死がふたりを分かつまで   作:ナイジェッル

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 これはもしオフェリアがシグルドを最初から召喚できていたらというIF
 スルト好きなんですがこのSSでは大人しく鎮火中


もしオフェリアがシグルド(純正)を召喚していたら

 人は、明確な死を前にすると色々な本性が滲み出る。

 自らが受ける結末に狼狽する者。その理不尽に怒る者。そして、静かに受け入れる者。

 世界を救うための道具たるコフェインの中で燃え盛る炎に身を焼かれる女は、どうだったか。

 

 ……恐らくは達観していたのだろう。

 

 己が持つ魔眼で生存を模索してはいた。どうすれば生き残るか足掻きはした。

 それでも、ダメだった。稀有なる魔眼はオフェリア・ファムルソローネという少女の死を映す。

 どう選択しても、どう効力を発揮しても、待っているのは暗い死であると。

 嘆きは忘れ、慟哭を放つ力もない。

 小さな棺桶に閉じ込められた女は惨めに死ぬだろう。

 時計塔で現代の戦乙女だなんだと持て囃されてはいたが、そのような称号は不釣り合いだとオフェリア自身は思っていた。そして、それが事実であるかのように、今オフェリアは死のうとしているのだから笑い者くらいが丁度いい。

 母の期待も、父の期待も、周囲の評価も。

 全てが煩わしかった。自分なりにその多大な期待に応えようと努力はしたが、心の奥底では耐え切れずに折れそうになっていた自分がいた。誰かに助けを求めていた。そんな自分ともこれで最期だ。そんな嘲笑じみた笑みを浮かべるのが精々できること。

 そう。あの運命の炎の中で。魔眼が捉えた、一人の青年の傷らだけの背中と奇跡を目にするまでは。

 

 『それが、人に出来ることならば』

 

 オフェリアの存在意義は、あの日、あの場所で決まった。

 空っぽだった自分が命を賭してでも何かを成し遂げたい。力になりたい。

 そう思える瞬間を―――地獄と共に得たのだから。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 場所は神霊スカサハ・スカディが治める氷結の城の最奥。

 一ミリもブレがない、水銀で刻まれた召喚陣の上にオフェリアは立っていた。

 霊長の守護者。サーヴァントの召喚。触媒はオフェリア自身。

 来るべき生存競争を勝ち抜く為に必要な騎士の召喚を夢見て、第二の生を授かりし戦乙女は呪文を口にする。

 

 「―――サーヴァント、セイバー。我が真名をシグルド。貴殿がマスターか?」

 

 現代の戦乙女は、その渾名に相応しき最強のサーヴァントを引き当てた。

 鬼、もしくは竜を連想させる黒き仮面。紅き魔剣。他者を寄せ付けぬ魔力。暗殺者めいた武装に、その身から嫌でも感じられる極上の神秘。あらゆる障害を悉く切り裂かんという覇気すら見える、北欧最大の大英雄。

 その蒼き瞳(・・・・・)は、召喚者であるオフェリアを見つめ、問うた。

 魔力パスで誰がマスターなのかは一目瞭然。それでも、シグルドはファーストコンタクトにてマスターの是非を問う。それは招かれた英雄として行うべき最初の礼儀であり、使い魔(サーヴァント)という形で現界した者の務め。

 オフェリアはあまりの圧に唾を呑み込み喉を鳴らした。

 決して敵意など向けられていないのに、そのサーヴァントがこの場にいるというだけで飲み込まれそうな圧倒的存在感。これはまるで最初に相対した神霊スカサハ・スカディの神気に当てられた時のようだ。

 それでも、オフェリアは物怖じして身を退くわけにはいかない。

 一歩後退るのではない。一歩前進して、現代の戦乙女は胸に手を当てて堂々と宣言する。

 

 「ええ―――私が、貴方のマスター。名をオフェリア・ファムルソローネ。この北欧異聞帯(ロストベルト)の管轄を任されたクリプターの一人です」

 

 北欧異聞帯(ロストベルト)。クリプター。

 勢いよく名乗ったは良いものを、肝心のこの世界の説明を取っ払っての発言。

 我ながら迂闊。自らの未熟を恥じるばかりだが、目の前のセイバーはその汚点を汚点とすら思っていなかった。何故なら、理解したのだから。この世界の理を、その神々の叡智を持って。

 

 「我が叡智が状況を把握。現状況の大まかな仔細を承認。本来の歴史から別れ今日に至るまで続きし世界の可能性異聞帯(ロストベルト)。そして大本の汎人類史から袂を分かつ魔術師の一翼。貴殿のような若き乙女が、その重責を背負い立つか」

 

