ファイアーエムブレム風花雪月 番犬のカスパル   作:ヒラメもち

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心理や語り合いの方がすらすら書けます。他の投稿作品もこの作品も、拙い戦闘描写ですよね。精進します。


第11話 剣と槍

捕らえられた修道士たちが1人残らず処刑されたことは、何人かの生徒たちに疑問や恐怖を芽生えさせた。レアはカトリーヌたち騎士団を派遣して、西方教会を処罰することに決めたらしい。

 

「……歪な剣だな。」

『天帝の剣、解放王、よくわからぬ話じゃ。まったく、あのレアというものは隠し事が多すぎる。おぬしがネメシスという解放王の血縁者で『炎の紋章』を宿しているからといって、そのような貴重な剣をほいほいと託せるじゃろうか。』

 

わからないことは多い。

それでも、彼は前に進むことしかできない。

 

「先生。少し話をしてもいいか?」

 

青獅子の学級長であるディミトリが、腕を組んで壁にもたれかかっていた。クロードも一緒に、頭の上で手を組んでべレトの部屋の扉にもたれかかっている。どうやらべレトは2人を待たせてしまったようだ。

 

「……なにかあったのか?」

「今節の課題についてだよ。エーデルガルトも交えて話そう。」

 

どうやら今節も忙しそうだ。

新任教師は、気を休める暇もくれない。

 

 

****

 

 

 

 

色とりどりの雨合羽の集団が、雨の中を進んでいた。

 

「さむーい、帰りたいなー」

「ヒルダ、俺にはお前がまったく寒がっているようには見えないんだが。」

「えー、ひっどーい!」

 

王国領はフォドラの北部に位置する。王都ほどではないとはいえ、夏でも少し肌寒さがあり、生憎の雨によって寒さは増す。べレトは生徒を連れて修道院から遠く離れた、ゴーティエ領へ来ていた。

 

「シルヴァン、無理はしないでね?」

「おいおい、イングリット。別に俺は俺さ。」

「やっぱり無理はしているじゃない。」

「お見通しか……先生。わざわざ俺の兄上のためにありがとうございます。」

 

シルヴァンにしては珍しい低い声で、真剣な顔。

 

ゴーティエ家に生まれたマイクランは今、廃嫡の身である。彼こそが今回の事件の首謀者であり、『英雄の遺産』を盗み出した大罪人としてセイロス教中央教会に扱われている。

 

「紋章がないから、苦しむ人もいるんですね……」

「そうね。マイクランも、紋章に人生を狂わされたのよ。」

「やるせない気持ちになりますよね、ほんと。」

「俺や兄貴のように仲が良い兄弟って、そう多くはいないんだな。」

 

弟のシルヴァンは紋章を持っていて、兄のマイクランは持ってはいない。紋章を持たざる兄は弟よりずっと冷遇された。マイクランはあの手この手で、幼いシルヴァンを追い詰めていたという。

 

「殿下。コナン塔が見えました。」

「ああ。北方民族に対する防衛として築かれた基地だ。」

 

黒鷲の学級からエーデルガルト、ヒューベルト、カスパル、青獅子の学級からディミトリ、ドゥドゥー、シルヴァン、イングリット、金鹿の学級からクロード、ヒルダ、マリアンヌ、リシテアという各学級の選抜メンバーで課題に挑んでいる。

 

騎士団は西方教会の残党討伐に忙しいというのだから、今回の教会の命令には元傭兵のべレトは特に首を傾げるしかない。

 

金属を叩く音がしたので、こちらが補足されたということだ。

 

 

 

「せんせー、さっさと終わらせて帰りましょうよー!」

「手筈はどうするのかしら?」

「ククク、素早く追い詰めて一網打尽でしょうな。」

「ここまで来るだけでこっちは一苦労したんですからね。倍返しです。」

「まさか嵐の前に、奇襲にされるとは思っていないでしょうね。」

「これだけのメンバーが揃っているんだ。策を考えるまでもないだろうな。」

「こういうときはあれだぜ、先生。『ガンガンいこうぜ』だ!」

「……彼らの命までは取らない。」

 

 

後衛であるリシテアや中衛であるクロードでさえ、前衛の豪傑たちに負けじと登っていく。シルヴァンとイングリットも彼ら彼女らを追いかけた。塔の中からは反響する悲鳴と、騒音が聞こえてきた。

