後悔も反省もしていない!!
俺の名前は上杉風太郎。
数年前にようやく、チャイルドマインダーの資格を取得し、この春で年長組を担当することとなった。これは、そんな俺の仕事の話である。
「…また付いてきてますよ。上杉先生。」
ありゃ?さっき確認したばかりなのになぁ…。
?「〜♪」ダキッ
こらこら、抱きつくんじゃありません。
はぁ…。ウチの保育所には、少し変わった子たちがいる。見た目だけでは、俺には到底わからない五人組。親御さんによると本当に一卵性の五つ子らしい。
「誰だっけ?武田先生。」
俺が武田先生に聞くと、俺に抱きついている女の子がプクーと頬っぺたを膨らませて抗議をする。うん。本当にわからないの。
「気づいてあげましょうよ。こんなことするの。1人しかいないじゃないですか?」
「一?二?」
「なんでピンポイントで外すんですか…。ヒントその1、いつも上杉先生にべったりです。」
…いつも俺にべったり…?
「…わからん。次。」
「ヒントその2、39です。」
…39?さんじゅうきゅう…さんきゅー…サンキュー!!いつも感謝ばっかしてるのは…。
「お前、四葉かっ!?」
「どういう発想ですかっ!?…今のは語呂合わせですよ。最後のヒントです。ヘッドホン。」
…あー。
「お前、三玖か。」
「…フータロー、サイテー。せっぷく。」
なんでっ!?
「…いつもの流れですね。見飽きました。」
武田先生よ。見飽きるってなぁ…。見せたくて見せてるわけじゃありません。
さて、今、俺に抱きついているのは三女、中野三玖。
五人の中で大人しい子ではあるが、警戒を解くために一度、お喋りや遊んであげたりしていたら、すごく懐かれてしまった。抱きつくのは良いけど、ヘッドホンが痛いの。それ外して、三玖ちゃん。
「…なんてったって、三玖ちゃんは上杉先生のお嫁さんになる子…ですからねー。」
「…フータロー。せっぷくか、けっこん。どっちがいい?」
…なにその、究極の二択。そして、武田先生よ。ワクワクした目でこちらを見るな。
「…はいはい。結婚、結婚。」
…ままごとでもしてやれば、満足するでしょ…。
「…じゃ、じゃあ…。」
と、園児服に手をかけ、服を…。
「…待て待て。服を脱ぐな。」
「…え?だって、けっこんしたらおとなは、はだかであそぶっておとーさんが…。」
なに教えてんの!?中野家のお父さん!!
「それにフータローならいいっておかーさんが…。」
なにを!?ねぇ、なにが良いの!?
「…あの、お取り込み中のところ恐縮ですが…もう、時間ですよ?上杉先生。」
…もうそんな時間か。
「ん。わかった。行くぞ。三玖。」
「…フータロー、だっこ。」
…ったく。なんでこんなに甘えてくるのか…。終始、俺に抱きついてるはずなのに、手を広げて『抱っこ抱っこ』とせがんでくるのはこの子と四つ目ぐらいだ。然も、あの悪リボンは突進してくるのでなおのこと、タチが悪い。
「はいはい。行くよ。」
「みゅ〜♪」
抱き抱えてやると満足気な声を上げる三玖。
武田先生もその後ろからついており、道中、園長先生である武田先生のお父さんや、前田先生に笑われてしまったが、そんなことはどうでも良いと俺は自分の組の扉を開ける。
「おはよー。」
「あー!!」
会って早々、両方の髪を蝶々のリボンで結んだ女の子が声を上げる。
「え、えーと?」
「…なんで、こんだけ一緒にいて見分けがつかないのか…。逆に感心しますよ。上杉先生。この子は二乃ちゃんです。」
あー!!うん!!わかってた!!わかってたぞー!!
「…嘘ですね。」
と、武田先生。
わかってた。先生、わかってましたよ。
「だめよ!!フーくんをひとりじめしちゃ!!」
「いいもん!!わたしはフータローのおよめさんなんだから!!」
うん。違うからね?
