死がふたりを分かつまで   作:ナイジェッル

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第09戦:新たな竜殺し

 神霊ブリュンヒルデは古城の王座に座して現状を整理していた。まず目下にある問題。それは優れた人間の回収に当たった戦乙女(ワルキューレ)の敗北。元よりオリジナルの姉妹たちの劣化複製に止まっていた彼女達にこれ以上の戦果を期待するのは酷というもの。そしてこのまま続けても被害が拡大するだけだと判断したブリュンヒルデは兵をあの大都市から引き上げさせた。おそらくどれだけの戦力を投入しようと、シグルドには勝てまい。それよりも気になることがあった。

 

 「数が合いませんね」

 

 出撃した戦乙女(ワルキューレ)の数と、帰還した戦乙女(ワルキューレ)の数の不一致。無論、討伐されているのならば数が減っているのは道理だが、あの戦いにおいて戦乙女(ワルキューレ)が戦死した記録はない。なにせ彼女達を創ったのは他でもないブリュンヒルデだ。霊核が消滅すれば自動的にブリュンヒルデが感じ取れるように設計されている。であれば、答えは一つしかない。

 

 「(捕縛されましたか……)」

 

 娘達は殺さずに生かされている。そう判明すればブリュンヒルデはすぐに戦乙女(ワルキューレ)達の同期に介入を試みた。

 

 「(ネットワークも断絶されている)」

 

 案の定、10体もの戦乙女(ワルキューレ)の同期が不可能になっている。返答はおろか通信もままならない。

 

 「あちらにはスルーズもいましたね……ふふ、流石お父様の創りしオリジナル」

 

 捕縛した戦乙女(ワルキューレ)で何をするつもりなのかはブリュンヒルデもすぐに理解できた。彼らはマスター不在な身であるがゆえに常に魔力不足に陥っている。それを解消するための手段として娘たちを生け捕りにした。そして戦乙女(ワルキューレ)の特性を良く理解できている上位個体に命令権を移し、仮初のマスターに仕立て上げる。戦力の一部として活用する。無駄のない有効利用だ。

 ブリュンヒルデの勢力にとってたかが戦乙女(ワルキューレ)の10体程度、大した痛手にもなりはしない。しかし、それを別の目的で利用されるのであれば十分な脅威となる。特に、大英雄シグルド。あの男が万全の力を振るえるまで環境を整わせるのは拙い。

 となれば、これは大きな損失だ。圧倒的有利な戦況を、一部だけとはいえ引っ繰り返された。

 

 「そう易々とは思い通りにいかせてはくれませんか」

 

 ブリュンヒルデは思い浸る。このイレギュラーをどう受け止めるべきか。そもそも何故彼ら英霊が呼ばれたのか。自分の行動が過ちであり、それに対応するべく世界が彼らを呼び寄せたと考えるのが妥当ではあろうが、それを認めては神霊ブリュンヒルデの存在意義の根幹が揺るぐであろう。

 この世界は生きている。たとえ正道から外れようとも、この世界の歩みは確かな一歩を刻んでいる。言わば道半ばの道程。本来なれば神は滅び、人類だけが生き残るという過程の中で、唯一人類に干渉できる神が残った。

 であれば、この世界はこの世界なりに最善を尽くす。それが永遠の眠りから覚め、残されたブリュンヒルデの胸に灯された大前提。そう易々とは破壊されては堪らない。

 

 「此方も策を講じるべきですね」

 

 抗おう、この運命に。神たるものは全能であらねばならない。半神なれどもこの身には12000年前の神々を屠った異星のカケラと女神の神核を宿している。そして権能すら携える我が身は神と同義。無尽蔵な魔力も、無限の叡智もこの理の中にある。

 

 「英霊には英霊を。星が彼らを呼ぶのであれば、私も呼ばせてもらいましょう。それでフェアですよね? 英雄シグルド」

 

 度重ねて宣言しよう。神は全能である。その力は、人類の防衛機構にも手が届く。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 あの防衛戦から二日が経過した。今のところ、神霊ブリュンヒルデに大きな動きはない。戦乙女(ワルキューレ)も不気味なほど沈黙を守っており、一時的にではあるがヴァルハラへの連行を止めている。無論、それにはそれ相応の理由があるだろう。そう、例えば―――戦力を調整、増強させている可能性。