 

 

『頼りになる生徒たちじゃのう。』

「……血気盛んだ。」

 

丈夫な素材である鋼は重い。

 

ディミトリは槍を片手で振るって、エーデルガルトは斧をぶん投げて、ヒルダは斧をバトンのように扱って、クロードは矢を同時に3本放って、兵士を気絶させていく。強力な魔法を扱うリシテアは塔を揺らす一撃を何度も巻き起こして、そしてカスパルたちはその拳術で薄暗い中で迅速に兵士の意識を刈り取っていく。

 

 

「先生、あの、私たちも行きましょう……」

「そうだな。」

 

背中の天帝の剣も、腰の鉄の剣も、べレトは一度も抜くこともなく塔を螺旋状に登っていく。視界が悪いこともあって、階段があった時にはマリアンヌの手をとって慎重に歩く。べレトの冷たい手は、彼女の温かく湿った手と、確かに繋がれていた。

 

(戦場で緊張しているのか。)

 

 

壁に力なくもたれかかった兵士、床に力なく伏せた兵士、余裕のある戦いだからか生徒たちはその命までは取ることはしていない。野党崩れの彼らはゴーティエ家領内の若者たちが多く、シルヴァンに対して配慮しているのかもしれない。

 

 

前方から騒がしい声が聞こえてきた。

生徒たちの声だ。

 

 

「きゃっ!ネズミよ!」

「ほれ、あっちに行け。」

 

エーデルガルトも可愛らしい声を出せるのだな。

 

「ねぇ、ここ……幽霊とか出そうなんですけど……」

「友好的な幽霊かもしれないな。」

 

普段気丈なリシテアが珍しくしおらしい。

 

 

べレトやマリアンヌは心の中でそう思った。

 

「おっ、先生たちも来たのか。」

「師、この塔は一筋縄ではいかないわ。」

「先生、すぐに脱出しましょう。」

 

意気揚々と鎮圧に向かった豪傑の2人も、歴史ある塔に自然発生したトラップに苦戦しているらしい。

 

「そういうわけにもいかないだろ。まだ『英雄の遺産』を持ったマイクランが、何をするかわからんしな。」

 

「えっと、エーデルガルトさんは……ネズミが怖いので?」

「師やマリアンヌなら話してもいいかしらね……。」

 

自嘲するように、彼女たちは弱みを見せた。

 

「私たちは昔捕らえられていたことがあったから。本音を言えば、牢も鎖も、この無機質な暗闇も怖いわ。」

「……そうなのか。」

 

「詳しく聞くかしら? 決して楽しい話ではないわよ。」

「先生も、後戻りできなくなるかもしれませんよ。」

 

あくまで生徒と教師という関係。

踏み込めば進むしかない。

 

それでも。

 

「話してくれ。」

 

べレトはいつだって自分の剣で未来を切り開いてきた。

 

「まあ、そこまで言うのなら。」

「最近の師は積極的ね。いいわよ。」

 

動かなくなった兄

助けを求める姉

理解できない言葉を話す妹

泣くことを忘れた弟

 

エーデルガルトが次期皇帝である理由は、皇族がすでに現皇帝と第四皇女エーデルガルトしかこの世にいないからだ。

 

「私もエーデルガルトも、元々はこんな髪の色じゃなかった。小紋章を1つ持つだけだったんです。」

「最強の『力』を得る実験のために、ただ紋章をもう1つ宿すという成果のためだけに、私は10人の兄弟姉妹を失ったわ。もちろんお父様も止めようとしてくれたけれど、傀儡の皇帝として何十年も苦しんでいる。」

「コーデリア家の一族も、父と母、そして私以外は実験で殺されました。」

 

「お二人も、紋章によって苦しんで……」

「薄々感じていたけど、マリアンヌ。あんたもそうなんですね。」

「はい……」

 

べレトの家族はジェラルトしかいない。家族を失う苦しみはわからない。母は生まれてすぐ亡くなったと聞いた。ジェラルトがその女性について語っていた時はとても優しくて苦しそうな顔だった。それだけ彼は母を愛していたのだろうし、べレトのことを愛していたとも言っていた。

