【嘘予告】EP00 2014:ソウゴと千景   作:イナバの書き置き

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大変長らくお待たせしてしまい、本当に申し訳ないです。


魔王編 第五歌 絶望

 黒金と土色の異形が相対する。

 例え人の形をしていても、手にした力はあまりにも強大。

 人類の理を超越した、おぞましい「ナニカ」が衝突しようとしているのだ。

 片や平成の権化。時代の守護者、オーマジオウ。己の全てを擲って世界を守る機構と化した墓守は今、かつてない程の怒気を纏っていた。

 

「赤嶺友奈!お前は、()()ソレの意味を本当に理解しているのか……!」

 

「勿論。貴方に勝つには、コレしかないの」

 

「そうじゃない!君は……君は時代を捻じ曲げたんだぞ!」

 

「……ふぅん。魔王の意識を抑えて、ソウゴさんが出てくるレベルなんだ」

 

 怒りと、哀しみと、やるせなさからオーマジオウの抑圧を振り切って()()()常磐ソウゴが表出しかかっているのだ。

 2人の意識が中途半端に混ざり合い、制御を喪ったまま怒りに任せて暴走しようとしている。

 此れを正面から受け止めれば如何な友奈と言えど、一瞬の抵抗すら許されずに木っ端微塵となるだろう。

 ────本来ならば。

 

 フッ、とコマ落としのように友奈の視界から魔王が消失する。

 そして「鷹」が()()()()()

 

 

「──後ろ」

 

「読まれた、だと?」

 

 異形の後方から奇襲をかけたオーマジオウの拳は、しかし時計回りに回転した異形の裏拳によって()()()()()

 そう、逸れたのである。魔王の、オーマジオウの魔拳が。触れただけで、いや、触れずともあらゆる敵を塵芥に帰す魔王の拳は異形の頬を掠めるに留まったのだ。

 代償として異形の手甲は弾け飛び、肉が捲れ上がって骨も露出したが、それは得られた成果からすれば掠り傷以下のモノでしかない。

 

「獲ったよ」

 

「む……!?」

 

 そしてこの機を逃す友奈ではなかった。

 右肩の上を通り抜けた拳にぬるりと絡み付き、抱え込むようにして固定する。

 同時に異形の左腕から射出された「蛇」がオーマジオウと異形自身を縛り上げ、樹海に両者を固定する。

 ならば、とオーマジオウは念動力で異形を引き剥がそうとするも──

 

「ぐ、む……!?」

 

「動けないよね」

 

 ガクン、と魔王の膝が崩れる。

 その背中に突き刺さる、針。

 異形の脚部から展開された「蠍」の毒針が、鋼鉄の1200倍もの強度を誇るザバルダストグラフェニウムを貫通し、変身者に毒液を注入しているのだ。

 

 例えどれ程強大な攻撃能力を得ても、どれ程強力な装甲を纏っていても、中にいるのは人間だ。

 関節の制限を越えた動きは出来ないし、直ぐに回復されるとしても毒は有効打足り得る。

 圧倒的能力で人間を蹴散らす者と、強靭な肉体で以て人間を制する対人エキスパートの差が如実に表れていた。

 加えて表出した「常磐ソウゴ」による無意識の加減。

 それら全てが友奈に味方し、オーマジオウに一撃を加える事に成功したのだ。

 

「嬉しいなぁ」

 

「……ッ!?」

 

 異形の声が、蕩ける。

 友奈は魔王に絡み付き、毒を注ぎ込み、絞り殺さんとするこの現状に歪んだ悦楽を感じていた。

 赤嶺友奈は、歪だった。

 

「可笑しいよね?不思議だよね?何故だって、絶対そう思ってるよね?」

 

(馬鹿な──)

 

 クスクス、と鈴を転がすような笑い声が魔王の鼓膜を刺激する。

 無数オーマジオウと、常磐ソウゴが混ざり合った「誰か」は凍り付いた。

 恐るべき予感が、彼の全身を貫く。

 

「何故初動を読まれたのか。何故ヘビアーム程度で拘束されたのか。何故サソリレッグ程度の攻撃が通用するのか」

 

「……まさか」

 

「その答えは唯1つ……!」

 

「まさか──!」

 

 

 そして、赤嶺友奈は──

 

 

 

 

 

「貴方自身がそれを望んだからだ──!」

 

 

 

 ずぶり、と言葉のナイフを突き刺した。

 

 

 

■■■

 

 

 

