Devil May Cry鎮守府   作:しゅんしゅん@よし

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462話です!どうぞ!


Mission462 たすけて~約束を守るために~

全国総合模試を受け、そこで1位を獲らなければ、ネロが明陽(めいよう)学苑を解雇になる事が決まってしまう。

羽黒は去年の問題をネロに解かせ、現在の実力を確かめた上で試験対策をしようとしたが、採点すると5教科 合わせて100点、英語以外が0点というミラクルを起こし、羽黒は頭を抱え、生徒達は早くも諦めムードだった。

そこに、明陽学苑2年4組のリーダー格の1人、IQ200の天才少女 潤羽(うるは)が、ネロの家庭教師を申し出た。

古今東西の記憶術を混合し、独自に進化させた勉強法で教わる中、ネロは潤羽が抱える心の闇を垣間 見る。

そしてネロは、1位を獲り日本一になると潤羽と約束し、自主的に猛勉強に励むのだった。

 

 

*マンション 9月11日 18:08*

 

自宅へと戻った潤羽は、そのまま自室へ向かおうとしたのだが・・・

 

母親「遅い!」

 

仕事場でもある部屋のデスクに座る母親の一声に、足を止めた。

 

母親「手を貸して、大変な事になってるのよ!どっかから情報が漏れたとしか思えない!このままじゃマズい事になる・・・!」

 

母親は外国為替において、潤羽に最大限 利益が出るアルゴリズムを構築させ、それを使って一儲けしようと計画していた。しかし数多のライバル達が既に同じ動きをしており、株価が予想とは違う変動をした事で、利益が出せなくなっていた。

 

潤羽「・・・・・・ねぇ」

 

母親「あんたの頭脳、余計な事に使ってるんじゃないでしょうね?!何のために あんたを造ったと思ってるの?!」

 

潤羽は母親と向き合うために話をしようと声を掛けたが、とても我が子に掛ける言葉とは思えぬ母親の言葉に、潤羽の中で、ネロが1度は払った心の闇が大きく膨れ上がった。

 

 

*???*

 

?『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ・・・!

 

それに呼応するように、明陽学苑の地下にある誰にも見付かってない遺跡の深奥で、魔の気配が また一段と強くなっていた。

 

 

*明陽学苑高校 教員室*

 

羽黒「な、何!?地震!?」

 

大きな振動と共に校舎が揺れ、羽黒や教師達は地震かと思い、デスクの上の物が落ちないよう押さえながら、様子を見る。

少しすると、揺れが止まった。

だが これは、地震ではない。周りでは揺れは起きておらず、明陽学苑の敷地内だけで揺れていたのだ。

 

ネロ「(今の地震は偶然か・・・?)」

 

今の揺れが魔の気配と関係あるのか考えながら、ネロは自身の手を見る。

魔の気配を探るために潜入してるが、ネロは悪魔の力を失ってから、その気配を感じる事すらできなくなっていた。

 

 

*マンション*

 

母親「何してるの、早く手を貸しなさい!」

 

母親が怒鳴りながら潤羽の方に顔を向けるが、そこに居たはずの娘は姿を消していた。

 

 

・・・・・・

 

*街 19:47*

 

家を飛び出した潤羽は、遠くに見えるネロと一緒に乗った観覧車を見詰めていた。

そこに、(かえで)が現れた。

 

楓「ネロとの観覧車デート、思い出してたの?でも あなたには似合わないよ。そんな普通の子みたいな、感情表現や行動なんて」

 

潤羽「・・・何よ?」

 

楓「あなた、自分が どんな人間か、解ってるでしょ?」

 

潤羽「・・・・・・・・・」

 

楓「必要とされてるのは頭脳だけ。母親も、ネロも そう。利用されてるだけ」

 

潤羽は反論する事もなく、楓から顔を逸らした。

楓が言った事は、元々 潤羽自身が感じていたものであり、楓は それを肯定しただけに過ぎない。だからこそ、潤羽に反論できる言葉がなかった。

 

楓「試験さえ済んじゃえば、ネロも あんたなんか相手にしないよ」

 

潤羽「・・・・・・・・・」

 

楓「あなたは確かに天才よ。でも・・・特別なね」

 

そうやって潤羽の心を掻き乱した楓は、潤羽の前から立ち去っていった。

 

 

・・・・・・

 

*マンション 21:25*

 

