〜プロジェクト東京ドールズ〜『化け物とドールの絆』 作:やさぐれショウ
作戦室にて、狂った話を聞かされた翔は…眠ることはなく、ずっと起きていた。というより、任務に参加していない彼は…眠ることはほとんど無く、ずっと起きているのだ。そのため、昼間にウトウトしては傾眠してしまうことが多くなっていた。所謂、『昼夜逆転状態』である。
翔「……。」
愛「……。」
全く眠る気配の無い翔を、ドールハウス担当医の愛は見守っていた。彼女もあの話を聞かされ、眠れなくなってしまっているのだ。
翔「…ちっ。」
不機嫌な翔は、舌打ちをする。そんな彼に、愛は声を掛けた。
愛「…ねぇ、翔君?」
翔「…何だよ?」
愛「何だか…何が正しくて、何が間違ってるのか……分かんなくなっちゃったね……」
翔「…フンッ、笑わせんじゃねぇよ。」
翔は愛の方に視線を向け、語り始める。
翔「この世に生まれた時から、正解も間違いも分からねぇんだよ。何当たり前のこと言ってんだ。」
冷酷な性格の翔は、人の話に共感することはあまり無い。
翔「…まぁ、そう思うのは俺も何だが……」
愛「翔君はさ、自分に厳しい性格なんだね。」
翔「…は?」
愛「だってさ、Dollsの皆が任務をしてるときは絶対に寝ないし…」
翔「それはアイツらの生活リズムに合わせているだけだ。」
愛「そうなんだ。後は、怪我をしても他人を心配するし。」
翔「アンタ、何か勘違いしてねぇか?ここではな、人材が不足してんだよ。折角の人材が欠けたら、誰が代わりになるんだ?」
愛「深雪ちゃんと蜜璃ちゃんをここに呼んだのは、あたしの負担を減らそうと思ってくれたからでしょ♪」
翔「医者は多い方が効率的だ。怪我人や病人の治療だって早くなる。効率を考えただけだ、アンタの負担なんざ知ったことか。」
愛の言葉を切り捨て、そっぽを向く翔。そんな彼を見た愛は…
愛「ウフフ、翔君は良い子だね♪」ナデナデ…
思わず、彼の頭を撫でた。しかし、すぐに彼から手を払われてしまった。
翔「気安く触んじゃねぇよ。」
愛「ごめんごめん。」
愛は翔と会話をするため、南国リゾートの話を聞き始める。
愛「そういえば、元ストライカー達のみんなと一緒に南国リゾート行ったんだよね?楽しめたかな?」
翔「…あぁ。」
愛「彩羽ちゃんとも話せた?」
翔「…まぁな。」
翔の口から出る返答は短いが、愛からの質問にはしっかり答えている。
愛「鴻上会長から新しいライダーシステムを貰ったんだ。」
翔「あれは青空 彩羽の物だ。俺は使わねぇ…」
涼生から貰った新型ライダーシステム『バースドライバーX』は、現在彩羽の物となっている。翔が彼女にあげたのだ。
愛「そっか…翔君はいっぱいライダーシステムを持ってるもんね。」
翔「…あぁ、これ以上使い切れねぇよ。」
数多くのライダーシステムを持っている翔だが、今の彼はそれらを長時間使用することは難しい。ストライカーによって大怪我を負わされ、まともに戦えなくなってしまったのだ。無理に戦えば、激しい痛みに襲われ、治癒が遅れてしまう。モシュネが開発した新型ドライバー『ネオアマゾンズドライバー』すら、満足に使えずにいた。
翔(戦えねぇことは分かってる…だが、戦いからは逃れられん……やんなっちまうな…)
愛(翔君が治療に専念出来ないのも、ストライカーや妖魔のせいだもんね…きっと、嫌になってるはず……)
今の翔の心情を、愛は理解していた。治療に集中したくても、ストライカーや妖魔の妨害があるため…心身共に余裕が無いのだ。ただ、幸いにも…彼の中に眠るアマゾン細胞が覚醒することは、今のところ無い。
愛「…ねぇ、翔君?」
翔「…?」
愛「最近、身体の具合とかどう?足が痛いのもあると思うけど、気分が悪いとかお腹痛いとかって、あるかな?」
翔「それはねぇ。」
愛「そっか、それは良かった。」
お互い眠れない翔と愛は、会話をしながら朝が来るのを待った。時には深夜番組を見たり、ドールハウスに来てから経験した思い出話をした。
気が付くと、既に朝を迎えていた。
翔(もう朝か…)
愛(あぁ、全然気付かなかった…)
朝を迎える頃には、Dollsはここへ帰って来る。しかし、現在Dollsは休んでいる。
翔「なぁ片山さん…」
愛「なぁに?」
翔「沖縄で得たあの腕が…誰のかわかったのか?」
愛「それが、まだ解析に時間が掛かってるんだって…カナちゃんが言ってた。」
翔「…そうか。」
沖縄旅行にて、ダムから引き上げられた謎の腕…それはまだ、何も分からずじまいだそうだ。
翔「…そうだ、アリアドネーの糸は役に立ったのか?」
愛「ダイダロスに入る時、糸玉を使ったから…今後、役に立ってくれると思う。」
翔「そうか。クナイはどうだ?」
愛「ごめん、それはまだ使ってない…でも、ミノタウロスの検体を取るには役に立つと思う!」
翔「謝るな、使うタイミングを考えてるんだろ?」
迷宮に行く前、翔がDollsにくれた物…アリアドネーの糸玉を参考にした毛糸玉、愈史郎の短刀を参考にしたクナイ。毛糸玉は使われたが、クナイはまだ未使用である。ミノタウロスの検体の確保が目的となった今、役に立つことは確実だ。
愛「翔君、今はゆっくり休んで?確実に休める日が必ずしも来るとは限らないって教えてくれたじゃん。」
翔「あぁ、わかったよ。」
愛「それじゃ、あたしは事務所で仕事してくる。何かあったら深雪ちゃんか蜜璃ちゃんに連絡して?」
愛が医務室を出た後、翔は目を閉じ…死んだように眠った。