とある教師の業務日誌   作:ダレンカー

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思ったよりも早くに投稿できました。
本編はもうちょっと時間がかかるかもしれませんのでご容赦を。
今回も安定のキャラ崩壊気味ですが寛容な気持ちで見ていただければと思います。

感想、評価、いつもありがとうございます。


番外編 更識姉妹の事 2

 

◇◇◇◇

 

 

30分間廊下の隅でブツブツとこの世と自分を呪う呪詛は吐いて過ごし、ようやく楯無は正気を取り戻した。

楯無がいた場所がいつもなら一年生が使用するフロアだったのは偶然か、はたまた普段の行いが良かったからなのか。

どちらなのかは分からないがそのおかげで情けない醜態を誰にもみられることなく再起動を果たしたのである。

 

 

ともかく、正気に戻った楯無は事態の深刻さに息を吐く。

もはや、自分に対する彼の印象の完全な変更は不可能だろうと。

 

いや、できるのであればありとあらゆる手を尽くしてやりたい。

楯無にしてみれば末代までの恥レベルの醜態だ。今すぐにでも部屋に帰って布団を被って隠れたいくらいに。

 

しかしその対象である彼。川村恭一は今この学園にいないのだ。

したくても修正のしようがないのである。

 

では、今、楯無が取れる行動とは何か。

少し考えて、考えて、考えて思いついた。

 

正確に言えばとっくに思いついていたのだがそこはヘタレ仕様。見えないふりをしていたのだが。

 

それは楯無がヘタレている原因。

つまり妹の簪との不和の解消。

それを行えればどん底の楯無の印象を大幅に改善できるかもしれない。

考えようによっては、いい機会かもしれなかった。

 

だが、しかし…。

ここで楯無は考えてしまう。

自分一人で?簪ちゃんと話?特に何の切っ掛けもなく?

 

楯無の心はグラッグラに揺れた。

 

拒絶されたらどうしよう。嫌いだと言われたらどうしよう。今更何の用だと拒まれたらどうしよう。貴女なんて姉じゃないと言われたらどうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。

 

 

考えただけで涙が滲んできて目の前が暗くなる。

大好きな妹に否定されるなど耐えられないと。

 

しかし楯無は過去の愚かな自分へ怨嗟の声を上げつつも意を決し涙を拭う。

 

このままいつものように体育座りしていてもなにも変わらない、むしろ悪化する。

私は更識楯無。更識家当主にして学園最強なのだと必死に自分を鼓舞して。

 

 

楯無の足はその勢いのまま簪がいるはずの整備室へと向いた。

女は度胸。腹を決めた楯無に恐れるものなどなにもなかった。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

さて、勢いそのままに整備室の前へと到着した楯無。

今、中にいるはずの妹と自分を遮るのはあと扉一枚のみである。

さあ!いざ行かん!とばかりに入り口へと手を伸ばしたそこで…。

 

 

―――ええっと?なんて声を掛ければいいの?

 

 

 

楯無の動きが、止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

ひとしきり悩みの種について考えたところで簪は席を立った。

このまま妙な気持ちで作業していても効率が悪いと思い少し休憩することにしたのだ。

 

丁度、集中力を保つための甘めの缶コーヒーも切れたところだったし、それを買い行くのに加え化粧室にも寄っていきたい。

凝り固まった体を伸ばしながら一度外に出ることを決めた。

 

 

ここで簪は遠く離れた親友に思いを馳せた。

今頃一日目の自由時間で海に繰り出しているであろう彼の事を。

 

 

 

―――今頃…水着姿の皆と遊んでるのかな…。

 

 

 

一応、従者である本音の付き合いで新しい水着を購入していた簪。

着る機会は今だないが一応これでも乙女だ。似合うかどうか第三者の、できれば異性の意見も聞いてみたいと思ったりもした。

 

簪は少しばかりの後悔をした。

専用機の組み上げという事象にとらわれ過ぎて、折角の特別な思い出を得るチャンスを自ら蹴ってしまったのではないかと。

本音は別のクラスだし特に親密なクラスメートもいないからと軽く考えてしまったかなと。

 

だが、あえて言わせてもらえるならば簪が臨海学習への参加の是非を問われた時には、彼の参加など聞かされていなかったのだ。

女ばかりのIS学園。

当然の如く水着姿になる臨海学習への参加など誰が予測できるものか。

 

それも、おそらく織斑一夏への配慮だろうと簪は推測する。

一人よりかは、いくらか精神的にマシだろうというそんな理由なのだろうと。

 

逆恨みどころか完全に一方的な思いなのだが簪の一夏への遺恨がもう一つ増えた。

自分と織斑一夏にはどこまで因果があるのだと考えながら、簪は外へ出るための扉を開いた。

 

 

 

そしてそこには、中腰で頭を抱えながらなにやらブツブツとうわ言を呟いている姉の姿があった。

 

 

―――え…?

 

 

―――なに、これ…?

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

簪は目の前の光景に言葉を失った。

なんだあれは。あの姉の姿をしてとても人に見せられたものじゃない醜態を晒しているあれはなんだと。

 

今だ意識がどこかに飛んでいるようで簪に気付く様子もない。

それもあって簪は意を決し少し近づいて何を呟いているのか聞き取ってみることにした。

 

 

 

―――やっほー?いやこれは軽すぎるし簪ちゃんがイラついちゃうかもしれないわじゃあ無難にこんにちは?でもでも何の用だって言われたらなんていえばいいのかしら組み上げに集中してたら邪魔になっちゃうかもしれないしでもでもでも簪ちゃんは優しくていい子だからそんなことで怒らないかもでもでもでも私の事嫌いになってたら優しくなんてしてくれないだろうしイヤイヤイヤ簪ちゃんが私の事嫌いだなんてお姉ちゃんって呼んでくれないなんてそんなのイヤよ絶対イヤどうしようどうしようどうしよう…

 

 

 

 

 

ドン引きした。

更識簪史上一番のドン引きである。

 

 

そして、なんとなしに理解してしまった。

今までの姉の不可解な行動の理由はこれだと。

ただ単にヘタレていた。それだけなのだと。

 

 

 

キレた。もうブッチンブッチンに簪はキレた。

過去のしがらみ?いつも比較される優秀な姉?

そんなもの今の簪には何の関係もない。

 

目の前の姉に声を掛ける。

正気を取り戻し、簪を認識してアタフタと慌てているが知った事じゃなかった。

ただ、簪はなすべきことをするために一言だけ言い放った。

 

『歯、喰いしばって?』

 

 

 

楯無の体は、宙を舞った。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

その後、泣きながら執拗に謝り続ける楯無に、簪はもうなんかどうでもいいとばかりに適当に許すことにしたり。

許したら許したで泣きながら頬ずりを執拗に繰り返す楯無に、簪は嘆息しながら心底、臨海学習に参加しなかったことを後悔するのだった。

 

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