行く当てもないため、潤羽は自宅であるマンションに戻ったのだが、部屋の光景を見て戸惑った。母親のオフィスでもある部屋が、滅茶苦茶に荒らされていた。

 

?「お母さん達、逃げてしまいましたよ」

 

男の声がし振り返ると、そこには黒いスーツに眼鏡をした男と、ガラの悪そうな男2人が居た。

 

潤羽「・・・誰?」

 

?「お母さん達に うちの金を盗まれましてねぇ。しかし酷い親だ。娘を放ったらかしにして逃げるなんて。まぁ、そんな事はいい。損失、補填してもらわなきゃ困るんですよね」

 

そしてガラの悪そうな男2人が潤羽の左右に立ち、彼女が逃げれないように囲むのだった。

 

 

・・・・・・

 

*新居 9月12日 7:38*

 

翌朝、ネロは徹夜で勉強しており起きていた。

 

ネロ「よっしゃできたぁ・・・よっしゃやってやるかぁ」

 

やれる事は全てやり、気合いを入れて試験に挑むため自分の頬を叩いてると、スマホの通知音が鳴った。確認すると潤羽からのメールで、『たすけて』とあった。

 

ネロ「・・・・・・・・・」

 

急いで着替えて外に出たネロはキャバリエーレに跨がり、鎮守府に手を貸してもらうため電話を掛けた。

 

ネロ「青葉か?頼みがあるんだ。今すぐ潤羽の行方を探してくれ」

 

 

・・・・・・

 

*明陽学苑高校 2年4組 8:55*

 

明陽学苑では、試験が間もなく始まろうとしていた。

しかし、生徒と一緒に試験を受けるはずのネロの姿は、教室には無い。

 

輝男(てるお)「ネロ、来てねぇな・・・」

 

教師「さぁ、机の上の物を仕舞いなさい」

 

善之(よしゆき)は前の席の潤羽も来ていない事が気になる様子で、楓も何かを気にしてる様子だった。

眼鏡の教師が問題用紙と解答用紙を そろそろ配ろうとすると、慌てた様子の羽黒が教室に駆け込んできた。

 

教師「どうしました?」

 

羽黒「ネロ先生が まだ来てないって聞いて・・・」

 

教師「ご覧の通りですよ。所詮あの男は そんなものです」

 

1位を獲る自信がなく、逃げたのだと誰もが思う中、羽黒だけはネロが すっぽかすとは思えず信じられなかった。

 

 

*理事長室*

 

理事長「来てない?」

 

教頭「はい」

 

その頃 理事長も、教頭からネロが来ていない報告を受けていた。

 

教頭「学苑に残る事はできませんので、早速、解雇の手続きを」

 

教頭はネロを追い出せるのが嬉しい気持ちを隠せず、ニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら解雇手続きを催促し、理事長は どうなってるのかと不審に思い、頭を悩ませた。

 

 

*組事務所 12:34*

 

潤羽が男達に連れてこられたのは、ヤクザの組事務所だった。

そして黒いスーツに眼鏡をした男は、その組の若き組長だった。

組員達が見守る中、潤羽は母親の代わりに、彼らが被った損害を補填するためパソコンで、急速に資金を元通りにしていく。

すると組事務所の扉が開き、外に居た組員が何者かに突き飛ばされ、転びながら中に入ってきた。

中に居た組員達が何事かと見ると、現れたのはネロだった。

 

ネロ「お待たせ」

 

組員「何だオメェ?」

 

組員「テメェどこの組のもんだ━━うおっ!?」

 

組員が詰め寄るが、ネロは組員の頭を掴み横に投げ飛ばし、組長を睨み付ける。

 

ネロ「2年4組だ!!・・・俺の生徒 連れ去るとは、いい度胸してるじゃねぇか」

 

組長「こっちは大損させられてるんですよ」

 

ネロ「大損?」

 

組長「このガキの母親は うちの金 運用してましてねぇ、失敗して こっちまで大損させられた。だから代わりに娘に補填を頼んだ。はは、ビックリですよ。あっという間に損失を回収しやがった。このガキの母親が言ってた事が理解できましたよ。“うちには天才の娘が居るから安心だ”ってね。だから、まだ返す訳にはいかないんですよ」

 

ネロは本当なのかと、俯く潤羽を見た。

すると潤羽は、顔を上げて笑みを見せた。

 

