まん丸お山に輝きを。 作:さぼらいね
「色々ありがとな祐樹」
「おう!気をつけて帰れよ!」
祐樹に礼を言って、真っ直ぐ家に向かう。今日はバイトも何も無くて助かった。風を切る感覚から何時もより自転車を漕ぐテンポを上げているのが自分でもよくわかる。早く帰らなくてはいけないんだ。
はっと急に思ったのだが今ならメロスの気持ちも2割くらいはわかる気もする。まぁ最初から走っとけば間に合ったってよく言われてるけどな。
あの女の子に正直何をしていいかなんて事なんて、考えても考えても全くわからない。だからまずは面と向かって向かい合う事をしようと思った。多分それが最善策なんだろう。
そして家に着く。右手に力を入れてドアノブを回す。
「ただいま」
努めて明るい声を出してみる。
「あ、お…えりなさい…す」
彼女は置いてある漫画を読んでいたようだ。漫画の塔が出来ていて余程真剣に読んでいた事がわかる。そう言えば本邦初公開となるのだが俺は漫画好きなのだ。それ故に割と色々な種類の物が揃っているのだが、今回はそれに助けられた。
「今からご飯作るからちょっと待っといてね」
「…い」
あまりに急いでいた為に、スーパーに寄って食材を買う事を忘れてしまっていた。不安になって何があるのか冷蔵庫を開けてみると卵と野菜と調味料とインスタントの味噌汁くらいしかなかった。
今ある食材の中でパッと最初に閃いたのがオムライスだったのでオムライスを作る事にした。最後に作ったのは結構前の事だったから携帯で作り方を見ながら作業した。
そして数十分後、大した失敗もする事なく完成出来た。まぁ、出来栄えも悪くはないだろう。
そしてそれが乗った皿や合間に作った野菜炒めなどをテーブルに置き、あの挨拶をする。
「いただきます」
「いただき…す」
女の子はオムライスを小さな口で一口食べる。
次の瞬間、目を見開いてオムライスと睨めっこしていた。口に合わなかったのだろうか?
「口に合わなかった?」
「そうじゃ……です。ただ…」
「どうしたの?」
「この味、…母さんの味に似…るんです」
「すごい偶然だなぁ…」
本当に何を言われるかとビクビクしてたらそう来たか。それはすごい偶然もあるもんだな。
「味付け大丈夫だった?」
「大丈夫…す」
「なら良かったよ」
女の子はオムライスを味わう様に食べていた。あととても美味しそうな顔をしていたので俺も安心する事が出来た。
女の子が美味しそうに食べている時、俺は話をいつ切り出そうかを考えていた。そして考え抜いた末に、今ちょうど母親の話が出たのだからこの食後に話す事が一番良いだろうという結論に至った。
そして、女の子も俺もご飯を食べおわった。あとは何時ものお決まりのあの一言を言うだけだ。
「ごちそうさまでした」
「ごち…うさま…した」
言い終わると女の子はお皿を持って席を立とうとする。
やるしかないか。“覚悟はいいか?オレは出来てる”
何て有能な上司のセリフを言ってみたがまだ怖い。だって人の触れられたくない部分に触れるんだからな。でもここでやらないと永遠にチャンスが来ない気もする、そう思ったら自然と次の一言は出てきた。
「あの、お話しませんか?」
どうなるかと思ったが、女の子はお皿を台所に置いてテーブルに戻ってきてくれた。あっ、今更だけど名前言い忘れてたのに気付いた。これ言わないと始まらないよな。
「あの、言い忘れてたんですけど、僕の名前は二村秀也って言います。漢字は二つの村に秀でたって書いて、なりって読む也です。年は20歳で近くの大学に通っています」
もうこれで退路を断った。やるしかねえ。
「まぁ多分言いたい事は分かってると思うんですけども」
時に凶器ともなる様な言葉を放つ。
「何があったんですか?」
「それは…」
「貴方に何があったのかはおろか、貴方の年齢も住所も名前も知りませんけども僕は貴方の力になりたいんです。もしこれから傷を負って行くなら僕も貴方と一緒に傷を負いますし、いつか治るその日まで僕は貴方のそばにいます。なので僕にもその痛みを分けてもらえないですか?」
言い終わった後、沈黙が続いた。俺は女の子の反応をただ待った。そして数秒後女の子は長く短かった沈黙を自分から破った。
「私の名前は…山彩です」
「もう一回言ってもらってもいいかな?」
「私の名前は、丸山彩です」
「丸山彩さんか、良い名前だね」
「ありがとうございます」
彼女の名前は丸山彩と言うらしい。何故だか聞いた事が有るような気がした。
「私は…アイドルバンドをやってます」
「アイドルバンド?ん?あ、パスパレか!」
「そ…う…です」
「ごめんね、次進んで」
まさか今をときめくアイドルバンドの人だとは思わなかった。それは流石に俺も聞いたことあるわけだ。
「私はダメなんです」
「何でなの?」
「私のバンドのメンバーを知っていますか?」
「知ってるよ。確か白鷺千聖、氷川日菜、大和麻弥、若宮イヴと君の五人だったはずだよね」
「合ってますよ。でもその中で唯一、私だけは何も無い人間だったんです」
全くそんな事は無いと思うんだけどな。確か丸山彩って言えばめちゃくちゃ努力の人だった気がする。その時点ですごい人なんじゃ無いのか…?
