死がふたりを分かつまで   作:ナイジェッル

12 / 31
第08戦:オリジナル個体

 勇士の魂ではなく、より優秀な魂、肉体を選別して保護するというこの世界の戦乙女(ワルキューレ)の在り方。その存在意義にスルーズは嫌悪を抱くわけでもなく、ただただ受け入れ、納得はしていた。

 既に終末を超えたこの世界に勇士を集め、兵士にする理由がない。そもそもこの世界には勇士たらんとする人間が極めて少ない。戦う相手も人材もいないのなら、人をより存命させることが神霊ブリュンヒルデの決断であれば、その手足となる戦乙女(ワルキューレ)もそれに従うのは道理だ。

 世界が違えば歴史も変わる。歴史が違えば戦乙女(ワルキューレ)もまたその変化に合わせて有り様を変えるもの。

 しかし、寂しいものだともスルーズは思う。

 

 「この程度で戦乙女(ワルキューレ)とは笑わせる」

 

 そう吐き捨てるスルーズの足下には折り重なる大量の量産型戦乙女(ワルキューレ)。オリジナル個体の一機であるスルーズと量産型とでは性能そのものが異なる。特に数を揃えて一体一体の精度がオリジナルに劣る量産型が、そう易々とスルーズに敵うわけもない。

 

 「確かにこの世界には勇士となる人間はいない。だからこそ物量を重きにおいて製造された戦乙女(ワルキューレ)。私達のような汎人類史のオリジナル機体よりも性能がディチューンされているのは致し方ないですが、それにしてもこの体たらく」

 

 仮にも高い神性を持つ半神だろうに。原初のルーンを搭載されている存在だろうに。この戦力差でスルーズ一体満足に破壊もできないとは肩透かしもいいところだ。

 

 「識別把握。情報所得完了。個体名スルーズ。異世界の姉妹機、恐らくはより高度な戦乙女(ワルキューレ)タイプと断定」

 

 まだ倒れていない戦乙女(ワルキューレ)は変わらぬ表情でスルーズを解析する。この力の差、そして大量の姉妹たちが倒されているこの状況で顔色一つ変えない辺りは流石戦乙女(ワルキューレ)。その機械が如き冷静さは此方と何も変わらない。

 

 「シグルドの方はすでに無力化が終えている。私も遅れるわけにはいきません」

 

 別に競い合っているつもりはないが、出遅れているという事実はスルーズにとっては些か気になるもの。力の差を見せつけられている気すらするので、いちいちこのような雑兵相手に手こずってはいられない。

 その思いこそスルーズの慢心であった。

 

 「「「捕縛式、作動」」」

 「!?」

 

 残った量産型戦乙女(ワルキューレ)三体が即座に魔術を行使する。この魔力量は、おそらく大魔術クラスの詠唱。本来ならば数節に渡る詠唱が必要のハズだが、彼女達は腐っても戦乙女(ワルキューレ)。原初のルーンは詠唱行使が必要な大魔術すらシグナルアクションで行使する。それを三体同時。これは、拙い。

 スルーズの足元に浮かび上がる魔法陣。これを本能で危険と判断したスルーズは空を駆ける回避行動を取ろうとする。しかし時すでに遅し。その魔法陣からは大量の鎖が飛び出し、スルーズの足に絡み拘束する。

 

 「くッ……」

 

 一体だけの拘束術式ならばスルーズとて対応できる。高い対魔力を有しているのだからどれほどの大魔術であろうとも無力化は可能。しかし三体となれば話は別だ。より強固な魔術式になり、注がれる魔力量も単純計算で三倍。

 

 「私ともあろう者が油断するとは」

 

 実に情けない。こんな姿はシグルドに見せられない。戦乙女(ワルキューレ)の品位を傷つけかねない失敗である。どうか今このタイミングでこちらに合流しようと近づいてくるなよとスルーズは強く願ったが、それを空気読まずぶち壊してくるのがあの男。

 

 「(あの男、こちらまで近づいてきている……!!)」

 

 大方全ての敵を一掃したのだろう。シグルドはあれほどあった魔力反応のほとんどを無力化し、残存勢力が残るスルーズの居場所まで近づいてきている。このままではこの痴態を目の当たりにされる上に二度目の救出劇が始まりかねない。そんなものはスルーズのプライドが許せなかった。自分たちのブリュンヒルデを攫った男に一度ならず二度までも助けられてたまるかという意地がスルーズに芽生えた。

 