 

 「(恐らく神霊ブリュンヒルデは我らの動きに気付いている。となれば、当然彼女は対策も立ててくるだろう)」

 

 静かに、されども着々と対策を仕上げているブリュンヒルデに対し、シグルドもまた敵方の動きを読んでいた。

 

 「(不自然に鹵獲された戦乙女(ワルキューレ)。同期を断ち、完全な個体として確立させたとなれば、如何な愚者であろうと気付かないわけがない。それがブリュンヒルデであれば尚のこと)」

 

 拠点に戻ったシグルドは量産型戦乙女(ワルキューレ)の調整をスルーズに任せ、一人黙々と地面に魔法陣を描いていた。それはただの魔術に在らず。現代魔術? それとも更に古い中世魔術? 否、否だ。シグルドが大地に刻み込んでいるのはそれらの真新しい術式ではない。これこそは神代の御業。シグルドが持つ技能の一つ。この術を持って活路を開く算段を立てていた。

 

 「(我ながら危険な賭けだ。習得してはいたものの、実際にこの術式を使うのは此度が初)」

 

 分かっていた。このような見え透いた動きをすればブリュンヒルデの警戒レベルを上げることは。しかし避けても通れなかった。確実な魔力のパスを繋げなければ例え勝機があっても拾えぬであろう現実。そこに唯一、その問題を解決できる糸口が目の前に現れた。これを活用しない手はない。そしてハイリスクハイリターンの先には、致命的な欠点と共に明日に繋がる光明を灯すと信じて。

 

 「(やれるか……セイバーのクラスに現界した我が身に)」

 

 そもそもサーヴァントは生前の劣化複製だ。所謂影法師のような存在だ。英雄という存在が英霊となり、その英霊の力を人の身で御し得る為に調整されたクラスという箱。そこに当て嵌めることで本来成しえない英霊召喚は形となる。今回、シグルドを召喚せしめたのはこの世界であり人ではない。しかしそれでもセイバーというクラスに入れられているのだから、ある程度の制限はかかる。それがサーヴァントというもの。英霊そのものではなく、それに準じた摸作を作り出す。

 本来、この魔術は生前に得たものだ。生前に得たものを使って不備があるはずもないが、今現在セイバーとして召喚されているシグルドは魔術の技能がオリジナルよりも落ちていることは間違いない。もし生前と同じように魔術を使えるのならば、それはキャスタークラスに現界した時に他ならない。しかし無いもの強請りしても始まらない。今ある力を最大限に活用しなければならないのが今の状況だ。この博打に勝てば、この先での戦いで大きな力となる。少なくとも神霊ブリュンヒルデが行うであろう更なる脅威に備えることができるのだ。

 

 「当方が運頼みとはな」

 

 自身の無力さに苛まされることは少なくないが、この戦いはどれだけ不確定要素が絡むものがあろうとも片っ端から試していくしかない。余裕を見せられるほど、この戦いは甘くはなく。同時に我が人生においても、余裕をもって当たった戦いなどない。

 

 「シグルド」

 

 戦乙女(ワルキューレ)の調整を行っていたスルーズが奥の部屋から現れた。あの様子だと、最低限の準備は整ったらしい。

 

 「先ほど3体の戦乙女(ワルキューレ)の調整が終わりました。ただ残る7体はまだ一日掛かりそうです」

 「十分だとも。3体も調整が終えているのならば、問題はない。まずは当方と貴殿でその3体のうち2体とパスを繋ぐ」

 「私の方は調整ついでに既に設定を終えています」

 「了解した」

 

 仕事の早いスルーズは自分のすべきことを見極めた後の動きが兎も角的確だ。言うまでもなく、迅速にその場その場の最善を尽くしてくれている。憎いであろうシグルドの提案及び指示にも従ってくれているのは彼女のその冷静な思考と判断力に他ならない。

 

 「そしてこの娘が貴方の代替マスターとなります」

 「………」

 

 スルーズが連れてきたのは鹵獲した量産型戦乙女(ワルキューレ)の一体。恐らくはスルーズ系統の戦乙女(ワルキューレ)だったのだろう、フードに隠されたその素顔はスルーズによく似ている。調整が早く終えたのも同系統に近い存在だったが故だろうか。

