俺の名は大森、私立秀尽学園の2年に籍を置くしがない男子高校生だ。ちなみに学校は「囚人」じゃなくて「秀尽」だ。読みは一緒だが間違えないでいただきたい。
俺なんかは志望校を親に尋ねられたときにこの名前を言ったら警察の厄介になったと勘違いされて滅茶苦茶泣かれた。なんでこんなややこしい微妙な名前にしたのかを創立者に問いただしたい。
名前に独特のセンスを光らせる秀尽学園は制服も非常に個性的だ。黒地のブレザーには赤いボタンが激しく自己主張し、その下に白のタートルネックというアーティスティック仕様。上着の派手さに目を奪われがちだが、サスペンダー付きのチェックズボンと下半身もバッチリ攻めている。
しかし校風はというと至って平凡な、どこにでもある私立の進学校である。強いて特徴をあげるとするならばバレーボール部が強いらしくそこを猛プッシュしているぐらいだろうか?
とまぁざっくり説明するとこんなものだろうか。そして我がクラスに今日、転校生がやってくるらしい。いいよな、転校生。転校生と帰国子女と留学生はラブコメに欠かせない。しかし浮足立っている俺と違い、なぜかクラスの雰囲気は重々しいものだった。俺は自慢じゃないが友達がいない。そして友達でもない奴に転校生について聞く勇気なんてものも存在していない。
「アレだろ?暴力事件起こしたやつ、今日来るんだろ?」
「なんでそんな不良が」
「大人しく少年院にでも入ってりゃいいのに」
陰キャ必須スキル「聞き耳」
この能力があれば寝たふりをしているだけでクラスの情報はだいたい入ってくる。
しかし、中々にきな臭い転校生のようだ。俺のような陰キャはきっといいカモにされてしまうのだろう。明日から学校、休むか。
「おはよう、みんな」
担任の川上貞代先生が普段通り教室に入ってくる。悪い先生ではないのだが、生徒とあまり関わらないように努めているような印象を受ける人物である。放課後に授業の質問をしに行ったところもうすでに帰った後だった、なんてことがザラにある。
「ええと、みんな知ってると思うけど今日転校生が来る、筈だったんだけどなぁ……」
まさかのサボり。転校初日でサボり。なんて凄まじい奴なんだ。感情がバグっているのか?人の印象は初対面のときに大抵決められるらしいが、その対面の機会すら与えないとは……。どうにも俺が思っている以上に噂の転校生はキレた男のようである。
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とまぁ、転校生ショックこそ生まれたものの授業は普段通り滞りなく進んでいく。妙にアクの強い先生のやけに雑学の多い授業だが俺個人としては面白おかしく聞かせてもらっている。
そして一日の半分が終わろうとしたその時、転校生は現れた。モジャモジャのくせ毛が特徴的で、イメージの下品で乱暴な粗忽者ではなく、どちらかといえば知的でクールな印象を与えられた。
しかし、遅刻しておきながらポケットに手を突っ込んだままというのはどうなのだろう?自己紹介の際に名前と「よろしく」の一言だけというのも頷けない。それでは自己を紹介したことにはならないと思うんだ。
遅刻の理由に関しては先生が体調不良と典型的な誤魔化しワードを用いて誤魔化していたが、転校生は血色もよく、至って健康体のように見える。
俺はこのあとすぐに転校生の破天荒ぶりを嫌というほど思い知らされることになる。
なぜならヤツは、俺の席の目の前を指定されたのだ。