〜プロジェクト東京ドールズ〜『化け物とドールの絆』   作:やさぐれショウ

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第三百四十話 FEELIN’ DOLL

ドールハウスの女子寮にて、シオリを除くDollsはあのDVDを見ていた。

 

ナナミ「なるほど…これは……」

 

ヒヨ「昔のDollsだーー!!」

 

そう、それは昔のDollsが記録された映像である。

 

レイナ「そうよ、FEELIN' DOLL……まだ私達が5人しかいなかった頃ね。」

 

この頃のDollsは9人ではなく、5人程で活動していた。

 

ナナミ「……会場、小さくないですか?」

 

レイナ「ええ、この頃は……お客さんが数人しかいなかったから。」

 

初めは知名度があまり無く、足を運ぶ客が少なかった。人数も少なかった為、ちゃんとした活動が殆どできなかった。

 

ユキ「わたし……覚えてません。」

 

ヒヨ「えっと…1、2、3……4…………」

 

ナナミ「はぁ…ヒヨさん…数えられるわけが……ないとはいえない人数ですね…」

 

レイナ「ふふ、そういう時代もあったのよ。」

 

今のDollsは国民的アイドルで、この国で知らない者は居ない程の知名度を持っている。そんな彼女達が、昔はそんなに知名度が無かったとは考え難い。

 

サクラ「あれ…?5人……ミサキさんの隣のこの方……あっ…!ああ…!!」

 

ミサキの隣にいるボブヘアーの少女を見て、サクラは目を丸くする。

 

レイナ「……ええ。それが『チヒロ』よ。」

 

彼女こそ、元DollsチームAのメンバー『チヒロ』だ。ヒュードラ戦でロスト…つまり、この時の戦いで命を落としている。ドールハウスの庭に、彼女の墓がある。

 

レイナ「ええ。いつも陽だまりのように笑っている…美しいアイドルだったわ。」

 

少しの間の後、サクラが口を開く。

 

 

サクラ「お、思い出しました…!私!ファンでした…!チヒロさん!」

 

 

レイナ「え…?」

 

突然の事に、言葉を失うメンバー達。ドールになると、生前の記憶が全て失われる。思い出される事は、ほぼ無い…しかし、サクラは思い出した。

 

サクラ「なんで今まで忘れてたんだろ…覚えてる…5人の時のFEELIN' DOLL…その後……その後?あれ…?それからどうなったっけ……?えっと……う〜〜ん……」

 

しかし、思い出したのはほんの一部だけあり、全部ではない。5人だった頃のその後のDollsの事は、思い出せなかったようだ。必死に記憶を探り、どうにかして思い出そうとするサクラ。だが、そんな彼女をレイナが止める。

 

レイナ「……いいのよ、無理しないで。でも、サクラの……ファンの心の中に、彼女(チヒロ)がまだ思い出として残っていたなんて…」

 

ユキ「レイナさん……」

 

サクラの言葉を聞き、悲しげで複雑そうな表情を見せるレイナ。しかし、それは悲しくて見せている表情ではなかった。

 

レイナ「……ごめんなさい。嬉しくって…」

 

既にこの世に居ないチヒロが、誰かの記憶に残っていた事を知れて、嬉しかったようだ。

 

レイナ「そうね…チヒロは広い層に人気があって……少し、サクラに似ていたようにも思う。」

 

サクラ「思う……?」

 

レイナ「…認めたくはないのだけれど、記憶が薄れていっているの。チヒロはピグマリオンに喰われて命を落としたわけじゃないーー

 

彼女は感情を燃やし尽くして散った……

 

記憶や記録は残っている、でも…」

 

アヤ「斑目さんから聞いた話では、『存在強度』ってのが薄れるんだって。すっぽりと抜け落ちるのではなく、徐々に認識できなくなっていく、だっけ?」

 

ナナミ「ファンのみなさんもおそらく、サクラさんと同じです。」

 

人という生き物は忘れていく生き物…あらゆる思い出、記憶は永遠に残るわけではない。徐々に徐々に、忘れていく…そして、その思い出すら思い出せなくなる。

 

ナナミ「言われるまで思い出せない。思い出そうともしなくなる…」

 

ユキ「……思い出が、消えていく。悲しい、です…」

 

ナナミ「私も…彼女の印象が殆どありません。元々、接した時期もかなり短いのですが。」

 