潤羽「大丈夫、もう行って。大切な試験なんだから。先生の人生が懸かってるんでしょ?私は大丈夫だから」

 

ネロ「・・・お前なに言ってんだよ・・・?」

 

ネロはスマホを取り出し、画面を潤羽に向けた。それは、潤羽が送ってきたメッセージだった。

 

ネロ「“たすけて”って何だよ?」

 

それを見せられた潤羽は、気まずさからか顔を引き攣らせた。

 

潤羽「・・・試しただけなの。先生が来てくれたから それでいいよ。ごめんなさい・・・」

 

そして潤羽は、謝罪を口にしながら俯き、ネロから視線を逸らした。

 

ネロ「俺は お前を信じたんだぞ・・・お前も俺を信じるって言ったよな?」

 

潤羽「・・・・・・・・・」

 

ネロ「ざけんじゃねぇぞ!!!」

 

突然ネロが怒鳴り、その声に驚いた潤羽は反射的に顔を上げ、ネロを見る。

 

ネロ「ほんとは試したとか どうとかじゃなくて、潤羽、お前 助けてほしいんだろ?辛くて、寂しくて、死にたくなるような毎日から助け出してほしいんだろ?!」

 

潤羽「・・・・・・・・・」

 

ネロ「何が試しただよ!!何で俺に話して頼ってくんねぇんだよ?!寂しくしてるのは自分じゃねぇか。死にたくなる日が嫌ならなぁ、腹に力 入れて叫べばいいんだよ!!誰かが必ず、お前の声を聞いてくれるよ。お前を助けてくれるよ。お前は独りじゃねぇぞ」

 

潤羽の本当の願いを理解してるネロの叫びに、潤羽の心が揺れ動き、彼女はネロを見ながら涙を流した。

 

潤羽「・・・・・・先生・・・」

 

ネロ「・・・・・・・・・」

 

潤羽「・・・・・・たすけ・・・」

 

ネロ「・・・聞こえねぇ」

 

潤羽「・・・っ・・・助けてぇ・・・!」

 

ネロ「よっしゃあ!」

 

ネロは潤羽の腕を掴み、ソファーから彼女を立ち上がらせる。

 

ネロ「行くぞ。言っただろ、俺を日本一にするって」

 

そう言われ、潤羽は頷いた。

 

ネロ「だったら最後まで面倒 見ろよ」

 

ネロは潤羽を連れて組事務所を後にしようとしたが、出口を組員が塞いでいた。

 

組長「まだ補填が終わってないんですけど。助けてほしいのは こっちなんだよね・・・!」

 

ネロ「引っ込んでろ!!テメェらみてぇな奴らに俺の生徒を使わせる訳にはいかねぇんだよ!!」

 

ネロが言い放った直後、背後から花瓶で頭を殴られ、ネロは膝を突いてしまう。今のネロはベルゼによって悪魔の力を失い、何もかもが普通の人間と同じであるため、これだけでも かなりの痛みを伴ってるはずだ。

 

組長「悪いが まだ返せないんだよ。こっちは金が懸かってるんだ」

 

潤羽「先生!?」

 

組長がナイフを手に近付き、潤羽はネロを庇おうと自身を盾にする。

それに気付いたネロは立ち上がり、潤羽を押し退け組長に頭突きを喰らわせた。

その時、組長の手からナイフが床に落ちたが、刃には血が付いていた。

 

ネロ「こっちは日本一が懸かってんだぁー!!」

 

背後から組員の1人が掴み掛かってくるが、逆に掴み返し投げ飛ばす。

そこからネロは、向かってくる組員を1人で相手にし、次々と倒していく。普通の人間になってしまっても、デビルハンターとして悪魔と戦ってきた戦闘経験までは腐ってはいない。

すると外からパトカーのサイレンが聴こえ、ネロから連絡を受けた青葉から事情を聞いた摩耶と天龍が、何故か警官の格好をして駆け付けた。

 

摩耶「ネロ」

 

ネロ「摩耶、天龍、遅かったな。あとは頼んだぞ」

 

天龍「任せとけ!」

 

摩耶「立て お前ゴラァ!」

 

天龍「俺らだから穏やかじゃねぇぞゴラァ!」

 

ネロ「潤羽、大丈夫か?」

 

潤羽「私は大丈夫・・・先生・・・?」

 

