まさかこんな歳から働くことになるとは   作:ト——フ

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久しぶりの投稿デス


No.5◆ 姉ちゃんとねーちゃん ③

 うちの執事達が大勢亡くなってしまった事件から少し経った頃、遂に姉が隔離されることになった。

 

「アルトー」

 

「……」

 

 恐らく、今日この時間が姉との最後の交流だろう。

 この前、父さんや爺ちゃんが姉の処遇について話しているのを盗み聞きしたから間違いない。勿論、その後2度3度も、それこそ〝絶〟まで使って情報収集に及んで十分な裏は取った。

 

 姉が隔離されてしまうのは2日後。

 

 明日には多分、バタバタするだろうし、この日が最後だ。

 

 だからせめて、後悔しないように過ごそう。

 

「……あのな」

 

「アルトー、いいコいいコさせてー」

 

「ねーちゃん、その前に話ある」

 

 色々と話さねば。今日で暫くはお別れだってことも。次会うのはきっと、キルアがゴンを治してあげた後、だろう。

 

 暫くはお別れなんだと、そう口を開こうとしたが

 

「アルトー」

 

「話が」

 

「アルトー」

 

「……」

 

「いいコいいコさせてー」

 

「………………、……あいよ」

 

 なにやらうずうずと、あまりにもやりたそうにしている為、渋々ながら頭を差し出す。

 

「〜〜〜♪」

 

 非常にご機嫌な様子で俺の頭をナデリナデリするねーちゃん。

 気に入ってるのね、そりゃよかった。

 俺も好きよ、ねーちゃんが撫でてくれんの。どうにも恥ずかしさは慣れんけども。

 

「……ま、いいから。そのまま聞いてくれ」

 

 暫く続きそうだった為、仕方なくそのままの態勢で話すことに。

 

「近いうちにな、ねーちゃん……」

 

 とは言ったものの、なんて言えばいいのか。

 隔離される? 離れ離れになる? 暫く会えない? 

 どう伝えるのが適切なのか。

 

 足りない頭で考え抜き、絞り出した答えは、結局凡庸なもので、そんな自分に嫌気がさしてしまうのを堪えつつも、ゆっくりと口を開く。

 

「姉ちゃんとねーちゃんとは、暫く会えなくなる」

 

 ぴたっ、と頭を撫でる腕の動きが止まる。どう反応するかと、恐る恐るねーちゃんの顔を見やると、表情こそは変化は無かった。しかし、雰囲気が常と異なるのは、悲しいかな、双子としての付き合いが長い分、容易に感じ取れた。

 

 だから、ねーちゃんの気持ちが、少なからずは、多分分かってしまったような気がして。その所為で、少し胸が苦しくて、視界も少し滲んできて

 

「その……ねーちゃんがな、近いうち、違う場所に行くんだけど、そこには俺、行けなくてな」

 

 俺が泣きそうになってどうすんだ、辛いのはこんな状況に追いやられた姉の方で、それに、分かっていてどうにも出来なかった俺が泣くのは違うだろと、なんとか震える声を押し殺し喋ろうとすると、どうしても辿々しくなってしまい

 

「ねーちゃんは部屋に閉じ込められてしまうっつぅか……その、……悪い」

 

 要領を得ない、そんな言葉しか出せなかった。

 

 

 

 そりゃあ……俺だって出来るものならこんな状況ひっくり返したい。姉を自由にしてやり、キルアと共に遊んだり、ずっと仲良く出来たらなんといいことか。

 

 けどもしそうなったなら。

 例えばキルアならハンター試験に行って親友に出会うことが無くなってしまうかもしれない。俺が何かしたら、イル兄に勘付かれてねーちゃんの自由が更に制限されるか、もしくは俺が 木偶(でく)にされるかもしれない。他にも、俺が余計なことをした為に起こり得る良からぬことがあるかもしれない。

 

 あくまでこれはキルアの役目。姉を救ってやれるのはキルアしかいない。俺がすることなんざない。

 俺はただ、この本来居ないはずのゾルディック家のイレギュラーでしかないのだから。その証拠に念の系統も放出系で、自分が異物なんだと、この世界からも言われているように感じる。

 

 

 ……と、そんな御託を並べたけれど。要するに怖いんだ。確かに俺の中での家族の優先順位は非常に高い。けれど、それ以上に原作の流れというか、余計な手立しをして最悪の結果に繋がるかもしれないとか考えてしまう。

 なんせ、原作よりもより良くしてやろうとか俺には考えられないから。

 

 確かに俺の戦闘力は弛まぬ訓練(強制)とゾルディックの血筋ってこともあって、自分で言うのもアレだけど中々のものになってると言える。将来的には、それこそ原作開始時点ではそれなりのもんになってるとは思う。

 けど所詮はそれ止まり。キルア程のずば抜けた才能は無いし、ミル兄ほどの頭は持ってない前世普通の大学生だし、他にも兄弟達の様に突出した何かがあるわけでもない。

 

 こんなたかが普通の人間が優れた肉体に転生したからって、上手い具合に何でもかんでも望むままに話の流れを弄るなんざ出来る訳が無い。

 

 そうそう特別な人間でも無いんだ。だからこの世界(HUNTER×HUNTER)の流れを調整するんじゃなくて、如何に干渉せず、原作通りにことが進むようにするかを考えてしまう。後ろ向きにしか考えれない。

 

 

 だから姉のこの件については何も出来なかった。

 弟として姉を守らねばならないのに。罪悪感を見ぬふりをして、責任から逃れて彼女と笑い合っていた。

 

