鬼に育てられた少女   作:ねみのや

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鬼・累君視点です。


第6話

 

ーーー「累さんっ!!!!」

 

愛おしいあの子の声を聞いて、瞬時に糸で自分の首を斬った。

泣きながら駆け寄ってくる芹を抱きしめたい衝動にかられながらも、鬼狩りとその妹に殺意を覚える。

芹に人を殺すところは見せたくないから、一度芹を小屋に戻してからこの2人を刻もう。

 

「累さんっ!!累さん!!」 

 

僕のために、泣いてくれている。

先程鬼狩りの妹が鬼狩りを庇っていたが、きっと芹だったら僕だって身を呈して守るし、芹もそうするだろう。

 

そんなことをぼんやりと考えながら、糸でキリキリと首を持ち上げる。

 

「…芹、泣かないで。死んでないから」

 

僕の言葉に、芹は鬼狩りを射殺さんばかりの視線で睨みつけるのを止め、振り返った。

その目には涙がうるうると溜まっていて、僕を見た途端またボロボロと泣き出した。

そんな芹を愛おしく思うと同時に、殺されそうになったという怒りが湧いてくる。

 

「僕は自分の糸で首を斬ったんだよ。お前に斬られるよりも先に」

 

苛々しながら首を持ち上げ、身体につける。

 

「…ーーー累さん!!」

 

思わず、と言ったように安心したような笑顔で此方に駆け寄り、抱きついてきた。

僕は芹の頭を撫でながら、抱きしめ返す。

 

「約束を破ってごめんなさい。どうしても、累さんに会いたかったの。」

 

そんなふうに言われたら、怒るに怒れないだろう。

 

それに、芹が生きていてくれれば、その約束は意味がない。

だから、そんなことはどうだっていい。

芹の頭を撫でながら、芹に言葉をかける。

 

「いいよ、約束なんて。芹が生きていてくれれば、それで充分だ。」

 

そう言うと、涙が止まらないとばかりに号泣しだした。

大げさな子だ。

 

ぱっと涙だらけの顔を上げ、笑顔で芹は口を開けた。

 

「累さん、大ーーー」

 

 

好き、そう言おうとしたのだろう。

いつの間にか、景色が逆さになった。

 

ーーーえ?

首を、斬られた?

ーーー僕、死ぬの?

せっかく芹をーーー本当の家族を手に入れて、まだ半年なのに。

許せない。許せない。殺してやる。

僕の邪魔ばかりする屑共め…!

 

 

 

 

ーーー芹の瞳が、絶望したような暗さを灯した気がした。

芹を見て、苛立つ気持ちは不思議と消えて、代わりにーーー

 

 

 

 

 

 

 

『累はなにがしたいの?』

『母さん』が泣きながら尋ねてきた。

 

答えられなかった。人間の頃の記憶がなかったから。

本物の家族の絆に触れたら記憶が戻ると思った。

自分のほしいものが分かると思った。

 

 

 

ーーー(そうだ、俺は…

 

 

俺はーーー)

 

 

* * * * * * 

 

体が弱かった。生まれつきだ。

走ったことがなかった。

歩くのでさえも苦しかった。

 

 

ーーー無惨様が、現れるまでは。

 

『可哀想に。私が救ってあげよう』

 

両親は喜ばなかった。

 

強い体を手に入れた俺が、日の光に当たれず、人を喰わねばならないから。

 

村のある男を殺して喰った。 

そうしたら両親は絶句して、父親は『なんてこをしたんだ、累…!!』と言って 立ちすくみ、母親は泣き崩れた。

 

 

ーーー昔、素晴らしい話しを聞いた。

 

川で溺れた我が子を助けるために死んだ親がいたそうだ。

俺は感動した。

なんという親の愛。そして絆。

 

川で死んだその親は見事に"親の役目"を果たしたのだ。

 

 

 

 

ーーーそれなのに何故俺の親は俺を殺そうとするのか。

 

母は泣くばかりで、殺されそうな俺を庇ってもくれない。

 

偽物だったのだろう。きっと。

俺たちの絆は。

 

本当じゃ、なかった。

 

ーーー両親を殺した、満月の美しい夜にそんなことを考えながら夜空を眺めていた。

 

 

ーーー『……』 

 

(何か言っている。まだ生きているのか…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『丈夫な体に産んであげられなくて…

ごめんね……』

 

その言葉を最期に母は事切れた。

死んだ。

 

 

ーーー『大丈夫だ累。一緒に死んでやるから』

 

殺されそうになった怒りで理解できなかった言葉だったが、父は、俺が人を殺した罪を共に背負って死のうとしてくれていたのだとーーー、

 

その瞬間唐突に理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本物の絆を、俺はあの夜俺自身の手で切ってしまった。

 

 

ーーー無惨様は俺を励まして下さった。

 

『全ては、お前を受け入れなかった親が悪いのだ。

己の強さを誇れ。』

 

そう思うより他、どうしようもなかった。

自分のしてしまったことに耐えられなくて。

 

たとえ、自分が悪いのだと分かっていても。

 

毎日毎日父と母が恋しくて堪らなかった。

偽りの家族を作っても虚しさが止まない。

結局俺が一番強いから誰も俺を守れない、庇えない。

強くなればなるほど人間の頃の記憶も消えていく。

 

自分が何をしたいのか分からなくなっていく。

 

俺は何がしたかった?

 

どうやってももう手に入らない絆を求めて。

 

必死で手を伸ばしてみようが、届きもしないのに。

 

ーーー「累さんっ!!」

 

酷く愛おしい声、姿。

それと同時に感じる、温かい陽の光のような優しい手。

 

 

 

 

思い出した。

はっきりと。

 

 

僕は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー謝りたかった。

 

ごめんなさい。

全部全部僕が悪かったんだ。

どうか許してほしい。

 

「でも…山程人を殺した僕は…地獄に行くよね…。

父さんと母さんと…同じところへは…いけないよね…。」

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー「一緒に行くよ。地獄でも。」

 

ーーー「父さんと母さんは累と同じところへ行くよ。」

 

 

 

ーーー嗚呼、

 

「…芹、…って、ます」

 

ありがとう。ありがとう。

愛してるよ。恋しいけど、もう行かなくちゃ。

 

「い、いってらっ、しゃい…!!いって、らっしゃい…っ!!!

 

 

 

 

 

 

 

ーーーお兄ちゃん…!!!」

 

ーーー血が、繋がってなくても、たとえ過ごした月が半年でも、絆は、本物になる。

それを教えてくれたのは、芹だ。

 

ありがとう。ーーー芹は、僕の自慢の妹だ。

 

 

ーーー「さいご、の、おく、もの…。愛、してーーー」

 

そう呟いて、鋼よりなにより硬い強度の糸を固めた石を、置いていった。

何か、芹に残したかった。

 

 

 

 

「私も、愛してるよ…。お兄ちゃん。」

 

 

 

ーーーなんて、幸せな最期なんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

ーーー父さん、母さんに抱きつく。

 

涙が、溢れてくる。

 

 

 

 

「全部僕が悪かったよう…!ごめんなさい!!」

 

赤い業火に、包まれていく。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい…っ!!」

 

ーーー芹。

 

「ごめんなさい……!!」

 

愛してる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー(いって、きます。芹…)

 

 

 

 

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