〜プロジェクト東京ドールズ〜『化け物とドールの絆』 作:やさぐれショウ
次の日、ドールハウスにて……Dollsは作戦室に集まっていた。彼女達の側には、愛、深雪、蜜璃がいる。
ヒヨ「みんな、おっはよーー!ぴかぴか太陽、元気にさんさん…って、あぅ!」ドテッ!!
ナナミ「っ大丈夫ですか、ヒヨさん!?」
ヒヨ「ぐ、ぐ、ぐ〜……う〜、いた〜い……」
レイナ「ありがとう、ヒヨ…私たちを元気づけようとしてくれたのね……だけど無理しないで。昨日の今日で、体中に負荷がかかっているはずよ。」
Dollsは皆、いつも通りに戻っていた。昨日までは、“あの衣装”を身に纏い…獣のように戦いに餓えていたのが、まるで嘘のようだ。
シオリ「昨日のシミレーション、気付いたら深夜までやっていましたからね…」
サクラ「はい…自分でも怖いくらいでした。」
なんと、昨日は深夜までノンストップでシミュレーターバトルをしていたようだ。気付いたら皆、女子寮の各自ベッドの上で寝ていたようである。恐らく、カナと斑目、ドールハウス3大女医が運んだのだろう……服もドールハウスの服になっていた。
サクラ「見えないキモチに、突き動かされたみたいで…着替えて……時間もたって……でも、胸のざわめきはまだ……」
ユキ「……。」
ユキを見ると、変わらずハイライトの消えた目を向け、何も話すことはない。彼女だけは、眠らずにずっと起きていたようだ。
ナナミ「加えて、突然の招集ですよ。さすがに身構えてしまいますね…」
ミサキ「それは……関係ないでしょう。別に規律を破ったわけでもないのだから。」
すると、作戦室のドアが開き、カナが入って来た。しかし、そこに斑目の姿が無かった。
カナ「−−みなさん、おはようございます。もうお揃いのようですね。」
愛「カナちゃん。あれ…斑目所長は……?」
カナ「…所長は、しばらくこちらに戻れません。」
カナの言葉に、一同は言葉を失う。
深雪「何かあったのですか?」
カナ「実はまだEsGシステムの復旧が見込めず、すべての予測・分析機能が麻痺したままで…斑目所長は、その対応を−−」
ドールハウスのシステムは、未だに回復せず…斑目はその対応に追われていた。ただ、ライダーマシンは使用可能である。
アヤ「ねえ!じゃああたし達は!?今どうすればいいの!?」
カナ「しばらくは待機です。アイドルのほうの仕事も調整中で−−」
アヤ「!!…そんな…そんな命令、納得できない!!ユキは……ユキの気持ちはどうなるの!?」
アヤの強い口調を聞き、申し訳無さそうな顔をするカナ。
蜜璃「アヤちゃん……」
すると、今まで黙っていたユキが口を開いた。
ユキ「−−−−作戦実施の提案。」
カナ「……え?」
突然の事に、困惑するカナ。しかし、ユキは構うこと無く続ける。
ユキ「忌まわしき神の肢体、第4の敵……死の川を越えた先に在る、冥界の渡し守……特別警戒個体を
と呼称。その討伐のため、確度の高い行動を−−」
カナ「ゆ、ユキちゃん…!?」
アヤ「あんた、なにいって……」
ヤマダ「なんすかその邪気眼的なワード……」
アヤ、ヤマダもユキから放たれる言葉に困惑している。それでも構わず、ユキは続ける。
ユキ「『カーロン』は物理的に広範囲に広がっている。モノリス反応の拡散もそれによるものと予想。大気中の水分、霧に存在を宿し拡散。記憶の搾取に際し、感情の集まる場所に収束する−−」
ナナミ「ふむ…確かにそう考えれば……私たちが近づいたときに現れたのも……」
ユキ「『カーロン』は『シレーヌ』同様、新宿アタラクシア最深部を目指していると想定。」
ミサキ「待って……あいつらに……ピグマリオンに目的が?何を根拠に−−」