潤羽はネロの顔を見て、何か違和感を感じた。

だが、ネロは安心させるように笑みを見せた。

 

ネロ「さぁ、行くぞ」

 

潤羽「・・・う、うん・・・」

 

ネロから引き継ぎ、摩耶と天龍がヤクザをボコボコにしてる隙に、ネロは潤羽を連れて学苑へと急いだ。

しかしネロと潤羽が通った組事務所の床には、点々と血痕が続いていた。

 

 

・・・・・・

 

*明陽学苑高校 校門 14:40*

 

明陽学苑の校門では、ネロは来ると信じる羽黒が、腕時計を確認しながら待っていた。

そこに、眼鏡の教師が現れた。

 

教師「待つ必要はありませんよ。というか残り1時間。今から来たとしても どうにもなりませんよ」

 

そう言って、眼鏡の教師は校舎へと戻っていく。

だがバイクのエンジン音がし、羽黒は咄嗟に そちらへ振り返る。その視線の先には、キャバリエーレに乗るネロと潤羽が こちらに向かってきていた。

 

羽黒「来た!」

 

そしてネロは、羽黒が待つ校門の前でキャバリエーレを止めた。

 

羽黒「ネロ先生、あと1時間ですよ」

 

ネロ「それだけあれば充分だ。なぁ?」

 

潤羽「うん」

 

ネロ「フッ」

 

 

・・・・・・

 

*2年4組 14:49*

 

生徒達が次の教科の試験のために席に着いて待ってると、教室にネロと羽黒、潤羽が入ってきた。

ただ生徒達は、ネロが来た事に驚いていた。

 

(たくみ)「ネロ!?」

 

輝男「逃げたんじゃないのかよ!?」

 

ネロ「誰が逃げるかっての」

 

羽黒「みんな座って」

 

潤羽も席に着き、ネロを見て微かに笑みを浮かべると、ネロも潤羽を見て、自信に満ちた笑みを返した。

 

羽黒「では始めてください」

 

最後の試験が始まり、生徒達は残り1教科だけだが、ネロは1時間で、5教科分の全てを解いていかなければならない。果たして・・・。

黙々と問題が解かれ、鉛筆が書きなぞられる音だけがする教室で、潤羽はネロを見詰めて、彼の言葉を思い出していた。

 

 

“俺も お前を信じて任せるぜ”

 

“誰かが必ず、お前の声を聞いてくれるよ。お前を助けてくれるよ。お前は独りじゃねぇぞ”

 

 

羽黒もネロが大丈夫か気になる様子で、ネロを見詰めていた。

羽黒と潤羽に見守られる中、ネロは真剣に問題に取り組み、次々と解いていく。

 

 

・・・・・・

 

そして生徒達が次々と問題を解き終えていく中、ネロも5教科全ての問題を解き終わった。

ネロは笑みを浮かべながら、潤羽に向かって軽く拳を突き出す。

潤羽は笑顔で席から立ち、ネロに駆け寄ると、ネロも席から立ち、改めて2人でグータッチを交わそうとする。しかしネロの拳が空振り、グータッチが交わされる事はなかった。

 

ネロ「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

ネロは机の上へと倒れ込み、答案用紙には彼の夥しい血が広がった。

 

潤羽「先、生・・・?」

 

美香(みか)「先生!?」

 

『ネロ!/先生!』

 

ネロに心を開いてる生徒達も、血を流す姿に驚き席から立ち上がり、ネロに駆け寄る。

 

潤羽「刺されたの!?」

 

ネロ「はぁ・・・はぁ・・・掠り傷ってやつだ・・・」

 

潤羽「どうして!どうして言わなかったの!?」

 

ネロ「はぁ・・・っ・・・はぁ・・・約束したじゃねぇか・・・ヘッ・・・日本一になるってよぉ・・・はぁ・・・」

 

机の上に倒れ込んだまま、ネロは額に大粒の汗が浮かぶ顔を上げ、潤羽を見る。

 

ネロ「ダチとの約束・・・はぁ・・・守んねぇとなぁ・・・!」

 

ネロは起き上がろうとしたが、腕に力が入らず また机の上に突っ伏してしまい、意識を失ってしまった。

潤羽は、たった それだけの理由でネロが病院にも行かず、怪我をしたまま試験を受けたと知り、驚きと共に、全ては自分のせいだとショックを受けた。

 

潤羽「先生を!先生を助けて!」

 