 シグルドは冷静にこの世界の有り様を言い当てて見せた。

 かのオーディン、ロキの二柱を捕らえ、あまつさえ天界に身代金を要求したとされる北欧の小人の成れ果て(ファヴニール)

 シグルドはその悪竜に至りし者を討ち倒し、心臓を喰らいて窮極の叡智を手に入れた。常人が目に写るモノ以上のモノを、彼は見ている。そして識ることができる。

 

 「確かに貴殿はシグルドを召喚した魔術師である。そして当方はセイバーのクラスを以って現界した使い魔なのだろう。であれば、一介の正常なる聖杯戦争であればこの時点で主従関係は成立するものと心得る」

 

 令呪を宿した魔術師(マスター)使い魔(サーヴァント)を召喚する。その点においてシグルドに認識に誤りはない。

 だが、彼が真に問いたいのはそのような単純な話ではない。事実、彼は正常な聖杯戦争であれば既に主従関係は成立するものと言った。逆に言えば、これは正常ではなく、異常(イレギュラー)な状況であり、この段階ではまだオフェリアをマスターと認識していないということ。

 

 「貴方は、私をマスターと認めていないのですね」

 「否。見定めているにすぎない」

 「それは貴方が汎人類史の英雄だからですか?」

 

 召喚した時の手応えでオフェリアは分かっていた。

 この男は確かに北欧最大のシグルドなれど。この世界に根差した異聞帯のシグルドではないことを。

 

 「肯定する。我が魂、我が肉体は汎人類史に刻まれし男の影法師。異聞帯に下るのであれば、それ相応の道理を求めて然るべき」

 「では、交渉の余地はあると」

 

 シグルドは静かに頷いた。

 ならば、簡単なことだ。至極シンプルな答えしかオフェリアには持ち合わせていない。

 

 「私は、私の命ある限り―――(オフェリア)という存在を救い取ってくれたお方に尽くすのみ」

 

 オフェリアの魔眼はキリシュタリアの奇跡を見た。

 オフェリアの魔眼はキリシュタリアの選択を観た。

 オフェリアの魔眼はキリシュタリアの決断を視た。

 

 本来であれば、あのまま棺桶の中で死に絶える運命だったオフェリア達を彼は助けた。

 ただ助けたわけではない。あの苦痛というのも口にし難い試練を全て背負い、そして成し遂げた。

 彼は自分達にそのことを決して伝えなかった。誇るべきものを敢えて彼は尊大に語らなかった。

 英雄の魂に勝るとも劣らないその在り様に、オフェリアは魅入った。あの男は失ってはならない存在だと確信したのだ。

 

 「その確固たる決意は自らを救った者が正義であると……そう確信しているが故か?」

 「それは違います。彼の意思に正義も悪もない。そして何より私も彼が正義であるとは思わないし、彼も自らを正義であるとは口にしないでしょう」

 「ならば貴殿には何がある。何を想ってその役目を務める」

 「彼の真なる目的は未だ理解し切れていないけれども……私はキリシュタリアに命を救われた。可能性を見せてくれた。私がクリプターである理由は、それで十分です」

 

 シグルドの度重なる問いに対してオフェリアは臆することなく応え続けた。

 きっとあの爆発の中に身を焼かれるまではこれほど堂々とは言えなかっただろう。

 これも瀕死でありながらも尚、立ち上がり続けた男の背中を見ていたから。

 あの領域に至れずとも、少しでもその後ろについていきたいと思えたから。

 今、こうしてオフェリアは一歩も引かずにシグルドの見定めに応じられる。答えられる。

 

 「了解した。これにより問答を修了とする。ではーーーー」

 

 シグルドは手に持つ魔剣をオフェリアの前で振り上げた。

 この瞬間、オフェリアの覚悟は決まった。

 

 「(嗚呼、私はここまでなのね)」

 

 魔眼を発動させるより早く、指先を動かすよりも早く。オフェリアの首はシグルドによって切断される。

 所詮、己はここまでの器だったということ。サーヴァントとの問答の末に殺されるのであれば、もはや語ることなどない。

 せめてこの男がキリシュタリアの障害にならないよう、潔くパスを絶ち、自滅させることしか思い浮かばないのだから。

 そんな覚悟を持って相対していたオフェリアに、シグルドはその魔剣を彼女の首に……ではなく、彼女の前の床に突き立てた。

 

 「貴殿をマスターと認めよう、オフェリア・ファルムソローネ」

 「………え?」

 

 命を賭すつもりだったオフェリアにとってそれは不意打ちだった。

 それに先ほどまでの厳格に満ち溢れた男の声に、僅かではあるが物柔らかさが宿った気がする。

 

