〜プロジェクト東京ドールズ〜『化け物とドールの絆』   作:やさぐれショウ

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第三百三十九話 行く手を阻む敵と本当の気持ち

新年を迎えて約3日後、一同は再び観測室に集まった。

 

斑目「揃ったか、それではーー」

 

シオリ「どういうつもりか説明してください。」

 

突然斑目の言葉を遮るシオリ。その目は、怒りに満ちている。

 

翔「…?」

 

少しの間の後、斑目とカナは彼女に説明する。

 

斑目「連絡の通りだ。今回の作戦に伴い、シミュレーションの更新を行った。」

 

カナ「今回の更新では…『瘴気』の影響を再現。それと詳細な“サクリファイス”のデータをーー」

 

シオリ「サクリファイスをデータに落とした…?誰でも殺せるように!?そんなの認められない…約束したでしょう…あの子たちは…!!」

 

2人からの説明を受けても、シオリは納得できていない。

 

斑目「……気持ちは分かるが、ピグマリオンの肉組織と同化した彼女らはーー」

 

 

シオリ「分かってない!!

 

 

思わず声を荒げるシオリ。サクリファイスの正体は、ギアが適合せずに命を落とした少女達…国が行った過ちにより、誕生してしまった。

 

シオリ「分かっていたら…そんなこと…!」

 

斑目「感傷で対策を放棄するのは、愚作だ。作戦遂行、生存の確率を少しでもーー」

 

シオリ「そのために私がーー!!」

 

斑目「お前だけの問題ではない…!……理解できているのだろう…?」

 

シオリ「……そんな言い方……卑怯だわ…」

 

翔「……。」ハァ…

 

見兼ねた翔は、ため息を着いた。

 

翔「シオリ…お前、“生きる”ってどういう事か知ってるのか?」

 

シオリ「……どういうつもりですか?」

 

翔「言葉の通りだ、答えてみろよ。」

 

シオリ「……何が、言いたいんですか?ハッキリ言ってください、翔君!!」

 

翔「なら言ってやるよ、耳ン中かっぽじってよく聞いとけ。」

 

無表情を貫きながらも、翔は厳しい言葉を言う。

 

翔「生きるってのはなぁ、他の誰かの命を喰らうって事なんだよ。俺達は喰うか喰われるかの状況の中に居るんだ。今回の任務だってそうだ…俺達が迷宮を制するか…それとも、迷宮にいる奴らの餌食になるか……お前、自分の存在意義を、やるべきことをもう忘れたのか?お前達は未知の脅威から東京を開放し、この世界を生きる者達を守る…それがお前の、いや…お前達の役目だろ?違うか?」

 

翔の言葉を聞き、シオリは漸く静かになった。

 

ミサキ「シオリ……」

 

サクラ「……斑目さん、カナさん。シミュレーターはもう使えるんですね?」

 

カナ「はい、問題なく、すぐにでも。」

 

Dollsは作戦を成功させるべく、更新されたばかりのシミュレーターを使おうとする。

 

シオリ「サクラさん…!何を…!!」

 

サクラ「もちろん、バトルシミュレーターでサクリファイスとーー」

 

シオリ「ダメよ!!」

 

シミュレーターに向かおうとする彼女らに、矛先を向けるシオリ。

 

ミサキ「……何故?新しい敵に備えるのは当然のことじゃない。」

 

シオリ「それは……!」

 

ミサキの言葉に、何も言い返せないシオリ。

 

ヒヨ「待って!ヒヨも行く!」

 

シオリ「……!」

 

ナナミ「では、私も。」

 

シオリ「どうして……!?」

 

シオリ以外のメンバーには、迷い等無い。

 

翔「まだ分からねぇのか?俺達にとって、サクリファイスは行く手を阻む敵……だからだよ。」

 

シオリ「て、敵だなんて……!」

 

翔「事実だろ?故に、俺達に襲い掛かって来たじゃねぇか。敵じゃなけりゃ、少なくとも俺達を襲おうとはしねぇ筈だ。逆に敵じゃなかったら、何なんだよ?やらなければこっちがやられるだけだ。」

 

翔の言葉に、真剣な顔をするシオリ以外のメンバー達。

 

アヤ「シオリ……これはみんなの問題じゃないの?あたし達じゃ力になれないの?」

 

ユキ「今の私達は…シオリさんを、支えられませんか?」

 