羽黒は救急車を呼ぶため、教室から飛び出していく。

そしてネロは、駆け付けた救急車で病院に緊急搬送される事になった。

 

 

・・・・・・

 

*軍病院 16:46*

 

羽黒が艦娘である事も含め、ネロがDevil May Cry鎮守府の関係者でもあるため、軍病院へと搬送された。

悪魔の力は失っているが、それでもスパーダの血族であるため、DNAから普通の人間とは違うとバレる恐れから、先に軍病院に来ていた明石とアーロン2人だけで手術の準備に取り掛かっていた。

ストレッチャーで運ばれるネロに付き添い、羽黒と潤羽も一緒だった。

 

羽黒「ネロ先生!」

 

潤羽「先生!」

 

明石「ネロさん、聞こえますか?」

 

そしてネロは、緊急処置室へと運び込まれ、入る事が許されない羽黒と潤羽は、扉の前で立ち止まった。

潤羽は自分を責めて泣き、羽黒は そんな彼女を、ネロの無事を祈りながら肩を抱く。

 

 

・・・・・・

 

*明陽学苑高校 理事長室 21:28*

 

夜、明陽学苑に残っていた理事長は、潤羽から事情を聞いた羽黒からの連絡を受けていた。

 

理事長「生徒を救うために、刺されたのね?」

 

羽黒『はい・・・』

 

理事長「容態は?」

 

羽黒『まだ意識が回復していません。危険な状態です・・・』

 

羽黒からの連絡が終わり、受話器を下ろした理事長は、大きく息を吐き出した。

 

理事長「ネロは、奇跡を起こす男よ・・・死ぬような男じゃない・・・」

 

理事長は まるで、自分に そう言い聞かせるように呟き、ネロの無事を祈った。

 

 

・・・・・・

 

*軍病院 9月13日 3:10*

 

数時間後、病室には人工呼吸器をしたネロがベッドに眠り、羽黒と摩耶、天龍、キリエ、潤羽が寝ずにネロを見守っていたが、ネロの意識は まだ戻らなかった。

 

 

・・・・・・

 

*明陽学苑高校 理事長室 5:51*

 

ネロの意識が戻るのを祈りながら、理事長は報告を待つため学苑に残り、窓から外の風景を眺めていた。

空は既に夜が明け、白み始めている。

 

 

*軍病院*

 

ネロが目を覚まさない中、羽黒と摩耶、天龍、キリエ、潤羽は夜通し起きて、ネロが目覚めるのを待っていた。

すると、ネロの顔がピクッと動いたのを、潤羽は見逃さなかった。

 

潤羽「先生・・・?」

 

潤羽が声を掛けると、ネロの目が ゆっくりと開いた。

 

潤羽「先生」

 

潤羽の声に、俯いていた摩耶と天龍も、ネロが目覚めた事に気付き立ち上がる。

そしてネロは、自ら人工呼吸器を外し、潤羽を見る。

 

ネロ「おはよぉー・・・」

 

潤羽「先生・・・!」

 

潤羽は、ネロが目覚めた安心から涙を流した。

だが、涙を流す理由は それだけではなかった。

 

潤羽「ごめんなさい・・・私が・・・あんな事したから・・・」

 

潤羽は謝罪を口にしたが、ネロには何の事か分からなかった。

そして潤羽が語った話では、彼女は母親を苦しめようと思い、母親のパソコンに勝手に情報を流出させるウイルスを仕込んだそうだ。その結果、母親は事業に失敗して逃げ、あのヤクザ達が来る事になり、あとはネロも知ってる通りだった。

 

潤羽「全部・・・全部 私のせい・・・!私のせいで先生が死んじゃうって思うと、私・・・!」

 

ネロは潤羽から視線を外し、微かに笑みを浮かべながら天井を見た。

 

ネロ「俺はよ・・・お前が本っ気で向かってくれた。だから俺も本気になれた」

 

そしてネロは再び潤羽を見て、手を差し出し彼女の手を握った。

 

ネロ「暇潰しなんかじゃなかったろ?」

 

ネロの問い掛けに、潤羽は泣きながら黙って頷いた。

 

ネロ「マジだったよな?俺達」

 

本気だったからこそ、ネロも泣きそうになるのを堪え、震える声で問い掛けた。その問い掛けに、潤羽は再び頷く。

 

ネロ「マジじゃなかったら・・・涙なんか出ねぇよなぁ?」

 