 「対象を破壊します」

 「霊核の位置確認」

 「これより上位個体の無力化を開始します」

 

 捕縛に成功したとみた量産型戦乙女(ワルキューレ)三体は光輝く黄金の槍を顕現させ、その息の根を止めんがために一斉にスルーズの元まで駆けた。とどめはより確実にするため、物理による破壊を選択したのだろう。その判断は正しい。原初のルーンとはいえ、スルーズほどのオリジナルの上位個体となればたとえ直撃したとしても決定打にはならない。しかし此方とてそう簡単にやられるタマでもない。

 スルーズは懐から小さな瓶を取り出した。それはあのシグルドから授かったキメラの生き血から生成した魔力活性化の秘薬。

 

 「こんなものに頼りたくはなかったですが、背に腹は代えられません」

 

 シグルドの道具頼りというのは気が引けるが、このままやられては元も子もない。スルーズは意を決してそれを飲み干す。

 その瞬間、スルーズの肉体に魔力が迸る。あれほどか細かった大地の魔力供給とでは比べ物にならない魔力がスルーズの肉体を駆け巡る。

 これならば、彼女達を呼べる。(・・・・・・・・)

 

 「同位体、顕現開始―――来なさいッ!!」

 

 量産型戦乙女(ワルキューレ)の槍がスルーズの胸に届くであろうその刹那。激しい魔力の渦と共に顕れるは二体の戦乙女(ワルキューレ)。彼女たちは無言で三体の量産型戦乙女(ワルキューレ)による刺突を黄金の槍にて弾いた。否、弾いただけに留まらず、量産型戦乙女(ワルキューレ)の黄金の槍を粉砕したのだ。

 

 「ふーん。確かに私達の持つ偽・大神宣言(グングニル)と同じ……だけど、お父様の創った量産品よりも更に量産品って感じだね。これじゃあ偽・偽・大神宣言(グングニルレプリカ)だよ。同じ黄金の槍でも練度が違うからこうも簡単に砕けるのさ」

 「きっと、ブリュンヒルデお姉様はそれほど本気で武装に関しても、この戦乙女(ワルキューレ)たちに関しても作っていないのだと思う。勇士がもはやこの世界において絶滅危惧種となっているのなら、戦力自体もそこまで念入りにする必要もない。数さえあれば事足りるのだから」

 

 ピンク髪の女とフードを被った女はそう言いながら量産型戦乙女(ワルキューレ)を評する。これではお話にもならない、と。

 

 「スルーズも珍しく油断したね。こんな相手に苦戦するなんて」

 「それに関しては言い返す言葉もない。しかし無駄口を叩く時間もない。今の私では貴女達の顕現はそう長く持たない、早急な無力化を」

 

 マスターが存在しても三体同時顕現は魔力的に厳しい戦乙女(ワルキューレ)。今はシグルドのドーピングが効いているからなんとかできているが、もはや一分と持つまい。その間にどうにか残る残存勢力を無力化しなければならないのだ。

 

 「はいよー」

 「分かりました」

 

 ピンク髪の戦乙女(ワルキューレ)ヒルドとフードを被った戦乙女(ワルキューレ)オルトリンデは制圧に動く。一分もあれば、この程度の敵など問題なく無力化できる。それが上位個体たる戦乙女(ワルキューレ)の力であり、量産型如きが敵う道理などない。

 もし、彼女達にこの劣勢を覆す力があるとすれば、それは人のように己の限界を超えるものでなければ務まらないだろう。

 

 

 ……………

 

 …………

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 

 

 「無事だったか、スルーズ」

 「誰にものを言ってるのですか。私がこの程度の相手に後れを取ることなどあり得ない」

 

 シグルドがスルーズのもとに到着する頃には、すでに彼女が担当している場所は制圧を終えていた。量産型戦乙女(ワルキューレ)も一纏めに拘束されている。これはシグルドが生かして捕らえよとこの防衛前に口にしていたからに他ならない。もしその言葉がなければ捕らえることなく破壊している。

 

 「そちらの方は」

 「抜かりない。敵方の戦乙女(ワルキューレ)も一部捕らえている」

 「残りは?」

 「恐らく撤退の指示が出たのだろう。残存勢力は神霊ブリュンヒルデの元まで帰還していった」

 

 シグルドは戦う意思のない者まで追撃することはないと言う。それにスルーズは眉間に皺を寄せる。つまり敵になるものをこの男は生かして返したのだ。無力化して捕縛するならまだしも、戦闘力があるものをわざと見逃すとは。

 

