〜プロジェクト東京ドールズ〜『化け物とドールの絆』 作:やさぐれショウ
南国リゾートから戻った翔達は、ドールハウスにて通常の生活をすることに…帰って来て早々、作戦室に呼ばれたため、すぐに向かった。
斑目「よし、皆揃ったな。これよりデータ解析の共有を行う。」
全員揃ったかに見えたが……
ミサキ「揃っていません。シオリが不在です。」
シオリだけは、この場にいなかった。
翔(オンライン通話では元気そうな様子を見せていたが…本調子じゃなかったのかもな……)
シオリが不在であると知った翔は、思わず口角を下げる。
ミサキ「私たちは、何の説明も受けていません。まずは、シオリの容態の説明を。あの桁外れの戦闘能力…まさか、チヒロと同じ--」
斑目「それとは違う。シオリは無事だ。異常なしと検査結果が出ている。」
翔「なら、何故この場にいねぇんだ?」
斑目「先のシオリの状態は『Eモード』--『
ダイダロスにて見せたシオリの戦い…あれは、彼女がEモードを経て覚醒した姿と考える斑目。
アヤ「い、イー、モード……?」
翔「何だよ、そのEXECUTIONモードってのは…?」
翔の質問に斑目は応える。
斑目「自己防衛のための意識のストッパーを外し、自身の中のみでエネルギー循環を成立させ--
フィールのエネルギーを加速することによってドレス強度や運動能力が大幅に上昇する。」
彼女の返答に反応を示したのは…Dolls屈指のゲーマー、ヤマダだ。
ヤマダ「おおおっ、つまり、リミッター解除の無敵モード!サイッコーじゃないすか!」
ヤマダの反応に、隣にいたアヤは呆れていた。
ヤマダ「アレ、ジブンらもできるんでショ?えっと…どうやるんだ……?」
斑目「やめろ。理論上可能だが……許可できない。」
DollsがEモードを発動するのを、斑目は拒否する。
ヤマダ「はぁ?そりゃ無課金ってわけじゃないでしょうけど、多少のデメリットで済むなら…」
翔「そうじゃねぇよ。」
ヤマダの言葉を遮った翔…幾つものライダーシステムを扱う彼は、知っていた。
翔「強大な力を出せる分、発動した者には多大な負荷が掛かる。そうだろ?」
斑目「青空の言う通り…そのデメリットが割に合わんからだ。」
数々のライダーシステム、リミッター解除等々…多彩な強化方法を見たり体験した翔。力が強くなれば強くなる程、使用者へ掛かる負担は大きくなる。最悪の場合…命を落とすこともある。Eモードでは、死に至るという言葉は出てきていないが…
斑目「Eモード発動は記憶の喪失を伴う。どこまで失われるかは…コントロールできない。」
記憶を失うリスクがあるというデメリットがある。だが、これはほんの1部に過ぎないらしい…
アヤ「え……!?じゃあシオリは…あたしたちのこと、忘れちゃってるの!?」
アヤは心配するも、斑目は説明を続ける。
斑目「今回、Eモードを実施していたのはそう長い時間ではない。失われる記憶は実施時間に比例したいた。今回の例では…そこまでは遡らないだろう。」
どうやら、この『Eモード』には…使う時間が長ければ長い程、記憶を失うそうである。今回、シオリのEモードは短時間の使用であったため…多くの記憶は失われなかったようだ。
レイナ「けれど、もしも記憶が全て失われていたら?『シオリ』が『シオリ』でなくなっていたら?」
斑目「ドールとして機能しないならば……
最悪、破棄の可能性すらある。」
斑目がそう言った次の瞬間……
翔「ッ!!」ガタッ!!
ガシッ!!
斑目「ッ!?」
翔が彼女の胸ぐら掴んだ。その表情は、怒りに満ちていた。
翔「それ以上喋ったら…
…どうなるか分かってんだろうなぁ?」
怒鳴りはしなかったものの、ドスの効いた低い声を出す翔。
愛「翔君、ちょっとこっちに行こう?」
彼は愛によって連れられ、作戦室から退室した。
ミサキ「破棄って……!なら、何故そんな危険なことを!?」
翔が去った後、ミサキは斑目に抗議した。
斑目「だから…お前たちには伝えていなかった。」
ミサキ「……っ!!」
何かを察したのか、黙り込むミサキ。
斑目「記憶を…メモリアを直接フィールに変換している。エネルギーの反動で身体への懸念もある。自己完結で戦闘遂行能力を担保できる利点はある。今回はテアトル展開に不測の事態があった。緊急回避の手段としてやむを得ない事もあるだろう。だが……それでも割のいい手ではない。」
斑目の説明が終わると、ミサキは再度抗議する。
ミサキ「どうしてシオリなんですか……!その理屈なら、私たちにだってーー」
斑目「加えて言うなら……『あれ』が彼女の役目だからだ。」
レイナ「どういうこと?役目っていうのは……」
困惑するメンバー達の前に、彼女が現れる。
シオリ「…役目だなんて、言い方がよくありませんね。」
それは、休んでいる筈のシオリだった。
ミサキ「シオリ……!」
シオリ「私にとっては、大事なお約束。そうでしょう?斑目さん。」
レイナ「目が覚めたの!?」
その時、作戦室のドアが乱暴に開かれ…翔が戻って来た。
翔「ッ!!…シオリ、お前…休んでなくて良いのか?」
シオリ「はい、大丈夫です♪」
彼女はいつものシオリであった。そんな彼女に、思わず固まってしまう翔。
シオリ「ダイダロスに向かった所までは覚えているんですが。」
メンバー「「「……。」」」
シオリ「びっくりしちゃいました。起きたら医務室のベッドの中で……」
翔「…もう良い。それ以上言うな……」
アヤ「ほんっともう…!あたしたち、どれだけ心配したか…!」
シオリ「すみません。でも、私は平気ですよ。」
心配するメンバー達に謝罪するシオリ。
シオリ「今のお話と私の状況を鑑みると…お約束は果たせたのでしょうか?
