【嘘予告】EP00 2014:ソウゴと千景 作:イナバの書き置き
当初のテーマである「千景とソウゴの交流」を意識してます。
「……おはよう、ソウゴさん」
「おはよう、千景。朝ご飯食べようか。今日は新しいのに挑戦してみたんだ」
「ソウゴさん、一昨日も同じ事して失敗してなかった……?」
「今回は大丈夫だって! 何か行ける気がしたし!」
「……不安だわ」
朝起きて「おはよう」と言えば返事が返ってくる、そんなありふれた幸せに気付いてから2ヶ月が経っている。
最初は転校やら何やらでバタバタしていた生活もすっかり落ち着いて、こうしてソウゴさんが創作料理に挑戦して失敗するのも見慣れた光景となった。
そもそも普通の料理ですら怪しいのに何故創作してしまうのか、私は皿の上に鎮座する目玉焼きの様なナニカをつつきながら考える。
分からない。
「……しょっぱい。しょっぱすぎるわ、ソウゴさん。ちゃんと塩の量は確認したの?」
「え? えーと……
あーッ! これ間違えてるー!」
「……でしょうね。次は私も手伝うから、一声かけて」
「いいの!? いやー本当千景には頭が上がらないなぁ」
でもまあ、こんなに幸せならあり得ない程しょっぱい目玉焼きを食べるのも、悪くない。
悪くはないのだが──今日はしょっぱいだけでは済まないようだ。
口の中に突如として苦味が広がる。
「待ってソウゴさん、何入れたの」
「え? ゴーヤ」
「……ゴーヤ?」
何故。何故ゴーヤなのか。ひょっとしてゴーヤチャンプルから連想したのか。
私とて料理が得意と言う訳ではないが、いくらなんでも思うがまま食材を足していけば良いと言う話ではないのだ。
これは酷い。
本当に、ダメダメなソウゴさんには私が付いてないといけない。
「今日の昼食は私が作るわ。本当の料理って物を教えてあげる」
「おおー。カッコいい」
「……暇」
今日は日曜日なので学校に行く必要は無い。
宿題も早々に済ませた私は、部品の買い出しに行っているソウゴさんに頼まれクジゴジ堂の店番をしていた。
クジゴジ堂は時計屋を自称しているが、その実態は機械なら何でも修理してしまう便利屋である。
今もソウゴさんは扇風機の修理を依頼され、部品不足に気付いて買い足しに行ったのだ。時計のではなく。
「……ホント優しすぎるのよ、ソウゴさんは」
それもこれもソウゴさんの人の良さによるものだ。
どうやら先代の頃から「そう」だったらしく、近所の人々が掃除機でも洗濯機でも何でも持ち込んで来てソウゴさんも断らない為最早時計屋の体をなしていないのである。
まあそう言った客がいなければやっていけないので仕方ないのかもしれないが。
そうやって取り留めの無い事を考えながら椅子に座っていると、ガラリと引き戸が引かれる音がした。
またしてもお客らしい。
「いらっしゃいま──」
「よう、邪魔するぞ」
「……門矢さん、帰ってくれない? 私不審者は入れない様に言われてるの」
「なら残念だったな。魔王と顔見知りの俺は不審者じゃない」
「チッ……」
今日は何と運の無い日だろう。よりにもよって門矢士がやって来るとは。
ソウゴさんとは旧知の間柄らしいこの男は、たまにクジゴジ堂に現れその度に私をおちょくり気が済んだら帰って行くのだ。
本当に腹立たしい。
「で、何の用?」
「何か用が無ければ来ちゃいかんのか。俺は飯を集りに来ただけだ」
「は────!?」
何を言い出すのかと思えば「飯を集りに来た」とは本当にふざけているのだろうか。
ソウゴさんの創作料理を叩き込んでやりたい衝動に襲われたが、グッと堪える。
私は子供で相手は大人、喧嘩なんて軽くあしらわれるだけだろう。
ならば子供らしい方法でやり返すしかあるまい。
「……ええ。作ってあげるわ。とびきりの料理をねぇ……」
「ああ、楽しみにしてるぞ」
──そのふざけた顔を今すぐ苦悶の表情に変えてやるから覚悟しておきなさい
そう意気込む私は、自らの料理が引き起こす惨劇にまだ気付いていなかった。
「千景」
「……」
「千景?」
「ごめんなさい……」
最早大惨事以外の言葉で表す事は出来ないだろう。
明確な悪意を持って作った激辛カレーは当初の目論見通り門矢士を悶絶させた。
それだけならば良かったのだが、負けず嫌いな所のある士は残りも全て完食し、そのまま気絶してしまったのだ。
ちょっとしたイタズラのつもりがとんでもない事になってしまった。
ソファに寝かされた士を横目に見ながら、ソウゴさんは私を穏やかに追い詰めた。
「ねぇ千景、カレーに何入れたの?」
「……タバスコと、チリペッパーと、ジョロキアパウダーよ」
「次は止めようね? 流石に気絶しちゃうのは洒落にならないよ」
「ごめんなさい……」
「俺は良いから、士が起きたら謝るんだよ?」
「ええ……」
確かに今回は私が悪い。
反りが合わない相手とは言えいくら何でも度が過ぎている。
申し訳なさを抱きながら自らの皿を見下ろす。
士に食べさせたのと同じカレーが、こんもりと盛り付けられていた。
何と言う失策だろう!
私は士へのイタズラに走るあまりこの激辛カレーを全員分作ってしまったのだ。
先程の士の苦しみ方が思い出され、気分が悪くなる。だが作ってしまった以上私がどうにかするしかないのだ。
「……あむっ」
覚悟を決め、どろりとした液体を口の中へ放り込む。
私が覚えているのはそこまでだった。
目を覚ませば布団の中で、気絶した事を悟ったのはソウゴさんに話を聞いてからだ。
もう2度とあの様なカレーは作るまいと私は
魔王の前に、あの時と同じカレーが盛り付けられたプレートを置く。
その禍々しさに魔王も冷や汗を流している気もするが、きっと気のせいだろう。
「……千景よ。若き日の私の記憶ではお前はもう作らないと言っているのだが」
「そうね。
「ならば──」
「でもごめんなさいソウゴさん、私神様とか信じてないの。特に天の神が出てきてからは尚更信仰なんて出来ないわ。だから誓約は無効よ」
「……」
「──ちゃんと、全部食べてね」
カレーとにらみ合いを始めた魔王を眺めながら、私は笑った。
──そう、私を救ってくれたのは他の誰でもない
・郡千景
激辛カレーを作る。士とは反りが合わない感じの人。穏やかな日常を描きつつ最後にソウゴに対する重さを出していくスタイルの人。
・門矢士
激辛カレーを食べて気絶。実はソウゴに自身がいない時、千景を守る様頼まれている。それはそれとして千景をおちょくったりする。
・常磐ソウゴ
優しいけどちゃんと叱る。(おじさんに叱られた経験から)