【嘘予告】EP00 2014:ソウゴと千景   作:イナバの書き置き

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ぶっちゃけ勇者御記から検閲されなければ勝ちだと思った。


EP00-3 約束

 忘れられない約束。忘れるべきでない約束。その2つを彼は私としてくれた。

 

 

 ──勇者御記 2018年 郡 千景より抜粋──

 

 

 

 私は味覚と涙腺に強烈な打撃を与えた夕食を終え、風呂に入っていた。

 

 ──例えソウゴさんでも、いや、ソウゴさんだからこそ()()()()について話すことなんて出来ない──

 

 湯船の中で揺らぐ自らを見下ろし私は1人決意を固めた。

 私の身体は集落のありとあらゆる人々から迫害の様な扱いを受けた結果、切り傷や打撲痕などありとあらゆる傷痕まみれとなっている。

 だから、たったの1日も交流していない私でも理解出来るほど他者に対する思いやりを持っている彼は、きっと私の惨状を見れば黙っている事など出来ないだろう。

 

 ──あんなに優しい人に、これ以上迷惑をかけられない

 

 どうやったのか私に知る術はないが、ソウゴさんは日常的に暴力的に振るう両親をあっさり説き伏せ、あまつさえ彼らの口から謝罪と感謝を引き出す程口が良く回る人だ。

 彼が行動を起こせば、私にとって地獄そのものだったあの集落の人達は何らかの社会的制裁を受けるに違いない。

 だが、そのせいでソウゴさんが何らかの報復を受ける様な目にあえばそれは私の新しい、たった1人の家族が傷つく事と同意義で、もしそんな事があれば私はきっと──────

 

「……のぼせた」

 

 止めよう、嫌な事を考えるのは。ふやけた思考から嫌な考えを叩き出し風呂から上がった私を、ソウゴさんはテレビを眺めながら待っていた。

 居間に入ってきた私にソウゴさんは、転校手続きやクジゴジ堂の間取りについて手短に私の今後について説明してくれた。

 一通り話終えると、彼はふと思い出したかの様に話題を変えた。

 

「千景、ここで俺と生活するに当たって2つだけ、約束をしない?」

 

「……やく、そく?」

 

「そんな身構えなくても良いよ。間違っても君に強制しようなんて思ってないし」

 

 唐突な話題転換に追い付けず困惑する私が落ち着くのを待ったソウゴさんは、まるで昔を懐かしむかの様に話しだした。

 

「まず一つ」

 

「千景、今何か悩んでるでしょ?」

 

 頭が真っ白になった。

 

「君が今までどんな目に遭って来たのか、俺は全ては知らない。でも千景が自分の事で悩んでいるのはなんとなく分かる。だから──」

 

 ──見透かされていた

 

 今から思い返せば人の感情の機敏を読み取るのが上手いソウゴさんが私の悩みを理解しているのは不思議な事ではなかったが、当時の私は彼が自ら傷つきに行くのではないか、と思い込み取り乱してしまった。

 

「止めて……私、私は大丈夫だから……だから、そんなソウゴさん自身が傷つく様な真似は──」

 

「──だから、これからは出来るだけ楽しく毎日を過ごそう!」

 

「……え」

 

 私が考えていたのとは全く違う答えだった。てっきり報復を行うつもりだと思っていたが、呆然とする私にソウゴさんは語りかける。

 

「どうしたって過去の事実は消せない。過去の意思は嘘で欺くことなんて出来ないんだ。だけど今は、これからは違う。千景の意思1つでこれからの人生は好きなだけ変える事が出来る。俺もなるべく千景に辛い思いをさせないようにするからさ、必要以上に辛い過去に囚われるのは、止めてみない?」

 

 そこまで言われてようやく、彼は一貫して私の事を考えていてくれている事に気付いた。

 

 ──ひょっとしたら、親ってソウゴさんみたいな人の事を言うのかもしれない

 

「親」は子供の事を見捨てない、いつも幸せを願う人だと私は聞いていた。だったらソウゴさんがその人ではないのか。

 それがもう何も考えられない程嬉しくて、私は頷く事しか出来なかった。

 

「じゃあ2つ目」

 

「もし千景が寂しいと思ったなら素直に俺に言って欲しい」

 

「寂しかったら……?」

 

「そう。おじさんが言ってたんだ。『寂しい時に寂しいって言えない人間なんて人の痛みが分からないやつになっちゃうぞ』って。俺は千景が集落の人達から酷い事をされても耐えた事は優しさで、強さだと思う」

 

「私が、優しいなんて、そんなこと……」

 

「自分がされて嫌な事をずっとされ続けて、それでも反撃せずに耐え抜くなんて並み大抵の人じゃ出来ないでしょ? それが出来るのは千景の心が優しくて、強いからだと思うから、俺は君のその優しさを失くさないで欲しい。人の痛みを知る人でいて欲しいんだ」

 

「────」

 

「もしどうにもならない程辛い事があったら迷わず教えて。そしたらどんなに遠くても俺は必ず君の所に駆け付ける。だから1つ、約束してみない?」

 

 

 

 

「──────────はい」

 

 

 ──ああ、この人はなんて優しくて、こんな、こんなに幸せで私はいいのだろうか──

 

 私はそう思わずにはいられなかった。




・常磐ソウゴ
おじさんリスペクト。ソウゴを叱ってくれたのはおじさんだけだから当然の事かもしれない。

・郡千景
本編でただでさえ色々抱え込んでいたのに弱音を吐ける相手が少なすぎるのが問題だと思った(凡推理)この小説では勇者御記から検閲されていない。

感想、評価ありがとうございます。大変励みになっておりますのでこれからも見守って頂けるとありがたいです。
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