 「やはり破壊はしないのですね」

 「殺めるには道理が足りん。彼女らはあくまで新たなヴァルハラまで彼らを連れて行こうとしただけで、人々を殺してもいなければ非道な行いもしていない」

 「甘いですね。戦乙女(ワルキューレ)を人として扱っているのは些か甘すぎます」

 「何も考えもなく彼女たちを捕らえようなどとは考えていない」

 「……利用価値があると?」

 「彼女達は我らのようなサーヴァントではない。この世界で生まれ、肉体を持つ戦乙女(ワルキューレ)だ。自身で魔力を生成する力がある。であれば」

 「なるほど……マスターの代わりというわけですか。彼女達と契約し、それでこのマスター不在からなる今の魔力不足を補うと」

 「肯定する。見たところ彼女達の魔術回路は一級品。ヒトの魔術師よりも適正値も高い。マスターとしての機能は十分に果たせる」

 「彼女達は独自のネットワークを形成しています。捕縛した彼女達の設定を一度リセットし、私と同期させましょう。上手く同期の調整を行えば、彼女たちをマスターに仕立て上げ、オルトリンデやヒルドを顕現させられる……しかしこの人数となると時間を要します。おまけにブリュンヒルデお姉様の創った戦乙女(ワルキューレ)。製造過程自体が私達と違う可能性もある。それらの解析を踏まえれば三日ほどかかるかもしれません」

 「上出来だ」

 

 できるのであれば時間を幾ら使ったところで有意義なものになる。少なくともこの魔力不足の状態で神霊と化したブリュンヒルデと競い合うには無謀というもの。

 

 「彼女達を我らの拠点につれていく。このヒトが住まう街で行うわけにもいかん」

 「分かりました。しかしこの人数です。馬車か何かあれば運送も楽なのですが」

 

 捕縛した量産型戦乙女(ワルキューレ)ざっと見ただけで10人はいる。これらを二人であの隠れ家まで運ぶとなると骨が折れる。

 

 「お困りですか? えーと、えいれい? でしたっけ」

 

 そんな二人に声をかけたのは一人の兵士だった。シグルドはその顔に見覚えがある。先の戦いで勇敢にも戦乙女(ワルキューレ)と剣を交えた青年だった。

 

 「貴殿はあの時の」

 「その節はどうも。助けていただきありがとうございました」

 「礼は不要。当然のことをしたまでだ」

 

 どうやら彼も無事責務を全うしたらしい。体の至るところが傷だらけ、立っているのもやっとだろうに気丈に振舞っている。彼がいたからこそ、シグルドやスルーズはこの都市の救援に間に合ったと言っても過言ではない。そしてそんな彼を彼女が見過ごすのもあり得ない。

 

 「シグルド、シグルド」

 「どうしたスルーズ」

 「あの者から勇士なる素質を感じます」

 「我慢だ。戦乙女(ワルキューレ)としての本能を抑えてくれ」

 

 かの兵士を見たスルーズは頭の羽をピコピコと動かしながら兵士を見る。その目は獲物を見つけた猛禽類のそれに近い。

 

 「あのー」

 「すまない、自己紹介が遅れた。当方の名はシグルドという。この女性はスルーズ。貴殿らを襲った戦乙女(ワルキューレ)と酷使しているが、心配はない。当方の仲間ゆえ」

 

 スルーズの内心はもはや勇士勧誘という一種の本能が働いているのは流石に言えない。警戒されるだけだ。

 

 「……分かりました。ではシグルドさん、スルーズさんと」

 「貴殿の名は?」

 「俺は名乗るほどのものではありません……」

 

 そう言って青年は顔を伏せた。何をそこまで卑下することがあろうか。彼は十分な働きをした。むしろ胸を張って言うべきだ。

 

 「貴殿は―――」

 「そう、俺はただお二人が何か悩んでいるのでお声掛けをしたんですよ」

 「む」

 「では馬車と馬を用意してください。できれば10人ほど積載可能なものでお願いします」

 「スルーズ……」

 

 遠慮というものを知らず、ズバリと要求する戦乙女(ワルキューレ)

 

 「その程度お安い御用ですよ! すぐに用意します!!」

 

 そう言い残して兵士は走り去ってしまった。

 

 「まぁ、何はともあれ問題は解決したか」

 「あの勇士の魂はまたいつの日かヴァルハラに連れていきましょう」

 

 なにやら目の前の問題を解決した矢先、別の問題が発生した気がする。

 そう思わざるを得ないシグルドであった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。