死がふたりを分かつまで   作:ナイジェッル

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第03戦:神霊ブリュンヒルデ

 スルーズが召喚された魔の森林。その遥か南方に只管進めば、一つの高山が聳え立っていた。氷食尖峰 (ひょうしょくせんぽう)と呼ばれる特殊な形状をした、山頂部が鋭く尖ったピラミッド型の岩峰。本来であれば氷河により谷が削られてできた圏谷が、複数方向から山を削ってできるものなのだが、あの高山は違う。たった一人……否、一柱が一瞬にして形成した氷食尖峰型の『城』である。

 その周辺は雲を超え、成層圏すらも届きうる神々しい火柱で360°全方位を囲むようにして護られており、神獣であろうとも無断で立ち入ることは叶わず。そして《彼女》の許しを得た存在のみが滞在を許される神の不可侵領域。

 

 「―――また、私の世界に招かれざる客が訪れたのですね」

 

 山頂部に堂々と建設されし氷の古城。その最奥、城内にて煌びやかな王座に座す存在が無表情でその事実を告げた。

 ソレは女の形をしていた。ソレは人の形をしていた。されども、その存在は人間にカテゴリされるものに非ず。自然の擬人化。星の一部である神と呼ばれた一柱。

 髪は雪より白く。貌は人形よりも無機質なほど整っており、もはや現実味すら感じぬ造形美。細部にあしらわれた魔銀(ミスリル)の鎧はこの世のものでは存在し得ない神秘を纏っていた。

 神霊ブリュンヒルデ。

 女神の神核を有する女。半神でありながら生粋の女神と同じ純度を誇る神霊。正しき歴史であればその神核は大神オーディンに封じられ、開くことはないとされていた権能の権化。ソレが今、正しく神核を稼動させ、異例にも神としての側面を発露させている。

 

 「最初に現れたのはあの男、シグルドなる者。あの男と同類……サーヴァントと呼ばれるものか」

 

 神霊ブリュンヒルデが目を閉じ、思い返す。この不可侵と思われた城に堂々と単騎で挑んできた勇者。万全でもないだろうに、この城の最奥まで辿り着いた男。あの英雄は、度し難いほどの器ではあった。この身を自らが知るブリュンヒルデではないと分かった上で、語りかけてきた。それを一蹴しても、あの男は最後まで剣をブリュンヒルデに向けなかった。それを評価してブリュンヒルデも一度は彼をこの城から去る過程を見逃した。一度も交戦することなく、ただ互いに存在を確認し合い、今は戦うべきではないと言い放ったシグルドを背後から消しかけることなく、見送りさえした。敵ながら肝の据わった者だと呆れたが故の気まぐれだ。

 だが、二度目はない。今度出会えば、シグルドを消滅させる。これは決定事項だ。敵と分かれば、残る手段は殺すのみなのだから。そしてそれはシグルドも同じであろう。和解が成立しないのであれば、二度目の訪問はまさしく襲撃。シグルドもソレ相応の覚悟と準備を経てブリュンヒルデの命を取りに来る。

 

 「来訪者は英雄シグルドと共に行動している。であれば、是非もありません。この世界を脅かす脅威は粉砕します。悪しき文明の徒は、悉く破壊せねばならない」

 

 ブリュンヒルデはこれまでに多くのオーディンの命令に従ってきた。正しく稼動し、正しくその役割を全うしてきた。その姿はまさしく戦乙女(ワルキューレ)の模範足りえた。誰しもが彼女の完璧を認めた。されども、結局は、人の意思を持つ兵器。真なる完璧など元より無かった。

 一度だけ。生涯に一度だけ、オーディンの使命に逆らい、自分の判断で決定を下したことがある。その生涯最初にして最後の指示を破ったが故に、オーディンに力を封じられ、焔の館に封印された。

 それで、終わりだ。本来焔の館に至るべき勇者はこの世界では生まれず。あるべき歴史から外れた神話に取り残されたブリュンヒルデは眠り続けた。

 そして時は来た。あの終焉を。ラグナロクを。

 炎の巨人王の出現で神も、巨人も、なにもかも、全てが消え去った。それでもブリュンヒルデが生き残れたのは大神オーディンが焔の館に刻んでいた原初のルーンの加護ゆえ。鉄壁の封印は、なんの皮肉かあらゆる焔を断絶するシェルターの役割を果たしたのだ。

 北欧世界は消滅し、ブリュンヒルデもまた、そのまま起きることなく化石となる運命だった。

 しかし、奇蹟は起きた。廃れるだけの眠り姫の下に、次元の(ヒズミ)が降ったのだ。

 ここではない世界線にて、人理が焼却され、不安定となり、それはあらゆる世界に外部的な問題を齎していた。ブリュンヒルデの目覚めもまた、その歪みによるものに他ならない。

