あの後(前話)風呂から上がり、約束通りカルトの茶室へと赴き、ご馳走になった。
どんな時間だったか? それを描写すると余りに長文になり読者様が辟易する恐れがある為省きます。
ただ、最高だった(語彙)
「はー……まったりできた。楽しかったし疲れ取れたよ。ありがとう」
相変わらずカルトの点ててくれたお茶は美味しかったし。好物のどら焼きまで出してくれて至れり尽くせりであった。そしてカルトとお喋り出来て幸せでした。
あぁ……こんな血生臭くて命の危険あり過ぎる暗殺家業廃業して、カルトと共に家出て、豊かじゃなくても、小さいアパートでもいいから一緒に平和な暮らしがしたい。一生カルトの側に居続けたい(重度のシスコン)
まぁしかしこの子、獲物嬲ったりする悪癖あったり、なんやかんやで暗殺者やってたりするから厳しいかもだけど。
「──っ、そう思って頂けたなら、嬉しいです……。ボクも凄く幸せでした……付き合ってくれてありがとう兄さん」
訥々と、そう語るカルトの姿はなんとも愛らしく、思わず抱きしめたくなる衝動に駆られるが、自分の中の理性を総動員してそれを必死に抑えつける。
ダメだ、落ち着け我慢しろ……幾ら懐いてくれてるっつっても流石にそれはマズイだろう。仮に引かれてしまい、今のこの関係が拗れてしまってカルトとの交流が無くなってしまったら軽く死ねる。今世の生き甲斐を失う。
冷静に……冷静に……。
可能な限り爽やかなイメージを意識しつつ、こう答える。
「此方こそ。誘ってくれて嬉しかったよ。よければまた声掛けてくれる?」
「はいっ、勿論、兄さんがよければっ!」
その時 アルト=ゾルディックに電流走る……!
……物静かなこの子は、目元が柔らかく垂れて、口角が少し上がるような控えめな微笑みが、普段の印象であり、非常に愛らしい。
だが、その普段とは違った、今、俺へと向けてくれている、この、朗らかな笑顔は……。
こんな、パアアアと擬音が付くかのような笑顔は、稀に見せてくれるものであり、言うなれば非常に希少、激レアなのだ。
そんな年相応のようなこの子の純粋無垢な笑顔を受けて心が温まると共に、妹への愛情が溢れんばかりに湧き出してきてしまい……気付いたら、身体が動いていた。
ぽふっ、と妹の頭に手を乗せ、その艶やかな髪を傷つけないように優しく、丁寧にそっと撫で下ろす。
「──っ、に、いさん……?」
妹の、その困惑したような、若干震えた声音が耳に届いた。そのお陰だろうか、理性達が妹の声に反応し、自分の元へと帰ってきてくれた。
「…………あ……」
ハッと冷静に返る。
自分の頭からサーと、血の気が引いていくのを感じた。
………………、──っ!? や、やややややってしまったヤバイヤバイヤバイ……っっ!! い、妹とはいえ年頃の女の子にこんなことやっちまったらマズイ……っっ!!
あああヤバイ俺めっちゃ気持ち悪いことしたってマジでいきなり女の子頭撫でるとかなんです? キザすぎるだろホントキモイ!! キモッ!
あああああ、ああっどうしよう内心ウザがれてるかもしれねぇ怖い怖い怖いカルトに嫌われたくないヤバイお兄ちゃんが全面的に悪いです本当に申し訳ございませんでした
高速で稼働する頭の中には目の前の妹への懺悔で溢れかえっていた。
もうダメだ……おしまいだぁ……と絶望に染まりきった顔で、せめてまずは謝罪しなければと思い、妹の顔を見やる。
そこには、驚いているのか瞳を大きく開き、愚兄の唐突な行為による緊張からか頬を紅潮させた、妹の表情があった。
そりゃそうなりますよね……と申し訳ない気持ちで溢れて溺れそうになる胸中を抑え、口を開く。
「……ご、ごめん、カルト……ホント、いや本当に急にこんなことしてすみませんでした」
深く反省していると伝えたい為、出来る限り深々と背中を曲げ謝罪する。
あぁ……これで妹との関係が終わってしまったら……と内心ズタボロの中、彼方の返答を待っていると、それほど間をおかずに返ってきた。
「い、いえ……そんなっ、それより顔を上げてください」
もっと謝罪の意を示さなければならないのでは……と、内心思うも、しかしそう言ってくれたからには、その通りにしなくては……と恐る恐る顔を上げる。
「た、確かに急なことで驚きはしましたが……その……大丈夫ですので……お気になさらず」
気を遣ってそんなことを言ってくれるカルトなのだが、どうにも此方としてはより申し訳なさが募ってくる。そんな気遣いをさせてしまう状況にしてしまった自分が不甲斐ない。兄として……本当に不甲斐ない。
