今回は少し長めになっております。
ではごゆっくり。
彼女が修道院に行ってしまった後、僕は今まで以上に時計作りへ没頭した。
それしかできることがなかったからだ。
そうしていると、その内妙なものが見えるようになった。
後からわかったことだが、これは僕が元から持っていた力だったらしく。
大切な人が側からいなくなったことで、力が目覚めたのだろうと、店に訪れたご老人が教えてくれた。
そのご老人曰く、僕には魔術師としての才能があるらしく、僕に「儂の弟子にならぬか」と聞いてきた。
僕は一瞬悩んだけど、いずれ戻って来るだろうシャルロットの為に、何か一つでも役にたつことができればと、ご老人の話を受けることにした。
そのご老人は『カレイドスコープ』と名乗った。
1786年 2月28日
「さて、聖遺物の回収完了っと♪、これでまた礼装が作れる」
師匠に弟子入りしてから5年がたった。
カレイドスコープと名乗った彼は、魔術師の間でもかなり有名な人だったようで。
なんでも、世界に今のところ一人しか残っていない『魔法使い』というものらしい、他の魔法使いはとっくの昔に消えてしまって、残っているのが師匠だけなんだとか。
だけど、この5年間の間にそれは過去のことになった。
僕が、魔法を覚えたから。
「さて、さっさと帰りますか」
魔法使いになった後。
僕は、ヨーロッパ中を巡って、聖遺物を集めた。
師匠が言うには、これらの品はかつて英雄たちが持っていたもので、それ自体に強い神秘が宿っているらしい、僕はそれを利用して、死徒と呼ばれる化け物どもや、霊的な存在に対してダメージを与えられる礼装を大量に製作した。
「取り敢えず、今回の聖遺物は銃に使ってみよう」
聖遺物を武器にするのは結構簡単で、元になる武器と聖遺物を隣り合わせに置いて、儀式を執り行うだけで良い。
「...シャルロット、元気にしてるかな」
彼女の役にたつ為に、魔術を覚え始めたけど。
修道院にいる彼女には中々会うことが出来ない。
弟子入りしてから聞いたんだけど、魔術協会と聖堂教会の仲が悪いせいで、魔術師だとばれると教会関連の場所には入れないらしく、僕も偶然修道院を見に来ていた聖堂教会の代行者に魔術師であることがばれて殺しあいになり、修道院に入れなくなった。
「聖堂教会の連中め、あいつらさえいなければ今もシャルロットと会えたのに、むかつくから何人か
一応、時計屋も続けているけど、シャルロットに送ったもの程良いものは作れていない、きっとあれ以上のものは作れないと自分で思っているからだ、
「シャルロット、早く君に会いたいよ」
魔術を使えば、彼女に会うことは容易いが、彼女に迷惑がかかってしまう、それでは彼女の役にたつ為に魔術を習った意味がない。
結局この後、3年後にようやく彼女とまた会うことができた。
1789年 7月14日
この日、フランス革命が起こったことで、僕とシャルロットの運命は大きく変わった。
革命の影響で、修道院が閉鎖された為、シャルロットは故郷に戻ることになり、叔母さんのところに身を寄せることにした。
でも、彼女の父親と妹は海外に亡命してしまった。
彼女は残ってくれたけど、今思えば彼女も父親たちと一緒に行かせておけば良かったかもしれない。
ある日、僕は彼女から急に呼び出された。
「チャーリー、私は国の為にジロンド派に属することにしました」
「ちょっと待ってよ、何で急にそんな!」
彼女は、僕が知らない間に革命思想に傾倒していた。
「ごめんなさいチャーリー、もう決めたことなの」
「待ってよ、ジロンド派に所属するってことは、革命に参加することになるんだよ、もしそれで君が死んじゃったらどうすれば良い!、大切な人は皆死んで、僕にはもう君しか残っていないんだよ、君まで僕の前から消えたら僕は...」
この数年間の間に色々なことがあった。
父と母の死もその一つだ。
僕にはもう、彼女しか残っていなかった。
