Devil May Cry鎮守府   作:しゅんしゅん@よし

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461話です!どうぞ!


Mission461 家庭教師~つまらない人生の暇潰し~

ハチャメチャな授業をするネロに、ある噂が立っていた。教員採用試験で替え玉受験し、教員免許を取得したと。実際には青葉が造った偽造教員免許であるため、もっと質が悪い。

そんな噂が、明陽(めいよう)学苑の生徒の保護者達の耳に入り、学校に乗り込んできた。

眼鏡の教師の策略により、1週間後に行われる全国総合模試をネロも受ける事になり、これで1位を獲らなければ、ネロが解雇される事が決まってしまう。

そんな中、2年4組のリーダー格の1人であり、IQ200の天才少女 潤羽(うるは)は、ネロが気になるようで・・・。

 

 

*明陽学苑高校 2年4組 9月5日 17:56*

 

保護者達が帰った後、羽黒は今のネロの実力を確かめるために、去年の全国総合模試の問題を用意してネロに解かせる事にした。

羽黒の他に、ネロに心を開いてる生徒の(のぼる)杏子(あんず)美香(みか)輝男(てるお)(たくみ)冬美(ふゆみ)が見守る中、ネロは問題を解いていくのだが・・・。

 

ネロ「・・・・・・よ~し、できたー」

 

羽黒「去年の問題をやれば、大体の実力は分かりますからねー」

 

なるほどと生徒達が頷く中、羽黒はネロが解いた答案用紙を採点していく。

 

ネロ「点数は?」

 

点数が楽しみなネロは笑顔で訊くが、顔を上げた羽黒はドン引きして引き攣った顔を向けた。

 

羽黒「・・・100点」

 

ネロ「ほら見ろー!俺に掛かれば満点なんて朝飯前なんだよ!」

 

羽黒「5教科 合わせてです!」

 

ネロ「何っ!?な、何がマズかった?す、数学?」

 

羽黒「赤点なんてレベルの話じゃないし、英語以外に至っては全部0点です!」

 

終わった・・・。

 

ネロ「会心の出来だったのに・・・」

 

終わってる・・・。

見守ってた生徒達が こりゃダメだと溜め息を吐くと、ネロは乾いた笑い声を上げ、生徒達も もう笑う事しかできず、どういう訳かネロと生徒達は笑いながらハイタッチしていく。

 

羽黒「もー、笑い事じゃありません~!」

 

このままじゃ解雇になり潜入任務も続けられなくなるため、羽黒は頭を抱えながら怒鳴るが、教室にはネロと生徒達の意味不明な笑い声が響くのだった。

その様子を、教室の外から勝ち誇った笑みで見ていた(かえで)が立ち去ろうとするが、すぐに立ち止まり笑みが消えた。目の前に対立中の潤羽が現れたのだ。

 

潤羽「楽しそうだね、楓ちゃん。これで先生を学苑から追い出せるもんね」

 

楓は潤羽を無視して通り過ぎるが、潤羽の次の言葉で再び足を止める事になった。

 

潤羽「ねぇ、担任外しなんて そんなに楽しい?」

 

楓「・・・・・・・・・」

 

潤羽「私さぁ、生きてても楽しい事なんて1つもないんだよね。羨ましいなぁ、楓ちゃんが」

 

楓「・・・楽しいか どうかじゃないよ。あんた達 忘れた訳じゃないでしょ、あのこと。このクラスには、もう1人 仲間が居たんだよ」

 

それを言われた潤羽は、薄ら笑いを浮かべ、楓に振り返った。

 

潤羽「私も死んじゃおっかな・・・私さぁ、死ぬ事に恐怖とか感じた事ないんだよね。ふっ・・・て言うか、怖いものなんて なーんにもないの」

 

それを聞いた楓も潤羽に振り返り、何かを言いかけたが、結局は言い淀み何も言えなかった。

そこに、明子(あきこ)が廊下の角から現れた。

 

明子「ねぇ、一緒に帰らない?昔みたいに。3人 仲良く━━」

 

話を聞いていた明子は、楓と潤羽が対立してるのを どうにかしたいと思っての行動だったのだが、楓と潤羽は それぞれ反対方向へと歩き出し、立ち去っていった。

 

 

・・・・・・

 

*食堂 9月6日 13:05*

 

理事長「全国1位を獲らなきゃ解雇!?」

 

