クリスティーヌ「確かに疑似サーヴァントとかでならなんとか行けそうね。
十中八九☆1キャスターだろうけど。」
宝具でファントム召喚してファントムの演奏に合わせて歌ったり?
クリスティーヌ「ありそうね、それ。実装されたらの話だけど」
「‥‥‥……」
「(おじいちゃん‥‥……僕の冒険、早速終わりそう‥‥……)ガタガタガタ」
ベル・クラネルは恐怖していた。自分の目の前にいる男、ファントムに。
自分を受け入れてくれるファミリアが中々見つからないというところでヘスティアに拾われ、無事
その姿を見た時、その人の名前がすぐに分かった。なにせ、この迷宮都市オラリオにおいて強いものを上げるとしたらまず三名の名が挙がる。
フレイヤ・ファミリアのオラリオ唯一のレベル7、オッタル。
『剣姫』ことロキ・ファミリアのアイズ・ヴァレンシュタイン。
そして―――――――『無辜の怪物』こと、目の前のファントム・オブ・ジ・オペラ。
彼の噂はオラリオからは近いとは言えないベルの故郷の田舎にも広まっていた。どんな武器を使っているのか、どんな魔法が扱えるのか、どんな戦法なのか、キャリアはどのくらいなのか、仮面の下はどうなっているのか、そもそもレベルはいくつなのかなどなど。彼に関してわからないところを上げるときりがない。わかっているのは実力が高いらしいということだけ。
また、彼はその謎と同じくらいの量の噂が立っていた。ほとんどが悪名に近いにもかかわらず、そのほとんどが根拠が無い想像でしかない。そこから無辜の怪物という二つ名が付いたのだが、そもそもこれが本当に神々が決めた二つ名なのかという疑問もある。
何もかもが謎に包まれた、アイズとは対を為す最強格の冒険者、それが彼だ。
そんなどう考えても悪人のイメージが払拭することのできない男と現代日本でいうところの中学生を会わせてみよう。
こうなるのは必然である。
「‥‥………君、」
「ヒッ!?」
突然話しかけられて酷くびっくりしてしまい、こんな声が出てしまう。
こうなるのも必然である。
「‥………そんなに怖がらなくてもいいじゃないか。
支度をしたまえ、これからダンジョンへ行く。」
「ダ、ダンジョン………ですか?」
「ああ、見たところ君の得物はナイフ、私の得物もナイフのようなものでね、色々と教えられるはずだ。
ヘスティア様、よろしいでしょうか?」
「‥‥‥‥……あんまり君には行かせたくないが、こればっかりは仕方ないか。
いいよ」
どうやら初のパーティを組んでのダンジョン攻略の誘いのようだ。正直無事に終わるとは思えないというのが、ベルの本音であった。
ダンジョンに来たはいいが相変わらずベル君が怯えたまま、その姿はファントムの(絶対に空回りする)やる気スイッチを入れてしまった。
ここはしっかりと戦い方を教えてあげなければ!爪とナイフはどう見ても取り回しが違う気がするがどっちも似たようなもんだ!ファントムはそう思っていた。
「ベル君、ナイフというのはどれも刃渡りがどうしても短い。
それは長所でもあり短所でもある。」
「長所でもあり………短所でもある?」
「そう、例えばあそこにいるゴブリン。」
ファントムが指差した先には一匹のゴブリン。丁度よ~く一体でいるというのは理由があり、ゴブリンはさほど賢くないモンスターで基本的に群れで行動できたらする、できないなら群れを探さないで徘徊するという極めて単純かつ非効率的な行動をする。数の暴力というものの利点をいまいち理解していないのだ。
まだファントムはレベル1だが、強者風に戦ってみたりしてもいいよね?という、この先の展開が容易に予想できることを考えている辺り、この男はどこか抜けている。
「それじゃあ君は少し隠れて見ていなさい。」
「は、はい!」
適当な小石を投げつけ、こちらの存在に気付かせる。ゴブリンはそれに対し、威嚇のつもりなのか知らないが声を上げて襲い掛かってくる。
「まずは長所、それは武器自体が小さいため動きを阻害しないことだ。」
ファントムはゴブリンの攻撃を余裕をもって、かつ踊るように回避する。見よ、どう考えてもいらない動きでありベル君がその避け方を真似でもしたらどうするというのか。
ゴブリンはファントムに完全に遊ばれているのを理解しているらしく、段々と苛立ってきているように見える。それによりただでさえ粗く避けやすい動きがさらに避けやすくなる。
「次に短所だ。」