潤羽は もう、ネロの問い掛けに頷く事もできず、ポロポロと大粒の涙を流し泣いた。

 

ネロ「俺が死ぬかもしれねぇと思って、どうだった?」

 

潤羽「心配だった・・・どうしようもないくらい心配だった・・・!」

 

ネロ「だろ・・・?だったらオメェも死ぬなんて言うな」

 

潤羽「・・・・・・・・・」

 

ネロ「俺だって お前の事ずっと心配してたんだぜ・・・だってよぉ、オメェはダチだからなぁ」

 

潤羽「先生・・・!」

 

ネロ「ダチが死んじまったら悲しいぜ」

 

今なら、自分の言ってた事が どれだけ愚かだったか理解できる潤羽は、涙でネロの顔が見えなくなりながらも、何度も何度も頷き、ネロの言葉に応える。

 

ネロ「死んでいい命なんて、どこにもないんだ・・・・・・必要のない奴なんて、どこにも居ねぇんだよ・・・」

 

そう言って、ネロは笑顔を向けた。

自分の過ちを自覚した潤羽は、自分の存在の全てを認めてくれるネロの言葉で、ネロが横になるベッドに顔を埋めて大泣きした。

また1人の生徒の心を救い、問題を解決した事で、羽黒と摩耶、天龍、キリエは、ネロと潤羽を見ながら笑みを浮かべた。

そしてネロは、泣き続ける潤羽の気が済むまで、黙って頭を撫でてやるのだった。

 

 

・・・・・・

 

*明陽学苑高校 教員室 8:20*

 

明陽学苑の教員室では、教頭や教師達が集まり、ネロについて話していた。

 

保険医「ネロ先生、助かったんですね」

 

教頭「えぇ、まぁ。しかし答案用紙は採点不可能、つまり保護者達との約束は果たせなかったという訳ですね」

 

女性教師「つまり、解雇、ですね」

 

教頭「当然ですね」

 

教頭達が嬉しそうに話してると、そこに理事長が来て教員室が静まり返り、全員が会釈した。

すると理事長は、ネロの血で真っ赤に染まった答案用紙を掲げ、教頭達に見せる。

 

理事長「採点可能な箇所をチェックしたところ、全問 正解しています」

 

男性教師「そんな、まさか・・・!?」

 

教頭「それは たまたまでしょうし、何より、約束は約束!」

 

理事長「そんなの、テストの結果が大切ですか?ネロ先生は、危険な目に遭ってる生徒を助けるために、テストを放棄したんです」

 

そして理事長は改めて、真っ赤に染まった答案用紙を集まる教師達に見えるよう掲げる。

 

理事長「あなた方は、この真っ赤な血が意味するものが解りますか?・・・あなた方は、生徒のために血を流せますか?!・・・私は、これも1つの教師の形だと思います。例え、テストの結果が どうであれ、こういう想いが生徒達を変えていくんです。PTAの方々には、私から説明します」

 

教頭達を黙らせた理事長は、忘れるなと念押しするように真っ赤に染まった答案用紙を再び見せてから、教員室を後にした。

 

 

・・・・・・

 

*軍病院 8:53*

 

ネロ「早く学校 行きてぇな~・・・」

 

ネロの事はキリエと潤羽に任せ、羽黒と摩耶、天龍は病室の外で話していた。

 

羽黒「ネロさんの解雇なくなったって。理事長がPTAの皆さんを説き伏せてくれたって」

 

摩耶「そっか・・・」

 

天龍「良かったな!」

 

理事長から連絡を受けた羽黒の報告に、摩耶は安堵し、天龍は万歳しながら喜んだ。

 

摩耶「何か、あいつの生徒が羨ましいな」

 

羽黒「え・・・?」

 

摩耶「あ、いや・・・あんな奴がクラスの担任だったら、学校も少しは楽しいだろうなって」

 

天龍「俺ら学校とか行かねぇもんな。生まれた瞬間から深海棲艦との戦争に放り出されてたし」

 

羽黒は その気持ちが よく理解でき、病室で横になるネロを見た。

滅茶苦茶ではあるが、生徒の言動や行動、その想いを頭ごなしに否定する事はなく、生徒達が胸の内に秘めているものを ちゃんと理解した上で諭し、身体を張って生徒達を守ってきた。だからこそ、2年4組の生徒達も、次々とネロに心を開いていったのだろう。

