ファイアーエムブレム風花雪月 番犬のカスパル   作:ヒラメもち

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第1話 光に満ちた日々

海に囲まれたフォドラの大地は、半島である。フォドラの喉元という険しい山脈によって大陸とは隔絶され、1000年を悠に超える歴史を築いてきた。もっとも地理関係について別にフォドラの衛星写真があるわけではないが、時折空を飛び交うペガサスや飛竜に乗って、それを確かめたのだろう。

 

現在はガルグ=マク大修道院を中心として、アドラステア帝国・ファーガス王国・レスター諸侯同盟という4つの勢力によって、均衡を保っている。だからといって平和が約束されているわけではない。盗賊の掃討や魔獣討伐で、また貴族の後継者争いで、そして時には国境付近の小競り合いで、いまだ戦いが起こることも多い。

 

己の技能を研鑽して各クラスを得た、兵士や騎士は主に従って戦場を駆ける。

 

 

そういった戦場でよく見かけられるのは、一騎当千の将が無双する姿だ。彼ら彼女らは、日々の鍛錬によってそれを成す。アドラステア帝国軍を指揮する1人の男も例外ではない。その拳は人をいとも簡単に吹き飛ばし、その蹴りは大地を砕く。才能の差というこの世界の不条理も、その男には意味をなさない。

 

 

「逃げ足だけはマシになったな。」

 

長身で筋肉質のこの男こそ、2度目の人生での父親である。

 

いわゆる異世界転生や憑依ものといえば、チートは付き物である。だがしかし、与えられた能力もないし、前世の知識を生かす器量もないし、そして紋章も俺は持ってはいない。腐った根性を叩き直すという意味で、訓練が過激化したデメリットですらある。

 

「よかったな、これが訓練で」

「ああ、生きているって素晴らしい」

 

そして今日も、俺は必死に生きていた。肉体年齢12歳の身体の、この傷みが必死さを表している。

 

背中を向けた父が向かう先には、長兄がいるはずだ。

 

今の俺ことカスパルは、アドラステア帝国のベルグリーズ伯爵家の次男である。父は彼の世代の貴族にしては珍しく、生粋の武官だ。友人の父親といえば、太った宰相と痩せ細った文官だから、他の2人が羨ましく思う時も多い。

 

 

「あら、大変だわ!今すぐに治療しないと」

「……待ってくれ、母上」

 

平均身長より背が小さく、綺麗な水色の髪を持った母親だ。地面に倒れ伏した俺に治癒の杖を持って近づいてくる。俺の水色の髪は母親譲りというわけだ。

 

この世界には魔法があって、母上はドラゴンに乗って回復魔法をかける異質な後衛職だったらしい。

 

「だめよっ!私は傷ついた息子を見ていられないわ。」

 

「今、治してはもらっては、また父上が戻ってくるじゃあないか。」

 

傷みが癒えていくのは確かにありがたいことである。それを聞いてもなお、首を傾げている母上には、小一時間ほど兄上と一緒に説得する機会が欲しい。少し抜けているところがあって、例えば本人曰く、ペガサスよりドラゴンがかわいいと言っている。

 

だからってフォドラの喉元まで、ドラゴンをスカウトしに行くなよ。母上の相棒である飛竜のカルシュは、庭で日向ぼっこする毎日である。

 

「たいへんっ!遠くで私の息子が傷ついているわっ!」

 

そんなことを言いながら、駆けていった。

傷つけたのはあなたの愛する人ですよ。

 

 

貴族といえば、兄弟仲があまりよくないことが多い。

 

その要因は、後継者争いであったり、才能の差であったり、紋章の有無であったり、多岐にわたる。だがしかし、俺と長兄は深い絆で結ばれている。

 

 

「勝てるわけがない! 逃げるんだぁ……」

 

父上がフォドラ西方に位置するブリギット諸島の侵攻に行っていたのは、たった数日であった。その仕事柄か、帝都にこの屋敷が近いことは不条理である。冷や汗をかきながらも立ち上がる。

 

兄上の悲鳴が聞こえた直後から、こちらへやってきているだろう悪魔に対して、俺はファイティングポーズをとった。

 

 

憐みの視線を向けてくるだけじゃなくて、庭師の人は父上を止めてほしい。

 

 

「勝負っ!!」

 

今日も、綺麗な青空だった。

 

 

****

 

この世界の文明レベルは、前世でいうところの中世レベルである。機械製品など科学は全く発達していないし、魔法で生活が成り立っているわけでもない。フォドラの大地を守るために、戦うことにより重きを置いてきたのは確かだ。回復魔法の使い手も傷を癒すことが第一とされ、補助魔法に目を向ける人は多くはない。

 

俺たち貴族が通う学校でも、貴族のマナーや政治と同じくらい、戦争に関するカリキュラムが多い。指揮系統が多いのは、やはり貴族が騎士団を従えて戦うからだろう。

 

友人の1人はノリノリで授業を受けているが、隣の友人は紋章学だけノリノリで受けている。

 

「どうして社交界なんてものがあるのかな。」

「貴族だからだろ。」

「あまり固い考えを持つことはよくないよ、カスパル。」

「まあ、それもそうだけどな。」

「そうだよ。はぁ……噂に聞く、ヴァーリ家の伯爵令嬢のように引きこもりたい……」

 