翌日の昼休み、食堂の おばちゃんに扮する理事長は、羽黒から昨日の話を聞かされていた。昨日は不在であり、今日は羽黒から聞かされるまで誰からも そんな話は聞いておらず、自分の知らない間に そんな話になってるとは思わず、理事長も驚いてる様子だった。

羽黒が理事長の元へ来たのは、理事長の力で止めてもらうためだった。

 

羽黒「理事長、何とかなりませんか?」

 

理事長「いや、難しい話」

 

羽黒「そんなこと言わずに~!」

 

駄々っ子みたいに身体を揺すりながら懇願する羽黒だが、理事長は話を逸らそうとした。

 

理事長「コーヒー牛乳 飲む?」

 

羽黒「結構です」

 

こんな時だけキッパリ断る事ができる羽黒。

なのだが、羽黒の不満が今度は この場に居ないネロへと向いた。

 

羽黒「それにしてもネロ先生って何 考えてるんでしょうか?何にも考えてないんですよ」

 

羽黒が そう愚痴を溢すと、理事長はニヤニヤしながら羽黒を見詰めた。

その視線の意味が分からず、羽黒は固まる。

 

羽黒「・・・・・・え?」

 

理事長「羽黒先生?前からネロ先生の話になると、妙に熱くなるわね」

 

羽黒「はい!?私は ただ、この学苑にはネロ先生みたいな人が必要かなって思った次第で」

 

理事長「ふ~ん」

 

潜入のためにもネロは必要であるため、解雇されたら困るので そりゃ羽黒だって熱くもなる。悪魔の力は失ってしまってるが・・・。

それが本音なのだが、理事長は何を思ったのか羽黒を見ながらクスクスと笑っている。

 

羽黒「何と言っても やっぱり・・・生徒の心を、掴んでるっていうか」

 

理事長「ふ~ん」

 

羽黒「ほ、ほら、同じ教師だし、尊敬しちゃう部分もあるっていうか、羨ましいというか、うん」

 

この学苑に潜む魔の気配を探るために潜入中である事は言えないので、羽黒なりに頑張って取り繕って誤魔化すのだが・・・

 

理事長「惚れたな?」

 

盛大に勘違いされてしまった。

 

羽黒「ち、違いますよ!どうして そんな事になっちゃうんですか?!」

 

 

・・・・・・

 

*喫茶店 18:47*

 

その日の夕方、ネロは自分に心を開いてくれてる生徒達を連れて、金剛が働く喫茶店に来ていた。

生徒達は数々の料理を食べており、全部ネロの奢りだった。

 

ネロ「よーし、腹一杯 食えよー」

 

喫茶店には青葉も来ており、カウンターで金剛と話しながら、ネロが生徒達に奢ってるのを見ながら不思議そうにしていた。

 

青葉「ネロさん、何やってるんですかね?」

 

金剛「まぁ、大体 察しは付きマスけどネー」

 

ネロ「食ったか?食ったな?よし、俺の お陰で腹一杯になった恩が お前らにはある」

 

輝男「・・・何だよ?」

 

美香「“勉強 教えてくれ”って言うんでしょ、どうせ」

 

ネロ「バカ言え、俺を甘く見るな。俺の大切なダチに そんなこと頼めるか」

 

巧「じゃあ何だよ?」

 

ネロ「最新のカンニング方法 教えろ」

 

『・・・え・・・?/・・・は・・・?』

 

そっちの頼み事の方が どうかしてる・・・。素直に勉強 教えてくれと頼む方が、どう考えてもマトモである。

 

ネロ「輝男なんか いつもカンニングしてるだろ」

 

輝男「してねぇよ・・・」

 

すると、話を聞いていた青葉がネロ達に近付いてきた。

 

青葉「ネロさん、そんな回りくどい事しなくても、問題用紙 盗んで先に答え確認しちゃえばいいんですよ」

 

ネロ「おぉ、さすが青葉だなぁ、いいこと言うなぁ」

 

青葉「でしょ!」

 

青葉もダメな奴だった・・・。

 

青葉「上手くいったら、奢ってもらいますよ?」

 

ネロ「よし、頑張るぞ。お前ら、付いてこい!」

 

そして青葉が どうやって盗むか段取りを熱く語り始めるのだが・・・

 

金剛「ネロ!青葉!」

 

「「ん?/はい?」」

 

呼ばれて振り返ると、いつの間にか背後に立っていた金剛に、両手に持つ水鉄砲で顔面に水を浴びせられた。

 

輝男「よし、解散!」

 

巧「ごちそうさん!」

 

杏子「美味しかったでーす」

 

