〜プロジェクト東京ドールズ〜『化け物とドールの絆』 作:やさぐれショウ
時空管理局を滅亡させ、ストライカー達を皆殺しにし、もう一つの元凶であった『粗品 零士』を殺害した翔は、五稜館学園内にあるステラプリズムルームへと足を運んでいた。その理由は、この
翔「……。」ザッ……ザッ……
零士との戦いで、既に満身創痍となった翔だが…それでも、足を止める事はない……彼は今、全てを終わらせようとしているのだ。この世界を破壊し、犠牲になった人達の無念、外道と化した時空管理局やストライカー達、そしてストライカー達を化け物と化させた粗品 零士、何より……倒さなければならない人類の敵『妖魔』を全部消し去る……それが、彼の自分の使命だと言う。
翔「……。」
翔は壊れたNDトランシーバーを起動させようとしたが、当然起動はしない…粗品 零士との戦いで破損してしまったからだ。STARS隊長だった時に使っていたバッジ型通信機は持ってきていない。完全に、孤独と化したのだ……
翔(いや、もう良い……俺は十分、ありのままを受け入れられた…もう、心残りはねぇや……)
悲しみを捨て、翔は引き続き足を進める。やがて、ステラプリズムルームへと足を踏み入れると…そこには、禍々しい紫色へと変わり果てたマザーステラプリズムがあった。
翔(……ヒデェ色だ…ありゃあもう、手遅れだな……)
本来なら、マザーステラプリズムは透明な色をしているのだが……妖魔の巣窟と化したエテルノに数年も置かれ、すっかり妖魔化してしまっていたのだ。その為、妖魔はこのマザーステラプリズムから生まれて来ている。翔が部屋に足を踏み入れた瞬間、マザーステラプリズムが怪しく光り……無数の急襲妖魔達が姿を現した。マザーステラプリズムには、外部から破壊されるのを防ぐため、自己防衛システムが搭載されている。破壊しようとする者を認識した瞬間、マザーステラプリズムを防衛する守衛が召喚されるのだ。このプリズムから召喚される守衛は、これまで対峙して来た急襲妖魔がモチーフとなっている。妖魔のデータを利用し、プリズムを守る兵器となったのだ。だが、既に妖魔化したマザーステラプリズムが出したのは本物の急襲妖魔だ。
翔「…ハッ、そんなんで俺を止められると思ってんのか?」
翔は髪の毛を触手のように伸ばし、召喚された急襲妖魔達を瞬殺した。しかし、マザーステラプリズムは止めどなく急襲妖魔や旧式妖魔、侵略型妖魔の群れを召喚する。
翔「無駄だ!!てめぇは俺から逃れられねぇ!!」
翔が伸縮自在の髪の毛を振るって妖魔を殺しても、マザーステラプリズムは手を緩めない。寧ろ、妖魔が殺される度に...召喚される妖魔は増えていく。
翔「ッ!!」ガシッ!!
翔は左腕のアマゾンズレジスターに手を掛けると、それを強引に外した。その直後、翔の全身から熱気や熱風が発生し……彼の全身が黄色い爆炎と黒い稲妻に包まれて行く。やがて、炎柱が消えると…そこには、異形の怪物と化した翔の姿があった。赤黒い複眼が光る顔には、青黒い涙のような線が入っている。大きく裂けた口には、無数の牙が怪しく光っており…全身は黄色い体色、所々に血管や骨を彷彿とさせるグレーの模様が入っている。両腕の棘に鋭い爪、両足にも棘がある。アマゾン化が急激に進行した翔のアマゾン細胞が、遂に完全覚醒し……『アマゾン素体・ノヴァデルタ』へと変貌を遂げたのだ。
アマゾン素体Nδ「!!!!」
アマゾン素体が凄まじい雄叫びを上げると、彼の背中からは無数の触手が伸びて来て、マザーステラプリズムが出した妖魔達を次々と殺害していく。そのままアマゾン素体はゆっくりとマザーステラプリズムに近付く。マザーステラプリズムは無数の機関銃を装備したメカを出し、アマゾン素体に攻撃するよう指令を出す。召喚されたメカは、機関銃を一斉掃射し、アマゾン素体を攻撃する。アマゾン素体には次々に銃弾が命中する、しかし……
アマゾン素体「ヴガアアアアァァッ!!」
アマゾン素体が咆哮を上げると、メカは凄まじい衝撃によって破壊された。無数の銃弾を受けたにも関わらず、アマゾン素体は足を止めない。マザーステラプリズムは再び守衛のメカを出すが、召喚された直後…アマゾン素体の触手によって破壊された。アマゾン素体が近付く度に、妖魔やメカを召喚する頻度を上げるマザーステラプリズム……それでも、アマゾン素体はゆっくり確実に近付いて来る。マザーステラプリズムはそんなアマゾン素体を拒絶するかのように、妖魔やメカを召喚する。だが、それは無意味だと言われているように、アマゾン素体によって瞬殺される。やがて、アマゾン素体がマザーステラプリズムの目の前に到達する。そして、アマゾン素体はゆっくりと鋭い爪を振り上げ……