シオリ「……。」

 

メンバー達の声に、シオリは悲しそうな顔をする。

 

 

シオリ「私は……貴女達に、あんな……」

 

 

翔「……。」

翔(…何を今更、ずっとやって来た事じゃねぇか……)

 

シオリの言葉を聞き、口角を下げる翔。

 

ミサキ「シオリ…私達は戦える…それで貴女を助けられればと思ってる…私が考え付く方法は他にないから…」

 

サクラ「シオリさん……私達、ファクトリーにいますから……」

 

シオリ「……。」

 

シミュレーションルームにあるファクトリーへと向かって行く彼女達を、黙って見送るシオリ。翔も黙ってファクトリーへと向かった。

 

 

 

ファクトリーにて…

 

翔「……。」

翔(あの悍ましい光景を再現するとは…すんげぇ技術力だぜ……)

 

シミュレーターで特訓をするメンバー達を陰から見守る翔。幻想サクリファイスは勿論の事…あの地下迷宮の瘴気までもほぼ完璧に再現している。

 

翔(シオリがあんな態度を取る理由…俺には分かったぞ……アイツらはどうなんだ?)

 

先程のシオリの態度…いや、彼女があそこまでこだわる理由を薄々感じ始める翔。

 

ナナミ「……ユキさん?ユキさん!!」

 

ユキ「あっ……はい。ユキ、です……」

 

ナナミ「瘴気に当てられましたかね……そろそろ切り上げますか?」

 

ユキ「いえ……まだ…………」

 

一部メンバーに、疲れが見え始める。今回の任務もかなり大規模だ。地下は地上と比べて空気も薄く、太陽光は一切届かない。そこを徘徊する未知の敵…更に、迷宮そのものが討伐すべき敵なのだ。Dollsも慣れない夜間任務のための生活リズムにし、昼夜逆転……慣れない事ばかりで疲れるのは当然のことだ。

 

ナナミ「……いつも以上に反応が遅いですね。はぁ……無理は禁物ですよ。想像以上にキッツいですしね……」

 

ミサキ「…単なる疲労じゃないわね。今までこんな事なかったのに。これも、テアトルが展開できないことが原因なのかしら?」

 

地下迷宮の瘴気により、テアトルが展開できなくなったDolls。テアトルを開くことで敵を閉じ込め、外には一切被害が出なくなる。しかし、それができなくなった以上…いつも通りの戦闘ができず、外にも被害が出るようになった。表はアイドル、裏は国家所属の兵器…裏の顔を一般人に見られる訳にはいかない。その為、やむを得ず夜間任務に切り替わったのだ。

 

ミサキ「何か、対策を考えないと……」

 

ヤマダ「……対策、ねぇ。」

 

すると、何か言いたげな表情を浮かべるヤマダ。

 

ヤマダ「みなさん、薄々感づいているんッショ?原因は…瘴気なんかじゃないって。」

 

ヤマダの言葉に、周囲は沈黙する。

 

ミサキ「…………そうね。」

 

翔「……。」

翔(どうやら気付いているみてぇだな、自分達やシオリの本当の気持ちってのに……)

 

Dollsメンバー達は、シオリの気持ちに気付いていた。それは、瘴気のせいではない。

 

ミサキ「瘴気という外的要因じゃない……この痛み、この感情は私達の中にある。」

 

ヤマダ「ジブンそんなにメランコリックじゃないと思ってたんすけどねぇ……」

 

ユキ「サクリファイス…胸が…痛くなります……痛みが…不安が…わたしたちの感情を覆い尽くして……」

 

ヒヨ「……わかるよ。鍵を持つ手が震えるんだ……自分がわからなくなって、テアトルもカラダも広げられなくなって…」

 

サクラ「……そう、気付いていたんですーーシオリさんがトドメをさしていること……私たちが倒したサクリファイスに……」

 

ナナミ「…………でも、正直なところ、『安心』もしてしまうんですよね。嗚呼、自分で手やらずに済んだ…って。そんな風に思ってしまうなんて……自己嫌悪になりそうですけど。」

 

ミサキ「それは、私も……シオリだって同じはず……シオリも同じはずなのに。私たちはそれを全部シオリに……」

 

サクリファイス……今回の任務において、立ち塞がる敵だ。ギア適合実験において命を落とし、ピグマリオンへと変わり果てた少女達…Dollsがやっているのは、表面上怪物退治であるものの、サクリファイスは元は人間であった。つまり、彼女達がやっているのは怪物退治ではなく…