ユキ「しかし、特性により気象および地形の影響を受け、川よりも東の地点に滞留している、すなわち−−濃霧の発生と共に西に移動開始する可能性88%。不確定要素干渉の可能性12%。」
相変わらず機械的な話し方でメンバー達に語り掛けるユキ。
カナ「この応え方……」
そして、メンバー達は漸く…ユキがこうなった原因と思われるモノに気付き始める。だが、ユキはまだ続ける。
ユキ「テアトルを広範囲に拡大し、感情を収束することにはすでに成功している。」
シオリ「それは……あの子たちの感情を束ねた……あの迷宮で起きた奇跡…ですか?」
ユキ「実体を得たカーロンの拡散をテアトルで防ぎ、同時に流域全体の浄化ライブを実施。」
ヒヨ「ど、同時って…!?ライブしながら戦うってこと!?」
ユキ「必要なフィールは『ライブ』により逐次確保。戦闘中に発生させたそれを『収束』させ、滅ぼす。神の肢体を滅ぼした後、余剰エネルギーは荒川流域全体の浄化にあてる形で活用する。」
サクラ「リーパーを討ったときのように、ファンのみなさんの力を借りる……?」
ユキの考えは、荒川流域全体を舞台に浄化ライブを開催し、カーロンを撃破すると同時に流域全体を浄化するという事だ。だが、広範囲でライブを行うと考えると、様々な問題が出てくる。
サクラ「でも、あの時は二手に分かれて時間差でライブにも合流できましたが……」
ヒヨ「リューイキ全体でライブって、たくさんの場所でやるってこと?」
ユキ「テアトル展開中、外に投影すべき認識をコントロールすることで解決する。事前にライブ進行をシミュレート、強く認識し戦闘中、テアトル外にイメージを『投影』すれば−−」
蜜璃「…?…?…?」
ユキの話について行けず、頭の中がショートしてしまう蜜璃。
深雪「蜜璃さん、もしもーし?大丈夫ですか、蜜璃さん?」
蜜璃「…ユキちゃん、言ってる事がさっぱりわかんないよぉ……」汗
彼女が混乱している間にも、話はどんどん進んでいく。
レイナ「!?…テアトルの新しい能力−−……私たちは……それができる……?」
ユキ「作戦名は『オボルス』と設定。気象条件が整う前に早急に実施すべき−−」
カナ「ちょ、ちょっと待ってください!ユキちゃん、今、あなたは−−いえ、まさか……でも……」
カナは少し間を空けると、こう言った。
カナ「すみませんが、現状のドールハウスの稼働状態では、作戦実行に不安要素が多すぎます。提案は、一度検討させてください。所長にも、共有しないと……」
現状、システムの殆どが動かない中での作戦実行は困難を極める。万が一の事態にも、対処が難しくなる…そう考えたカナは、全体にこう言った。
カナ「どちらにしろ今日はできることがありません。状況が変わったらすぐ連絡しますね。」
そう告げると、皆に解散を言い渡し、作戦室から退室した。
その後、Dollsはドールハウス内にある庭にやって来ていた。
ヤマダ「はぁ……いったいこりゃどうしたもんかね……結構まずいんじゃないんすか?」
ミサキ「まずいって…何がよ……」
ヤマダ「え〜……はぁ……じゃあいいっすよ。嫌われ役、甘んじて受け入れよう…」
サクラ「嫌いだなんて……そんなこと、あるわけないですよ…」
ヤマダ「ふひひ……ど〜も……で、わざわざ中庭に呼び出したのは他でもない−−」
ミサキの問いに、ヤマダはこう答えた。
ヤマダ「さっきのユキさんあきらかにおかしいっすよね?もはやホンモノかどうか疑わしいレベルっす。」
ヤマダのこの言葉に、メンバー達は全員目を丸くした。
アヤ「!それは……!」
愛「や、ヤマダちゃん……!?」
何か言いたげな愛を無視して、ヤマダは続ける。
