クリスティーヌ「知らんがな」
「・・・・・・・・・ダンジョンに行っても?」
「ダメだ!」
「どうしても?」
「どうしても!」
初めてのダンジョン潜りから早半年、巷ではオレのことを怪人だ何だあだ名すようになった今日この頃。ヘスティア様は全然ダンジョンに行かせてくれない。
「お金ならボクだってバイトしているし貯金もそこそこたまっている!
ダンジョンに潜る必要性はないだろう?」
「金とは稼がねば巣立ちの季節の小鳥のようにいずれ飛んで消えるもの、その先に待つのは極貧生活のみ。」
「極貧上等さ!」
何故か毎回ダンジョンに行かせてくれない。これは困った、折角戦い方も覚えてきて第10階層ぐらいまでならいけるぐらいの実力はあるというのに。いや、気配遮断を利用すればもっと下層に潜れるだろう。
「・・・・・・・では仕方ない。
私は奏でよう、今はかなたの君への音楽を。」
廃教会に置いてあるピアノ、それはヘスティア様が君はもっと趣味に走れ!とか言って買ってきたものだ。今のオレはファントムボディゆえ、最初こそうまく引けなかったが最近ではそこそこうまく弾けるようになっている。まあいまだに試していないファントムの宝具、
閑話休題、さぁさぁピアノを弾く・・・・・・・・ふりをして気配遮断!
「あっ!どこ行った!?」
ハハハハさらばー!
さてさて、今日はちょっと深くまで行ってみよっかな。第9、いや第10ぐらいまで行くか。あの辺りから大分天井が高くなるから宝具の試し打ちがようやくできそうだしな。
途中出てきたウォーシャドウを爪で切り裂く。うんうん、こういった小銭稼ぎもしっかりやっていかなくちゃね。気配遮断はダンジョン内では基本ずっとしているが、こうやってモンスターを見かけたら狩るようにしている。・・・・・・・・この戦法のせいで武器熟練度と器用度以外のステイタスが伸びづらかったりする。あんまり体力使わないからなぁ、この戦法。
「・・・・・・・・そこにいるのは」
モンスターを倒すまでの数秒の間の気配遮断スキルの大幅低下、その場面を丁度誰かに見られたらしい。声のした方を見てみると、それは見た目麗しい女騎士様がいた。
・・・・・・・・・いや、すごくきれいな見た目をしている。思わず見とれてしまった。
「・・・・・・・・・おっと、これは失礼。
私の名前はファントム・オブ・ジ・オペラ、日々この爪を魔物の血で濡らし、ただピアノを奏でるだけに時間を割くただの冒険者。
よろしければお名前をお聞かせいただいても?麗しき女騎士殿」
礼儀正しく礼をする。
ていうか思ったまんまを口に出してどうするオレエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!これじゃあただのナンパじゃねぇか!いや、向こうから話しかけてきたからナンパではないのだけれども!!
「ファントム、という名前だったのね。
私はアイズ・ヴァレンシュタイン。
あなたの噂はいつも聞いているから、つい話しかけてしまいました。」
アイズ・ヴァレンシュタイン・・・・・・・・どっかで聞いたことがあるようなないような?見た目綺麗だし街のおばちゃんとかの間で噂されているのを聞いたのだろうか?
「そうでしたか。
噂、といっても私にはこれといって外見以外で特徴的なものはありません。
ただ影に忍ぶのが上手いだけの、格下にも正面から挑まない臆病者にすぎません。」
「その評価は自分を卑下しすぎているように思えますが。」
「そう言っていただけるとありがたい。
・・・・・・・・・して、今日はお一人で?」
先ほどから彼女の仲間らしき者の姿はない。はぐれたのか、それともソロか?
