死がふたりを分かつまで   作:ナイジェッル

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慎二&イアソンが逝く第五次聖杯戦争

 「なぁマスター。俺達は、この戦いでどうなると思う」

 

 現代の地方都市、冬木市のビル群の一つ。その中でも一際高い高層ビルから地上の街を見下ろす男は己のマスターに問う。

 美しい金髪を風に靡かせるその男は、どこへ居ても目立つであろう時代錯誤な古代の黄金鎧を着込んでいた。それでもその鎧は決してコスプレのような作り物ではなく、純金製の立派な本物であると見た者は語るだろう。

 映画の撮影のワンシーンだろうか。そう思わせる気取った態度と言葉にもう一人の男は頭をガジガジと片手で掻いて呆れるように答えた。

 

 「三流のサーヴァントじゃなけりゃあ、今頃僕は華麗な戦歴と共に優勝間違いなしだったよ」

 

 金髪の男の隣に立つ青髪の青年はどこか滅入っているような雰囲気すら感じられる。

 例えるなら人生最大のビッグイベントに乗り遅れたかのような。

 宝くじで一億円当たったと思ったら番号一桁違ってたかのような。

 そんな雰囲気。

 

 「奇遇だな。俺も自分のマスターがド三流じゃなかったら今頃無双してたところだわ」

 

 金髪の男は口元を引き攣らせ、額に血管を浮かばせながら己のマスターに苦言を呈す。

 

 「ハッハー! ナイスジョーク!」

 「お前には負けるなマスター!」

 

 いきなり馬鹿笑いする二人の男達。

 そう、彼らは運命から見放された阿呆共。

 よりにもよって、なんでお前なんかがと言わんばかりに大笑い。

 

 「はーっはは……ひー………ふふ……はは………ざっけんなよ畜生! お前イアソンなんだろ!? あのアルゴー船の船長なんでしょ? え、なに? 満足に戦えもしないのこのスカタン!!」

 「おーまーえーがーちゃんと魔力を送ってくれたらもちっとマトモだわへっぽこやろう!! なんだこのひょろがりパスはアァン!? こんなおやつにもなんねぇ魔力でどう戦えってんだ!」

 「それをどうにかするのが大英雄の役割だろ! あーそれともお前は大英雄じゃなかったんだー! イアソンって結構有名だと思ったけどそうでもなかったんだねー! お前が来たっていうから喜んでたのにとんだ大外れだよ!!」

 「なんでもかんでも英雄だからってどうにかなると思うなよシンジィ!」

 「夢くらい見させてくれよライダーァ!!」

 

 喚き合う主従。どうしてこうなった。

 間桐慎二の聖杯戦争はこんなものではなかったはずだ。

 強いサーヴァントを妹に召喚させて、それを奪い取って、間桐家の正統後継者として一切の失敗なく勝ち進む。それこそが正しい約束された勝利の未来図だった。

 それなのに、序盤からコレ? なんだこれ、どういうこったこれ。

 召喚された男はかのギリシャ神話の大英雄イアソン。その輝かしい逸話からして女絡みの内容を除けば何も問題ないサーヴァント。まさしく間桐家の男児に相応しい英雄……そう、思っていた。

 蓋を開けてみればコレだ。やれ前線で戦わせるな。やれマスター使えない。やれ現代を案内しろ。サーヴァントとは思えない我儘なオーダーばかり。しかも言うだけ言って観光気分。なんでそんなにお気楽にいられるのかと思っていたが、最近ようやく分かってきた。

 

 「(こいつ、戦うことを諦めてやがる……!)」

 

 ライダーのステータスは悪くはない。それどころか固有スキルも平凡ではないユニークなものばかりだが、戦士としての技量が明らかに低い。

 元々ライダークラスは宝具を駆使して戦う者。宝具無しの白兵戦で物を言わすクラスではない。例外もあるのだろうが、少なくともイアソンは明らかに宝具依存の英雄。悔しいが、偽臣の書で縛っているだけでしかない慎二にそのポテンシャルを十全に発揮できる力はない。それは認めよう。

 しかし、しかしだ。まさかここまでの腑抜けとも思わなかった。戦う前から戦意を喪失するなど、英雄にあるまじき態度。少なからず英雄という存在に憧れのような憧憬があった慎二からすれば、失望するに余りある。