 調整が終え、スルーズとシグルドの識別が味方と設定されたこの少女に危険はない。と、同時に今では頼れる仲間となっている。しかし彼女の目にはシグルドに対する不審な目があった。スルーズと同期しているためだろう。彼女が持つ潜在的なシグルドの抵抗意識がその目に現れている。

 量産型戦乙女(ワルキューレ)はシグルドを若干警戒しながら足のつま先から顔までジロジロと見て、一息ついてからシグルドの前に立った。彼の神気はオーディン由来。それを前にして臆さず眼前に立つ胆力。心がないからその場に立っているのではなく、明確な意思を持って彼の前まで出てきた。

 

 「私、貴方がなんとなく……嫌いです。生理的に」

 

 量産型戦乙女(ワルキューレ)の開口一番がこれである。

 

 「同期は成功していますね?」

 「確認する必要もないな」

 

 少し得意げにするスルーズであるが、確かにこれは成功しているとみて間違いない。

 

 「貴殿が当方に向ける疑念は本物だ。その想いは恐らくスルーズを含めた戦乙女(ワルキューレ)全員が持つもの」

 

 シグルドとは彼女達の慕って止まないブリュンヒルデを自身の不甲斐なさゆえ悲しませた男の名だ。好かれる要素など元よりない。

 

 「しかしだ。シグルドもまたブリュンヒルデを想う者。貴殿の助力なくして、この戦いに勝機はない。貴殿にとっては業腹ではあろうが、協力を要請する」

 「……従え、ではないのですね」

 彼女は意外なものを見る目でシグルドを見た。その瞳は警戒から興味に変わっていた。

 「仮に力付くで従えたとして、それが後の戦闘においてプラスになることはない。戦の基礎は味方との信頼から得るものと心得る」

 「………」

 

 差し出されるはシグルドの右手。それは友好の証であろう握手をシグルドは求めていた。この手を取るか取らないかは彼女自身。そこに強要はない。

 されど戦乙女(ワルキューレ)はすぐに手を差し出さかった。顎に手を当て、少しの間があった。その間で彼女が何を考えているのかはシグルドには分からない。しかし熟考してくれているのは理解できる。

 

 「……分かりました。貴方のことはまだ苦手ですが、これから好ましく思えるよう努力しましょう」

 

 渋々という風に差し出された右手。されどもその行為は彼女なりに考えた結果からくるもの。シグルドは確かにその手を握り、感謝の念を送る。

 

 「そして条件が一つ」

 「それは?」

 「私に名をください」

 

 戦乙女(ワルキューレ)はそう言ったシグルドを力強く見つめた。

 

 「私達は元よりブリュンヒルデ様より数あれという目的に沿って作られた量産された戦乙女(ワルキューレ)に過ぎません。上位個体のような名も当然ない」

 

 優れた人間を回収するだけの任務にそこまでの性能が必要なかったが故に生まれた量産型。名などあろうはずもなく皆が無銘である。

 

 「あの方の下で稼働している際はこのような願いなど生まれなかった。しかしその繋がりを絶たれ、こうして『個』が許されている今の私は違う」

 

 自由の身となった部品。本来の目的から逸れた端末。そこから現れてきたバグ。無視する事はできる。だが、このざわつきは気持ちが悪い。

 

 「貴方が私をここに連れてきた。貴方があの輪から私を引き抜いた。そしてその貴方が私の力を求めている」

 

 これは等価交換。否、これは願いだ。

 

 「貴方が責任を持って私に名を付けてください。大英雄シグルド」

 

 量産型戦乙女(ワルキューレ)ではなく、オリジナルの上位個体と同じように。

 意味のある名を。

 この世に生まれ、活動している証を。

 

 「貴殿の願望、確かに承認した」

 

 シグルドはこの女性の名に何を託す。何を授ける。

 この願望はあって当たり前の願いだ。シグルドは彼女を連れ出した者として責務が確かに存在する。

 可憐な名がいいか。可愛らしい名がいいか。それとも戦に連なる戦士に相応しいものがいいか。

 どれを選んだとしても彼女は受け入れるだろう。どんな名であろうとも、その真名を大事にするだろう。

 だからこそ、シグルドは慎重に選ばなければならない。伝えなければならない。その真っ白な心に確かな色彩を与える者として。

 

 ………

 ……

 …

 