「……本当にごめん。気も、遣わせてしまって……」
「い、いえ……ボクは本当に大丈夫ですから……っ、あ、というか……むしろ、もっと兄さんに触れて欲しかった、という、か……」
俯いた頭から僅かに覗く顔は、赤く染まっていて、自分はそんなにも妹に恥ずかしい思いをさせてしまったのだと理解した。
その罪悪感に押しつぶされそうになるが、しかしそれから解放されたいという理由では無く、ゆっくりと口を開く。
「その……だな、これで許して欲しいって訳じゃあ、ないんだ、けど、なんにも無しってのは俺の気が済みそうになくて……だからその……せめて、カルトが俺にして欲しいこと、って言ってもそんなに出来ることは無さそうだけど……それでも俺に出来ることならなんでもする。なにかないか?」
「……え?」
ぽかんと口を開けて、まるで予想外の事態に陥ったかのように、呆然とするカルト。それから、ふるふると少しばかり震えたと思いきや、徐に続く言葉を発する。
「今、何でもしてくれるって……言った?」
恐る恐る、慎重に確認してくる様に此方を見上げるカルト。その眼差しは至って真剣で、思わずつられる様に背筋を伸ばしてしまう。
「……ああ。遠慮せずになんでも言ってくれ」
「……なんでも」
(えっ、どうしよう。思わぬチャンスに頭がショート起こしそうというか……へへ、どうしよう……突然でびっくりはしたけど、頭撫でてくれたのは凄く嬉しかったのに……まさかそれから転じてこんなチャンスが巡ってくるなんて──っ!
責任感じてる兄さんは可哀相だけど……ここは言う通りなにか要求した方が、兄さんは納得するだろうし……。
どうしようかな……一緒に外出して貰おうかな……この前兄さんが好きそうな食事処見つけたし、そこに誘って、あわよくばそのまま一緒にショッピングしに行ったり、雰囲気のあるディナーなんかで食事しちゃったりなんかして……それでもう遅いから一緒に何処かに泊まりに行って、それから…………へ、えへへへへへへ……どうしよう、笑いが止まりそうにないくらい胸が高鳴る。
そ、それかどうしよう……久しぶりに一緒にお風呂とか、は流石に言い出せない、か……。なら頭をもう一度撫でて欲しい、っていうのもアレだよね。なら……)
思わぬチャンスが、正に千載一遇といってもいいようなチャンスが舞い降りて来た、この奇跡のような現状に、最善の判断を下す為、そしてチャンスの神様が通り過ぎてしまう前に、カルトの脳細胞はかつてなく働き出す。
どの選択を取れば、今よりも兄と仲良くなれるのか?
どの選択を取れば、兄との幸せな思い出を築けるのか?
どの選択を取れば、兄の罪悪感を消して、いつもの様子に戻ってくれるだろうか?
どの選択を取れば、兄にとって負担のなく、尚且つ喜んで貰えるような、そんな素敵な結果に繋がるか?
どの選択を取れば────────
時間にして、数秒足らずの、正に一瞬の瞬き程の間。
超高速で兄への要求を検討し尽くしたカルトの頭の中には、ただ一つ。何度も繰り返し頭を巡ったその答えは、確かに自分でも納得出来るもので。
その答えを伝えようと、動き出した彼女の口からは非常に滑らかに、するりと言葉が出て行った。
彼女の導き出した答えとは──
「じゃあ……今度の仕事が終わったら、美味しいお店に連れて行ってください」
「──っっ!? 〜〜〜っ、おう! 喜んで!!」
カルトと2人で外食……っっ!! つまり……まだそんなに本気で嫌われていない──って、捉えていい、んだよな……? もしそうなら……本当に良かった……え゛がっだっ!! だけど、反対に内心嫌われていて、立場上兄を気遣おうと無理しているのだとしたら……申し訳無さ過ぎる。だから、もし仮に後者の場合を考えて、俺が出来得る限りのことは全てし尽くし、1%でも高くカルトに喜んで貰えるような店を探す!!
「では、そろそろこの辺で。お母様に呼ばれていますので……」
「──、ん、あぁ、了解。っと、カルト、改めてさっきはごめん……それから、今日はありがとう……」
「はい、大丈夫ですよ。私もありがとうございました、兄さん」
そう言って、去る寸前に見えたカルトの表情は、何も邪なものなど含まれていないかのような、晴れ晴れとした、はにかみ笑顔だった。
「かわええ」
『アルトー』
「ん? あぁ、ねーちゃん」
なんだこの主人公……なんだってこんな重度のシスコンに……いや、カルトみたいな天使が妹なら仕方ないか……うむ!是非もなし!