それから、私は少年に知らない山に連れて行かれた。
途中、疲れたと伝えたら抱きかかえてくれて、ほんのりと温かい体温を感じた。
鬼でも、体温は温かいんだ、と思いながら少し眠ると、山に付いたらしい。
「ほら、もう歩けるでしょ。立って」
そう言うと、小さな小屋に連れて行かれた。
なんだか暗くてどんよりとしていたけれど、雨の匂いがして落ち着いた。
ーーー「いいかい、君は今日から僕の家族だ。今日から、僕の妹だ。」
不気味なくらい穏やかな声色でそう言われた。
ーーーその日から、少年ーーーいや、累さんが私の家族となった。
* * * * * * * *
ーーーあれから、半月程が経った。
私はまずお風呂に入れられ、髪を切られ、綺麗な着物を着せられて、あの小屋から出ないよう言われた。
累さんが綺麗な着物やかんざし、美味しい食べ物、全て用意してくれた。
家族がどういうものかあまり分からないけれど、累さんは私が頼めばいつも抱きしめてくれた。
はじめに頼んだ時は酷く動揺したあと、おずおずと抱きしめてくれた。
ほんのり温かい体温になんだか安心して、毎日抱きしめてほしいとねだった。
始めの一月は殴られたりもしたけど、二月目で抱きしめてほしいとねだったら、暴力をふるわれることはなくなった。
3ヶ月が経つころには累さんは着物やかんざしなどを私にくれるようになり、4ヶ月経つと名前をつけてもらえた。
芹(せり)、そう名付けられた。
うれしくて泣いたら、累さんは抱きしめてくれた。
これが家族というものなのかも、と思った。
それからは本当に楽しい日々だった。
累さんはとても優しくて、温かかった。
はじめは累さんに恐怖心しか抱いていなかったけど、あの日抱きしめてほしいとねだって良かった。
私は、累さんのことが大好きになってしまった。
だから、着物や口の端に血がついていても、見てみぬふりをした。
女の人のごめんなさいという叫びが聞こえても、決して小屋の外には出なかった。
だって、累さんと一緒に、いまのまま幸せな生活が続いてほしかったから。
だから、そのことには触れずに、日々を過ごした。
「累さん、累さん、おかえりなさい。抱きしめて」
「もちろんいいよ、芹。」
いともどおり、ほんのり温かい体温。そして、少しの血の匂い。
「…累さん、大丈夫?つかれてる?」
そう聞くと、累さんは微笑みながら、頭を撫でてくれる。
「最近、この山を妙な奴らがうろちょろしているんだ。
でも、大丈夫。お前は僕が守ってあげるよ。」
「私も、累さんを守るよ。累さんだけは、命をかけても守るよ。」
そう言うと、抱きしめてくれた。
何を思っているのか、わからない。
ただ、なんとなく、嫌な予感がした。