 

摩耶「これからも、あいつのこと頼むな」

 

羽黒「え・・・?うん!」

 

ネロ「痛いっ、痛たたたたたた・・・」

 

 

・・・・・・

 

*明陽学苑高校 9月18日 9:43*

 

学校に復帰したネロは、廊下で生徒達と談笑していた。

 

ネロ「見たか俺の凄さを」

 

杏子(あんず)「結局、何点だったの?」

 

生徒「そんなの訊かなくても分かってるだろ」

 

美香「輝男君以上だったかもねー」

 

巧「じゃあビリじゃん!」

 

輝男「いや俺ビリじゃねぇし」

 

(のぼる)「でも、満点に近かったって噂もあるし」

 

誠也(せいや)「マジか」

 

(あきら)「お前、どんなカンニングしたんだよ?」

 

ネロ「バーカが、じつりきだ、じつりき。なぁ?」

 

潤羽「ちゃんと“実力”って言いなさい」

 

ネロ「はーい、せんせー」

 

杏子「先生だって」

 

潤羽に叱られるネロに、生徒達は大笑いした。

そんな様子を教頭が見ていたが、ネロの真っ赤に染まった答案用紙をクシャクシャにすると、ゴミ箱に捨てて歩き去った。

それを善之が取り出し答案用紙を広げると、見える部分の答えが全て正解してる事に驚いた。

 

善之「これは、まさか・・・!?」

 

そこに理事長が現れ、善之は答案用紙をクシャクシャにして腕を下ろした。

 

理事長「残念だったわねー、ネロ先生を追い出せなくて。全国1位、おめでとう」

 

善之「諦めませんよ僕は」

 

理事長「ん?」

 

善之「・・・あなたの罪を裁くまでは」

 

そう言って善之は立ち去り、理事長は驚いた表情で彼の背中を見ていた。

談笑するネロ達から離れ、1人どこかに向かおうとする潤羽の後ろから、楓が声を掛けてきて振り返る。

 

楓「あなたの事が許せない。教師なんかと楽しそうにして、恥ずかしくないの?」

 

潤羽「ネロ先生は、他の教師達とは違う。他の、大人達とは違う。あなただって気付いてるんでしょ?」

 

他の生徒達が何故、ネロに心を開き受け入れたのか、今なら それが理解できる潤羽は、楓も きっと理解できると思い、彼女を説得しようとする。

 

楓「騙されてるだけよ皆」

 

潤羽「そんな風に、過去の事を いつまでも大袈裟に考えて、いつまで、気付かない振りするの?」

 

楓「造り物のくせに」

 

だが楓には潤羽の想いは伝わらず、敵意を向けたまま立ち去っていくのだった。

 

 

・・・・・・

 

*楓の自宅 22:12*

 

夜、楓は自分の部屋で、何かを印刷していた。

 

楓「何なのよ あいつ・・・造り物のくせに。滅茶苦茶にしてやる」

 

 

・・・・・・

 

*明陽学苑高校 9月19日 8:30*

 

翌朝、潤羽が登校して廊下を歩いてると、様々なクラスの生徒達が集まって何かを見ており、不思議に思った潤羽は立ち止まった。

すると他の生徒達に混ざって一緒に見ていた明子(あきこ)が潤羽に気付き、駆け寄ってきた。

 

明子「潤羽ちゃん・・・」

 

潤羽「おはよう、どうしたの?」

 

悲しい顔をする明子は何も言わず、生徒達が集まってる方を見た。

明子の口から答えが得られないため、潤羽は生徒達が集まる場所に向かい、壁などに貼られている白い紙を見る。そこには2年4組の潤羽が、『大金を積んで海外の精子バンクから優秀な精子を買って造られた天才児だ』と書かれていた。

秘密にしていた自身の出生を何者かに暴露され、潤羽は呆然としていた。

その様子を、悪い笑みを浮かべる楓が、少し離れた場所から見ていた。




ネロが普通の人間になってしまった事で、今回のように ちょっとした事で危機的状況になってしまうというのがハッキリしましたが、これから どうなるか心配になりますね
それとは別に、今回、何故か摩耶と天龍が警官の格好をして現れた訳ですが、次回は その切っ掛けとなる お話をやっていきます
そちらはコメディとなり、少しの間 続きます

次回も宜しく お願い致します!
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