューシーでありながら、皮面からカリカリに仕上げた。
『デミグラスも良い具合に仕上がりました!!』
デミグラス・ソースは40種類の野菜を煮溶かした傑作。
『時間は美味しく食べられる40分ってところですかね』
腹を空かせた騎士団の大食い層がギリギリ食べ切れるかどうかという分量を見極めて制限時間まで設定した。
『完成です!!』
『これ食堂の定番メニューにしましょうよ!!』
『いいっすね!? ソレ!!』
卵とチーズの黄色と白も美しいオムライスとチーズドリア。
その傑作料理を前にして多くの騎士団員が。
『コレ大食いじゃなく。ゆっくり食べてぇなぁ』
とか本音を漏らしそうになったのは言うまでもない。
なので、隷下部隊の隊員達が完食出来なくもないけど、世間的にタレントや大食いチャンピオン達に気を使って制限時間内は無理そうだからリタイアという選択肢を取る最中。
参加者全員に振舞われるという事で実績作り前の昼食にしようと丁度やって来ていたクロ達がイベントに参加した事は何も問題無い事に思われた。
だが、それもアリア。
リト専属なメイドさんが猛烈に食べ始めるまでだ。
『!!!!』
何でも美味しいモノに目が無いとの事。
だが、その横に偶然にも並んだ普通っぽい純正に見えるメイドさんがまた同じように強烈に食べ始めた事で番組はあらぬ方向に進んでいた。
『今、両者が最後のスパートを掛けました!! 何と言う事でしょうか!! あれだけの量があった巨大な皿の上の城が今や砂上の楼閣の如く崩れていきます!!』
二人は互いの事をチラリとも見ていないし、それどころか番組に映されているというのにカメラを寸分たりとも見ない。
スプーンとフォークが踊り、肉と米と卵とチーズが無くなっていく。
『二人のメイドさんのスプーンが霞んでいます!! これが善導騎士団の実力なのか!! 騎士団にメイドさんがいるというのは正に初耳の話ですが、此処ならば何があってもおかしくない!!』
これはきっと騎士団が用意した人選だろうとアナウンサーが煽る間にもリト、エレミカ、見知らぬイケメンの好青年と一緒に完食を前提に皿を突いていたクロは『喰い終わったらインタビューされる前にメイドさん回収しなきゃなぁ』とベーコンを齧っていた。
「それにしてもあっちのメイドさん。誰なんだろ?」
「あ、彼女は僕の連れだよ。いや、正確には僕達のだけれどね」
「え? おにーさんの?」
「ああ、こっちで重要任務があるって九十九に言われてね」
「そーなんすか。大変っすね」
「いやいや、僕なんて唯の料理人だから」
「え? おにーさんが?」
「ああ、実はコレでも陰陽自の厨房じゃ、ちょっと認められてるんだ」
「スゴッ、あそこって世界の凄腕料理人が軒を連ねてるんでしょ?」
クロは食べ切れないなぁという顔で三人で完食出来るかなぁと参加するか悩んでいた時に一緒に食べないかと誘って来たイケメンを見やる。
自分よりも年上で明らかに好青年。
とにかく歯が白くて嫌味が無い。
何処からどう見てもアイドルだったら、にーさんと慕われそうなレベルの人の良さそうな穏やか二枚目系の彼を青少年がスゴイ人だなぁと見つめる。
「世界が平和になったら、料理人志望に戻るかもしれないけど、今は陰陽自で愉しくやってるからね。しばらくはあそこで自分にしか出来ない仕事をするつもりだよ。あるいは世界が滅ぶまでかもしれないけれどね」
「あはは、そりゃ杞憂だ」
「ほう? そう言い切れるのかい?」
「ええ、オレ知ってますから」
「知ってる?」
「例え、世界が滅んでも……例え、人類が滅んでも……諦められそうにない人達の事を……」
「ッ……そうか。君は随分と良い人達に囲まれてるんだね」
「そうかな。そうかもしれませんけど、実感は無いっすね。師匠は弟子の心が分からないスパルタ式ですし、一般隷下部隊で幼年部隊より温いって言われますし、未だにどっかの部隊に配属される気配も無いですし」
「君、不死者系の変異覚醒者だろ?」
「へ? 言いましたっけ?」
「いや、言わなくても分かるよ。喋ってれば何となくね。不死者系の能力者には結構特徴があるから。ま、君なら大丈夫さ。だって、死なないって事は生きるって事だと理解してるようだから」
「え、ええと……済みません。オレ、含蓄無くて……」
クロがよく分からないという顔になる。