 

 「……もういい。ったくなんなだよお前。何が悲しくて男二人で高層ビルの上から街を眺めなきゃならないの? どうせなら美女とこういうところで街を一望したいんだけど。ここで何がしたいんだよ」

 

 どうしても見たいというから連れてきた、冬木市が誇る最大規模の高層ビル。そこから見る町々の光は夜空を明るく照らしている。こんな場所にライダーは何を求めているのか。

 

 「なにってお前……はぁ……そういうところだぞ、シンジ」

 「はぁ? なに、また喧嘩したいわけ?」

 

 マスターとサーヴァントとは主従関係ではなかったのか。ここまで生意気なサーヴァントがいていいのか。そう思わざるを得ないのだが、その数秒後のライダーの言葉に慎二は言葉を詰まらせる。

 

 「戦場を把握する為に決まってるだろ(・・・・・・・・・・)。なんも知らない場所での殺し合いだぞ? 一度、全ての立地を頭に叩き込むに相応しい場所を求めるのは当然だ」

 「おま―――」

 

 ここにきて、いきなりの英雄思考。散々そこらへんに連れ回されたのはその為だったのか。そしてこの高層ビルに来た理由。それが、今まで練り歩いたところを踏まえて何処に何があるか、どういう場所なのかの総括。

 

 「いやそういうことは最初からそう言えよ!?」

 「言わんでも分かると思ってたんだがなぁ……俺のマスターなら」

 「なんだとゥ!!」

 

 やっぱりこいつ嫌いだ。

 

 「シンジ……マスターの役割がなんなのか、お前は分かるか?」

 「そんなの、決まってるじゃん。勝つことだよ」

 「ちげぇよ。それは結果で、行うのもサーヴァントだ。もっと単純なこと……生き残ることだ」

 「なんだそりゃ」

 「今、甘くみたな? 生き残ることを。当たり前すぎて疎かにしやがった。そういう奴は早死にする。こんなバカげた戦争だと特にな」

 

 ライダーは、先ほどまでとは打って変わって真面目な声で、真面目な面で、そんなこと言った。

 まるで説教されているようで気に食わなかったが、反論できる要素がなかった。

 【死ぬ】

 殺し合いなのだから、殺しもするし、殺されもする。その当たり前の前提を慎二はハッキリ認識できていたかといえば、否だった。自分が死ぬはずがない。負けるはずがない。そう信じて疑っていなかった。

 果たしてこの状況で最初の頃と同じことが言えるのか。頼みの綱であったサーヴァントが使い物にならない。それでも聖杯戦争に参加してしまっている。今更後には引けない。厳密には聖堂教会に駆け込めば、辞退こそできるがそれでは間桐慎二のプライドも死んだも同然。遠坂凛にも無論知られてしまうだろう。

 それだけはできなかった。最初から、慎二に退路はない。では突き進むにおいて、己が死ぬ確率はどれだけあると思う。このサーヴァントとマスターで最後まで生き残れることができるのか。その自信は、今も保てるのかと。

 

 「指揮官(マスター)の心得ってものを教えてやろう……まず最初に、生き残ることだ。次に、何が何でも生き残ることだ。ここでの知識、地形、常識全てはマスターの方が詳しい。それらを加味した上で指示できるのもマスターだけだ。そいつが真っ先に殺されたら終わり。マスターを要石としているサーヴァントも終わったも同然」

 

 マスターとサーヴァントは二人三脚。この戦争中は一心同体でなければならない。その上で非力な人間でしかないマスターができるとしたら、生き残ることに他ならない。

 

 「俺達は確かに最悪のチームかもしれねぇが、生き残っている限りは負けはねぇ」

 「……なんだよ。負け犬思考じゃないか」

 「お前の大好きな勝つ思考だ。真正面から勝つだけが全てじゃねぇってことだ」

 

 そんな脳筋はバーサーカークラスだけで十分だとライダーは言う。

 

 「(なんだよ……意外とちゃんとしてるじゃんか)」

 

 慎二は少しだけ、ライダーを見直した。口には絶対に出さないが。

 

