ファイアーエムブレム風花雪月 番犬のカスパル   作:ヒラメもち

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第13話 運命を変えた少年

セイロス聖教会の大司教補佐であるセテスの妹、フレンの行方不明。誘拐の可能性が高いと断定したレア様は直ちに3人の教師を呼び出して、生徒にも捜索を手伝わせることを命じて、今節の課題とした。

 

 

騎士団は修道院外部をくまなく捜索している。

だからといって。

 

「俺たちに修道院内を探せって言われてもな。」

「オデ、フレンのこと、よく知らないんだけど。」

 

筋肉質な男、ラファエルが呟く。

 

「背の高さは……、リシテアと同じくらいで、レア様と似ている髪の色だ。薄い緑な。」

「妹と同じくらいなのか。」

 

彼が肉料理を食べる手を止めたのは、ほんの一瞬だった。

 

「腹、空いてないといいんだけどなぁ。」

「あんたら。だれと身長が同じですか!だれが子どもですか!」

「別に子ども扱いはしてないだろ。な?」

「あはは……」

 

声を荒げるリシテアを諫めるレオニーに、イグナーツは苦笑いするしかない。

 

 

「そのタルトを譲ってくれるのなら許してあげます。」

「いいぞ、ほら。」

「はむっ……」

 

よくエーデルガルトがしているように、お菓子を近づけると、彼女は小さな口で精一杯に入れる。リシテアや俺にとって貴族らしくはない行儀の悪さなのだが、ここにいるメンバーで気にする者はいない。

 

 

気にするやつが来た。

紫髪の長身な、ローレンツである。

 

「君たち、こんなところで休んでいる暇はないぞ。」

「オデ、歩き回って腹が減ったんだ。」

「とはいってもなぁ、私たちが修道院内を捜索したところでな。」

「私たちでは入らせてもらえない場所は多数あります。子ども扱いですよ。まったく、人選ミスです。」

「ぐっ、確かにそうだが。」

「地下には僕たちの知らない部屋があるそうですね。一体、誰が設計したんだろう。」

 

俺からすれば、ガルグ=マク修道院は、かの名作『ハリー・ポッター』のホグワーツだと思っている。あれよりはまだ、謎が少ないけれど。

 

アビス、そういう言葉を聞いたことがある。

 

 

「一応、聖廟はもう確認したしな。」

「うっ、思い出すだけで、足が痛くなってきましたよ……」

 

聖廟の捜索はべレトたちが行った。

 

天帝の剣を守ったことは認められたが、聖廟を瓦礫まみれにしたことは厳格なセテスによってこっぴどく叱られた。妹の失踪で取り乱している彼は、聖廟に入ったことのあるべレトや生徒にその場所を頼んだ。

 

ここにいるリシテアはそれは理不尽だと思っていて、9割以上は西方教会と死神騎士のせいだと言う。

 

「そういうわけで、闇雲に捜していてもどうにもならなかったんだよ。」

「オデの勘、冴えてると思ったのにな。」

「……捜索も足で稼ぐだけでは貴族失格だな。今少し、君たちと意見を交わすとしよう。」

「わかった!ところで、腹減っただろう。肉は食べるか?」

「貴族様も食べないと、思考が鈍るぞ?」

 

「ふむ、一理あるな。本来ならマナーに反することはしたくはないが、緊急事態だ。仕方あるまい。」

 

ローレンツがマナーよりも捜索を重視すると聞いて、レオニーは肘をついて感嘆の声を漏らした。口を開けば貴族という言葉ばかり発する彼を、彼女はあまり好んでいなかった。

 

 

 

「だからといって、ラファエル。お前はナイフで肉を突き出すな。せめてフォークにしたまえ。ええい、僕は自分で食べられる!」

「わかった!どんどん食うんだぞ!」

「適量で十分だ。そうそう、件の死神騎士がいまだ見つかっていないらしいぞ。」

 

「えっと、下町に現れたんでしたっけ。」

「夜な夜な仮面を被ったやつが町を徘徊しているらしいな。」

「ああ。下町に住む民は安心して出歩けない事態となっている。まったく、嘆かわしいことだ。」

 

 

「その死神の、騎士がフレンを、誘拐したのか?」

「ええい、全部飲みこんでから言え!」

 

ローレンツは珍しく冷静さを失う。

 

 

「可能性としてはありますね。」

「そもそもなんでフレンさんなんでしょう。優れた容姿なのは確かですけどね。フレンさん、無事かな……?」

 