「いいよ。今は奇妙な年上の納得って感じていればいいんだ。それよりも君と話したい子達からこれ以上愉しいお喋りの時間を奪うのは得策じゃないようだ。僕はちゃんと頂いたからこれで。また、後で会おう」
「あ、は、はーい」
イケメンが食事は終わったとばかりに空の取り皿を持って皿を返す行列へと向かって行った。
「(。-`ω-)……」
「あ、おーい。何でそんな膨れてんだよ~リト」
「あのおにーさんと愉しそーだなーって思っただけ……」
リトが僅かに頬を膨らませて、モクモクとスプーンで口にオムライスを運んでいた。
「あ、お話終わった? アサギリ・クロイ」
「エレミカ。お前は……結構食ったな。つーか、頬にソース付いてんですけど。お前子供じゃないんだから、これくらい自分で拭けぅて。しょうがねぇなぁ。ほら、拭ってやるから、ちょっとこっち向け」
「ひゃふ? あぅ」
グニグニとナプキンで子供のように口の周りにソースが付いた褐色少女が綺麗にされていく。
それを見たリトが益々膨れる事になり、何をコイツは膨れているのだろうと乙女心の分からない夢の魔術師は首を傾げるばかりであった。
「って、うわ?! 半分以上無くなってる!? あのにーちゃん。結構な健啖家だな……会話しながらどうやって食べてんの? 騎士団は今日も不思議が一杯過ぎるでしょ」
そう三人がイケメンによって丁度三人が食べ切れる量になったオムライス&チーズドリアを完食する頃になって、ようやく勝負が付いたアリアが急いで戻ってくるのだった。
「お、メイドさん。勝負の結果はどうだった? テレビ局来る前に逃げないと面倒になるから、さっさと行かないとな」
「アリア。手のソレ何?」
「!!」
メイドさんの手には何やらパスカードらしきものが握られていた。
「ええと、『善導騎士団東京本部食堂10年間無料パスポート』……ってコレ食べ放題って事?!」
「!!」
メイドさんが得意げに胸を張る。
「す、すげー……十年間とか。ええと、裏に何か書いてある。1枚で4人前まで朝昼晩夜食無料。ただし、全部完食する事。完食しなかったら、パスポートは自壊します? マジかよ」
「アリア。美味しかった?」
「!!!」
その主の言葉に大喜びのメイドさんがブンブンと頷いた。
「これで食費浮いた? いや、殆ど食堂の無料メニューで食ってたけど、これからは無料じゃない方の豪華セット系メニューも食えるのか……」
結局、ホテル住まいなのは変わらない為、少年はリトとメイドさんとエレミカを連れて、テレビ局のクルーが自分達を探し始めるのを横目にイソイソとその場を後にする。
リトの力はオンオフ出来るようになった頃から範囲を絞る事も可能となった事で今では隠密作戦に対応出来るような制御が短時間可能となっていた。
百式ちゃんが彼らの網膜にMHペンダントや複数の装備品を媒介にして投影するAR情報が彼らを本部の奥深くへと誘っていく。
数分でエレベーターから地下の中層にやってきた彼らが案内されたのは車両通行用の人気の無い通路に置かれた二両の黒武。
その一台に乗るようにとの指示であった。
「マジで黒武がある……操縦スキル無いのにどうすんの?」
『百式ちゃんが一部のプログラムをCPブロックの機能に写して自動操縦します』
巫女服少女が虚空に現れて肩を竦める。
「ああ、そういう事ね。って、これからぶっつけ本番で虚兵乗るとか。やっぱ、無理ゲーじゃないっすか?」
『講師と頼もしい仲間を招集しました』
「え?」
彼らが乗るように指示された黒武の中から先程まで彼らと一緒に食事を取っていたイケメンが現れる。
「また会ったね」
「あ、おにーさん。てー事は……もしかして?」
「僕とキャサリンさんは九十九側からの招集を受けたんだ。頼もしい仲間を紹介しよう」
そうイケメンが言うと内部から少女達が出て来る。
「何だ。セブン・オーダーズの方々じゃないか。はは、やっぱコレは夢……」
フラッとしそうになった少年を慌ててリトが支える。
「九十九に招集されました。緋祝明日輝です」
「緋祝悠音よ。へ~~これがウチで一番死にそうにない変異覚醒者か~」
「説明間違ってない?!」
思わずAR空間上の百式を振り返るクロであったが、ニコリとされる。
「出撃しなければ、不滅の変異覚醒者です。死なないですから」
「今、遠回しにディスられたよね?! オレ!?」
「ニュヲ~~」
「?」
クロが声のした方を見やると蒼い子猫がいつの間にかリトの肩に乗っていた。
