ファイアーエムブレム風花雪月 番犬のカスパル   作:ヒラメもち

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多数の方から評価を寄せられていて、皆さんありがとうございます。自分でも気づいて何度も直しているのですが、誤字報告もぜひぜひ。




第10話 死神と死神騎士

女神再誕の儀当日は、女神の塔にいるレアを守るように、大聖堂の警護に騎士団が集中していた。黒鷲の学級全員で考えを出し合った結果、敵の裏の狙いは聖廟だと断定した。手薄となっている重要な聖遺物がある場所だ。

 

もちろん万が一のために向かうだけで敵の狙いがそれで確定だとは限らないのだ。推測の域を出ない。元々課題は修道院の警護ということになっている上に、他の候補もある。だから、全員を向かわせることはできないのだ。

 

「だからって、なんでベルはこっちなんですかぁ!!」

 

黒鷲の学級も二手に分かれることにした。

 

「だって、屋内好きだろ?」

「なるほど。そういう理由もあったんですね。」

「まったく。うるさいやつらだ……」

「ははっ!賑やかなメンバーだねぇ、ほんと。」

 

黒鷲の学級からベルナデッタとカスパル、青獅子の学級からフェリクス、メルセデス、アネット、金鹿の学級からリシテア、マリアンヌ、クロードを引き連れて、べレトは聖廟へ続く地下へと降りていく。

 

「あの……なぜ、私を?」

「ん? あー、ラファエルやヒルダでも連れてきて、誤って聖廟をぶっ壊されても困るからな。そういうことだろ、先生?」

 

級長であるクロードまでもが、ヒルダをラファエルと同格の力持ちとして扱っている辺り、彼女はあくまで自称『かよわい女の子』なのだろう。もちろん、エーデルガルトとディミトリも彼女たちの領域に入っているし、カスパルとドゥドゥーも負けてはいない。

 

魔法の使い手については命中精度が高い生徒を選んでおり、前衛も剣や拳で戦うことのできる生徒を選別した。クロードはベレトの意図を読み取っているのだ。

 

「……マリアンヌの白魔法、期待している。」

「は、はい……」

「私たちも負けてられないね、メーチェ!」

「そうね~」

 

彼女たちもハンネマンに指導してもらいつつ、魔法を研鑽しているらしい。少し後衛が多いとはいえ、フェリクスやカスパルの速さを活かした戦い方をフォローしてくれるだろう。弓使いでありながら中衛を担うクロードも実力者である。

 

 

『なんだか、わしはここを知っておる気がする……』

(……ソティス?)

 

「どうやら、大当たりのようだな。」

「大外れですよおおお!」

「墓荒らしなんて、穏やかじゃないですね。」

「いやほんと、ここには何があるのかねぇ。」

 

やがて、開けた場所に出た。

大きく間隔を開けて、棺が置かれている。

 

「広い……ここが聖廟?」

「これは、すげぇ技術だな。」

 

自分たちの学び舎を悠に超える広さだ。まさか修道院の地下にこれほどの空間が広がっているなどと、誰も思わないだろう。精巧に造られている地下室に対して、カスパルにはまるで重機を使ったかのように思えてしまう。

 

「あの修道服は見覚えがある。」

「西方教会のものねぇ。どうしてかしら。」

 

すでにべレトたちは気づかれたようだ。人数にして30人ほどだ。武器を持った兵士が10人、残りは修道士である。しかし、修道士の中でカラスのような仮面を身に着けた者は異質に見えた。

 

 

「中央にいる甲冑の騎士、強いな。」

「……気をつけよう。」

 

骸骨を模した鎧を身に纏う馬であり、そして騎乗している騎士も骸骨を模した全身鎧であり、紅く光る目がこちらを向いている。このメンバーの中の誰かを見ているように思えたが、やがて巨大な三日月の鎌を構えた。

 

『我は死神騎士。何の因縁なのか、貴様も死神と呼ばれていたようだな。』

「……そうだな。だが今は違う。」

 

かつてべレトはそう呼ばれていた。

マリアンヌに対して頷く。大丈夫だと。

 

 

「逃げましょうよおお!」

 

『惰弱な者どもよ、退くなら命は取らん。』

 

魔法で変声したかのような、違和感のある声だ。

 

「それは聞き捨てならんな。」

「おいおい、今なら見逃がしてくれるって言っているのに。フェリクスお前は血気盛んだな。」

「そういうクロードもやる気満々じゃねぇか。」

 

剣を両手で握りこむフェリクス、弓に矢をつがえるクロード、素手で構えをとるカスパル、すでに臨戦態勢のようだ。もちろんべレトも勝ち目がないわけではないから、退く理由もない。

 

 