だから思いとどまって欲しかった。
でも。
「チャーリー、私は必ず帰って来ますから、それまで待っていてくれませんか」
彼女は止まってはくれなかった。
だから、僕は一つだけ彼女に約束をしてもらった。
「シャルロット、あの日僕が渡した時計を覚えているかい?、あれを僕だと思って肌身離さず持っていて欲しい、そうすれば僕は君が何処にいてもわかるから」
「ええ、約束します」
「それさえ聞ければ良い、シャルロット...気をつけてね」
そうは言ったけど、僕は不安でいっぱいだった。
革命思想を持つ組織はジロンド派だけじゃない、過激思想を持つジャコバン派は、穏健派であるジロンド派と
すこぶる仲が悪かった。
だから、僕は決めたんだ。
彼女の害になるものは、全て僕が排除するって。
こうして僕は、暗殺者になった。
1793年 7月10日
とある路地で、一人の男が追われていた。
「ひぃ、頼む、見逃してくれ、俺にはまだやらなきゃいけないことが」
「そんなこと私の知ったことではない、消えろ」
「ひっ、嫌だーーー!」
それが男の断末魔となった。
「はぁ、全く手間をかけさせてくれる、おかげで普段の倍以上に時間がかかってしまった」
「おやおや、また派手にやりましたねぇ」
「何だ貴様か、依頼はちゃんと果たしただろう、私は早々に帰らせて貰う」
「ちょっ、後始末どうするんです?、またあっしにやらせるつもりで?」
「知らん、私の仕事は殺すところまでだからな、後は
貴様らの領分だろう」
「あっ、待ってくださいよ旦那ぁ!」
男を追いかけていた者が去った後、残っていたのは、辺り一面に平がる血溜まりだけだった。
あれから4年、僕はジロンド派に自分を売り込み、ジャコバン派に属している者たちを暗殺してまわっていた。
「取り敢えずこの辺り一帯のジャコバン派党員は全滅かな、これでシャルロットへの脅威はなくなったし、次の場所もさっさと片づけるとしよう」
きっかけはシャルロットの行き先にジャコバン派党員が数人いることを知って排除した時だった。
それを知ったジロンド派の党員が接触してきて、僕を雇いたいと言ってきた。
僕は特に断る理由もなかったから、二つ返事で引き受けた。
それから、シャルロットの行き先に先回りして、そこにいるジャコバン派党員を一人残さず殺して回った。
何度も何度も殺し続けた。
今日も彼女が出かけると聞いて、先回りして偶然そこにいた依頼対象の男を殺した。
でも、思った以上に男の逃げ足が速くて、殺し終わる頃には夜になっていた。
「さあ、帰るとするか」
もうやることもなかったので帰ろうとしたのだが。
「お母さん、お母さん何処?」
何故か少女が一人でうろうろしていたから、声をかけることにした。
「おや、どうしたんだいお嬢さん、迷子になったのかい?」
「あなたは誰?」
「ああ、私は時計屋さんだよ、仕事が終わったから帰る途中なんだ」
「ふうん、それじゃ何でそんな仮面をつけているの?」
少女がいったとおり、僕は仮面をつけていた。
暗殺の際はいつもこの仮面と帽子を被り、黒装束に身を包む、決して対象に素性がばれないように。
「ふむ、じゃあ教えてあげよう、私は顔を人に見られるのが恥ずかしくてね、だからいつもこんな仮面で隠しているんだ」
「へえ、あっ...いけない、お母さんを探さなきゃ」
「はぐれたのかい?」
「うん、お母さんと一緒に帰る途中だったんだけど、急にお母さんがいなくなっちゃって、それで探してたの」
「ふむ、ならば私も探すのを手伝ってあげよう」
「えっ、良いの?」
「ああ、構わんよ、君を見ていると知り合いの小さい頃を思い出すのでね、放っておけなくなったのさ」
懐かしい、僕の心はそれでいっぱいだった。
小さい頃のシャルロットは、よく買い物の途中で迷子になって、それを僕が見つけるなんてことがよくあった。
だから、この少女を見ていたら思い出してしまったのだ。
彼女と過ごした子供時代を。