 俺が只の臆病者だから、なにも。出来なかった。

 

 

 そんな資格も無いにも関わらず、一丁前に自責の念にかられて、情けなく何も言葉を吐き出せないまま、ただ唇を噛み締め俯いていると──

 

「アルト」

 

「──、……?」

 

 くいっと肩を引かれるままに、ねーちゃんの方へと身体が傾く。自然、頭が姉の胸に当たり、急いで退かそうとするも、手で押さえつけられ叶わなかった。

 

 何をするのか。そう思い口を開こうとすると、

 

「あい」

 

……」

 

 ゆっくりと、子供をあやすかのように優しく、ねーちゃんが俺の頭を撫で始めた。

 それは普段の形だけのものとは違い、掌から伝わってくるじんわりとした、なにか温かなものが心地良くて、つい目を細めてしまう。

 

「……」

 

「……あい」

 

 落ち込んでいる俺を慰めてくれているんだろうか。

 自分の方が辛いだろうに。

 急に隔離されるかもしれないと聞いて、心穏やかではないだろうに。

 

「そんな……俺」

 

 優しくしてもらう権利なんざ俺には無いのに。

 何度も自問自答して、分かっているのに。

 弟のように、温かく接して貰っていい筈はないのに。

 

 それでも、この優しさに甘えそうになってしまう。

 だけど、

 

「……ダメだって、俺は分かってても。何もしなくて……目を背けて、ねーちゃん達を心から思いやれずにいたんだから。だからそんな優しくされても……」

 

 〝俺には弟みたいに接して貰える筋合いは無い〟

 

 家族よりも、形も無い、ハッキリと分からない世界の流れを優先したんだ。

 優しさを向けられるのは違う。

 

 そんな思いを込めての吐き出した一言。

 だけど────

 

 

 

 

「アルト、スキ」

 

「……っ、けど──っ、……」

 

 言葉を返すべく頭を上げ、顔を見やると。

 

「アルト、スキ」

 

 口をひき結んで、瞳が揺らいでいる。

 

 言葉が続かなかった。

 けどもなにも無い。

 姉のそんな悲しそうな表情を見てから気づくなんて。

 本当に弟失格じゃないか。

 

「……ぁ、ごめん」

 

 何を卑屈になって、あんな言葉を、口をついて出たのだろう。

 

 家族から、執事からも良い目で見られていないねーちゃんを。疎外感感じてる姉達を。

 否定するようなことを言ってしまうなんて。

 

 今、姉と繋がりを断てば、それこそ酷なことだろうに。

 姉にとっての数少ない味方の自分が。

 後先考えず味方になってしまった自分が。

 

 そんな、都合よく離れようとするなんて違うだろう。

 

 

 

 自分には資格がない? 弟としての? 

 何をいまさら。

 卑屈になって考え込んで視野が狭まっていた。

 

 双子の姉弟として仲良く。

 姉の隣を生きてきた。

 

 確かに知っていたのに何もしなかった。

 味方面してんじゃねぇよって感じだ。

 

 だけど、俺は弟だ。

 姉ちゃんとねーちゃんと俺と、三人で笑ってきた。

 そんな仲だ。

 そんな仲で今まで生きたんだ。

 

 だから。

 そうしてきたんだから。

 資格もなにも、最後まで姉の味方しなきゃならんだろうが。

 

 悲劇ぶって思い詰めて、後ろ向きになって、クヨクヨして。

 姉に余計な心配かけて、悲しませてしまった。

 

「ごめん、俺は弟だ。ねーちゃんの弟だ」

 

「あい」

 

 確かに世界の流れは無視出来なくて怖いけれど。

 でも、出来ることはあるだろう。

 

 弟として、ほんの少しでも、寂しさを和らげてもらえるくらいのことは出来る筈だ。

 俺にでも出来るくらいのことはある筈だ。

 

 今出来ることに今目を向けて、動くべきだ。

 

「ねーちゃん、寂しかったら俺を呼んでくれ」

 

「……?」

 

「暇な時でもいい。新しい遊びがしたくて、その相手になって欲しい時でも。一緒にご飯食べたい時でも。どんな時だっていい。だから、この先寂しかったりしたら俺をねーちゃん達の部屋に呼んでくれ」

 

「……あい」

 

「……今はなんのこっちゃって話だろうけれど。この先分かるから。あと、俺もねーちゃん達には会いたいし、一緒に遊びたいんだ。だから俺の頼み事、聞いてくれるか……?」

 

「あい」

 

 せめて、姉にとっての王子様が外に連れ出してくれるその日まで。

 寂しさを少しでも埋めるくらいのことは出来ると信じて。

 

 2日後に姉は隔離された。

 

 




 という感じで主人公があーだこーだ言ってうじうじする回でありました。
 やたら後ろ向が目立った彼ですが、まぁ彼前世一般人ですので。なんとかゾルディックの訓練やらについていけるとはいえ(それだけでも充分凄い)、流石にイルミやシルバ、ゼノ等を間近で見続けてきて、その恐怖もしっかりと理解していまして。どうにかしなきゃと思いながらも、家族の人間に盾突く度胸も、勇気も湧きませんでした。

 動き出そうとするも、原作の流れを弄るのが怖くて、周辺に居る実力者の力も怖くて。

 ですが、それでも前を向き、現状なんとか自分でも出来ることに目を向けて動きました。

 なので。
 主人公にお疲れ様 って労いの言葉でも思って頂ければ幸いですm(_ _)m
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