ゴブリンに近づき、頭を掴んでそのままゴブリンの腹に向かい強烈な膝蹴りを叩き込む。痛みと衝撃に耐えきれなかったようでゴブリンは地面に仰向けに倒れた。今度は頭を掴んで持ち上げ、胴体に何発も膝蹴りをお見舞いする。ゴブリンの口から血が噴き出し、腹には多くの青あざができる。
「ウ、ギギギ‥‥……」
ファントムはこう考えていた。ゴブリンをまず弱らせて動けなくさせ、ベル君にどこを攻撃すべきかを教える。そしてその後ピンピンしているゴブリンを探し、一対一で戦わせる。まずはチュートリアルの意味合いも込めて簡単にしているのだ。
そしてゴブリンはファントムの理想通りにまともに動けないレベルにボコボコにされた。あんまりに思った通りに事が進むものでつい顔に笑顔が浮かぶ。
「短所は刃渡りが短いためその分どう頑張っても巨大なモンスター相手だと深く刺さらないことがある。
それゆえに敵の急所を的確につく技術力が求められるのさ…‥……ベル君、こっちへ来たまえ。」
「は、はひ‥‥……………………」
明らかにベル君はさらにビビっている。ファントムはあれ、また僕なんかやっちゃいました?というなろう系並の感想を浮かべるが、自分の奇行に気付けバカ。
「このゴブリンにどこの急所でもいいから君のナイフを突き刺してみなさい。」
「え………わ、わかりました………」
震える手でナイフを手に取るベル。別に失敗したところで何もしやしないというのに、このビビりようはなんだ?と思うファントムであったが、それはひょっとしてギャグで言っているのか?
言われた通り、恐る恐るながらもベルはゴブリンにナイフを突き立てる。子供が暗殺者に暗殺の訓練を施されているように見えるのは気のせいでも何でもない。まあファントムは
「ふむ‥……まあ初めてだし及第点としよう。
次はちゃんと動いているゴブリンに対してだ。」
「わかり、ました‥‥……」
もうすっかりベルは精神をやられている。肉体的には大丈夫だが精神の疲労が凄まじいのだ。原因はいわずもがな。
「因みに言っておくが、次からは君が危険にさらされた時だけ助けに入る。
それ以外については私は一切手出しはしない。
私は身を隠しているとしよう‥………」
「えっ!?」
ベルは突然、何の前触れもなくファントムの姿を見失った。目を離したのは一瞬、ただまばたきをしただけである。その一瞬でファントムは身を隠した、正確にはかの暗殺教団のトップ、ハサン・サッバーハにも並ぶ気配遮断スキルを使用しただけだが。
通路の奥からゴブリンが数体、こちらに向けて走ってくる。嬲り殺された仲間の悲痛な声を耳にしたのだろう、その目は怒りに染まっている。
「安心したまえ、私はずっと、君を見ているからね‥‥………」
「ファントムさん!ちょっと待ってください!!」
ベルは必死に声を張り上げたが、ファントムは姿を現さない。しかしベルは彼の名を叫んだ。なぜなら――――――
「さすがにこの数は無理ですって!!」
ゴブリンの総数―――――――――――25体、あっという間に囲まれてしまっていた。
新人冒険者にはどう頑張ってもさばききれない数だった。しかし、それでもファントムは姿を見せない。
(――――――――――愉悦!!)
びっくりするほどのクズ。哀れファントム、長らく(本人からしたら)理由もなく畏れられ続けたせいで軽く性癖が歪み、人が何かを恐れたりするさまに興奮を、まあ要するに愉悦部員になってしまっていたのだ。じゃなけりゃゴブリン相手だろうとあんな拷問じみた真似はしない。
まあ本当に危険になったらさすがに介入するつもりである。すでに大分危険だなんてことは言ってはいけない。
・ファントム 今回の一件で人の不幸で酒が美味くなるタイプの人間であると判明した。恐らくベル君を通じてこのこともそのうちオラリオ中に知れ渡ると思われる。まあこれは自業自得である。
・ベル・クラネル 未来の英雄にしてファントムの直接の被害者。ここまで直接ファントムのせいで被害を被ったのは彼が初めて。ベル君が生涯最も恐怖を感じた人物第一位候補がファントム。彼には一刻も早く強くなってもらいたいものだ。
・ファントムにボコられたゴブリン ファントムからの拷問にあったあげく殺された可哀そうなモンスター。人、モンスター含めこの作中で最も悲惨な死に方をしたのが彼。これから先、彼以上に悲惨な最期を遂げた人物は絶対に現れない。あの世で恨んでくれ、ファントムを。
・フレイヤ ふと気になったのだが、彼女はファントムの事をどう思っているのだろうか?