勇士の魂ではなく、より優秀な魂、肉体を選別して保護するというこの世界の
既に終末を超えたこの世界に勇士を集め、兵士にする理由がない。そもそもこの世界には勇士たらんとする人間が極めて少ない。戦う相手も人材もいないのなら、人をより存命させることが神霊ブリュンヒルデの決断であれば、その手足となる
世界が違えば歴史も変わる。歴史が違えば
しかし、寂しいものだともスルーズは思う。
「この程度で
そう吐き捨てるスルーズの足下には折り重なる大量の量産型
「確かにこの世界には勇士となる人間はいない。だからこそ物量を重きにおいて製造された
仮にも高い神性を持つ半神だろうに。原初のルーンを搭載されている存在だろうに。この戦力差でスルーズ一体満足に破壊もできないとは肩透かしもいいところだ。
「識別把握。情報所得完了。個体名スルーズ。異世界の姉妹機、恐らくはより高度な
まだ倒れていない
「シグルドの方はすでに無力化が終えている。私も遅れるわけにはいきません」
別に競い合っているつもりはないが、出遅れているという事実はスルーズにとっては些か気になるもの。力の差を見せつけられている気すらするので、いちいちこのような雑兵相手に手こずってはいられない。
その思いこそスルーズの慢心であった。
「「「捕縛式、作動」」」
「!?」
残った量産型
スルーズの足元に浮かび上がる魔法陣。これを本能で危険と判断したスルーズは空を駆ける回避行動を取ろうとする。しかし時すでに遅し。その魔法陣からは大量の鎖が飛び出し、スルーズの足に絡み拘束する。
「くッ……」
一体だけの拘束術式ならばスルーズとて対応できる。高い対魔力を有しているのだからどれほどの大魔術であろうとも無力化は可能。しかし三体となれば話は別だ。より強固な魔術式になり、注がれる魔力量も単純計算で三倍。
「私ともあろう者が油断するとは」
実に情けない。こんな姿はシグルドに見せられない。
「(あの男、こちらまで近づいてきている……!!)」
大方全ての敵を一掃したのだろう。シグルドはあれほどあった魔力反応のほとんどを無力化し、残存勢力が残るスルーズの居場所まで近づいてきている。このままではこの痴態を目の当たりにされる上に二度目の救出劇が始まりかねない。そんなものはスルーズのプライドが許せなかった。自分たちのブリュンヒルデを攫った男に一度ならず二度までも助けられてたまるかという意地がスルーズに芽生えた。
「対象を破壊します」
「霊核の位置確認」
「これより上位個体の無力化を開始します」
捕縛に成功したとみた量産型
スルーズは懐から小さな瓶を取り出した。それはあのシグルドから授かったキメラの生き血から生成した魔力活性化の秘薬。
「こんなものに頼りたくはなかったですが、背に腹は代えられません」
シグルドの道具頼りというのは気が引けるが、このままやられては元も子もない。スルーズは意を決してそれを飲み干す。
その瞬間、スルーズの肉体に魔力が迸る。あれほどか細かった大地の魔力供給とでは比べ物にならない魔力がスルーズの肉体を駆け巡る。
これならば、
「同位体、顕現開始―――来なさいッ!!」
量産型
「ふーん。確かに私達の持つ
「きっと、ブリュンヒルデお姉様はそれほど本気で武装に関しても、この
ピンク髪の女とフードを被った女はそう言いながら量産型
「スルーズも珍しく油断したね。こんな相手に苦戦するなんて」
「それに関しては言い返す言葉もない。しかし無駄口を叩く時間もない。今の私では貴女達の顕現はそう長く持たない、早急な無力化を」
マスターが存在しても三体同時顕現は魔力的に厳しい
「はいよー」
「分かりました」
ピンク髪の
もし、彼女達にこの劣勢を覆す力があるとすれば、それは人のように己の限界を超えるものでなければ務まらないだろう。
……………
…………
………
……
…
「無事だったか、スルーズ」
「誰にものを言ってるのですか。私がこの程度の相手に後れを取ることなどあり得ない」