「さっさとこいつら倒して、目的を吐いてもらいましょうかね。」

「リシテアちゃんもはりきっているわね~」

「負けてられないね!」

 

 

フェリクスとカスパルが、敵の前衛たちと乱戦を繰り広げる。若くして人数差をものともしない彼らは、それほどの努力を積み重ねてきたのだ。後衛の修道士たちは仲間に当たることを危惧して、マリアンヌたちへと魔法を放つ。

 

 

「ぎゃあああ!」

 

『どうするのじゃ!?』

「……無駄だ。」

 

鉄の剣を振るい、次々と火球を切り裂いていく。

それは経験の為せる業。

 

魔力を喰らい、紋章の力で多少の火傷は癒える。

それは彼の『力』。

 

 

「「先生、すごい……」」

「あら~」

 

「さて。うちのお姫様たちを狙うとは、もう謝ってもどうにもならんぞ?」

「倍返しにしてやりますからね。」

 

クロードが同時に3本もの矢を放ち、3人の肩を貫いた。床に伏せて呻いている仲間たちを慌てて治療しようとした数人の修道士は視界が真っ暗となる。リシテアは闇魔法の使い手だが、ヒューベルトとはその威力が大きく異なっていた。エーデルガルトの怪力に対して、リシテアは魔法の威力なのだろう。

 

「えいっ!」

「えーい」

 

風の刃が、男を聖廟の壁まで簡単に吹き飛ばす。

火球が着弾して、その衝撃で人を地に伏せる。

 

『うむ。見事な魔法じゃ!』

「……人選を誤ったか。」

 

命を奪わないよう上手く当てているとはいえ、聖廟は傷ついていく。べレトの隣で直線上に気絶レベルの雷を的確に放っているマリアンヌやベルナデッタの方をそれぞれ向いて頷き、これが求めていたものだと、彼は再確認した。

 

前方においては剣圧と拳圧で、聖廟はボロボロである。

 

 

「棺の中に何もないことに気づいたようだな、先生。」

「……そのようだ。」

「それに、あの騎士は手を抜いて勝てるほどの相手じゃなさそうだ。」

 

宙に吹き飛んだ1つの棺の中には、遺体も遺品も何もない。セイロスどころか、四聖人や十傑のその遺体の行方はどうなったのか。クロードやべレトの中に、大きな疑問が芽生えたが、今は敵が優先である。

 

「死神騎士、なんとかしろ!」

 

敵も聖廟であることを盾にして戦うつもりだったようだが、血気盛んな生徒たち相手にその策は破られた。聖廟の最奥にいるリーダー格の男は、もはや死神騎士を宛てにするしかない。

 

 

『強き者が多いようだ。よき邂逅。』

 

甲冑の重さをもろともせず、馬は駆ける。

 

 

「狙いは女たちか!?」

「先生、そっち行ったぞ!」

 

2人を飛び越えて。

そしてメルセデスたちも素通りしていく。

 

 

「……俺か。」

 

鉄の剣で、その巨大な鎌を受け止めると甲高い音が鳴る。

 

 

『強者との戦いは、心が躍る。貴様や先程の拳士たちならわかるだろう。』

「……西方教会の目的は二の次か。」

 

べレトは冷静さを保っている。

焦りなど、彼は感じることはない。

 

『惰弱な者の指図は好まんからな。』

 

「……そうか。」

『おぬし!このままでは持たんぞ!?』

(わかっている。)

 

使い慣れた鉄の剣の罅は、次第に広がっていく。

相手の鎌は一体何でできているのか。

 

『誠に残念だ。勝敗を決するのは、武器の性能の差とはな!』

 

「「「先生!?」」」

 

『むっ!?』

 

馬が地面を勢いよく蹴って、バックステップ。

1本の銀の矢がべレトの目の前を通過した。

 

 

「おいおい、少しくらい助けを求めてくれよな。」

「……助かった。」

 

援護が入ることもべレトはわかっていたのだから、常に無愛想な彼に対してクロードは苦笑いするしかない。

 

 

「先生、剣が折れちゃいましたね。」

「……俺はここまでのようだな。」

「先生、少し動かないで。」

 

マリアンヌに対して、軽く頷く。

 

手を翳して、淡い光で腕を癒す。力を籠めすぎて彼の腕は炎症を起こしていた。目に見える傷だけに視野を狭めることなく治療しようと志して、白魔法を学ぶマリアンヌならではの技能である。

 

「鋼の剣ですら、このざまだ。」

「……そのようだ。」

 

フェリクスが深く傷の入った鋼の剣を片手でぶら下げたまま、そう告げる。周囲の敵の落とした武器をべレトが目視で探そうとも、槍と斧しか見当たらなかった。しかし見つかっても意味はない。敵と斬り結ぶことに重きを置いたフェリクスやべレトの戦い方では、鎧の相手を斬れる剣は必須だ。