 「この戦いに善悪はない。異聞帯が悪であり、汎人類史が正義であるわけでもない。この世界が生まれ、民草が生き続けた歴史を築いたその時から、一つの生存競争の枠組みが完成している」

 

 シグルドは語る。

 この世界が滅ぶべき悪ではないと。

 

 「もし貴殿が己らを正義と嘯くのであれば、貴殿をマスターとは認めず汎人類史の英雄として自害し果てたところ」

 「見限ったとしても、私を殺さないつもりだったのですか」

 「マスター殺しは禁忌すべき行いと認識する。それは呼ばれた者の最低限度の節度。無論、殺戮を好む者であれば話は別だが……貴殿はそうではあるまい?」

 「……魔術師ですから。人を殺したことはあります。ですが、人を好んで殺めるほど酔狂ではないですね」

 「それで良い。貴殿は、魔術師と言うにはあまりにも優しすぎる」

 「私に優しさなど無いと思うけど……もし貴方の認識であると言うなら、それは侮辱とも取れますよ、セイバー。魔術師とは非情な生き物でなければいけないのだから」

 

 【魔術師は非情でなければならない】

 そうでなければならないと思っている時点で、オフェリアは魔術師として人間寄りすぎる。

 本当に非情な者とは、そのような言葉は出てこない。真なる非情者とは、決して己の行いに倫理を当て嵌めたりはしない。常に己の行いに揺らぎを持たない強く冷徹な心を持つ者でなければ。

 

 「不快に思われたのならば、非礼と詫びよう」

 「いえ、いいの。私が魔術師として未熟なのは重々理解しています」

 

 シグルドに甘さを指摘されたと思ったオフェリアはその欠点を直そうと肝に銘じた。

 彼は決してオフェリアに未熟だと言ったわけではなく、その優しさこそがオフェリアの長所であると思っているのだが……敢えてシグルドは訂正しなかった。今の彼女は自らを見つめ直し、そして成長できるのだと信じて。

 

 北欧最大の英雄シグルド。

 汎人類史の英霊でありながらも、異聞帯(ロストベルト)のマスターに仕えると決めた男。

 神々の叡智はこの世界の絡繰りを見た。そして、悟る。

 この世界はオフェリア同様優しすぎる世界。

 炎の巨人王の焔に晒されることなく、民草を苦渋の選択で殺める必要もない、まさしく北欧の神々が夢見た理想郷のような世界。

 だからこそ、脆く儚いものだとシグルドは感じた。

 果たしてこの世界はこの先訪れる脅威に耐えられるか否か。

 

 「(いや、それよりも早くこの世界に訪れるは汎人類史の生き残りか)」

 

 本来はシグルドも彼方側。

 それでも、決めた。決めたのだ。

 マスターに呼ばれたサーヴァントだからというだけではなく。

 己を求め、そして為すべきことを為さんとするか弱き女の力になると。

 この行為を汎人類史への叛逆、裏切りと捉われても致し方ない。

 されども、目の前の今にも折れそうな人間を見捨てることこそ、シグルドの矜持が許さない。

 

 ―――願わくば、どうかこの娘に幸あらんことを―――

 

 世界は何処までも残酷であることを誰よりも知っている男は、その現実を知りながらも願わずにはいられない。

 せめてこの太陽の魔剣が彼女の道を少しでも照らさん。そう、この場所にて彼女に誓ったのだ。

 

 「オフェリア。我がマスター。貴殿に降り掛かるあらゆる災厄は当方が請け負おう」

 「……いいえ。それではダメ。この責務は貴方一人に押し付ける気はありませんし、譲る気もない」

 「ほう?」

 「だから―――私と共に歩みなさい、シグルド。私の最強の騎士。貴方の力は、私の弱さを支えてくれる。だから私も貴方のマスターとして、微力ながらも力を尽くす。それが、主従というものでしょう?」

 

 この時見せたオフェリアの笑みはどこまでも健気で、それでいて強かった。

 心身ともに疲れ果てているであろうその状態でここまで言われたのだ。

 これに応えなければサーヴァントとして失格だ。

 

 「この異郷の地にて貴殿に召喚されたことを喜ばしく思う」

 

 彼女を死なせてはならない。

 彼女を守らねばならない。

 

 「如何様な命令でも構わない。速やかなる遂行を約束しよう」

 

 戦士の王は、北欧の世界にて忠誠を誓う。

 

 




 オフェリア……最初見た時から幸薄そうだなって思ってたけど
 イメージ構成自体が「死ぬこと前提」のキャラ像だったという衝撃の事実(FGOマテ
 そりゃ幸薄く見えるよねって……
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