 「ふふっ。素晴らしいご高説ね。でも無意味になるわ。本当にざんねん」

 「「!?」」

 

 背後から不意に聞こえた少女の声。

 慎二とライダー以外がこの立ち入り禁止のビルの屋上にいる筈がない。

 では警備員か? それこそあり得ない。少女の警備員など、いてたまるものか。

 条件反射で二人は背後を振り向いた。

 

 そこには赤い眼を宿し、長い銀髪をもった人間離れした美しい少女と。

 絶望の巨人が立っていた。

 

 「………嘘だろ、おい」

 

 イアソンは目を見開いた。

 

 「あら、その反応……もしかしてバーサーカーのお知り合い?」

 「どうなってる。アイツが、人間に使役できるわけが……お前、何者だよ!」

 「おい、ライダー! あのバーサーカーのこと知ってるのか!?」

 「知ってるもの何もあるか! アイツはやばい、アイツだけはヤバい!」

 

 ライダーに限った話ではない。どのような英雄が相対したとしても、あのバーサーカーを前にしたら、あらゆるサーヴァントが等しく塵芥となる。

 その強大さ故に普通のマスターであれば一瞬で干乾びるであろう器。万夫不当の大英雄。その代名詞。だからこそ召喚はされても扱いきれるものではないとライダーは踏んでいた。

 仮に、仮にだ。どれだけ不運と不運が重なろうともその存在が同じ聖杯戦争で召喚されて、敵対したとしても。まず間違いなくソレを呼んだマスターは自滅する。その存在を扱いきれることなく、召喚した瞬間に終わるはずだ。

 それなのに目の前の少女は完全にその存在をコントロールしている。それも更に魔力を喰らうであろうバーサーカーのクラスで召喚しておきながら。

 

 「くそったれ、最悪だ。俺達が最弱陣営なら、奴らはまず間違いなく最強の陣営……!」

 「ライダー! なに弱気なこと言ってんだよ!」

 「バカ野郎! お前、アイツは、あのバーサーカーはなぁ!!」

 

 ライダー如きが立ち向かえるもんじゃない。なにせあのサーヴァントは。

 

 「大英雄ヘラクレス……だもんね」

 「へ?」

 

 少女から明かされたバーサーカーの真名。それを聞いた慎二は呆気にとられる。

 

 「……ふん、自らバーサーカーの真名を明かすとは傲慢がすぎないか?」

 「もし貴方が私の立場だったら、きっと同じことをするのでしょう?」

 「生意気なガキめ……!」

 「その生意気な子供に今から貴方達は蹂躙されるの。せめて上手に踊ってね」

 

 イアソンは心の中で銀髪の少女の評価を訂正する。

 生意気どころではない。悪趣味なマスターだ。

 ヘラクレスを召喚し、従えていることに大きな自信と慢心が滲み出ている。

 それはそうだろう。誰だってヘラクレスが仲間ならば勝ち誇るに違いない。

 尤もそれができるのは世界でただ一人、このイアソンだけだと思っていたが。

 

 「逃げるぞ、マスター!」

 

 どうあれ最悪な事態に変わりはない。

 戦うなんてありえない。一秒よりも先に瞬殺されるだけだ。

 

 「え、おい!? 首根っこ掴むなっていうかここビルの屋上ぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 イアソンは慎二の首根っこを掴んでビルから飛び降りた。

 重力に従い自由落下する最弱主従。

 

 「おいおいおいどうするんのコレ!? 地面とキスしちゃうよこれ!?」

 「黙ってろマスター! 舌噛むぞ! 出てこい、我が誉れたるアルゴー号!」

 

 ライダーは帯刀していた剣を引き抜き、虚空を引き裂く。

 その空間はパックリと割れ、その次元の中からは船影が写される。

 今こそ現れるのだ。現代に甦れ、古代ギリシャにその名を刻みし栄光の象徴!