「それじゃ私は、まずお母さんが働いてる酒場まで行ってみる、もしかしたらお母さん、忘れ物を思い出して取りに行ったのかもしれないし」
「ああそうだね、私はもう少しこの路地を探してみよう」
少女が酒場に向かった後、僕はその路地を睨んだ。
「出てこいよ、いるんだろ!」
「流石は仮面の悪魔ね、私の認識阻害がすぐに見破られるなんて」
「その呼び方はやめろと言っているだろう、それから毎回一般人を巻き込むのはやめろ、後処理がバカにならん」
「あらあら、噂の暗殺者がお優しいこと、よっぽど普通の暮らしが懐かしいのかしら?」
「黙れ、ネージュ」
この女は師匠に弟子入りしてから会うようになった魔術師で、ことあるごとに僕を魔術協会に勧誘してくる面倒なやつで、フルネームは『ルゥ.ネージュ』というらしいが、本名かどうかもわからないし、なにより本人が胡散臭いことこのうえないのだ。
「やっぱり名前では呼んでくれないのね、ねぇ、いいかげん意地を張るのはやめて魔術協会に入らない?、後悔はさせないわよ」
「何度も言わせるな、魔術協会に入るつもりはない、どうせ私の魔術刻印と頭の中身が欲しいだけだろう」
「あら残念、じゃあまた来るわ」
「おい待て、あの少女の母親はどうした!」
「ああ、あの子の母親ね、面倒だったから処分したわ」
「貴様!」
「別にどうでも良いじゃない、貴方にとっては他人でしょ、放っておきなさいよ、それともあの子に欲情でもした」
「.....クズ女が、二度と私の前に現れるな、次は殺す」
「あら、怖い怖い、一般人に手を出すとすぐこれよ、貴方本当に魔術師?」
「聞こえなかったか?、とっとと失せろ」
「わかったわ、全くもって不合理ね貴方は」
「行ったか」
僕はあの女が殺したくて仕方がなかった。
だが、あいつを殺せば間違いなく協会は追っ手を差し向けるだろう、お抱えの粛清部隊を使って、そうなればシャルロットに迷惑がかかる。
それは僕の本意ではない、だけど。
「くそ、僕はどうすれば良い!、僕はただ彼女を...シャルロットを守りたいだけなのに、何故こうなる、何故関係ない人まで犠牲になる、これじゃあ僕が殺したみたいじゃないか!」
「荒れておるな、チャーリーよ」
「師匠!」
何故か師匠がいた。
「なに、お前が暗殺者などをやっていると聞いてな、久しぶりに会ってみようと思ったのだ」
「あんたがそれだけの理由で来るわけがない、本当の要件は何だ?」
「相変わらず鋭いな、良いだろう教えてやる」
師匠が言い放ったのは、僕にとって最悪の知らせだった。
「お前の恋人は7日後に死ぬ」
それは、考えうる限り、これ以上ないほど聞きたくなかった話だった。
...5分後。
「彼女が死ぬってどういうことですか!、そうならないように僕は...僕はずっと彼女の害になる者全てを殺してきたんだ、なのに何故!」
「落ち着け、これはなにも急に決まったことではない、最初から決まっていたことなのだ」
「彼女の死が前から決まってるって、何でそんなことに」
「お前は知らなかったのだな、いや、知ろうとしなかったの方が正しいか」
「ああそうだよ!、彼女が死ぬ未来なんて僕は視たくなかったから、最近はずっと
「だから落ち着け、お前は抑止力というものを知っているか?」
「知っているとも、世界にある一定の歪みが生じた時に発動するカウンター的措置のことだろ、ほとんどの場合は抑止力と契約した英霊を呼び出して、その歪みの原因を排除する」
「そうだ、今回の件もこれに該当する、何故なら正史においてお前は存在しないからだ」
「はっ?」
「本来なら存在しえない
「それの何が悪いんだよ!」
「お前にとってはないかもしれない、だが抑止力にとっては話が別でな、歴史が変わることによって起きる歪みを、抑止力は許容しない、間違いなくお前の恋人を歴史通りに死なせようとするだろう」
「そうか、だったら」
次で1700年代編は終わりです。