ーーーキュインッ!!
ーーーガッ!!
金属がぶつかり合う音がきこえた。
いきなりのことに、かなり困惑する。
ーーー蝶の髪飾りを身に着けた、優しそうなお姉さんが刀を向けて突進してきたのだ。
それを、クソ男が受け止めた。
「あら?どうして邪魔するんです、冨岡さん」
冨岡って言うらしい、お兄ちゃんを殺したクソ男は。
刀を構え、私…いや、竹のくちかせを加えたお姉さんと、優しいお兄さんを守るような体制をとっている。
「鬼とは仲良くできないって言っていたくせに、何なんでしょうか。
そんなだからみんなに嫌われるんですよ。」
刀を構え直したお姉さんは、整った顔に笑みを浮かべたまま、そう言う。
「さぁ冨岡さんどいてくださいね」
刀をクソ男に向ける。
すると、クソ男が真顔で口を開いた。
「俺は嫌われてない」
その場が、ピシッと凍りついた。
大真面目な顔で何をいうかと思ったら、先程の言葉への否定だった。
「…ああそれ、嫌われている自覚がなかったんですね。
余計なことを言ってしまって申し訳ないです。」
お姉さんが形の良い眉を下げて嘲笑うように口にする。
「…私は嫌い」
私がそう言うと、またまたピシッと空気が凍りついた。
お姉さんはなぜか私に対してニコニコと微笑みかけてくるし、クソ男はギョッと目を見開いて私をガン見してくるし、優しいお兄さんは固まってしまった。
「…坊や」
「はいっ!!」
お姉さんは優しいお兄さんに呼びかけ、呼ばれたお兄さんは硬直していたのを戻し返事する。動けないのに、元気な返事だ。
「坊やが庇っているのは鬼ですよ。危ないですから離れてください。」
ヒソヒソと内緒話をするように話しかけるお姉さん。
優しいお兄さんは焦ったように否定の言葉を紡ぐ。
「ちっ…!!違います!いや違わないけど…あの、妹なんです!俺の妹でっ、それで、」
そう言うと、お姉さんは眉を下げて、哀れんだような顔でこう言った。
「まあ、そうなのですか可哀想に。ではーーー」
とても、穏やかで優しい声だった。
「苦しまないよう優しい毒で殺してあげましょうね」
ぞくり、と背筋が冷たくなった。
穏やかで、綺麗で、優しそうな笑みを顔に浮かべたこの人は、なんだかとても恐ろしく感じた。
優しそうに、慈悲の笑みをたたえたお姉さんが、殺すだなんて言ったのが衝撃的だった。
「……」
優しいお兄さんは絶句して、顔を青くしている。
優しいお兄さんにクソ男が動けるか、と聞く。
「動けなくても根性で動け。
妹を連れて逃げろ。」
「!!冨岡さん…」
そう言うと、優しいお兄さんは竹のくちかせをくわえたお姉さんを抱えて走り出した。
「すみません、ありがとうございます!!」
私はその様子を、ただ見ていた。
「これ、隊律違反なのでは?」
お姉さんは、刀を肩にとん、とあてニコニコしながらそういった。
* * * * * * *
ーーー「鬼を斬りに行くための攻撃は正当ですから、違反にはならないと思いますけど、冨岡さんのこれは隊律違反です。」
お姉さんは冨岡さんに担がれ、動けないよう固定された状態で話し続ける。
「鬼殺の妨害ですからね。どういうつもりなんですか?」
「……」
「何とかおっしゃったらどうですか?」
お姉さんはニコニコと笑顔のままだが、額には青筋が浮かんでいる。
ギリギリとお姉さんを締め付けつつもクソ男は口を開いた。
「あれは確か2年前…」
「そんな所から長々と話されても困りますよ、嫌がらせでしょうか。
嫌われてると言ってしまったこと根に持ってます?」
それを聞いたクソ男は、ピシッと元々固い表情がますます固くなる。
そこでグッとお姉さんが抵抗し、靴のかかとから刃が出てきた。
仕込んでいたんだ。ここまでの会話はこの時のためのものだったんだろう。
お姉さんは足を振りかぶり、クソ男の顔面に直撃ーーーと思ったら、
「伝令!!伝令!!カアァァ!!」
とカラスが喋った。
もう一度言おう。
カラスが、喋った。
「そんなだからみんなに嫌われるんですよ」