馬鹿な事に協力できないので、ネロと青葉が水を掛けられワタワタしてる隙に、生徒達は鞄を手に席から立つと、出口に向かっていく。

だが店を出る前に、店に入ってきた者を見て足を止めた。

 

ネロ「おう、潤羽」

 

潤羽「私が家庭教師やったげる」

 

ネロ「家庭教師?俺の?」

 

潤羽「うん♪」

 

ネロ「うおー、マジか!お前が味方に付いてくれりゃ、悪魔にレッドクイーンだ!これで全国模試も楽勝だ、よっしゃあ・・・!」

 

成績優秀で常に満点の潤羽に教えてもらえるなら どうにでもなると、ネロのテンションが一気に上がるのだが、美香は懐疑的な顔をしていた。

 

美香「いやいや、今からじゃ無理じゃない?」

 

潤羽「過去の出題傾向から分析して山を張るのは得意。ビッド・レートに強い私なら問題ない」

 

(あきら)「山 張って そこだけ覚えるってこと?」

 

潤羽「そう。手っ取り早い勉強法」

 

自信満々の潤羽の話に、それなら何とかなりそうだと、ネロは嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

ネロ「やっぱ持つべきものは頼りになるダチだなー!」

 

ただ、昂達 他の生徒は、潤羽からの申し出に首を傾げていた。これまで何か起きても、傍観者の立ち位置を崩さなかった潤羽が いきなり手伝うと言い出した事が、不思議でならなかった。結局は ただの気紛れだろうという事で勝手に納得し、特に異を唱える事もなかった。

そして翌日から、潤羽を家庭教師としたネロの猛勉強が始まるのだった。

 

 

・・・・・・

 

*明陽学苑高校 2年4組 9月7日 16:07*

 

翌日の放課後、ネロと潤羽が2人で教室に居るのだが、教壇にはリコーダーやカスタネット、トライアングル、タンバリン、マラカスが置かれていた。

黒板にもチョークで描かれた同じ楽器の絵があり、その横には それぞれ数式が書かれていた。

そんな中、ネロはマラカスの1本を手に持ったまま、困った顔をしていた。

 

ネロ「潤羽よぉ、何が何だか さっぱり分かんねぇんだけどよぉ・・・」

 

潤羽「解ろうとしなくてもいいの。先ず その数式を、音のイメージで覚えて」

 

そう言って、楽しそうな笑みを浮かべる潤羽は、手に持つタンバリンを鳴らした。

そして よく分からずテンションが上がらないネロは、返事をしつつマラカスを鳴らし、兎に角その音を聴きながら黒板に書かれた数式を見る。

教室の外では羽黒が、頑張れとネロを見守っていると、眼鏡の男性教師が現れた。

 

教師「驚きですね。“悪魔の申し子”と呼ばれた彼女が、ネロに勉強を教えるなんて」

 

羽黒「潤羽さん、古今東西の記憶術を混合し、進化させてる。凄い・・・!」

 

教師「え・・・?」

 

ずっと様子を見守っていた羽黒は、潤羽の勉強法を見て感心というか、感動していた。

その羽黒の言葉に、眼鏡の教師は そんな事が有り得るのかと信じられず、教室の中の様子に目を向ける。

そこに、以前 楓に脅され利用された男性教師も通り掛かるのだが、ネロが楽器で遊んでるのかと呆れた。

その後 羽黒達は、しばらく3人でネロを見守るのだった。

そして少し離れた場所でも、2年4組のリーダー格の1人である善之(よしゆき)も様子を見ていたのだが、彼は潤羽がネロの手助けをしてる事に困惑した様子だった。

 

 

・・・・・・

 

*街 17:36*

 

今日の家庭教師を終わらせた潤羽は、家に帰るため街を歩いていた。

だが通りすがりに、仲睦まじい親子を見て足を止めた。

すると背後から、立ち止まっていた潤羽を追い越すように善之が現れ、潤羽の前で立ち止まった。

 

善之「どういうつもりなんだ?ネロ(あいつ)に力 貸すなんて」

 

潤羽「・・・あれ?善之君も出るんだっけ?全国模試」

 

善之「当然だ。あいつを追い出すには俺が全国模試に出る必要があるからな」

 

潤羽「ふ~ん。中立じゃなかったっけ?善之君は」

 

善之「・・・俺は理事長の駒を追い出したいだけだ」

 

潤羽「じゃあ勝負しようよ。私ネロ先生を全国トップにする」

 

善之「なぜ・・・!?」

 