 そして大英雄は決めた。決断は早いとは言えなかったが、それども安易な決定ではない。

 シグルドは彼女の目を逸らさず、力強く宣言する。

 

 「貴殿の名はトイネン・アスラウグと名付ける」

 

 この名はシグルドにとっても、ブリュンヒルデにとっても重要な意味を持つ名。

 

 「トイネン・アスラウグ……それが、私の新しい名」

 

 噛み締めるように彼女は呟く。

 

 「シグルド、その名を彼女に与えるというのですか」

 

 そこに割って入ってきたのは今まで静観していたスルーズだった。

 

 「その名は軽々につけていいものではないはずです」

 「否定する。あの名は当方にとっても決意の現れ。容易につけたものではない」

 

 シグルドはいつも通りの澄ました声でそう答える。それでもスルーズはその名の意味を知るが故に呆れ果てていた。この男は愚直すぎる。いくら名が大切だからとはいえ、よりにもよってその名を選ぶとは。

 

 「……入れ込みすぎて、あの娘を庇って脱落しないでくださいね」

 「心得ている」

 

 アスラウグ。それはシグルドとブリュンヒルデの愛娘の名だ。家族が揃って出会える日がついぞ無かった子供の名だ。それにトイネン(第二の)を組み合わせることにより第二の娘とも取れる名をあの女に授けた。この意味の重さはスルーズなどよりもシグルド本人が一番理解していること。

 名とは意味と同伴する様に力強い力が宿る。魔術世界でも言霊と知られているように、超常の英雄が戦乙女につけたとなるとその重みは別格だ。

 恐らくは、シグルドにとってその名には彼女も護るという意味合いが含まれている。ただの道具としてではない。一人の仲間としての守護の意味が。

 

 「はぁ……もういいです。好きにしてください」

 

 この男と生活しているとその自分の道を征く精神性に思いやられる。よくブリュンヒルデはこんな男について行ったものだと思ってすらくる。

 

 「それで、もう一体の戦乙女(ワルキューレ)はどうするつもりです」

 

 スルーズは思考を切り替えて次なる課題を提示する。既にシグルドとスルーズのマスターの代わりは二体の戦乙女(ワルキューレ)で賄えている。なら残る一体は何に使おうというのか。

 スルーズの問いにシグルドは地面に(ゆび)を指す。その指先が示すものにスルーズの目が行き、そして気付いた。この隠れ家は洞窟の中。ルーンによって光が灯されているとはいえ若干床が暗く見えづらい。それ故に気づかなかったが、この部屋の床には魔法陣が刻まれている。それもこの術式は見たことがある。あのオーディンが持ち得る原初のルーンの中でも最上級。

 

 「原初のルーンによる英霊召喚陣……」

 「残る一体の戦乙女(ワルキューレ)には今から召喚する英雄のマスターを担ってもらう」

 

 流石に令呪までは用意できないが、要石となるマスターさえあれば理論上は可能だ。かつてブリュンヒルデに伝授されたルーンの一つであり、ついぞ使うことのなかった秘奥。それが今、こうして運命を切り開く力となる。

 

 「だが気をつけろ、スルーズ。この召喚陣はあくまでサーヴァントを呼び出すもの。それを律する令呪がない。それ即ち」

 「本来抑止力となり得る枷がない。もし仮に召喚された者が敵対の意思を表せば、無傷で御すことはできないということですか」

 「そういうことだ。この召喚はそれらのリスクも抱える諸刃の剣。さらには触媒がない為、誰が召喚されるかは予想もできん」

 「触媒がないとなると召喚者に近しい感性を持つものか、縁による作用が強く出ると聞きます。もしかしたらブリュンヒルデお姉様が召喚される可能性もあると」

 「……そうなれば、喜ばしいがな」

 

 実際誰が呼ばれてもおかしくないのだ。例えばシグルドの父であり、同じく大英雄と称えられたシグムンドが召喚される可能性もある。もしくはシグルドの兄弟達などもあり得る。もしこの召喚が特殊な『門』を携え、所縁のある英霊との関係をストックしている影の国の女王であれば、狙った英霊を自由自在に召喚できただろう。しかしシグルドは生粋の魔術師でもなければ、北欧の神と繋がる影の国の女王でもない。そこまでの器用な真似はできないのが現実だ。最も誰が来ようとも戦力足り得るのであれば問題はない。されども、もし何かの手違いにより悪なる者が這い出た時は対処も迅速に行わなければならない。そのリスクを承知でシグルドは召喚を行うと決めた。決めたのであれば、後は行動に移すだけだ。

