「何や酷くやられたんやない?」
「……油断はありませんでした」
荒野の中。
少女が一人。
法衣を着込んだ小さな太ももを馬上に乗せていた。
白い鎧の騎士がコキコキと己の首を確かめるように動かしながら、馬を先へと進ませる。
夜明けの最中。
未だ米国の監視衛星が24時間体制で見張る巨大なクレーターの中心部。
彼らは上空から見えない巨大な大門の前に辿り着く。
砂が吹き付ける明け方の冷たくも熱され始めた空気。
その渇いた大気は荒涼としていたが、門はまるで粘性を持ったように黒く蠢き。
ウジュウジュと扉の中心部を泡立たせていた。
「今日はお父様に報告なんよ」
「熱は……無いようですね……」
「ウチ、良い子よ?」
「ええ、違いありません。まだまだ戻って来ないと思っていましたが、こんなにも早くお帰りなのですから。ですが、理由はお聞きしましょう」
「あのなぁ」
ギィィィィッと。
まるで古びれた木製の扉が軋むような音を立てて、扉が開く。
途端、巨大な黒い風が吹き出し。
否、その魔力の暴風に少女と騎士が取り込まれていく。
「ウチ、お友達が出来たんよ……ふふ」
「そうですか。それは良かった。あの方もお喜びになるでしょう。先に行っていて下さい。他の者達も心配しておりました。お早いお帰りならば、皆喜ぶでしょう……さ、お早く……“あの連中”に捕捉されかねません」
「どうかしたのん?」
「……奴らを未だ残る国家に嗾けると……昨日、連絡がありました」
「お仕事大変やの?」
「それなりに……少し身体を慣らしてから参ります」
「ほな、また」
「はい。お気を付けて……我らが姫君……世を滅ぼしたる頚城よ」
再び同じ音と共に扉が閉まる。
そして、黒の暴風の奥底から巨大な白い閃光が幾重にも幾重にもまるで仙人掌か、あるいはハリネズミの如く荒野に数km単位の放射状の跡を刻み付ける。
「……フン。懲りぬようだな。だが、その屍もまた我らが戦力だ……永劫に仕えよ。ボクらは逃げも隠れもしない……いつでも歓迎しよう」
白滅の騎士の名に恥じぬ一撃はまた砂の中に犠牲者を埋葬していく。
やがて、その地の底から肉体の何処かしらを焼き潰された……渇き切った腕が付き出した。
―――ァア゛ァゥ゛ゥア゛アゥアウアウァ゛ウ゛ア゛ウア。
黒く蠢く門の周辺地域より湧き出したソレはゆっくりと北上を開始する。
その先にある都市から来たはずの褐色のデジタル迷彩服を身に纏う男達は来た時とは違って、ただ渇きを癒す為、走り出した。