異世界の騎士、地球に行く   作:Anacletus

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第82話「晴れ後曇り時々」

 ベル達が病院に入り浸るようになってから2日。

 

 一時は危篤状態とも言われていた生存者二人は順調に回復し、自身の力で歩けるまでにはなっていた。

 

「軽……重くは感じねぇけど、何つーか疲労が……」

 

「これって……」

 

 シスコにおいて研究が進められているゾンビ義肢……正式名称がZ-001型義肢と呼ばれるようになったソレは重さも大きさも今までよりもスリムになって軽い仕様であり、人間の両腕としては2倍くらい重いという事を除けば、殆ど問題は出なかった。

 機能回復訓練として院内で歩かせられたカズマとルカ。

 

 二人が最初に感じたのはそのあまりにも高機能な腕の性能の高さであり、同時に自分の生身の部分が付いていけないという事実だった。

 

「エヴァン先生。これ疲れてしゃーねぇーんだけど」

 

 訓練室の壁に背を凭れさせて、缶コーヒーを嗜んでいたエヴァ・ヒューク。

 

 善導騎士団の関係者“エヴァン先生”という事になった雑な隠蔽にげんなりした彼はカズマとルカを其々に眺めて、義肢としての性能の高さが逆に生身の脚を引っ張るという今まで考えもしていなかった状況に溜息を吐く。

 

「仕様だ。慣れろ」

 

 日本語もペラペラな彼の言葉にカズマもルカも微妙な顔をした。

 

 しかし、そもそも高性能な自分の血肉が通った四肢を貰っておいて文句を言うのも違うかと只管に歩いたり、軽くランニングしたりとまるでジム通いする学生みたいな運動をし始める。

 

 病院付きの医者や専門の人員も驚く程の運動量。

 

 それが数日前に四肢を失くして死に掛けていた者の姿とは思えず。

 

 もはや魔法の域だと2人を見に来る医者や看護師がちらほらといた。

 

「どうですか? お二人の具合は」

 

 エヴァの横にヒューリがやって来て、ルームランナーで軽く流している二人の背中を見つめながらエヴァに訊ねる。

 

「見ての通りだ。元々の肉体が若い上に君達の魔術具で治癒の術式を掛けながら筋肉を適度に疲労させつつ、繋げた場所の細胞を馴染ませている最中……数日もすれば、違和感も消えるだろう」

 

「そうですか。良かった……」

 

「だが、あの少年の方は要注意だ。体表も体内の温度も極めて高い。肉体を冷やす魔術具無しで運動すれば汗を掻いても恐らく数分で茹で上がる」

 

「……そうですか」

 

 二人が眺めている合間にも二人が予定の距離をランニングし切り、スポーツドリンク片手に汗をタオルで拭ってエヴァの方へと戻ってくる。

 

「あ、ヒューリアさ~ん」

 

 エヴァの横にヒューリを見付けた途端、微妙にニヤケ面でカズマが寄って来る。

 

「カズマさん。どうですか? 具合は?」

 

「すっげーいいぜ!? ただ、ちょっと疲れるってだけで」

 

「問題無さそうなら、後数日で退院。その後の事は安治さん側から通達があるそうなので」

 

「そっか。そういや、教官今日見てねぇな?」

 

「カズマさん達の処遇に付いて東京の市ヶ谷や霞が関を回っているそうです。皆さんが襲われた一件は数日後に発表になると。それと今日の夜にカズマさんに関してはご家族の話もあるそうです」

 

「……そっか。そうなるんだな……」

 

 僅かにカズマが瞳を俯ける。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ああ、いいんだ。そもそも何を話すかは分かってる」

 

「え?」

 

「助けられた時、言われたんだ。オレの家族……いや、あの師団にいた連中の家族が東京の災害の件で死んだとか。怪奇な事件に巻き込まれたとか」

 

「―――済みません」

 

「何で謝るんだよ。オレはヒューリアさんにすっげー感謝してるんだぜ? 善導騎士団が東京の危機を救ってくれたって教官も言ってた。それでも大きな災害になったって事は……滅んでたっておかしくなかったんだろ?」

 

「カズマさん……」

 

「あいつらの家族の事は気になるし、色々と教えて欲しい事はあるけどさ。でも、全部オレ達が回復してなきゃ話にならねぇだろうし……今はさっさと復活する事に命を掛けるぜ!!」

 

 拳が突き出された。

 

「命は掛けなくていいですから、ちゃんとお休みもして下さいね?」

 

「オーケーオーケー」

 

 二人の様子を見ていたルカが微妙に声を掛けるタイミングを逸した様子でどうしようかと無言だった。

 

 だが、訓練室の外から声が掛かって、すぐにそちらを向く。

 