「千聖ちゃんはもう女優で成功してますし、日菜ちゃんは才能がありますし、麻弥ちゃんはみんなの為に行動できますし、イヴちゃんは真っ直ぐな心を持っているんです。それに比べて私は何も…何も無いんです…」
「でも丸山さんは努力が出来る人じゃないんですか?」
数秒置いて、思っ切り机を叩く音が沈黙だった静寂だった空間を切り裂いた。努力という言葉が地雷であったことに遅まきながら気づいて後悔した。
「努力なんて、そんな物何の意味もないんです!」
「え…?」
「私はもっと上手にならなきゃって思って練習をずっとずっとやってきたんです!トレーナーさんが止めてもそれでもずっとダンスも歌もやってきた!それでもまだ足りないって言うのなら後どれだけやればいいんですか!」
烈火のごとく彼女の溜まりに溜まったフラストレーションが放たれて行く。
「私は努力し続けてた!でも監督達からは“もっと成長できる”とか“期待してる”としか言われないんです!これ以上私にどうしろって言うんですか!」
こんなにも自分の秘めていた思いを吐露する様は、どこかお酒に酔った感じに似ているなとぼんやり思った。
「そうしたらある日、前よりも体が思うように動かなくなっていました。それでも努力をしていたらふと気付いたんです」
「何をかな?」
「私には二つの期待がかけられている事にです。丸山彩としてだけじゃなくて、才能があるパスパレのリーダーとしての期待もある。それに気付いた時はさらに体が動かなくなっていました」
「それでどうなったの?」
「日を追う毎に体が重くなっていって、満足に体を動かす事も出来なくなりました。私は休みを取って休めば治ると思って一日休みました。ですが次の日には声を発する事すら出来なくなってしまいました。声すら出せない自分なんている資格も無いと思って家を出てきてしまいました。そしてどんどんパスパレのみんなに対する罪悪感が溜まっていって何も出来なくなりました。これが顛末です」
声が出せなくなるほど酷い。彼女は愚直で純粋すぎて、周りに助けを求められなかったのだろう。
というか助けを求めるべきであったのに、助けという物を完全に忘れていたのだろう。だとすればやる事は一つ。
「でも自分の存在と努力を否定しないで下さいよ」
「私なんて…」
「私なんて…じゃ無いですよ。貴方に背中を押された人間がここにいますよ」
「え?」
「俺が色々あって辛くてしょうがなかった時にラジオで聞いた丸山さんの曲が俺の背中を押してくれたんです。だから丸山さんの曲が俺の今の助けになっていたりするんですよ」
これは本当の事だ。まさか歌ってる本人とこんな形で会うなんて夢にも思わなかったけどな。
「そんな…」
「ファンもメンバーも丸山さんが壊れるくらいまで努力をしてほしいなんて思ってるわけ無いじゃないですか。人間ってロボットじゃないんだから限界はあります、もしもそこまで行ったんならガス抜きしましょうよ。貴方は背負いすぎだと思いますよ?」
「でも私は…」
「人間って辛かったら助けを求めたり、泣く生き物だと思いますよ。俺は丸山さんって言う助けに出会えた事でまだ人生が続いていますし、今楽しいです。だからもし丸山さんに助けがいないなら僕が助けになります」
普段の祐樹や他の人と接するより何倍も優しく接しているだろう。多分今はそれが必要なんだろう。
「まぁさっきも言ったんですけど、もしこれから傷を負って行くなら僕も貴方と一緒に傷を負いますし、泣きたいなら僕の胸をいつでも貸します。いつか治るその日まで僕は貴方のそばにいます。僕は貴方の助けになりたいんです。どうかならせて貰えませんか?」
「いいん…ですか?」
「勿論です」
そう言い終わった瞬間、丸山さんは飛びついてきた。
「…辛かったよぉ……本当に…辛かったんだよぉ!」
「お疲れ様でした」
「……っ…!みんなに迷惑を…かけぢゃった……」
「絶対にそんな事は無いですよ」
「私…は、私は、生きてて…いいんですね…!」
「当たり前じゃないですか、ファン含めて色んな人が丸山さんの事が大好きなんですよ」
「……うぁっ……うわぁぁぁぁん!!」
「よしよし。ここまで良く一人で頑張りましたね」
丸山さんに付着していた悪い物を全て流すくらいにひたすら泣いていた。あと服が涙と鼻水で凄い事になっているだろうけど、丸山さんの為になるなら本望だ。こんな服の一枚や二枚で助けられるならお安い御用だろ。
そして俺の人生で一番長くて短かった時間も終わった。
「あの、みっともないところをお見せしました…」
「別に大丈夫ですよ」
「と、とりあえずお風呂入って来ますねっ!」
「いってらっしゃい」
俺が思っていた丸山彩が戻って来てくれて嬉しさを今感じているのと、憧れのアイドルが今自分の家のお風呂を使っていると思うと変な気分になった。
こういう時はあの曲を聞こうかな。俺の背中を確かに押してくれたあの曲を。
曲を何回かリピートしていたらいつの間にかお風呂から上がっていて、俺の目の前にいた。
「布団ももう引いたし寝ようか」
「そうだね」
「もう襲うなよ」
「お、襲わないよ〜!」
「じゃあおやすみ」
「おやすみ、それと」
「何?」
「本当にありがとね!」
「こちらこそ」
俺は布団を肩まで被り、目を瞑った。願わくば明日もいい日でありますようにと願いを込めて。
次はだいぶ遅れます。わたしうそつかない。
あと、とある曲をモチーフに作りました。わかった方もしいたら感想へどうぞ。