 ブリュンヒルデが目覚めるだけならまだいい。力を封じられたブリュンヒルデであれば、まだ戦乙女(ワルキューレ)の範疇に留まっている。しかしブリュンヒルデは目覚めると同時に己に架せられた封印も開封してしまった。何故ならば、それだけ次元に緩みが生じていたからだ。正しく人理が機能していたならば、ここまでの封印解除は許されなかった。しかし、特異点なりうる世界の歪みはそれすらも認可してしまう。

 ヴァルハラへと送る装置だったブリュンヒルデ。その送り先であるヴァルハラも今や消失した。ヒトの魂を届ける先がない。神代の終焉(ラグナロク)を終えた巨人王スルトも運命に則り、あの一閃を放った後に鎮火された。目覚めたはいいが、その先はまるで存在意義の困窮。倒すべき存在も、指示を送る存在もいない。ただ一柱だけ生き残ってしまった。

 先が無いのであれば、ブリュンヒルデはどうするべきか。そして彼女は永い時を経て独自のプログラムがその答えを導き出した。神霊としての答えを出してしまった。

 

 「(私は私の為すべきことを為しているに過ぎない。それでも我が行いを認められぬというのですね。英雄シグルド)」

 

 神霊ブリュンヒルデはシグルドの存在を知らない。そもそもあの一度目の邂逅以外、遭ったことなどない。運命の男と遭わないまま封印されていたものが神霊ブリュンヒルデなのだから、交わる接点など始めからないのだ。

 故に、ブリュンヒルデはシグルドを前にしても動じはしない。揺るぎもしない。このブリュンヒルデは第三者の介入程度でそのあり方を曲げることなどない。

 

 「ヒトは、脆い。ヒトは、弱い。この世界で勇士は生まれず。なればこそ、有限資源なるヒトは神の手で管理せねばならない」

 

 勇敢なる勇士はこの世から姿を消した。それでもその勇士を生み出せる母体は存在する。その者達を護り、育て、配合(・・・・)し、生誕させる。この氷食尖峰で。第二のヴァルハラとして。

 彼女は決めたのだ。神も巨人も存在しえぬこの地で生き残った種族人間を強く長く存続させるのだと。その為には超越種による管理が必要なのだと。

 故に神霊ブリュンヒルデは号令を下す。いつものように。

 

 「私の愛しの戦乙女(ワルキューレ)よ。ヒトを回収しなさい。この地上に残るヒトを。無論、質の高い勇士を生み出す優秀なつがいを選別し優先するのです」

 

 それが例え夫婦の片方だけが勇士を生み出すに優秀であれば、これを引き裂き、別のつがいに宛がう。それが例え、ヒトが拒否しようとも、強制するのみ。全ては優秀な勇士を生み出す為に必要な過程だ。この行いを妨げるものは何人(なんぴと)も許されない。

 氷食尖峰に待機していた戦乙女(ワルキューレ)達は指令伝達を受け一斉に行動を開始する。その全ては大神オーディンが創った元来の戦乙女(ワルキューレ)ではなく、ブリュンヒルデが創りし精巧な兵士。それ故に独自のネットワークを持つ、新世代の乙女達。彼らの力はオリジナルの戦乙女(ワルキューレ)にこそ劣るものの、数は多い。生身の人間が対抗できる存在ではないのは明らかだ。事実、これまでこの世界の人間達は為すすべもなく、回収され続けてきた。対抗できるとすれば、今や一つしかない。

 

 「追記命令。サーヴァントなるものが妨害してきたその時は―――殺しなさい」

 『『『『『お姉様の御心のままに』』』』』

 

 飛び立つは美しき美貌を持つ天使の如き女たち。されどもその役割は人の温かさを持ち得ぬ機械が如き人形。右手に持つは黄金の槍。左手に持つは円状の盾。人如きを相手にするには過剰戦力と言わざるを得ない装備。

 これまで通り、彼女達は一方的にヒトを攫うだろう。回収するのだろう。

 しかし、彼女達もじき知ることになる。その魔術師であろうとも蹂躙できる破格の装備は、過去一人の男が容易に粉砕してきたことを。あの膂力、あの技術、あの魔剣を前にすればまるで意味を成さなかったことを。サーヴァントなるものの妨害が、如何に理不尽じみた脅威であることを彼女達はその身をもって知るのだ。英雄という存在を。




 ネロ祭では権能等も持っているが封印されているとのことことで、それらを開封し、更に女神の神核も本格稼働して程よくラスボス風味にした神霊ブリュンヒルデ。

 神霊ブリュンヒルデの行動理念は「より長く人類を反映させること」

 なお能力値が高く、適正の良いものを勝手に選び強制的に結ばせる究極のお節介機構。人間の意思を無視するのは神の特権と思ってます。
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