まん丸お山に輝きを。   作:さぼらいね

2 / 4
最初の来宅

「Fact is stranger than fiction.」

 

 直訳すると“事実は小説より奇なり”だ。

 

 この言葉自体は割と聞いた事があると思う。が、実際にそう思える場面に遭遇する機会はそうそうないと思う。

 

 俺も人生をある程度は生きてきたが本当にそう思わせる様な出来事なんてほぼほぼ無かった。

 強いて言うならバスで3日連続担任に会った事くらいかな。

 

 だが俺は今回、この女の子と出会った事は正しくそれだとはっきりと自覚した。それくらいイレギュラーなイベントなんだろう。

 

 

 ……俺はあと何回、想定外の事で驚かされるんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ家こっちだから行こうか」

 

 俺は家の方角を指差して移動する事を促した。それと同時に「ぐうぅぅぅぅ」と大きな音が闇の中を切り裂いた。そしてその音の鳴った方を向くと多少の羞恥からか女の子の顔が赤くなっているような気がした。

 

「あ、お腹空いてるんだったよね。大した物じゃないんだけど、これならあるけどいる?」

 

 俺はさっき買ったばかりであるホットココアを指差す。女の子はじっとそれを見つめてから首を縦に振った。手渡すとすぐにプルタブを引き、子気味よく喉を鳴らしていった。内容量も多くは無かったが、余程喉が渇いていたのか数秒で飲み終わっていた。

 

「………と…ざ……す」

「ん?ああ別に大丈夫だよ」

 

 掠れた声で礼を言われた。そう言われると急にこの女の子は何でそうなったのか、「何があったのか」「何故ここにいるのか」「親はどうしたのか」「何処から来たのか」「そもそも君は誰なのか」という色々な疑問が降って湧いたが、聞いてはいけない気もしたから帰り道では努めてそういう話題には触れないようにした。

 

 じゃあどんな事を話したかって?対して話してない。こちとら根っからの対女の子コミュ障なんだよ…最初の一歩がどうしても踏み出せないんだよね。踏み出せたら仲良くなれるんだけどもな。

 

 女の子と二人きりって意識した瞬間から口がどもっちゃったり、適当な会話を振っても無言だったり、何だこいつみたいな目線で見てくるからな。こんなんじゃやっていけないからもっと普段から女の子と会話をしようと思いました。(小並感)

 

 

 そうこうしている内に自分の住んでいるマンションに着いた。あくまで大学生が一人暮らしをする様な所なのでそんな高級な所ではなく普通のマンションだ。

 

「着いたよ、ここが俺の家」

 

 そしてポケットから家の鍵を取り出し、鍵を開ける。

 

「上がっていいよ」

「……ゃま……す」

 

 わざわざお礼を言って靴を揃えて置くあたり、ある程度の良い教育は受けてきたんだろうなって思った。

 

「ご飯作るからその辺で寛いでいいよ」

 

 女の子は頷いたが、何も知らない男の家だから気が置けないのかソファーに座って辺りを見回したり、うろうろと彷徨いたりしていた。まぁそうだろうな。

 

「テレビでもつけようか?」

 

 なんの気もなしに落ち着くだろうと提案をした。多分うなづくだろうと近くにあったリモコンに手をかけた。その瞬間、そのかかってた手を女の子に掴まれた。

 

 何事かと思って女の子の顔を見たら泣いていた。そして掴んでいる手から震えているのが伝わった。

 

 何があったのかは全く分からないが、とりあえずテレビ関係にトラウマがあるようなのでそっとリモコンから手を離した。

 

「何か分からないんだけどごめんね。泣かせる気は無かったんだよ」

 

 こういう時にどうして良いかよく分からないのでとりあえず頭を撫でてみる。案外それが気に入ったのかすんなりと受け入れてくれた。数分撫でていたらいつのまにか泣き止んでいた。良かったわぁ…

 

 そこから女の子はソファー付近に置いてあった漫画を呼吸も忘れるほどに集中して読んでいた。そんな面白い物なのか?男向けじゃないっけ。

 

 その間に俺は適当にある具材を使って夜飯を作っていた。いつも一人だったから自分の好きなように作っていたが、こういう時に何を作っていいか分からなかったので安心と信頼のカレーライスにした。あとお腹がすごく空いてそうなので沢山作った。

 

 いつもと違う状況ではあるが、滞りなく調理する事が出来た。適当に皿によそってテーブルに置く。そして一人の世界に篭っている女の子を連れ出し、席に座らせてお決まりの一言を言う。

 

「いただきます」

「い……き…す」

 

 その一言を言って、ごく普通のカレーをおそるおそる一口食べた。そうしたら、無表情からでも幸せオーラが伝わってくるのがわかった。そこからはもう止まらなかった、もう凄まじい速さで皿を空にした。

 

 そして何かを言いたそうにこちらを見つめていた。

 

「?あ〜おかわりね。まだまだあるからいっぱい食べてね」

 

 そう返事をすると目だけキラキラしていた。あぁまた幸せオーラが出てるな。どんだけお腹空かせてたんだろうなぁ…

 

 その後、女の子は二杯もおかわりをして冷蔵庫にあったプリンもペロッと食べきっていた。何日ご飯食べてなかったんだろうな、最早気になるよ。

 俺も一回おかわりをしてお腹いっぱいになった。そして締めの言葉だ。

 

「ご馳走様でした」

「ごち…う………した」

 

 何となく思ったが、始めと終わりのこの挨拶だが一人暮らしを初めて一回もしてなかった様な気がする。何で何だろうな。そしてご飯が終わって会話が途切れてしまった。なので次の行動を提案してみる。