「皆さん。具合は如何ですか?」

「ぁ、ベルさ―――」

 

 入って来たベルにヒューリが声を掛けるより先にルカが歩き出して、その前に進み出る。

 

「ベル君」

「ルカさん。義肢にはもう慣れましたか?」

「うん。もう大丈夫だと思う」

「そうですか。良かったです……」

 

 少年に声を掛けそびれたヒューリが微妙な顔で何やらウズウズした様子になる。

 

「あ、ヒューリさん。八木さんと詰めてたんですけど、壁の建造ラインが決定しました。今日の夜半からロス・シスコ式で壁を一括で形成して関東を封鎖します。今はライン上を自衛隊が確認してる最中だそうですから、夕方には一度壁際になる海辺に向かう事になります」

 

「分かりました。シエラ・ファウスト号の出港準備は?」

 

「もう終わってます。それからフィー隊長からクローディオさんが来られるようになったと。仕事が終わったら東京湾で迎える準備をしましょう」

 

「さすがベルさんです♪ じゃあ、夕暮れ時までは自由時間ですね」

 

「はい。今の内に買い出しと―――」

「マヲ?」

「クヲ?」

「この子達用の寝床に毛布とか色々用意しましょう」

 

「あ、すっかり忘れてました。マヲー。クヲー。今までどうしてたんですか?」

 

「マヲ?!!」

「クヲ?!!」

 

 いつの間にか自分達の名前が勝手に安直極まりなく決められている事に猫ズが物凄い衝撃を受けた様子で少年のポケットの内側から出した顔を固まらせた。

 

「ええと、その……それってこの子達の名前ですか?」

 

「はい。鳴き声が独特ですし、ハルティーナさんに名前をどうしようか聞いたんですけど、ベル様の使い魔だから、ベル様にお任せします、と。あ、ベルさんが何か付けたかったですか?」

 

「あ、い、いえ……ちょ、ちょっと素直過ぎるかな~~と?」

 

 ちょっと、汗を浮かべて自分の使い魔の為にオブラートに包んだ抗議を上げる主に二匹が涙目でキラキラした瞳を向ける。

 

「では、マヲートとかクヲートとか? マヲノシンとかクヲノシンとか」

 

「マ、マヲ?!!」

「ク、クヲ?!!」

 

 プルプルと二匹が『ウチらどんな名前を付けられてしまうん?』という震えた様子であまりネーミング・センスには恵まれなかったらしい生みの親の片方に戦慄した。

 

「シロとかクロも安直ですし、やっぱりマヲーとクヲ-でいいんじゃないかな~と(汗)」

 

 仕方なく妥協したというか、鳴き声そのままで呼ぶ事にした少年の一声に全てが決まった。

 

「じゃあ、これから二人はマヲーとクヲーという事でいいですね? お二人とも」

 

「マ、マヲー(もうどうにでもなれという顔)!!?」

「ク、クヲー(これが人間のやる事かよぉという顔)?!!」

 

「オイ。魔法使いの使い魔だか何だか知らないが、此処は病院だぞ? ペットは禁止だ」

 

 誰も突っ込まなかった事をエヴァが取り敢えず突っ込む。

 

「動物じゃなくて使い魔ですから、問題ありません。ね? マヲー、クヲー」

 

「マ、マヲ(ルールを守らない片親の世間知らずさを見て見ぬフリする使い魔の鑑的な顔)?」

 

「ク、クヲ(これが世間知らずな元お姫様の真の実力かと目を逸らす使い魔の鑑的な顔)?」

 

 そんな事をやっている間にも突如として少年の懐から現れた猫ズにカズマとルカが傍に寄った。

 

「お、ぉ~~人間の言葉が分かる使い魔とかファンタジーだなぁ。なぁ? こ、こいつらって触っても噛まないか?」

 

「え? はい。二人とも大人しい子なので」

 

 カズマの問いにベルが応える。

 

「……可愛い子達だね。ベル君」

 

 そろ~っとカズマとルカが人差し指で猫ズの顎の下や頭を撫ぜる。

 

「マ、マヲ~~(媚を売るのは仕事じゃないんだけどなぁという顔)?」

 

「ク、クヲ~~(職場の使い魔使いはブラック過ぎるという顔)?」

 

「では、僕とヒューリさんはこれで。リハビリ、頑張って下さいお二人とも。エヴァさんはこの子達とお二人をよろしくお願いします」

 

 媚々の猫達が妙にわざとらしく人間の望み通りの仕草やらをして早く終わってくれという内心を汗にして浮かべる。

 

 少年がそれを横に見つつ、カズマとルカに二匹を渡してからエヴァに任せ、ヒューリと共にその場を後にした。

 

 病院を歩く傍ら少女は隣の少年にチラリと視線をやる。

 