そう呟くのは、リンハルトという名の美男子貴族である。

 

「最後まで引きこもることを抵抗したらしいな。そのせいでフェルディナントとの婚約が破断になったらしいし。」

 

煌びやかな会場では、ダンスが行われていた。習いたてのダンスは見ていて微笑ましく思えるが、すでに政治的な意味合いも込められている。その生まれながらの身分によって誰と踊るべきかを考えないといけない。

 

身分違いの恋愛は決して多くはない。

 

「本人はもう気にしていないけどね……ところで。カスパルはちょっと、食べすぎじゃないかな。」

「やることがないし、お前らの量が少ないんだよ。そんなんじゃ、背が伸びないぞ」

 

俺やリンハルトは、壁の花に徹している。もちろん壁の花は女性に使うものだが、綺麗な緑髪と中性的な容姿を持つリンハルトには相応しいのかもしれない。

 

対して俺は、この低い身長と鋭い目つきから、番犬と呼ばれている。

 

「君より、ずっと背が高いよ。僕も適度に食べているし、バランスも気を使って……まあ、いいや。」

 

いわゆるマイペースなやつで、面倒くさがりで戦うことは好きではない。好きなことは眠ることである。紋章学の授業の時だけは唯一、やる気を見せる。貴族の子どもだけが集まっているパーティーで、彼に向けられている視線を意識から遮断するように目を細めた。

 

ただ単に眠いから、ということもあるが。

 

 

「さて。私のダンスはどうだったかな、2人とも。」

 

もう1人の友人であるフェルディナントが壁の花に意気揚々と話しかけてくる。彼に婚約者を探す目的があるわけではなくて、ダンスの出来栄えを確認するために、また社交をするために、ダンスを行っただけだ。

 

 

「ごめん、見てないよ…」

「なんだとっ!」

「いっぱいいるから、見つけられなかったんだ。食べることに忙しかったこともある。」

 

「ふっ、そうか。それなら仕方がない。このフェルディナント=フォン=エーギルもまだまだ輝きが足りないということか。」

 

以前よりも確実に上達していたはずだ、と一人頷いている彼は非常に努力家である。公爵家の嫡男に生まれた彼は、紋章と才能を持っていた。しかし決して甘んじることはなく自分を磨き続けてきた。俺のように戦いだけではなくて、政治関連や歴史、社交界でのマナーといった、多方面に意識を向けている。

 

なんとも気疲れしそうなことをしているが、貴族としての生き様を自然と心掛けているらしい。それでいて、有能な人材は平民でも他国の民でも受け入れる器量を持っているのだから、次期宰相に相応しいやつだ。

 

父親が間違っていると、ちゃんと気付いている。

 

 

「やれやれ。今日もこちらを見てくる者が多いな。有名税だろうか。」

 

「ふわぁ……男女問わずね。」

 

フェルディナントが自意識過剰なわけではない。2人とも国の重鎮を担っている親の、嫡男である。それは一応俺も当てはまるのだが、後継ぎはあくまで長男である。そして、このメンバーの中で『紋章』を持っていないから、婚約者としての『旨味』はない。

 

生まれながらに持つ才能によって、人の価値が決まる世界なのだ。『紋章』とは、女神から英雄や聖人が賜ったとされ、その子孫である貴族たちにその血で受け継がれており、いまだに発現する可能性がある。したがって、貴族として権力を示すものとして扱われる風習がある。

 

まあ、フェルディナントは紋章の有無など気にはしないし、リンハルトにとって紋章はあくまで研究対象である。この2人と同じ時間を過ごせているのは、彼らの考え方に甘んじているだけである。だから、この2人とお近づきになりたい人からすれば、邪魔者だ。

 

そういう意味でも、番犬なのだ。

 

 

「そういや、皇帝の跡継ぎってどうなっているんだ?」

「どうなんだろうね。皇帝には正室だけじゃなくて側室が何人もいるし、僕たちと同世代に皇族がいてもおかしくはないけれど……」

 

生まれる度に、そのことは新聞で帝都を駆け巡る。

だがしかし、その姿を俺たち貴族ですら見たことはない。

 

「父もそのことだけは、はぐらかす。……順調だとは言っていたが、それが何かまではわからん。」

 

突然。

楽器の音が鳴り響いた。

 

大きな扉が開いた後、赤い絨毯を歩いてくるのは、黒い軍服を纏った同年代の女の子だ。腰まで届くほど髪は煌びやかだが、真っ白だ。黒髪の長身の男が、彼女に付き従っている。

 

まあ、俺なんて水色の髪なのだから、今更か。

 

 

「噂をすればなんとやら、か。」

 

俺は小さく呟いた。

 

「エーデルガルト、と言っていたね。たしか第四皇女の名前だ。」

「服装や髪の色、そして何よりあの憎悪に満ちた目……一体、彼女になにがあったというのだ。」

「……さあな。」

 

会場がざわめいている理由は、彼女が憎むように貴族の子どもたちを睨んでいるということだ。ヒソヒソと非難する声が聞こえることに、俺は思わず顔を顰めてしまう。いまだ俺はこの世界の『闇』を受け入れることはできてはいない。

 

 

 

 

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