 

「一体、誰がこんな世界にしたんだろうな。一体、どうすれば変えられるんだろうな。紋章なんかなくたって、俺の親父は強いんだ。紋章なんか関係なしに、すごいやつはいっぱいいるんだ。」

 

『この世界には、闇が蔓延っておるのじゃな。』

(紋章もこの剣も、世界の闇ということか。)

 

「なあ、先生。俺ってバカだから、エーデルガルトやリシテアの苦しみがどうしても他人事のように思えてしまうんだよ。だからさ、『理想』じゃなくて、ちゃんと『現実』を見ているヒューベルトが、俺は羨ましいんだ……」

 

この中で唯一紋章を持たないカスパルの顔は怒りに染まっている。べレトが彼の笑顔以外の表情を見るのは初めてだった。彼が生きてきた『現実』は、この世界では『理想』となったことで、カスパルという少年はいつも憤りばかりだ。

 

 

いまだ『現実』を受け入れられない。

空想上の物語のように感じてしまう。

 

 

「貴方は優しすぎるのよ、カスパル。」

「あんたは私たちにとっては光なんですよ。それだけは忘れないで。」

 

エーデルガルトとリシテアは、べレトにまっすぐ向き直る。

 

 

「ねぇ師、貴方もどうか自分の『正義』のために背中の剣を振るってほしい。」

「私たちが、セイロス教会をよく思っていないことは黙っておいてくださいね。」

 

もし紋章がなければ、苦しむことはなかった。

これからも苦しむ人は限りなく増え続ける。

 

『信頼の上で、話してくれたのじゃからな。』

「……もちろんだ。」

 

「私も秘密にすることには慣れているので……」

 

 

 

「よしっ! 先生、大丈夫。俺は持ち直したぞ。」

 

完全に、ではない。

ヒューベルトの生き方に彼は依存している。

 

カスパル・ヒューベルト・エーデルガルトの3人は一方的な依存で結びついている。もし誰かが欠ければ、その関係性は崩れてしまう。残された者は果てるまで覇道を止めることはないだろう。

 

「カスパル、無茶はしないでね。貴方がいなくなれば私は……」

 

果てしなく、危うい。

 

 

「……増援か。」

 

隠し扉から、およそ20人の兵士が現れた。

他の通路を使ったのだろう。

 

 

「カスパル、やつあたりしましょう。塔を明るくすれば幽霊なんて怖くないです。」

「戦っていれば、気が晴れるわ。ついでに周囲のネズミを駆逐するわ。」

「へへっ!この2人もやる気みたいだ。先生とマリアンヌは先に上まで行ってくれ。」

 

「……わかった。」

「覚えたばかりなんですが、どうぞご安心を。『ワープ』!」

 

 

 

視界が紫色に包まれ、景色が一気に変わる。

塔の最上階だろう。

 

突然現れたべレトとマリアンヌに対して、クロードがリシテアの魔法だとみんなに説明している。彼個人としては、クラス対抗の鷲獅子戦まで隠しておきたかった切り札である。

 

 

 

「貴様ら、俺から槍まで!奪おうっていうのか!!」

「お前が扱える代物ではないということは、自分でわかっているはずだが?」

「また紋章の話かよ!うんざりだ!!」

 

強力な槍の先端とは打ち合うことがないように、ディミトリが戦っている。

 

 

「兄上! 自分の身体のことは、あんたが一番わかるだろうが!!」

 

彼が槍を振るう度に、血が噴き出す。

 

 

『いかんな。あのままでは槍に呑まれるぞ。』

 

紋章を持っていないとはいえ、その血には槍が求める血が僅かには流れている。だから彼は槍の力をある程度は扱うことができる。しかし紋章石は、彼の血を糧として槍に相応しい血を作ろうとしているらしい。それがまるで紋章石の機能であるかのようだ。

 

 

「シルヴァン!お前はいいよなぁ!!お前ならこの槍も上手く扱えるんだろうなぁ!!」

 

槍から禍々しい闇が溢れ出した。

感情に応じるように、彼は闇に包まれる。

 

 

「なんなんだこいつは!!」

「兄上、なのか……?」

 

―――もはや人にあらず

4足歩行の怪獣が雄叫びをあげる。

 