シグルドがスルーズのもとに到着する頃には、すでに彼女が担当している場所は制圧を終えていた。量産型
「そちらの方は」
「抜かりない。敵方の
「残りは?」
「恐らく撤退の指示が出たのだろう。残存勢力は神霊ブリュンヒルデの元まで帰還していった」
シグルドは戦う意思のない者まで追撃することはないと言う。それにスルーズは眉間に皺を寄せる。つまり敵になるものをこの男は生かして返したのだ。無力化して捕縛するならまだしも、戦闘力があるものをわざと見逃すとは。
「やはり破壊はしないのですね」
「殺めるには道理が足りん。彼女らはあくまで新たなヴァルハラまで彼らを連れて行こうとしただけで、人々を殺してもいなければ非道な行いもしていない」
「甘いですね。
「何も考えもなく彼女たちを捕らえようなどとは考えていない」
「……利用価値があると?」
「彼女達は我らのようなサーヴァントではない。この世界で生まれ、肉体を持つ
「なるほど……マスターの代わりというわけですか。彼女達と契約し、それでこのマスター不在からなる今の魔力不足を補うと」
「肯定する。見たところ彼女達の魔術回路は一級品。ヒトの魔術師よりも適正値も高い。マスターとしての機能は十分に果たせる」
「彼女達は独自のネットワークを形成しています。捕縛した彼女達の設定を一度リセットし、私と同期させましょう。上手く同期の調整を行えば、彼女たちをマスターに仕立て上げ、オルトリンデやヒルドを顕現させられる……しかしこの人数となると時間を要します。おまけにブリュンヒルデお姉様の創った
「上出来だ」
できるのであれば時間を幾ら使ったところで有意義なものになる。少なくともこの魔力不足の状態で神霊と化したブリュンヒルデと競い合うには無謀というもの。
「彼女達を我らの拠点につれていく。このヒトが住まう街で行うわけにもいかん」
「分かりました。しかしこの人数です。馬車か何かあれば運送も楽なのですが」
捕縛した量産型
「お困りですか? えーと、えいれい? でしたっけ」
そんな二人に声をかけたのは一人の兵士だった。シグルドはその顔に見覚えがある。先の戦いで勇敢にも
「貴殿はあの時の」
「その節はどうも。助けていただきありがとうございました」
「礼は不要。当然のことをしたまでだ」
どうやら彼も無事責務を全うしたらしい。体の至るところが傷だらけ、立っているのもやっとだろうに気丈に振舞っている。彼がいたからこそ、シグルドやスルーズはこの都市の救援に間に合ったと言っても過言ではない。そしてそんな彼を彼女が見過ごすのもあり得ない。
「シグルド、シグルド」
「どうしたスルーズ」
「あの者から勇士なる素質を感じます」
「我慢だ。
かの兵士を見たスルーズは頭の羽をピコピコと動かしながら兵士を見る。その目は獲物を見つけた猛禽類のそれに近い。
「あのー」
「すまない、自己紹介が遅れた。当方の名はシグルドという。この女性はスルーズ。貴殿らを襲った
スルーズの内心はもはや勇士勧誘という一種の本能が働いているのは流石に言えない。警戒されるだけだ。
「……分かりました。ではシグルドさん、スルーズさんと」
「貴殿の名は?」
「俺は名乗るほどのものではありません……」
そう言って青年は顔を伏せた。何をそこまで卑下することがあろうか。彼は十分な働きをした。むしろ胸を張って言うべきだ。
「貴殿は―――」
「そう、俺はただお二人が何か悩んでいるのでお声掛けをしたんですよ」
「む」
「では馬車と馬を用意してください。できれば10人ほど積載可能なものでお願いします」
「スルーズ……」
遠慮というものを知らず、ズバリと要求する
「その程度お安い御用ですよ! すぐに用意します!!」
そう言い残して兵士は走り去ってしまった。
「まぁ、何はともあれ問題は解決したか」
「あの勇士の魂はまたいつの日かヴァルハラに連れていきましょう」
なにやら目の前の問題を解決した矢先、別の問題が発生した気がする。
そう思わざるを得ないシグルドであった。