は、殲滅できました?」
翔(サクリファイス…?)
斑目「その結論を出すのは早い。それにその呼称はーー」
シオリ「あら、それじゃあなんて呼びましょう?
イケニエちゃんにします?」
いつものシオリだと思っていたが…何やら様子がおかしい。
ヒヨ「いけにえ……?」
シオリ「そう、私たちの前身といえば良いのかしら?」
斑目「……。」
翔「シオリ…気でも狂ったか?」
やっとのことで声を出す翔。彼も珍しく戸惑っている。
シオリ「いいえ、狂ってませんよ?」
翔「……。」
翔が黙り込むと、シオリは再び口を開き始める。
シオリ「それでは……昔話をしましょうか?まだここが、アイドル事務所じゃなかった頃の話。
いいですよね?斑目さん……それともご自分でーー」
翔「…どういうことだ!?お前が作られる為に、犠牲になった奴らって……」
斑目「……構わん。シオリの言葉で伝えたいのならばな……」
戸惑う翔を尻目に、斑目はシオリの背中を押す。
シオリ「……。」
少しの沈黙の後、シオリはゆっくりと語り始める。
……昔々、あるところに1人の可愛い女の子がおりました。
女の子は死にかけていましたが、神様の奇跡…ギアを胸に入れ、生きながらえたのです。
女の子は奇跡の力で恐ろしい悪魔を打ち払いました。今まで誰も倒せなかった悪魔を…
でも力を使い切った女の子は、長い眠りについてしまった。
女の子は、いつまでたっても目が覚めません。これでは『悪魔』を倒せない。
彼女が一通り語ると、ユキが反応を示した。
ユキ「……!それは……わたし……?」
翔「…は?」
ユキの言葉に、戸惑う翔。シオリは続ける。
国のえらい人たちは考えました……
『どうすればこの奇跡をもう一度起こせるだろう。』
そうして、国中の年頃の女の子が集められ…
翔「…な、何だと…!?」
冷や汗をかき始める翔。シオリの話は、まだ終わらない。
だけど皆、ギアが胸に入りません。
みぃんな胸をかきむしって、のたうち回って…
色んな穴から血を吹いて死んでしまいました。
翔「……!!」
サクラ「そ、それって……」
その実験でただ一人、ギアの適合を果たした成功例ーー
翔「…そういうことか……」
彼女の話を聞き、全てを理解した翔。
つまり…ドールであるシオリは、漸く誕生するまでに多くの犠牲者を出したのだ。それは、国が公認した狂った実験。これを経て、ドール達が次々と誕生…現在に至っているのだ。
斑目「その実験で犠牲になったものたちは肉塊となり、フィールを求め貪る亡者となった。」
そして、シオリが言うサクリファイスとは……
翔「その狂った実験で死んだ奴らが、サクリファイスの正体だってのか……」
斑目「あぁ…悪趣味な名だ……」
ドールを生み出す為の実験で命を落とした者達だっだ。
斑目「地下鉄に現れた、あの異形ーー地下に投棄されたサクリファイスの遺体が、アタラクシアの影響により再び命を持ったのだろう…」
翔「…死体遺棄じゃねぇか、クソが……」
サクラ「あれは……ヒトだったんですか……?そんなの……ひどい…!斑目さんは……その非道的な実験を知っててーー?」
斑目「私が気づいたのはその『成功』の後だった。実験は…費用対効果を理由に凍結させた。
サクラ「……そんな理由だなんて……」
斑目の言葉に、まだ納得いかないサクラ。それもそうだ…結局、国の身勝手な手法により、多大な犠牲が出た挙げ句……終いには死体を地下に放り捨てたのだ。
ヤマダ「ふひひ…さすがブラック国家。効率最優先で合理的っすなぁ…」
斑目「……この件を伝えられなかったのは、ひとえに私の感傷のせいだ。皆を動揺させたくなかった。犠牲になった少女らの存在で…」
翔「……。」
斑目の言葉に、何かを言いたげな顔を見せる翔だが…しばし黙っていた。
シオリ「……でも、こうなってしまってはみなさんにちゃんとお伝えしないと。」
すると、シオリがまたも口を開いた。
シオリ「私は『シオリ』。
出来損ないのサクリファイスや壊れたお人形…
ピグマリオン殲滅を妨げるモノの処分実行…
彼女の瞳は、赤く不気味な光を放っている。
ミサキ「なによ……それ…」
サクラ「シオリさんが……監視……?」
震える声を出し、動揺するミサキとサクラ。
シオリ「……。」フラッ…
全てを語り終えたシオリは、危うく倒れそうになる。
シオリ「……まだ少しよくないのかしら。医務室に戻ります。みなさん、また後ほど…」
そして、作戦室から退室した。メンバー達が解散し、それぞれの持ち場に戻って行った。
翔「……。」カツンッ……カツンッ……
杖をついて歩く翔は、終始無言だ。そんな彼の側には、愛がいる。
愛「…翔君。」
翔「…心配は要らねぇ……ちっと落ち着かねぇだけだ…」
愛「……。」
翔「…あんたも、知っていたのか?あの狂った実験のこと……」
愛「ううん、初耳だよ……あたし、あんなの信じたくない…」
翔「…俺もだ。」
そして、医務室へと到着した。翔とシオリの部屋は、別々となっている。
翔(全く…こんなクソみてぇな話を聞かされたら、寝られやしねぇよ……)