善之には、どうして潤羽が そこまでネロに肩入れするのか理解できず、ただただ困惑でしかなかった。

反対に、潤羽は何を考えてるのか掴み所のない薄ら笑いを浮かべていた。

 

潤羽「言ったでしょ、ただの暇潰しよ。ゾッとするくらい退屈な人生の」

 

そう言って、潤羽は帰宅するため歩き出した。

 

 

・・・・・・

 

*マンション 18:39*

 

潤羽「ただいま」

 

自宅であるマンションに帰宅した潤羽が中に入ると、オフィスとなってる部屋で母親が電気も点けず、パソコンに向かって仕事をしていた。

 

潤羽「ご飯まだでしょ?作ろっか?」

 

母親「・・・そんなの家政婦の仕事」

 

潤羽「何もかも、食事も掃除も買い物も洗濯も・・・子供の頃から・・・」

 

母親「何が言いたいの?そうしなきゃ、あんたを育てられなかったのよ」

 

潤羽「じゃあ作らなきゃ良かったじゃない。子供なんて」ボソッ・・・

 

母親「え?何か言った?」

 

ボソッと呟いた潤羽は、鞄を手に自室へと歩き去った。

潤羽は これまで何度も、普通の家族、普通の親子のように母親に歩み寄ろうとしてきたが、母親には そんな気はなかった。

潤羽は自分の置かれた環境と出生が、心底 嫌いだった。しかし母親は、お金を増やす事ばかりが頭を占め、娘の心情に気付く事はなかった。

自室に入った潤羽は勉強机の方に向かい、椅子に座ると、そこにあるパソコンの画面を見詰めた。そこには、企業機密情報が不正に流出し、何者かが仕込んだウイルスプログラムが原因とされていた。

 

 

・・・・・・

 

潤羽「・・・・・・・・・」

 

深夜、潤羽は母親のデスクに座り、そこにあるパソコンで何かしていた。

彼女は いったい何を・・・?

 

 

・・・・・・

 

 

*明陽学苑高校 2年4組 9月8日 15:55*

 

翌日の放課後、ネロは参考書などを開きながら問題を解き、潤羽は それに関連するものを黒板に書き綴っていた。

 

ネロ「なぁ、潤羽」

 

潤羽「んー?」

 

ネロ「何で お前、俺に勉強 教えてくれてるんだ?」

 

ネロから見れば、潤羽が わざわざネロの世話を焼く理由などないため、家庭教師をしてくれる今の状況は不思議でもあった。

しかしネロが口にしたのは純粋に素朴な疑問だったのだが、チョークを持つ潤羽の手が一瞬 止まった。

 

ネロ「いや まぁ、お陰で ちったぁ解るようにはなったけどよ」

 

潤羽「いいの。どうせ ただの暇潰しだから」

 

ネロ「・・・ん?」

 

潤羽の言った言葉の真意が分からず、不思議に思ったネロは顔を上げて潤羽を見る。

 

潤羽「ねぇ、ちょっと付き合ってくれる?」

 

ネロ「・・・・・・おう・・・」

 

よく分からず不思議に思っていたが、ネロは潤羽の頼みを聞き、勉強を中断して2人で学苑の外に出るのだった。

 

 

・・・・・・

 

*街 16:21*

 

そして向かった先は、街にある観覧車だった。

潤羽の頼みでネロは一緒に観覧車に乗り、ゴンドラの中で潤羽は、年頃の少女のように はしゃいでいた。

 

潤羽「うわぁ、凄い!観覧車って こんな高い所まで来るんだ・・・」

 

ネロ「観覧車 初めてか?」

 

ネロが訊くと、はしゃいで色んな方角を見渡していた潤羽の動きがピタッと止まった。

 

潤羽「・・・・・・変?」

 

ネロ「いや、変じゃないけど・・・」

 

潤羽「普通じゃないの、私って」

 

ネロ「・・・・・・・・・」

 

潤羽「楽しい事なんて なーんにもないまま、ずっと こうやって独りで生きてきた。これからも つまらないまま生きていかなきゃいけないのかな・・・?」

 

ネロ「・・・・・・・・・」

 

ネロからすれば、潤羽の言ってる事や考え方の方が余程つまらないものであり、その表情が冷たいものに変わる。

だが同時に、これが潤羽の抱える問題であると気付いていた。これまでの生徒達のように、心に抱えた問題、心の闇・・・彼女自身の、ハッキリと言葉にできないSOSなのだと。

 