「蒼い猫?」
「ニュヲ~~ニュニュヲ~~」
「あ、ニュヲったら、済みません。この子、興味のある人にはすぐじゃれつくので」
「え、ええと、その大丈夫、です」
リトが少し硬くなりながらもそう明日輝に頷いた。
心無しか嬉しそうなのは蒼猫が自分の頬に頬を摺り寄せて来るからだろうか。
「!!」
アリアも何処となく嬉しそうにその仄々する様子を見守っている。
「申し遅れたね。僕は加賀谷芳樹。セブン・オーダーズに入ったばかりの新参者だ。よろしく」
黒武の中から先程までメイドさんと大食い勝負をしていたメイドさん。
キャサリンが出て来て、クロ達に頭を下げた。
「ミッツァと申します。今は皆様のお世話をさせて貰っています。これからよろしくお願い致します」
「あ、は、はい!!」
華麗に一礼してみせる春風のような笑みのメイドさん(喋る、動く、怒らない)に始めてメイドってこういうのだよねと感動した様子になったクロがチラリとアリアを見た。
その視線に何か感じ取ったのか。
喋らない方のメイドさんはジト目でクロの背中を見るのだった。
「こっちで招集されたのは僕ら5名だ。明日輝さん。悠音さん。ミッツァさん。僕。その蒼い子猫のニュヲ。もう1人日本にいる子が今はアフリカに転移でちょっと出かけてる。実質的に分隊指揮は僕が出す事になるから、よろしく」
「あ、は、はい」
クロが芳樹と握手する。
「君達の方のチームの内訳も聞いてる。僕は現場で戦闘指揮を。明日輝さんはCPでオペレーターとしてその補佐を。前衛としては悠音さんが出るよ。ミッツァさんは魔術師技能があるので黒武で後方からの観測手に徹してもらう」
「分かりました。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「ちなみに五名って言いましたけど、その子が?」
「ニューヲ?」
「ああ、この子は明日輝さんの傍に付いていて貰うけど、危なくなったら……まぁ、助けてはくれるんじゃないかな」
「そ、そっすか……」
詳しい事も聞けず。
取り敢えず頷いたクロが今回の実績作りそんなに大変なのかよと百式を見やる。
「作戦は百式ちゃんが立ててくれたから、僕ら2分隊1個小隊で動くよ。指揮車両が二つあるけど、指揮技能があるのは僕だけだから、僕が外に出ている間は実質的にHMCCによる動く観測攻撃拠点扱いかな」
「助かります。このメンバー指揮出来るのがいなかったので」
「君と悠音さんが主攻、エレミカさんが助攻、僕が助攻と指揮官役。CPブロックの機能はこっちで統合して、メインオペレーターは明日輝さんにお願いするよ。リトさんは明日輝さんと一緒に戦闘指揮用のデータを扱って現場に伝えるノウハウを学んで欲しい」
「え、あ、ぅ、は、はぃ」
すっかり借りて来た猫のように小さくなったリトがそのイケメンスマイルで少しだけ話し易くなった様子でコクコクと頷いた。
「え、ええと、メイドさんは?」
「!!」
アリアは自分に何か役は無いのかと訊ねたそうに芳樹を見た。
「アリアさんは一般隷下部隊のフル装備で黒翔に乗って貰って、拠点の防衛役と遊撃手役を担って貰う。色々なところでお手伝いしてくれる人って事かな」
「!!」
大いに結構とウンウン頷きが返る。
「さて、話は纏まった。百式ちゃんお願い出来るかな」
『分かりました。では、これより二分隊による掃討作戦を開始します。この通路は現在特別に貸し切っており、結界内部へと直結する為の術式方陣を用意してあります。黒武に乗って武装をフル装備で10分以内に装着して下さい。虚兵及び黒翔の使用はこちらでサポートします』
「じゃあ、みんな、怪我が無いように頑張ろう。まずはお試しでどの程度出来るのか。それを見せて欲しい。みんなの技量に応じてプランに少しずつ修正を加えて、一番良いポジショニングを見付けよう」
もはやリーダーの風格。
自分はこう成れないなぁと素直に感心するクロはコレが主人公属性というヤツかと芳樹の仕切る様子に大きく頼もしさを覚えたのだった。
「ニュヲ~~」
そんな最中も我関さずの蒼い子猫はエレミカやメイドさんの肩にひょいひょいと飛び乗っては可愛さを振り撒き、仄々時空を展開していた。
そんなソレの瞳が自分を見ていた事を少年は知らない。
煌めく七つ星を宿す瞳が何を見ていたのかをまだアサギリ・クロイは知る由も無かった。