ヤマダ「みなさんだって、おかしいとは思っていたはず…でも、ただの不調だと思った、思いたかった。しかし、ただの不調で片付けるには、説明がつかないことばかり……」
アヤ「……。」
ヤマダ「テアトルのコントロール?外に投影?マジ、イミわかんねー。」
先程のユキの話、結局意味がわからず…皆は困惑しっぱなしだった。
ヒヨ「でも…なんだろう…それ、できる気がするよ……」
ナナミ「私もそう言われた瞬間、そう思いました。視界が急に晴れたように、イメージが広がって…」
レイナ「私もよ……でも…なぜユキはそのことを?」
ヤマダ「そう、それにあれっす。第4の適度なだとか。そいつがアタラクシアを目指してるだとか。そんなこと、この世の誰が知ってることなんすか…?マダラメの口からすら、聞いたこと無いっショ…」
意味がわからなかったのは、何故ユキがあそこまで深く考えて説明したのか…ということ。斑目までも知らないと思われる事まで、全部……ヤマダの説明に、メンバー達は皆黙り込む。
ミサキ「シレーヌが……新宿を目指していた……確かにそんな話はしたことがない……」
サクラ「斑目さんでも知らないことを……ユキさんが…?」
ヤマダ「極めつけはあのヤベードレス……ユキさんの言葉に応えるようにさ…」
ヤマダはある程度話を終えると、ユキに目を向ける。
ヤマダ「ほら……ユキさん…何か……言ってくださいよ…もしくは……」
ヤマダは、今のユキはユキではないと薄々気付いていたのか。いや、彼女だけじゃない…ここにいる者達全員が、薄々ではあるが気付いていたのか。だが、それを認めたくなかったのか……
アヤ「!!…何ですって…!?」
ユキ「……。」
しかし、ユキは何も言わない…しばらく経っても、言葉を発する事は無かった。
ヤマダ「…はは、ダメか。」
渇いた笑い声を出すヤマダ。
アヤ「ヤマダ……ほんとに?本当に誰かが、ユキを…!」
ヤマダ「知らねっすよ……カマかけただけで反応したら面白いかなって……」
アヤ「な…何よ……それ……冗談やめてよ…本当に……」
ヤマダ「……で、アヤさん、どうします?この状態のユキさん、信じるんすか?」
アヤも思わずユキの方を見るが、相変わらず言葉を発する事無く…黙り込んでいる。
アヤ「ユキ……なんで、何も言ってくれないの…?」
シオリ「……この状況、確かにまずいかもしれませんね。」
アヤ「え?」
シオリは、メンバー達にこう言った。
シオリ「組織の上流工程を脅かす、機密を超越した情報……存在強度の低下という、作戦に障害のある印象……事態収拾能力を示していれば大丈夫だと思いますが…上層部が、ユキさんを危険視する可能性も……」
彼女のこの言葉を、真っ先に否定したのはアヤだった。
アヤ「…は?そんなの、言いがかりじゃん!」
シオリは続ける。
シオリ「……ドールハウスは国家組織ですが、命令系統としては独立しています。国を守る存在ですが、自衛隊ではない……防衛庁……小鳥遊大臣の直下組織でもない…」
ヤマダ「で、マダラメに運用の全権が任されているはずなのに−−ミョ〜にいろんなところから横槍が入って、それにいちいち対応を強いられる……その『上層部』とかいうヤツなんなんだろうな…足引っ張りあってもメリットはないんすけどねぇ……」
深雪「……なぜ、そのような状態なんでしょう?…皆協力すればいいのに…なぜ、協力できないんでしょう……」
ピグマリオンを滅ぼし、東京を開放…それが目的であれば、足を引っ張り合う必要は無い。深雪は疑問を持つ。それに答えたのは、シオリだった。
シオリ「きっと、恐ろしいから…」
深雪「……?」
シオリ「人を超える力を持つ人形が、更には仮面ライダーという兵器が、恐ろしいから…感情を持つ兵器が、いつ牙を剥くかわからないから…わからないものに