潤羽「私みたいな人間が何で生まれてきちゃったんだろ・・・?誰かに必要とされたくても、誰にも必要とされてないんだよね。この世の中からフッと消えて、最初から居ない事にできちゃえば・・・」

 

そして潤羽は、窓から見える遥か下の地上を見下ろした。

 

潤羽「ここから落ちたら死ねるよね?」

 

その言葉にネロも、窓から遥か地上を見下ろす。

 

ネロ「先ず即死 間違いねぇだろうなぁ」

 

潤羽「死んじゃおっかなぁ・・・」

 

ネロ「死んだら なーんも無くなるぞ?楽しい事も、悲しい事も、何にも無くなっちまうんだ。何で生まれてきたかなんて、俺にも分かんねぇけど、お前が生まれてこなきゃ、俺 勉強 教えてもらえなかったぜ?」

 

ネロの言葉を聞く潤羽は俯いており、素直に その言葉を聞き入れる様子ではなかった。

 

ネロ「普通じゃねぇか何か知らねぇけどよ、俺は気に入ったよ。こうやって話して、楽しく観覧車にも乗れたんだ」

 

だが続いたネロの言葉に、信じられないという表情で潤羽が顔を上げ、ネロを見る。

 

潤羽「・・・・・・楽しいの?私と居て」

 

ネロ「ダチと一緒に居りゃ、楽しいだろ」

 

ネロは何を馬鹿な事を言ってるんだと、笑いながら当然のように言い切った。

それでも、潤羽は まだ信じられなかった。

 

潤羽「私達って、ダチ?」

 

ネロ「おう、マブダチだ」

 

艦娘から教えてもらった“マブダチ”という言葉を、ここぞとばかりに使うネロだが、ネロの考えや価値観、想いは潤羽に届くだろうか?

 

ネロ「それに、今は俺の勉強の先生でもある。ほったらかしにして どうする気だ?」

 

潤羽「私、必要とされてるの?」

 

まだ信じられない潤羽は不安を隠しきれず、胸中に溢れる不安から泣きそうな顔でネロに問う。

反対に、ネロは自信満々の笑みを見せた。

 

ネロ「あったりめぇだろ」

 

潤羽「信じていいの?」

 

ネロ「あぁ。俺も お前を信じて任せるぜ」

 

潤羽は、初めて“嬉しい”という感情に芽生えた。

IQ200という頭脳を持つが故に、周りに居る他の者達とは違うために、これまで疎外感を感じて生きてきた。

本来 唯一 心を許せるはずの家族、母親ですら、潤羽の頭脳を目当てにしてばかりで、まるで都合のいい機械のような扱いだった。

そんな生き方しかできなかった潤羽からすれば、自身の人生を言葉に表すなら“虚無”だった。IQが高いがために異端児に見られ、必要とされるのは自身ではなく頭脳だけ。そんな人生に、生きる意味を見出だす事などできなかった。

だがネロは違った。ネロは潤羽の頭脳を必要としてるのではなく、友達として、彼女自身を必要とした。だからこそ、初めて自分自身を必要としてくれるネロに、潤羽は嬉しくなった。

そしてネロは、潤羽を元気付ける意味でもガシガシと彼女の頭を撫でた。

 

ネロ「普通じゃねぇなんて最高じゃん。俺は好きだぜ、そういう奴の方が」

 

潤羽「・・・・・・何か・・・何か違うね。今までの教師と、ううん・・・今までの誰とも」

 

ネロ「潤羽・・・俺は全国1位を獲る。日本一になるぜ」

 

潤羽「・・・・・・・・・」

 

突然のネロの宣言に、不意を突かれた潤羽は驚き、すぐに言葉を返す事ができなかった。

 

ネロ「お前、俺に本気で勉強 教えてくれたんだろ?だったら俺も本気にならねぇとなぁ」

 

全国総合模試で1位を獲らなければ、明陽学苑を解雇され潜入任務が続けられなくなるが、そんなのは関係ない。潤羽が本気で教えてくれるなら、ネロも本気で それに応える。ネロが頑張る理由は、それだけで充分だった。

そして潤羽は、ただ ひたすらに、自分を信じてくれるネロの言葉に嬉しくなり、また泣きそうになり俯く。

 

ネロ「どうした?・・・あっ!チッ、信じてねぇなー?」

 

ネロが そう言うと、首を横に振り、顔を上げた。

 

潤羽「信じてるよ。頑張って・・・私、絶対 先生を日本一にするから」

 