マザーステラプリズムを真っ二つに叩き割った。その直後、破壊されたマザーステラプリズムの上空に、ブラックホールのような大きな穴が開く。そして、この世界の全てを吸い込み始めた。荒廃した五稜館学園も、瓦礫も、無数の人の死体も、妖魔も何もかもも……今、この世界の崩壊が始まったのだ。
アマゾン素体「ッ!?」
その後、アマゾン素体からは凄まじい冷気が発生し……翔の姿へと戻った。そのまま仰向けに倒れ、力尽きる翔……
翔「……。」
ブラックホールに飲み込まれて行く様子を眺めながら、翔は段々目を細めていく。
翔(これで、良かったんだ……この世界はもう、悲しみの溜まり場になっちまっている……そんな胸糞悪い世界、壊してしまった方が良い……ここで犠牲になった全ての者達が、少しでも安らかに眠れるには…こうするしか無かった…………俺も、ここで死ぬのか……あの世界は…Dollsという最高の仲間や信頼できる人達、俺を好きになってくれた人達の笑顔で溢れている美しいあの世界を…俺は、守ることができただろうか……)
少しずつ薄れていく意識の中、彼の目からは一筋の涙がゆっくりと流れ落ちた。
翔(心残りはねぇと思ったが、そんなことは無い……願わくば、俺はアイツらともっと…もっと……たくさんの思い出を作りたかった…当たり前と呼ばれているような日常を、もう少し…過ごしていたかった……もっとアイツらと、笑っていたかった………………だが、それはもう終わりだ……世界を守る為とは言え、俺は多くの罪を犯した…そして、世界崩壊という最も重い罪を犯した……そんな大罪人に、夢を見る資格も…幸せになる権利もねぇ…………それを望んだのは、俺自身……だから、もう良いんだ…………すまねぇ、レイナ……約束、守れそうにねぇや……ごめんな……ごめんな…………)
心の中で仲間達に謝罪をしながら、翔はゆっくり目を閉じた。
その頃、【プロジェクト東京ドールズ】の世界では……
翔が居なくなった後、内閣総理大臣の石名見はエテルノを繋ぐステラプリズムを破壊し、この世界と繋ぎ止めるゲートを閉じた……この事をアメリカ大統領ジョージ・ヘリオスが世界中に公開した事で、世界各地にて『翔を返せ』・『石名見辞めろ』等のデモが勃発しており、未だ止む気配が無い。更に、アメリカは日本との貿易を解消し…日本の経済状況は悪化、日本中はすっかり大混乱へと突入していた。
カナ「翔君!?応答してください、翔君ッ!!」
ドールハウスでは、翔との通信が途切れ…カナは必死に翔との通信を試みていた。だが、あの手この手で手段を実行しても、彼との通信が復活する事は無かった。
「そんな……翔さん……」「いやだよぉ、翔さぁ~ん!!」「翔君…ダメよ、貴方は生きるべきなの…幸せになるべきなの……!!」「……ッ!!翔おぉ……!!」
ドールハウスにいる仲間達は絶望し、涙を流す。
紫「一海、まだ完成しないのか!?」
一海「くっそぉ!!後少しなのに……!!」
諒芽「一海急いでくれよ!!このままじゃ翔ちんが!!」
一海「今やってる!!」
友香「一海さん…!!」
一海達はサイクロトロンドライバーの開発を急ぐが、未だ完成には至っていない。
彩羽「退いてッ!!」
その時、彩羽が一海達を押し退け…サイクロトロンドライバーに手を伸ばす。
彩羽「ねぇ、タイムトラベルってどうやってやるの!?教えて!!」
一海「……えっ?」
彩羽「教えろっつってんだよ!!」
一海「ど、ドライバー前面右のスイッチを押す……」
彩羽「右!?」
一海からタイムトラベルの手段を聞き出した彩羽は、迷わずドライバー前面部の右側を強く押す。
ドライバーから音声が響くと、発光部分が赤、オレンジ、黄色、黄緑、緑、水色、青、ピンク、紫の光を逆時計回りに放ち始める。
彩羽「まだ完成してなくったって、使えない訳じゃない……あたしはまだ、諦めたくない…寧ろ諦めない!!翔君は絶対に、この世界に帰ってきてくれる!!」
彩羽はそう言うと、サイクロトロンドライバーに思いを込める。
彩羽(お願い、サイクロトロンドライバー……翔君を、あたしのたった一人の家族を…助けて……!!)
すると、ドライバーの光が段々強くなっていく。
崩壊するエテルノでは、気を失った翔の身体が七色の光へと包まれて行く。そして、翔がブラックホールに飲み込まれる直前…彼の身体が崩壊していく世界から消えた。