 

 「召喚自体は当方が行う。この召喚法は大神オーディンの由来故、ルーンを刻んだ者が行わなければ機能しない。サーヴァントが召喚され、その英霊が此方に協力的なものと判断することができた後に三体目の戦乙女(ワルキューレ)にマスター権と魔力パスを譲渡する手順を取る」

 

 シグルドは召喚陣の前に立ち、己の右腕を前に出す。

 そして左手で腰にぶら下げていた短剣の一本を抜き取り、その右腕を軽く斬り裂いた。竜の炉心から溢れる魔力の濃い血は召喚陣の上に滴り落ちる。

 

 「これより召喚の儀を開始する」

 

 シグルドの開始の合図にスルーズとトイネンは無意識に構えた。この召喚が果たして上手くいくかどうかの見極めは困難。ならば最悪の事態を想定して然るべき。シグルドもまた武装を展開し、召喚にあたっている。

 

 「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公」

 「降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 「閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 「繰り返すつどに五度」

 「ただ、満たされる刻を破却する」

 

 シグルドの魔力炉心は脈動し、その破格の魔力回路は淡い青藍色となって竜殺しの肉体を隅々と灯す。

 

 「――――告げる」

 「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」

 「大神の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 オーディンが首を吊って手に入れたとされる世界の真理。その最奥こそがこの魔術。あらゆる魔術の成し得る奇跡は原初を辿る。

 

 「誓いを此処に」

 「我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 「汝三大の言霊を纏う七天」

 「抑止の輪より来たれ」

 

 我が父シグムンドでも、技量を競い合った兄弟達でも良い。神の加護あればブリュンヒルデとも出逢えよう。この召喚は戦いを運命付ける決定的なもの。故にシグルドも願おう。聖杯があるわけでも、聖杯戦争であるわけでもない、ただ世界を救うだけの戦い。無償の世界修正の旗に集う勇士を、肩を並べ得る戦士を。

 

 「天秤の守り手よ―――!!」

 

 最後の詠唱を終えた瞬間、原初のルーンで刻まれた召喚陣は一際強く、目が潰れんばかりの光が隠れ家たる洞窟全土を覆った。

 シグルドはその発光の中、一人動じず、動かず、召喚の行く末を刮目する。

 ズグンッ……と、竜の炉心に強烈な刺激が疾った。この感覚は懐かしさすら感じる、かつてあの悪竜と相対した時のもの。否、更に親近感すら感じるこの共鳴じみた何か。魂自体が召喚した者に反応している。

 

 そして、その存在は光に中から悠然と現れた。

 

 190は優に超えるであろう、壁の如き筋肉質の肉体。

 雪のように白い髪は腰の辺りまで垂れ、褐色の肌と合わさってよく際立っている。

 その目は戦士としての自負の強さを持ちつつ、奥行きのある心を表す淑やかな瞳。

 何より彼という存在を強調するはその手に持つ長大な西洋剣。シグルドはその剣を初めて見たが、分かる。分かってしまう。姿形は違えど、その剣は、後の世で大陸を渡り受け継がれた我が宝具の形の一つ。

 あの剣を持つ者は限られている。そして彼から感じる竜の鼓動を含めれば、もはや一人しかいない。

 その者はネーデルランドの王族。神の血も引かぬ人の身でありながら、神代去りし世界にて尚も猛威を振るう悪竜現象(ファヴニール)を打ち滅ぼした者。数ある剣の英霊の中でも間違いなく選りすぐりと言えるだろう勇士。

 

 「セイバー ジークフリート。世界修正の要請を聞き、召喚に応じ参上した。竜を殺すしか能のない男だが、微力なれども貴公らの力となろう」

 

 

 二人目の竜殺し(ドラゴンスレイヤー)が、ここに顕現した。




 英霊召喚の術式はスカサハ体験イベントで披露された原初のルーンを参考としています
 スカサハはフェルグス、ディルムッドなどの縁が深いケルトの戦士を召喚しましたが、此度はシグルドと同質の魂を持つジークフリートの召喚と相成りました
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