ことで、優位にあることを確かめられるから……」
深雪「そんな……」
シオリ「それすらも……想像でしかありません…でも、もし今の私たちに−−誰かを、ユキさんを『破棄』せよ、なんて命令が下されたとしたら……」
深雪「!?そ、そんな事…!!」
シオリのこの言葉に、メンバー達の顔色が変わる。
アヤ「そんなこと……させない…!」
ヤマダ「ふひひ……そう、それっすよアヤさん……それが『恐ろしい』んでしょうね……」
アヤ「……あたしが?恐ろしい?」
ヤマダ「ジブンらはもう、国家を恐れてすらいない。国はそんな感情的なナニカに命運を握られている−−」
アヤ「……!」
ヤマダの言葉を聞き、メンバー達は言葉を失った。
ヤマダ「……なんて、さすがに作戦室で言えないっショ。録音されてないとも限らないし。」
アヤ「そっか……」
ヤマダ「ま、ここだって本当は、秘密のお話に向いてる場所でもないんでしょうけどね?」
シオリ「国は戦うべき敵ではなく、守るべき味方。余計な衝突は避けるべき、であれば−−ユキさんに…私たちにそんな意思は無いと、そう思われるように行動しましょう。」
アヤ「ん……でも、今までだって言うことは聞いてるし、実際どうする?」
アヤの問い掛けに、シオリは少し考え、こう答える。
シオリ「…………まずは、『隠し事をしない』ことでしょうか?新しい能力に気付いたからすぐに報告した……作戦の立案も、アイドル活動からヒントを得た……」
この場に少しの間が空いたが…メンバー達の顔色は、次第に穏やかになっていく。
ヤマダ「そっすね……やる気はあるが発想はオコサマ……『従順でちょっと浅はかな良い子』は怖くない……」
シオリ「……ユキさんの言っていたテアトルのイメージ投影、試してみないとですね。」
ヤマダ「普通にできるけど何か?みたいにしないとっすな…ジブンら的に隠すことじゃないと思えるくらい……」
愛「それじゃあ…シミュレーターの使用申請をするよ……あたしがその能力のことをよくわかっていなくて、どういうことができるのか見せて欲しいって言った。……ってことで大丈夫かな?」
ヤマダ「ふひひ……愛さん、ナ〜イス……それでいきましょう……」
こうして、メンバー達は行動を起こすことにした。まず手始めに、愛はカナの元に向かい、シミュレーター使用の申請を行った。その後、メンバー達はユキの言葉を手掛かりに、試行錯誤をしてみるのだった。
その頃、STARS本部ビルでは……翔が客人の対応をしていた。今回、本部ビルに訪れたのは……
翔「よぉ、よく来たな…一海、紫、友香、諒芽。」
友人である一海達だった。本部ビルに案内すると、応接室に通した。茶を出した後、対話を始める。
紫「一海から聞いた…その、ドールハウスと敵対する…そうだな……」
翔「正確には敵対するフリをするんだけどな。」
友香「ストライカー達をドールハウスから引き離す為…ですよね……?」
翔「そう、だが生半可にやれば勘付かれる…やるからには、本気でやる必要がある。」
諒芽「なぁ、それって俺らもやったほうがいいのか?」
翔「無理にやれとは言わねぇよ。ただ、お前達には事情を知って欲しいだけだ。」
心の拠り所であるドールハウスに牙を剥ける事で、ストライカー達を引き剥がす…一海達は複雑そうな顔をしていた。
一海「翔…本当に、それで良いのか?まだ、他に方法があるかもしれねぇだろ?」
翔「あったらすでにそれを検討している。他に方法がねぇから、こうするしかねぇんだよ…俺はもう、人から嫌われる事には慣れてる。」
一海達「「「「……。」」」
翔「お前達はいつも通りで
無表情で話す翔を見て、4人はどこか納得が行かない顔をするのであった。