 嘘だ。

 嘘だ、嘘だ。

 有り得ない。そんな事があって良い筈が無い。

 赤嶺友奈は、私達を騙そうとしている。私のヒーローが、ソウゴさんが死にたがっているなんて、そんなの嘘だ。

 

「だってそうでしょ?本気なら、万全なら幾らでも避けられた」

 

「何を、言って……!?」

 

 その声は、既にソウゴさんそのものだった。墓守としての深みも王者としての荘厳さも持たない、「普通の青年」常磐ソウゴの動揺だった。

 ただの言葉が、他の何よりソウゴさんにダメージを与えていた。

 

()()()()()()()()()()()()()はショッカーオーズ程度の攻撃で膝を着く筈が無い」

 

「それって、無意識にでも負けたがってるって事じゃない?」

 

「違う!俺は──!」

 

「千景さんが死んでもそう言える?」

 

 何を、言っているの?

 私が死ぬ?まだ生きている。戦っている。それなのに、赤嶺は何を言っているの?

 

「じゃあ言ってあげるよ、ソウゴさん!」

 

 

 

 

 

 私の心に、ずぶりと言葉のナイフが突き刺さる。

 

「神世紀72年の夏、貴方は1日だけ遅かった!」

 

「天の神の力でこの世界を追い出された貴方が戻ってきたのは、郡千景が天寿を全うした翌日だった!」

 

「郡千景は『仮面ライダー』の痕跡を必死に探して、保全して、いつ貴方が帰って来ても良いように待ち続けた!」

 

「四国に散ったライドウォッチの回収を指揮したのも、勇者御記から『仮面ライダー』に関する記述が隠蔽されるのを阻止したのも、全部郡千景の努力の賜だった!」

 

 

 

「──でも、貴方は間に合わなかった」

 

 突き刺さったナイフが、捻られる。

 心を抉り、ぐちゃぐちゃに掻き回す。

 私も、他の勇者も、バールクスでさえ沈黙していた。

 赤嶺友奈の独白を聞くしかなかった。

 

「郡千景の最期の望みを、私は知ってる」

 

 赤嶺友奈は泣いていた。郡千景の絶望に泣いていた。

 叶えば良かったのに。

 奇跡が起これば良かったのに。

 どうにもならない無念に心の底から共感して、涙を流していた。

 

「常磐ソウゴに会いたいと、ただ其れだけを望んでいたのに貴方は24時間も遅れちゃったの」

 

「悔やむよね。哀しいよね」

 

()()()()()()()って、そう思うよね!?」

 

 赤嶺友奈は泣いていた。常磐ソウゴの絶望に泣いていた。大切な仲間が死んでいく。誰も彼もが死んでいくのに、自分だけが取り残されるその絶望に、心の底から共感していた。

 涙の流れは、戦士の流す血涙へと変化した。

 神世紀72年、赤嶺友奈は「勇者」ではなく「ライダー」の資質を手にしたのだ。

 

 純粋な願いが、何より尊ぶべき優しい人の望みが叶わない。

 その現実を打ち崩す。伸ばした手が届かない、そんな理不尽を否定する。優しい人が苦しまない世界を、少女(友奈)は望んだ。

 その願いが、ショッカーオーズと言う形で結実した。

 昭和(バールクス)と、平成(オーマジオウ)と、神世紀(ゲイツリバイブ)

 3つの時代を越え、己の望む優しい世界へと少女は手を伸ばしたのだ。

 

「だから私がソウゴさんを倒す」

 

「オーマジオウの力を奪い取って、貴方を『常磐ソウゴ』に戻す」

 

「魔王としての苦難を貴方が背負う必要なんて無い」

 

 

 

「私が平成を背負ってみせる」

 

 

 

 

 

 

 

 

「────それが、私に出来る恩返しだから」

 

 

 

■■■

 

 

「あは、あははははははは──!」

 

 誰もが、動けなかった。

 壊れたように笑い続ける赤嶺友奈を止められない。

 勇者の誰1人とて、赤嶺友奈の願いを真っ向から否定出来なかった。

 自分本位な、身勝手な願いだったらどれ程良かったか!

 切なる願いだからこそ、理解出来るからこそ斬りかかる事は躊躇われた。

 そう、この場で動けるのは────

 

「■■■──!」

 

「ぐっ……!?芽吹、アンタこんな時に……!」

 

 言葉を発せぬ少女の絶望、1つ。

 心を獣に変えられた者、即ちアナザーライダー(怪人)だけであった。


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