 

今もなお、前方の聖廟をさらにボロボロにしながら、カスパルは回避に重きを置いて時間稼ぎをしている。

 

 

素手で戦うカスパルは、一撃でさえ致命傷。

そして、カスパルは決定打を与えられない。

 

「あいつ、大丈夫かな……」

 

「援護するにしても、カスパルのやつに当たっても問題だからな。2人とも速すぎだろ。」

 

馬から降りて巨大な鎌を振るう死神騎士に対して、カスパルは攻めあぐねていた。

 

 

「メーチェ?」

「ごめんなさい、ボーっとしていたわ。……そんなことあるはずはないのにね。」

「せんせぇ!なんとかなりませんかぁぁ!」

「あの甲冑、そう簡単に剣で斬ることはおろか槍で貫くこともできんだろうな。」

「いないやつねだりだが、ヒルダかエーデルガルトにハンマーで叩いてもらうしかないな。それとも、『英雄の遺産』使いである雷霆のカトリーヌさんか……」

 

 

カスパルの蹴りで瓦礫が舞って視界が悪く。

やがて、煙が斬り裂かれる。

 

「おいおい。カスパルのやつ、なんか投げてきたぞ!?」

 

「あら~」

「先生、ナイスキャッチです!」

 

 

べレトに向かって飛んできたのは、1本の剣。

彼が手にしたとき輝きを見せる。

 

こうして間近で見ると、血のような赤い色。

 

 

 

「おっと。運よく、先生に合うやつのようだな。」

「剣ですか。フェリクスもなんですけど、先生でよかったですね。」

「俺には実家に盾がある。剣に生きる俺は、そんなものを使う気は起きないがな。」

 

ここにいる生徒たちも紋章を持つ生徒が多いから、誰かしらが適合できた可能性は高い。カスパルは偶然見つけたこの剣にかけたのだろう。

 

 

「先生の紋章に反応しているのでしょうね。」

「でも、紋章石がないのにどうして?」

「先生、何か変わったことはありますか?」

 

マリアンヌは心配そうに声をかけた。

『英雄の遺産』は、曰く付きだ。

 

『なんじゃ、この感覚は……』

「この手に馴染む。」

 

今まで使っていた鉄の剣より、ずっと。

 

金属特有の光沢はない。

それでいて、よく斬れる剣なのだとわかる。

 

 

「先生、やっちゃってください!」

「ファイトですっ!」

 

べレトは駆けて、カスパルのその先へ行く。

 

 

「先生、選手交代だなっ!」

 

『英雄の遺産か!面白い!』

 

 

剣を突き出せば、蛇腹状に伸びた。

なぜかべレトはこの剣はそうなるとわかっていた。

 

 

『ぐっ!』

 

咄嗟に躱したとはいえ、意表をつく攻撃。

 

『隙ができたぞ!』

「ここだ!」

 

踏み込んで、剣を振り下ろす。

固い甲冑を大きく切り裂くに至った。

 

 

『見事っ!』

「……武器の性能の差だ。」

 

その意趣返しは、愛用の剣を折られて悔しかったからかもしれない。

 

『ふっ、そうらしいな。まだ完成形でないとはいえ、一線を画す『英雄の遺産』だろう。』

 

主人を守ろうと背後から突進してくる馬を、べレトは避ける。

 

『また会おう。死神……いや若き教師よ。』

 

紫色の閃光に包まれた後、その姿は消えてしまう。

べレトは辺りを見回す。

 

 

 

「高難度の魔法『ワープ』ですよ。もうここにはいないでしょうね。」

「うーん、逃がしちゃいました……?」

「逃がしちゃっていいですよぉぉ!」

「無駄な殺しはしないやつだ。自ら騎士を名乗るだけのことはある、俺は気に食わんがな。」

「ええ。そうみたいね~」

「無茶しすぎたか……身体のあちこちがいてぇ……」

 

「聖廟にあったのは『英雄の遺産』だけ、か。確かに貴重なものなんだが、わざわざそんなもののためにここまでリスクを冒すのか。今回の襲撃も、何か裏があるな。」

 

疑問が残り。

生徒たちは俯いて、空気は重い。

 

 

「それにしても、よく育てられた馬でした。……えっと?」

「ああ。そのようだな。」

 

マリアンヌらしい一言にべレトは笑みを零した。それは初めてのこと。

 

 

 

「大聖堂の揺れで急いで駆けつけたと思えば、貴方たちやりすぎよ……でも無事でよかったわ。」

 

階段から聖廟へ降りてきたエーデルガルトは大きく息を吐いた。それは安堵。

 

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