「今日は仲間には内緒でソロで来ています。」
どうやら
まあ、マジレスすると彼女はきっとレベル2はいっているのだろうな。じゃなければ一人でダンジョンに潜るなんてことはしないだろう。賢そうだしきっと引き際もちゃんと見極められるだろう。
・・・・・・・・・でも、やはり一人で行かせるのは気が引けるな。
「よろしければですが・・・・・・・・私がお供いたしましょうか?」
「・・・・・・・・・・いいんですか?」
「ええ、見たところもう少し下の階層まで赴くご様子。
しかしダンジョン内での女性の一人歩き、それは危険極まりないというもの。
よろしければエスコートでもさせていただきましょう。」
「・・・・・・・・じゃあ、お願いします。」
\(^o^)/オワタ
いや、何がオワタなんだよって?それはね?ここね?第二十階層なんだ。
うん、変だとは思ってたよ。14~15階層を超えてきた辺りから変だなって思ってたよ。だってどう考えてもソロで来るようなところじゃないもん。今、やっと気づいた。
この人・・・・・・・・ロキ・ファミリアの幹部の『剣姫』だ・・・・・・・・・
因みに彼女のレベルは5、オレは1。
第二十階層の適正レベル、2。
\(^o^)/オワタ
トンボ型のモンスターであるガン・リベルラが大量に湧いて出てくる。早速気配遮断!ていうかこうでもしないと本当に死ぬゥ!!
気配遮断のせいでほとんどのリベルラがアイズ、いや剣姫の方向へ向かっていく。ごめんよ、さすがにオレだと死にかねないから。
そんなことは気にせず普通に剣を振るう剣姫。・・・・・・・・・エスコートって言っちゃったしオレも頑張らないと。ほぼ必要ないだろうけども!
比較的低い位置を飛んでいるガン・リベルラの背中に飛び乗る。飛び乗られたガン・リベルラはオレの存在に気付くが、背中にいれば攻撃の使用が無いようだ。必死に暴れて振り落とそうとしてくる。・・・・・・・・・普通にパワー負けして落ちてしまった。しかし落ちる瞬間、首元に向けて爪を突き刺して空中にとどまる。そのまま魔石をほじくり出す。モンスターは魔石が取り出されるとその場で灰になって崩れ落ちるからこうやればオレでも格上ではあるが倒すことができる。
地面に着地するともう一体こちらへ飛んできて突進攻撃をしようとする。体を捻り逆に頭に爪を突き刺し、そのまま頭から胴、尻にかけて切り裂いていき、ガン・リベルラは三枚におろされる。オレの爪、超鋭いやん。まさかここのモンスターにも刃が通るとは。
・・・・・・・・・ん?他のガン・リベルラはどこへ行った?結構沢山いたはずだが・・・・・・・・・。
「そちらも終わりましたか。」
「・・・・・・・・・・・」
も?そちら、も?
そういえば、明らかに彼女の腰の、恐らく魔石を入れる用のポーチがパンパンに。
・・・・・・・・オレ、まだ二体しか倒してないのに一人であの数を倒したのか。
エスコート、いる?いらないよね?オレなんかのエスコートいらないよね?
「え、ええ、襲い来るモンスターはすべて崩れ落ち、灰となって虚空に消えてゆきました。」
「そのようですね―――――――――――避けて!!!」
「ぇっ?」
振り返ってみ・・・・・・・・・ようとしたら脚がもつれてこける。女の子の前で足がもつれてこけるなんてダサい真似はしたくない・・・・・・・・・!!!
身体能力にものを言わせ、学生のような女の子の前でかっこ悪いところは見せたくないという気持ちでそのままバク転をする。ふと見てみると剣姫さんもその場を離れており、自分達が立っていたところは一瞬で剣山のように針が大量に突き刺さった。
結果的にかっこよく回避できたことになった、ってそんなこと言ってる場合じゃねぇ!
上空を見てみると、さっきとは比べ物にならないほどの量のガン・リベルラがいた。ガン・リベルラは尻から針を飛ばすことができる、そんなのがこの数!