『魔物じゃ!』

「魔物だと?」

 

『なぜかわからんが、知っておるのじゃ。決して野放しにするわけにはいかんぞ!』

 

 

クロードが試しに射撃を行うが、どうやら無駄だったようだ。

 

「矢が通らないな。死神騎士の甲冑と違って、単純に硬いわけじゃない。まさか全身が『英雄の遺産』だということはないよな。」

 

「嘘なら、よかったのでしょうがね。」

「よしっ!ここはヒルダの怪力でどうにかするしかないな。」

「ひっどーい! それならディミトリくんが適任じゃない!」

 

「どうやら冗談を言っている余裕はなさそうだぞ。」

「来ますっ!」

 

 

「……やらせない。」

 

押し潰さんと飛んでくる岩を、蛇腹状に伸ばした天帝の剣でべレトは弾いた。

 

 

「岩を吐くなんて、兄上は悪いもんでも食べたんだな、ははっ……」

「放心している場合じゃないでしょ、シルヴァン!」

 

『障壁じゃ。一点集中の攻撃ならば、並みの武器でも通る。』

「どうやら障壁のようだ。一点集中しよう。」

 

マリアンヌだけは、ソティスがアドバイスしてくれたのだと理解した。

 

 

「さらに追撃がくるぞっ!」

「礫か!?」

 

自分自身の岩の身体から飛散する針。

生徒たちは冷や汗をかきつつ、その場から逃げる。

 

 

咄嗟にべレトはマリアンヌを抱えて、背中で庇う。

 

 

「せんせ、い……?」

 

初めて感じた痛み、これが痛み。

 

「血がいっぱいで……心臓が止まってて……せんせぇ……しんじゃいやぁ……」

 

最近べレトは身体の調子がおかしい。

人らしさを取り戻してきている。

 

『無茶をするな。おぬしとわしがやられたのなら、時を戻すこともできんぞ。』

「俺は平気だ。みんなはどうだ。」

 

彼の心臓は、『生まれたとき』から動いていない。

 

 

「よっし! とりあえず。先生も無事のようだな。」

「えっ!この大ケガで!なんでクロードくん!?」

「俺が知るか。」

 

魔物は待ってはくれない。

その4本足を動かして地響きを起こす。

 

 

「殿下、お任せを!」

「ドゥドゥー。お前だけでは厳しいだろう。」

 

2人が、拾った鉄の盾を使い突進を防いだ。踏ん張っている彼らの顔は必死である。ディミトリやドゥドゥーでなければ、いとも簡単に吹き飛ばされていただろう。

 

 

 

「殿下とドゥドゥーでも押されているなんて。」

「兄上、もう止まってくれよ!」

 

轟音と衝撃が、塔を揺らす。

 

 

『おぬし、未だ『力』が不安定な今が好機じゃ!』

「一斉攻撃だ!」

 

魔物の顔面を狙って力任せに生徒は武器を振るう。

鋼でできた武器が歪むだけの結果に、顔を顰める。

 

 

 

マリアンヌの直線上の雷撃トロンが、ついに障壁を割る。

 

「「「「先生!!」」」」

 

 

身体を天帝の剣に委ね、秘めた技を放つ。

炎の紋章は熱く。

 

 

「その名は、破天!!」

 

蛇腹状態で複数の斬撃を高速で加えて、そしてまっすぐ貫く。

 

 

 

「やったか……?」

 

崩れていく魔物の身体。

人だったものに対して、生徒たちは息をのむ。

 

 

「残ったのはマイクラン、と。……これでも壊れない槍か。一体、何からできてるのかねぇ……」

「ダークメタル、書物にてそう呼ばれていますな。」

 

各自考察を言っている。この天帝の剣も例外ではないだろう。

 

「『英雄の遺産』、か。……いつか必要になるかもな。」

 

ディミトリは、小さく呟いた。

 

 

「シルヴァン……?」

「ちくしょう!一体なんなんだよっ!!紋章って!!」

 

シルヴァンの声は静寂の塔で反響して、やがて消えていく。

 

蛇足です。説明文はまとまって長く、描写は1行の文字数少なめ、個人的にスマホで読みやすくなるよう心がけています。皆さんはハーメルンさんのどの設定で読んでいますか?

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