「はぁっ!?なにそれ!!じゃー!!わたしもフーくんのおよめさんになるもんっ!!」
完全にトリップしている次女と三女の図である。
「ですって♪上杉先生♪」
「こらこら、喧嘩しないの。」
確実にわかったのは、武田先生はこの状況、楽しんでやがるってことだ。つうことで、足を踏んでも悪くない悪くない。
「いっ!?…。」
「ほら、三玖、降りろ。仕事ができん。」
武田先生の抗議の目を無視しつつ、俺は未だ俺の腕を独占している三女に話しかける。…というか、限界だ。保育士になるってんで、体力はわりかしつけた方なんだけどなぁ…。
「やだ。ここはおよめさんのとっけん。」
…そんな言葉、どこで知った。
「…退かないとお嫁さん、失格だぞ?」
「やっ!!い、いますぐどくっ!!」
毎日、朝はこんな感じだな。
もっと酷い時は職員室に五つ子が全員、突入してくる。そして、俺の横をいち早く取るのが三玖か、四女の悪目立ちリボンだ。
「さ、全員いるか、確認するぞ!!」
「て言っても、ウチは五人だけですからねえ。」
そうなんだよなぁ…。
ちっちゃい保育所だし、周りに保育所は腐るほどあるし、下は一杯いんだけど、ここだけ五人…。最早、武田パパの悪意を感じる。
「じゃあ、中野一花!!」
「…すやぁ…。」
「あはは…。これもいつも通りですね。」
…あんの野郎!!
「怒らない怒らない。一花ちゃん?起きたら上杉先生からご褒美が 「おはよっ!!」 はやっ!!」
長女よ。それで良いのか…。そして、その他の奴ら、寝に入るんじゃない。
「全く…。なんもやんねえよ。」
「むぅ〜。フータローくんのいじわる。」
わかりやすくむくれるお姉ちゃんである。
出席確認だけでそんな時間とられてたまるか。
「次、二乃。」
「なーに?フーくん♡」
…呼んだだけだが?
出席確認になにもヘッタクレもあるか。
「次、三玖。…三玖?」
あれ?座ってない。
「…上杉先生。回れ、右。」
…回れ……ヘッドホン。
「きゃっ。みつかっちゃった。」
いつ、俺の後ろに立った?
「席に座りなさい。それと俺の服を持つな、シワになる。」
「…だっこ。」
さっきまでしてたよな…?もう、先生、腕が限界なの…。
「後でな。次、四葉。」
「うーえーすーぎーさーんー!!」
朝から元気な悪目立ちリボンよ。
…何故、走ってくる。
「ぐはっ!!」
そして、何故、飛びついてくる。
頭が鳩尾に入ったんじゃないか?耐えられるレベルだけど…。
「…死ぬ。」
「やっ!!い、いったいだれのせいですか!?」
「お前だ!!悪リボン!!」
俺がリボンを掴むと四女、四葉は「きゃー!!リボンだけはやめてー!!」と足をバタバタさせて逃げようとしている。一つ言いたい。
お前のリボンには神経でも通じてんのかッ!!
「二人とも、席に戻れ。」
「だっこ。」
「三玖がいいなら、わたしもしてほしいです!!」
この甘えん坊達が…。
「後でな。最後、いつ…ッ!?」
「ありゃりゃ、どうしたの。五月ちゃん。」
武田先生が最後の一人、五月に駆け寄る。なにやら五月の様子がおかしい。いや、進化しようとしている訳ではないが…。いつもは礼儀正しく座ってるのに今日は机に突っ伏している。
「どうしたっ!?なにがあったっ!?」
これは非常事態である。俺も確認をやめて、五月の元へ駆け寄る。
「お、おなかが…。」
いつも四葉と一緒に天真爛漫な笑顔でいる五月だが、少し冷や汗をかいているように見える。
「どうしたっ!!腹が痛いのかッ!!良し、直ぐに医務室に運ぼう!!武田先生ッ!!五月は俺が抱き抱えて、医務室へ!!」
————————-おなかがすきました…。
「さぁて、武田先生。」
今日は何しようかな(無視)
「うわぁぁぁん!!むしはひどいですー!!」
「はいはい。五月ちゃん。おひるまでがまんしようね。」
一花お姉さんが腹ペコ末っ子ちゃんの頭を撫でている。
…心配して損した。
「うえすぎせんせい。」
「うえすぎさん!!」
「フータロー。」
「フーくん。」
「フータローくん。」
五人は「今日はなにするの?」と上目遣いで聞いてくる。勿論、みんな、笑顔だ。
「…そうだなぁ。今日は——————。」
大人が二人いて、五つ子が目を輝かせる…そんな毎日。
…そんな些細な日々が本当に幸せなんだと…俺はこの子たちに感じさせられたかもしれない。今、俺の周りでお昼寝をするコイツらを見ると、それを1番…感じるんだ。
反響が大きかったら、続編書きます。
シリーズモノにします。
短編集的なものを考えてます。ネタ帳ね。多分。
では、また。
ではでは〜。
幼稚園編、見たいのは?
-
誕生日
-
お祭り
-
旅行
-
プール
-
風太郎のお泊り編、又は、五つ子のお泊り編