「・・・・・・・・・・仕方がない」
試したことが無いから不安だが、やるしかない。いや、そもそも今日試す予定だったし、丁度いい。
本来ゲームでは必要のなかった詠唱を始める。
「――――――――私は歌う。
この世界を呪いながら」
「一体、何を・・・・・・・・・」
アイズの疑問は無視され、そのままファントムは何かをつぶやき続ける。
「私は歌い続ける、君への愛を、世界への憎悪を。
何故ならこの世に君ほど価値のあるものはないのだから、君の声を隠すこの世界に価値など無いのだから。」
すると、彼らの周りが一気に暗くなる。それは光の一切が遮断され、その中にいると一種の寂しさすら覚えてくるほどの暗闇。一寸先すらも何も見えない。どこになにがあるのかは当然のごとく分からない。さらにただ暗いわけではない。そこはまるで引き込まれるような暗闇、大量にいたガン・リベルラの羽音すらも聞こえない。まるで空間のみが別の場所へ隔離されているかのようだ。
ポツポツと、紫色の小さな明かりがついていきアイズや大量のガン・リベルラ、そして辺りを照らす。どうやらその明かりは蝋燭にともされているようだが、果たしてこの蝋燭はどこから来たのか、それはわからない。しかしその明かりは弱弱しく、この空間全体を照らすには至らない。
「私と唄おう、あの舞台でもう一度。
陽の光など忘れるほど暗く、固く閉ざされた石と鎖と革の部屋で、喉が枯れるまで何度でも!」
そして、明かりはファントムの姿も照らし出した。
「唄え唄え我が天使――――――――」
まるで演劇のような身振り手振りで、誰かに語り掛けるようにそうつぶやく。そうすると地面から巨大なパイプオルガンに似た演奏装置がまるで植物のように、されどそれとは比にならないスピードで生えてくる。
その鍵盤のもとにはファントムが立っている。そして今、音を奏でる。その音を奏でるさまは壊れ物を触るように優しく、明確な敵意を込もっていた。
「
演奏装置から音が奏でられる。その音には魔力が込められており、使用者と、使用者の味方以外に不可視の魔力攻撃を振りまく。媒体が音であるためにその効果範囲は絶大。それゆえ、ガン・リベルラの大群はことごとくが灰になり、魔石のみを残し消滅させた。
かつてオペラ座の怪人が犠牲者の死体で形作った歪んだ愛のカタチ。歪んだ情熱と狂気のと織りなされる音楽は緻密であまりにも冒涜的。
この宝具は対軍宝具に分類されるため、相手が多数の際には無類の強さを誇る。これが、ファントムが唯一持つ宝具だった。
(・・・・・・・・・地味に、いや結構詠唱恥ずかしいな。)
この場にはアイズもいる。例えるなら部屋に招いた彼女に黒歴史ノートを見られたような感覚だと思えば今の彼の心情はわかるだろうか?
ともかく、一人の時以外はこの宝具は絶対に使わないと決めた。
・ファントム ピアノが弾けることが判明。また、第二十階層の敵も不意打ちと幸運が重なれば倒せることも判明。実はアイズから勘違いされているのだがそれは次回に。
・アイズ 言わずと知れた剣姫さん。ファントムとは不幸なことに偶然出会ってしまった。実はファントムの実力をよく見抜けてない。
・ヘスティア ダンジョンにファントムが行くのを止めようとするが毎回脱走される。そして帰るたびに悲しい顔(不機嫌なだけ)をしてくるファントムを気に掛ける凄く優しい神様。
・ガン・リベルラ 第二十階層から出てくるトンボ型のモンスター。ファントムの宝具で一掃されてしまった。
・地獄にこそ響け我が愛の唄 ファントムの宝具。何気に宝具レベルはB+と、実はバサクレスに攻撃が通る。また、攻撃方法があくまで魔力による攻撃なのでベートはそれを吸収できるという解釈をしているが役立つことは無い。
・詠唱 私と唄おう、あの舞台でもう一度とか言いつつ即座に固く閉ざされた石と鎖と革の部屋の部屋で歌う事を強要する、ファントムの狂気を作者が頑張って再現しようとした結果。必要かな、と最初は思ったが今にして思えば蛇足。また、作者の黒歴史である。