 

 「おお!」

 「その緊急脱出用ボート、アルゴーJr(ジュニア)!!」

 「えぇぇぇぇ!?」

 

 実際に出てきたのは伝説の巨大戦艦アルゴー号―――ではなく、その船に搭載されていた小舟であった。勿論 小舟だけあってだいぶ小さい。大人二人が乗れる本当に緊急脱出用のボートである。

 それに乗ったライダーはすぐさまその小舟になけなしの魔力を送り、空を駆ける神秘を与える。するとアルゴーJrは光を灯して確かに空を飛んだのだ。本物のアルゴー号ならば更なる速度を出せるのだが、所詮はその船から付随されたもの。空を飛べるだけでも上等だ。

 

 「うっそだろ、そこはアルゴー号じゃないのかよ!」

 「文句言うな突き落とすぞバカマスター! 魔力が足りねぇんだよ魔力が!」

 

 小舟を出して空を飛べてる自体ありがたく思え。

 

 「あははははは、なるほどね! その小さなお舟、アルゴーJrっていうの!」

 

 どこからともなく木霊する少女の笑い声。二人は引き攣った表情で周囲をバババっと見渡す。

 ―――いた。

 あのバーサーカー、ビルとビルの屋上を尋常じゃない速度で飛び移って追ってきている。

 かつての盟友にも容赦なく追跡するギリシャ最大の英雄。今まであれほど頼もしかった存在が今では死神など生温く感じる。ああ、これが敵がこれまで見ていたヘラクレスの姿なんだなって半ば現実逃避に至りかける。

 

 「貴方がイアソンね! バーサーカーと一緒に旅をしたアルゴー号のキャプテン!」

 「ああそうだよ、真名看破ご苦労様! だが俺の真名を看破したところで美味しいことなんてなんにもないからな! 俺弱いし!」

 「そんな卑屈にならなくていいのよ、ライダー。私、これでもかの大船長イアソンとお会いできて光栄だと思ってるんだから!」

 「そうかい、ありがとよ! ならそいつの船長ってことで見逃してくれるのか!」

 「まさか。ちゃんとバーサーカーの斧でミンチにして土に埋めるわ」

 「こっわ!?」

 

 恐ろしすぎる。なんだあの少女、まさかヘラクレスを上手く使えるのは私なんだからとでも思っているのか。もしそうなら声を大きくして反論してやりたいところだが、ぶっちゃけ今はそんな余裕はない。

 分かったのだ。今ここでアレに捕まれば死ぬだけでは終わらない。きっとありとあらゆる尊厳破壊を行使してくるに違いない。その上で殺されるのだ。絶対に勘弁だ。あんなサイコロリに捕まって堪るものか。

 

 「シンジ! これを受け取れ!」

 

 最終手段だ。これだけは使うまいと思っていたが、仕方がない。

 もはや見栄を張っても仕方がないところまで来ている。

 

 「これって……(オール)?」

 「そうだ」

 「………まさか」

 「そのまさかだ」

 

 慎二は理解した。何のためにライダーがこれを手渡したのか。そして今から何をさせられるのか。

 

 「死ぬ気で漕げマスタァァァァァァ!!」

 「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 二人の男は必死で漕いだ。全力で漕いだ。

 (オール)は小舟のサブエンジン。魔力をより効率的に小舟に伝導させ、速度を加速させる奥の手。

 漕げば漕ぐほど船は前に進む。道理である。

 見方によればただ漕ぐだけで空を駆ける小舟の速度が上がるのだから、生き残る為ならばこの(オール)に縋るしかない。

 問題があるとすれば―――。

 

 「あははははは! なにあれ、なにあれ!?」

 「………」

 

 その間抜けな絵面はプライドをズタボロにしていくのだ。

 しかも違和感を持つほど速くなる。まるで執念が速度に現れているかのように。

 生き残る為に全てを投げ打って漕ぎまくる二人の姿に銀髪少女は大いに受けた。

 そして、そんなかつてのキャプテンを見たバーサーカーは―――少し、微笑んでいたのかもしれない。

 

 

 「「くそったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」

 「「死んでたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

 

 これは余談ではあるのだが。

 この夜、冬木市の空に正体不明の飛行物体が現れ爆走しているという多数の目撃証言があり。

 とある聖堂教会所属の監督役神父が徹夜して(・・・・・・・・)揉み消しに掛かったとのこと。




 あの二人、ぜったい相性良いだろうなとワカメ食べながら思いついた短編SS
 ご感想とかがあれば……いいな?
 そんな気持ちで書いた息抜きSSです
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