ーーーその日は、どんよりとした曇り空が広がっていた。
私は曇りは嫌い。
だから、なんだかこの日は嫌なことが起こるんじゃないかって予感がしていた。
ーーー朝に、お魚を焼いて、お米を炊いて、昨日作った煮物を食べた。
累さんは、珍しく来なかった。
いつもなら私が食べるところを愛おしいと言って見つめてくれるはずなのに。
ーーー昼になっても、累さんは来ない。
なんとなく食欲がわかなくて、お昼ごはんは食べなかった。
いつもなら、累さんとお話しをして、一緒のお布団てお昼寝をする頃なのに。
ーーー夜になっても、累さんは来ない。
いつもなら、夜にどこかへ少しだけ出かけている累さんをおかえりって出迎えて、ただいまって累さんが笑顔で帰ってくる。
それで、私が抱きしめてほしいってねだっていた。
一日のこと、ご飯のこととか、天気のこととか、お昼寝のときに見た夢とかの話しをして、それで、それで、それでーーー。
(いつもなら、それが、当たり前の筈なのに。)
ーーー待って、私、今なんて思ったーーー?
いつの間にか当たり前になってた?
こんなに幸福で夢みたいな生活が、当たり前?
今まで、何かしたら暴力をふるわれて、何もしなくたって殴られて。
まるで、生きていること自体が罪だとでも言うようにこき使われてきて。
そんな中、救ってくれたのは誰?
ーーー(累さん)
そうだ、両親を殺されたのに悲しくなかったのは、あの人達が私のことを自分の子供だと思ってないのと同じで、私もあの人達のことを親だと思っていなかったからだ。
累さんに、救ってもらえた。
累さんが、私に家族を教えてくれた。
累さんが、私を愛してくれた。
累さんを、私も愛していた。
累さんが、私に会いに来ないなんて、何かあったのかもしれない。
会いたい。
累さんが、心配だ。
ーーー『小屋から出ては行けないよ。約束だ。』
ーーーごめんなさい、累さん。
累さんとの約束は、絶対に破らないって決めていたのに。
累さんに貰ったかんざしを外して、帯につける。
キレイに結わってくれた髪は解いて、お水を一口口に含んで、ごくんと飲むと同時に古くきしんだ扉をガラリと開けた。
明かりがなくて真っ暗だし、道なんて見えないけど、なんだか累さんは北にいると思って北に進んでいった。
はじめは歩いていたけど、不安になってかけていった。
(累さん、早く、会いたいよ。抱きしめて。)
走っていると、黒い服を着て刀を持った人が話しかけてきた。
「おい、子供じゃないか。どうしたんだ?」
「…急いでるんです、すみません。」
そういうと、人の良さそうな笑みを浮かべて抱きしめてくれた。
「鬼から逃げているのか?大丈夫、君を保護してあげよう。」
ーーー何故だか無性に苛ついて、気づいたらその人を突き飛ばしていた。
「累さん以外が、私を抱きしめないで!!」
そう言って、また走り出した。
ごめんなさい。心配してくれたのに。
でも、今はそんなことどうでもいい。
だって、むかしから私は勘が鋭かった。
私の嫌な予感は、いつも当たっていた。
ーーー「累さんっ!!!!」