ヒヨ「ヒヨも覚えてない……」

 

ヤマダ「ヤマダがギリギリっすかね……」

 

ミサキ「すべてにおいて優秀だったわ。アイドルとしても、ドールとしても。」

 

レイナ「ふふ、ミサキが感情を取り戻したのは、間違いなく天真爛漫な彼女のおかげね。」

 

サクラ「ミサキさんが?へぇ〜……色々思い出があるんですね。」

 

ミサキ「!?……ちょっとレイナ!何を言い出すの!?」

 

ヤマダ「『私は感情を取り戻していると思いますが?』……でしたっけ?ふひひ……」

 

ナナミ「ぷっ……なんです、その面白エピソード。」

 

ミサキ「あ、貴女は貴女で、感情を取り戻していないフリなんかして!!」

 

一部メンバーの中に、チヒロという存在は残っている。しかし、一部メンバーの中に、チヒロという存在は残っていない。

 

アヤ「ケンカしないの!まったく…アンタらそのころからほんと……」

 

ユキ「チヒロさん……一番最後の記憶はーーシオリさんの手に収まった、傷ついたギア……

 

サクラ「ーー!!」

 

傷ついたギア…それが、Dollsに残ったチヒロの最期であった。

 

アヤ「チヒロのギアを回収したのはシオリ。いつの間にか1人でその任務を……」

 

ユキ「ギア……わたしたちの…心臓……」

 

ナナミ「サクリファイスの前に立つシオリさんと、普段のシオリさん…雰囲気が違いすぎて。」

 

サクラ「正直…怖く見えます。でも…」

 

色々考え込んでしまうメンバー達。すると、ヒヨがこんな事を言い出す。

 

ヒヨ「あのね、ヒヨ……あれ、“わざと”な気がするんだ。」

 

ナナミ「わざと……ですか……?」

 

ヒヨ「ネコさんが「シャー」ってするみたいにさ。わざとこわ〜いオーラを出して『みんなみんなあっちに行けー!』って。」

 

サクリファイスに対して、普段とガラッと雰囲気が変わるシオリ。しかし、それは敢えてやっているのだと、ヒヨは解釈している。

 

ナナミ「そうかもしれませんね……何かを守るために威嚇しているというのは、言い得て妙かもしれません。」

 

レイナ「苦しむ私達を…近づけさせないように…サクリファイスにも、私達にも、どちらも苦しまないように……?」

 

サクラ「……!!」

 

レイナ「……今でも強く覚えている事がある。感情をなくした後初めて『笑顔』を認識した。それが、シオリだった……」

 

ドールになると、記憶と共に感情も失われる。しかし、初めて笑顔を取り戻したのが、シオリだった。

 

レイナ「眠り続けるユキの隣で、彼女はいつだって笑顔で。シオリはね、よく歌を歌っていたわ。絵本も読んだりもしてくれた。」

 

眠っていたユキだけではなく、メンバー全員に対して…まるで、母親のように優しく接していたシオリ。

 

アヤ「ふふ……あたしたち年近いし、そこまで子どもでもなかったのにね…」

 

ヤマダ「確かに、シオリさんの存在感イコールDollsって言われても過言ではないっすな……」

 

ユキ「守ってくれる人、包み込んでくれる人…代わりに戦おうとしてくれる人。ネコさんが、子ネコさんを守るように…」

 

Dollsというチームの中に、シオリという存在は必須だ。その為、メンバー達全員には、少しでも彼女を手助けしたいという思いがあった。

 

サクラ「でも…私は…戦いたいです…シオリさんと一緒に…!」

 

ヒヨ「ヒヨも戦う!ヒヨたちだって、シオリちゃんを守れるよね!?」

 

ナナミ「そう…子は自立するもの…今までもシオリさんの隣に立っていたわけですし、この件だけ守られっぱなしではいられませんよ。」

 

メンバー達は戦うことを望んでいる。だが…

 

ヤマダ「ふひひ……でも、シオリさんは果たしてソレをのぞんでるんすかねぇ……?」

 

メンバー達が望んでいても、シオリがそれを望んているとは限らない。恐らく…望まないだろう……それは、本人にしかわからない。

 

ユキ「シオリさん、来ませんでした…ファクトリーにも…ここにも…」

 

ミサキ「……望んでいるかはわからない。だからーーシオリの本当の気持ちと向き合わないと…!」

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