「何かあったんですか?」

「……やっぱり、ヒューリさんには隠し事は出来ませんね」

 

「何となくベルさんなら、あそこでいつもなら歓談していくんじゃないかなぁと」

 

 少年が夏の蝉が窓越しに鳴くのを聞きながら、少女に真面目な顔を向ける。

 

「UWSAからシエラ・ファウスト号の返還要求がありました。これに対して一応、さっき返してきたところです」

 

「え?!」

 

「あ、僕が内部で見付けた時の情報を元にリスティア様の金属塊以外の全ての設備を原子変換込みで復元したものを造って、基地の広い場所に安置しただけですけど」

 

「吃驚しましたよ!? もう!!」

 

「あはは、済みません。でも、あちら側はこれで何も言えなくなったはずです」

 

「で、でも、あんなに大きな船をどうやって? さすがに家一軒分の体積よりは大きいですよね? 部品毎に組み上げたら、物凄く時間が掛かるんじゃ……」

 

「あ、それはですね。コレです」

 

 少年が何やらパンフレットらしきものを差し出す。

 

「ええと、ぷりんたー?」

 

「はい。八木さん達が昨日、色々と艦内に機材を持ち込ませて欲しいって言ってたのは聞いてたと思うんですけど、実際に今日搬入した中に面白いものがあって……その原理を聞いたら、これなら僕にも出来るかなって」

 

「?」

 

「ええと、それがコレです。コレを参考にしたんです」

 

 少年が最新技術と書かれた欄にあるプリンターを見せる。

 

「3Dぷりんた-?」

 

 少女の見る面には丁度、金属部品を小さな液体状の金属を少しずつ外部に出力し、積み上げるように構成している機械が映し出されていた。

 

「はい。色々なものを創る時に僕は今まで大きなものを一括形成したり、小さなものを少しずつ形成して外でくっ付けてたんですけど、この機械は小さなものを大量に粒々で外に落して、大きなものを創るんだそうです」

 

「それでシエラ・ファウスト号みたいな大きなものを創れるんですか?」

 

「はい。要は一度に造らず、小さな粒状にして外部とポケット内の境目でくっ付けて内部処理時の資材使用量を減らしたんです。これなら外に出る時は完全な一体成型ですが、内部にある時は流動化した単なる資材なのでポケットと外部を繋ぐ面に出力される体積分の資材を随時造っていれば、大きなモノでも造る事が可能です」

 

「それって……つまり小さなパーツをポケットの面でくっ付けてパーツが組み上がった状態のものを造ってるって事でいいんでしょうか?」

 

「はい。理論上、時間さえあれば、分子1個分の膜から物体の面を造れるので凄い大きさのものでも時間さえあれば。さすがに資材を事前用意していないと原子変換なんかの複雑な工程がいる作業とは一緒に出来ないんですけど」

 

 言っている合間にも病院の外に出た彼らを迎えるように不可視の結界で覆われた巨大物体。

 

 シエラ・ファウスト号が病院から数百m先の山間部の上に滞空していた。

 

 キャンプ場から此処まで既に戻って来ていたのだ。

 

 専用の術式を通さねば見られない巨大な威容は即座に少年達の上まで来る。

 

 少年と少女が魔力電池で動魔術を使い、上空へと跳び上がって甲板に着地すると既にハルティーナが待っていた。

 

「ベル様。UWSAから陸上に返されても困ると日本政府にクレームが来てるそうです。八木さんが話をしたいと」

 

「じゃあ、海に運ぶ時はこの国の法律と機材を用いた時に掛かる金額を請求させて貰いたいと返答しておいて下さい」

 

「……いいのでしょうか?」

 

「はい。リスティア様の事を言って来ないという事はあちらも負い目があるという事です。相手が無言になるまで正論を押し付けておきましょう。今はあっちに構ってる暇もありませんし」

 

 少年と共にハッチ内部。

 リスティアの入った金属塊の前まで降りた時。

 

「(ベルさんが……何だか違う方面で逞しくなってる気がします)」

 

 ヒューリはそうポツリと何だか強くなった気がする少年へ聞こえぬよう呟いた。

 

 ―――とある在日米軍基地。

 

「………(・ω・)?」

「………( ゚Д゚)?」

「………(・∀・)?」

「………(´ω`)?」

 

「こんなとこにビルなんてあったか( ´∀`)・ω・) ゚Д゚)・∀・) ̄ ̄)´_ゝ`)?」

 

 その日、少年の()()()()()()垂直に直立して基地駐車場に埋められたタイフーン級を見た多くの将兵達は現実を理解するまで若干の精神異常を来たしたかもしれないと医務室に精神安定剤や睡眠薬目当てで押し掛ける事になったのだった。

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