真っ直ぐと潤羽を見詰めるネロは、小指を差し出した。そこに潤羽も小指を絡め、2人の力で全国総合模試で必ず1位を獲る約束をするのだった。

 

 

・・・・・・

 

*新居 9月10日 10:13*

 

全国総合模試まで あと2日となった夜、潤羽と全国1位を約束したネロは あれから、彼女との約束を守るため、自主的にも猛勉強に励んでいた。

頑張ってるネロのためにキリエが夜食を用意してると、段ボール箱を抱えた青葉が訪ねてきた。

 

青葉「ネロさん、いい品物 手に入りましたよ!最新映画から昔の名作まで、何でもありますよ!1日300円で どうです?」

 

ネロ「あ゛ーうるせぇな、静かにしろよ」

 

青葉は まさかの、映画のDVDのレンタルで小遣い稼ぎをしようと押し売りに来たのだが、ネロは真剣に勉強に取り組んでるため、それ処ではなかった。

 

青葉「え?」

 

ネロ「頭に入んねぇだろ」

 

青葉「まだ諦めてなかったんですか?試験 明後日でしょ?無理ムリ!」

 

ネロが実力で全国1位を獲るなど、端から無理だと思ってる青葉が茶々を入れ続けてると、彼女と一緒に来ていた衣笠が青葉の耳を摘まみ、引っ張りながら部屋の外へ連れ出す。

そこには、夜食の用意が終わったキリエも居た。

 

青葉「イテテテテテ・・・あ、キリエさんも どうです?」

 

青葉はキリエを見るなり映画のDVDを勧めるのだが、衣笠に頭をシバかれた。

 

キリエ「邪魔しちゃダメだよ」

 

衣笠「潜入してる学校クビにならないよう、生徒の子がネロのために勉強 教えてくれてるんだって。ネロなりに藻掻いてるのよ」

 

青葉「でも無理だと思うけど・・・」

 

キリエ「自分のためだけに頑張ってるんじゃないよ。1位になるって約束したんだって」

 

衣笠「そういう時のネロ、無理とか考えて行動しないでしょ」

 

青葉は確かにと、納得した表情をした。

ネロは いつも、迷いながらも真っ直ぐに突き進んできた。自分のためではなく、誰かのために行動する時、無理だった時の事など考えず、信念を貫いてきた。約束したからこそ、ネロも頑張ってるのだ。

 

青葉「そうだね・・・」

 

キリエが夜食をネロの傍に置き、青葉と衣笠と共に、邪魔にならないよう部屋から離れるのだった。

 

 

・・・・・・

 

*明陽学苑高校 2年4組 9月11日 15:56*

 

全国総合模試の前日となり、ネロと潤羽は放課後の教室に残り、勉強を続けていた。

 

ネロ「どうだ?」

 

潤羽「よくできました」

 

潤羽が黒板に書いた問題も、ネロは問題なく解けるようになっていた。

それでも2人は、全国総合模試に向けて復習を続ける。

そんな様子を、教室の外から楓が見ていた。

そこに、理事長も様子を見に教室の前まで来た。

 

理事長「楽しそうね」

 

楓「楽しくなんかないです・・・皆あんな男に掻き乱されて」

 

理事長は そんなこと言うものではないと、咎めるために楓の名を口にするのだが、楓は“失礼します”と一言だけ言い、立ち去っていった。

 

 

・・・・・・

 

*校門 17:15*

 

潤羽と勉強する最後の時間も終わり、彼女が下校するのを見送るため、ネロは校門まで来ていた。

 

潤羽「明日の試験、遅刻しないようにね」

 

ネロ「分かってるよ」

 

潤羽「うん。じゃあね」

 

潤羽は下校するため踵を返し、歩いていくのだが、そんな彼女をネロは呼び止めた。

 

ネロ「ありがとな」

 

その言葉に、潤羽は急に どうしたのかと不思議そうな表情をする。

 

ネロ「ここまでやってこれたのは、お前の お陰だ」

 

ネロの言葉に、潤羽は観覧車に乗った時と同じく また嬉しくなり、笑顔を見せる。

 

潤羽「お礼 言うの、日本一になってから」

 

ネロ「フッ・・・あぁ」

 

潤羽は笑顔で頷き、下校するために歩き出す。

彼女は本当に嬉しかったのだろう。ネロからは見えなかったが、彼女は ずっと笑顔で歩いていた。

そして校舎に戻るために歩き出したネロも、やる気に満ちた笑みを浮かべていた。




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