 

「…とりあえずお風呂入る?」

 

 何日も入って無さそうなのでね?セクハラじゃないよ?首を縦に振ったので肯定と捉えて話を進める。

 

「じゃあ洗濯機の上にバスタオル置いとくね、あ、あと服はごめんだけど俺のやつだけどいい?」

 

 さらに首を縦に振った。

 

「あと貴方の服、汚れてるから洗濯しとくけどいい?」

 

 これも首を縦に振る。なんかちょっと変態みたいになっちゃったけどまぁ許してな。

 

「俺は横の部屋で布団引いてるからなんかあったら言ってね、じゃあゆっくり入って来なね」

 

 コミュ障特有の早口が若干出たがまぁいいだろう。そして俺は女の子と別れて布団を引き始めた。そして布団を引いていたら後ろから人の気配を感じた、こういうのは中二病じゃなくてもわかるよね?

 

「お風呂の場所行ってなかったっけ?そこを右に曲がってドアを開けたところだよ」

 

 わかりやすく説明をしたつもりだがその場に立ち尽くしていた。何かしたのかな?そう思っていたらいきなり押し倒された。

 

 下は布団が引いてあるので痛くは無かったがそんな事より何でこうなったかわからなくて頭がパニックになっていた。

 

「え?どうしたの?」

「お…れい…す」

 

 お礼?あっ、一宿一飯の恩義に体を捧げるっていう事か。だけどもそういう事は俺は望んでないって言うか何て言うか…

 

 俺はとても狼狽えながら女の子の顔を見た。こんな事をするってどんな顔をしてるのだろうと言う単純な興味からだろうかな。

 

 見た瞬間に驚いたのだが、女の子は泣いていた。そしてパニックで気づかなかったが体も震えていた。

 

 この姿を見て、ハッと我に返った。そしてこの女の子の状況をどうにかしないといけないとも同時に思った。何かこの女の子に対して怒りも湧いてきた。

 

「お前、馬鹿じゃないの?」

 

 多分、俺の人生史上で一番心の底から冷えた声が出た。

 

「泣いちゃってるし手も震えてるしさ、本当はこんな事したくないんだろ?」

 

 コクリと小さく頷く。

 

「ならこんな自分の価値を下げる事はすんなよ!そういうのは本当に大切な人とする物じゃないの?一回きりの人生なんだからこんなちっぽけな機会でちっぽけな俺なんかじゃなくて自分の好きな人とやれよ!」

 

 さらにこう言う。

 

「俺は貴方の身に何があったかとか貴方はそもそも何て名前の人かすらわからないけどさ、俺はいつでも貴方の力になってやるよ。仮に世間が嫌になって逃げ出したとしても俺は貴方の味方になってやるよ。だからもうこんな自分を捨てるような事は辞めてくれ」

 

 女の子は潤んだ瞳でずっとこっちを見ている。

 

「貴方は自分を必要の無い物と扱ってるかもしれないけど、全然そんな事はないよ。貴方自身は信じられなくても貴方を信じた俺を信じてくれないかな」

 

 女の子の目に光が戻った気がした。だが何故かここでビシッと決め台詞を言いたい感じになった。だから息を吸い込んでドヤ顔でこう言った。

 

「俺は逃げも隠れもしない。むしろ当ててくれ君のサーチライト」

 

 無音の空間が出来た。女の子も呆気にとられた感じの顔をしている。あぁ…毎回決めようとすると空まわりするって事忘れてた……

 

 数秒置いて、フフッという可愛い笑い声と共に女の子はこう言った。

 

「あり…がとござ…ます…!」

 

 お礼を言い終わった途端に嗚咽を漏らし始めた。

 優しく頭を撫でていたら、抱きついて来たからそのまま泣き止むまでそのままでいた。

 決めに行くのは性に合わないってのがはっきりわかってしまったけど、心の距離みたいな物が縮まったようでよかった。

 

 

 

 

 それから少し時間が過ぎると泣き止んでいた。

 

 が、色々と濃い体験があったのでお互いに次の会話が出来ずにいた。今になって自分がどれだけ臭いセリフを吐いていたかを実感して羞恥で死にそうにもなっていた。マジで死にたい…

 

 そう悶えていたら女の子から声をかけてきた。

 

「あ、お風呂…」

「そうだったね、とりあえずゆっくり入ってらっしゃい」

 

 この間に女の子の服を洗ったり布団を引いたりしていた。あと自分の家が自分の家じゃなく感じて変な気分になっていたりもした。

 

「あ…、上がりました」

 

 若干濡れたピンク髪を整えながら女の子がお風呂から上がった。ん?ピンク髪?

 

「ピンクの髪ってもしかして地毛!?」

「そう…で…よ」

「知らんかった…」

「フフッ」

「また笑ったね」

「笑っ…ないです…」

 

 地毛がピンク髪なんてあるんだな。びっくりしたわ。あと心の距離が縮まってて良かった。これで他人行儀だったら泣いてた、まだ他人行儀なんだけどネ。

 

 

「そこの部屋に布団引いといたからね」

「ありがと…ござ…ます」

「じゃあおやすみ」

「おや…すみな…さい」

 

 もう時刻もいい時刻になってしまったな。今日は寝よう。それにしても人生で一番想定外の一日だったな…これはもしかしたら夢なのかもな。

 

 

 

 

 翌朝、普通に自分の家に名前も知らない女の子がまだいて夢ではない事を確信した。

 

 あぁ、俺の非日常はいつまで続くんだろうな……

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。