 

 

人殺し

 

 

…だ。

 

ミサキ「このままじゃいけないわ…フェアじゃない。」

 

ヤマダ「でも、シオリさんはシオリさんでなんかこじらせてる感が……」

 

ユキ「わたし……」

 

怪物とはいえど、ヒトを殺していること…それによって背負うべき罪を、シオリが全て背負っているということ……メンバー達は気付いていた。

 

ユキ「わたしがもっとはやく、起きていたら……シオリさんは背負わずに、済んだのでしょうか…わたしが、もっと、長く起きられるようになっていたら……」

 

悲しそうな表情を浮かべるユキ。

 

サクラ「ユキさん……」

 

ナナミ「……ま、ユキさんがなかなか起きないのは、特徴というかキャラというか……」

 

サクラ「そ、そうですよ!って、それも失礼ですね…」

 

ユキをフォローしようとするも、フォローになっていない。

 

ユキ「わたしのことを嫌いになっても、おかしくないのに…」

 

サクラ「そんなことありませんよ!シオリさんはユキさんの事、大好きですよ。もちろん、私も、みんなも!」

 

ユキ「サクラさん……」

 

サクラが漸くユキをフォローし、彼女はいつもの表情に戻る。

 

レイナ「そうね、シオリは私たちを…Dollsを愛している。」

 

ナナミ「レイナさん……」

 

アヤ「あんたたち、そろそろ生活リズム変えないと本番の日、もたないわよ?」

 

任務は進んでいる。それと同時に、浄化ライブを開催する日も進んでいる。

 

レイナ「サクラ、これ、頼まれていた物よ。」

 

サクラ「あっ、ありがとうございます!」

 

レイナからDVDを受け取るサクラ。

 

ヒヨ「わー、なにそれっ?シャリババーンのDVD!?それとも仮面ライダーのDVD!?」

 

ナナミ「…ヒヨさんにとって円盤は、全てそれに見えるんですね。」汗

 

サクラ「ふふ、ちがいますよ。これは……」

 

翔(恐らく、昔のDollsのDVDだろうな…)

 

シオリと二人きりの空間で、昔のDollsの話を聞いていた翔には…そのDVDは昔のDollsを記録した物だとすぐに分かった。

 

レイナ「そうだ!よかったら、皆で見ましょうか?きりのいい所でシミュレーターは休憩。リビングに集合、でどうかしら?」

 

サクラ「はい!」

 

メンバー達は引き続きシミュレーターで訓練した。その後、シミュレーターを出て、寮のリビングへと向かった。

 

翔「……。」

 

彼女達が姿を消した後、翔は金庫と思わしき場所から滅亡迅雷システムを取り出す。

 

翔「……。」

 

その後、全神経を集中させ…昇の視界をジャックする。

 

 

ザーーーー…

 

 

砂嵐が見えた後、すぐに昇の視界と思わしき景色を捕らえる。

 

昇『何をしている!?そんなんじゃすぐに気付かれるだろ!!』

 

昇の視界の先には、複数のパスト・アルカリアの姿がある。Dollsに擬態をしているが、まだぎこちない。姿もそうだが、口調もぎこちない。

 

昇『もっと彼女達の仕草や口調を見て学べ!!』

 

昇はタブレットにDollsが出演している番組等を見せ、パスト・アルカリアにラーニングさせている。

 

昇『今のところDollsに動きはない…だが、いつ動き出すかはまだ分からない。それまでに、コイツらを完璧にさせなければな……今日はここまでだ、後は動画を見て学ぶように。』

 

昇が指示を出すと、パスト・アルカリア達は元の姿に戻った。

 

 

 

翔「……。」

 

視界ジャックを終えた後、静かに目を開く翔。

 

翔(白河 昇…お前は何か勘違いをしているようだな……例え姿や仕草を誤魔化せても、完全に誤魔化しきれねぇって事を…お前は知らない。)

 

翔の身体は、少しずつアマゾン化が進んでいる。それにつれ、彼も力を身に着けていく。戦闘経験も沢山積んでいる為、強くなっている。

 

翔「俺には既に、Dollsの匂いが上書きされている…妖魔共の匂いだって、すぐに分かる……今のはちと、気持ち悪ぃな…」

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