イグナ―ツ、一目惚れしたのか。

心の中で呟き、ラファエル以外は淡い恋心を察した。

 

 

「フレンは聖セスリーンの大紋章を持っていたはずですよ。」

「しかしリンハルトも、小紋章なら持っているな。基本的にあいつは無防備だぞ。」

 

小紋章より、大紋章の方が4聖人から継いだ血が濃いということだ。

 

 

「それなら、わからんな。紋章で決めるのなら候補はもっと多いはずだ。クロードのやつはともかく、皇族のエーデルガルト、王族のディミトリ、それにこの僕だってそうだ。」

「この際、だれでもよかったのでは?」

 

俺に対して、机の下で手をそっと握らせる。

なぜ自分だったんだと、リシテアはよく口にする。

 

 

彼女の父親や母親は虐げられて、リシテアが連れていかれる姿をただただ嘆くことしかできなかったらしい。もしヒューベルトが、あいつら『闇に蠢く者』を調べる途中で、彼女が捕らえられた場所を見つけられなかったらと思うと、ぞっとする。

 

それでも、手遅れだったけれど。

 

 

「まあ、紋章絡みなのは確かだよな。」

「それならば、命までは取るまい。」

「少し安心しました……いや、安心できませんよね。ごめんなさい。」

 

「紋章って、そんなに大事なものなのか?」

「どうなんだ、貴族様?」

「貴族としてのステータスにはなる。だが紋章を持っている者全員が歴史に名を遺すわけではない。持つ者としての責務を果たすことが求められるのだ。紋章は試練のようなものさ!」

「いや、呪いでしょう。間違いなく。」

 

睨むようにそう告げる。

 

怒りをぶつけても意味がないことはわかっている。

もう手遅れなのだ。

 

「リシテアさんの言うことも正しい。望まずして紋章を持つ者もいる。望もうとも紋章を持つことのできない者もいる。紋章は手に入れることも捨てることもできないのだから、呪いでありやはり試練なのだろう。」

 

その過酷な試練から、リシテアもエーデルガルトも逃げられないんだな。彼女たちは決して強くはない。別に普通でよかったけど2人は運命から逃れられない。先生やヒューベルトは2人をちゃんと前に進ませてあげられるけれど、今も俺は隣にいるだけだ。

 

 

俺は普通なのだ。

それでいて、世界の『異物』なのだ。

 

 

「そうですね。好きで紋章を持っているわけじゃない人が、少なからずいることはお忘れなく。」

 

かつてのオレからはずいぶんと大人びてしまったと思う。それでも、もう少しくらいこの学園生活に甘えても責められないだろう。エーデルガルトとリシテアの未来のためなら、俺はなんだってやる。もし途中で果てたとしても、ヒューベルトがうまくやってくれるはずだ。

 

 

「カスパル、手伝ってください。」

 

リシテアはお菓子を取りに、席を立った。

 

 

「おう!」

 

大きく返事をして追いかける。

 

 

あいつらによって、俺は彼女たちの『枷』にされるつもりはない。

 

 

 

****

 

 

べレトたちは、騎士団宿舎で倒れていたマヌエラを発見した。彼女が指し示した方向には地下に続く通路があり、マリアンヌとヒルダに彼女のことを任せ、そしてエーデルガルト、ヒューベルト、クロードを連れて、教会地下へと降りた。

 

 

偶然にも、地下通路を2つの棺を引きずる死神騎士を見つけた。

 

 

『若き教師よ!地獄の舞踏を愉しもうぞ!!』

 

『おぬし!おぬし!先程から防戦一方じゃぞ。』

(ここでは戦いづらい。)

 

死神騎士の背後には棺に入ったフレンがいる。

見たところ、外傷はない。

 

 

狭い通路での戦いにおいて、背中の長剣は扱えない。

 

「実家の『英雄の遺産』がさっさと貰えたらよかったんだけどな。ほら、特注の弓だ。」

 

それはキラーボウと呼ばれて、対魔物用武器である。その危険性からか多くは出回ってはいない。

 

 

『むっ!』

 

的確に、紅く輝く目を狙うが鎌を振るって弾かれる。

その隙をついてハンマーが振るわれた。

 

 

「打撃なら効くようね。」

「エーデルガルト様の怪力は並みのものではありませんな。」

「……退く気はないか。」

 

 

脳を揺らされた死神騎士は頭を振った。

それは否定の意味も含む。

 

 

『我が真に求めるは、悦楽だ。貴様らの指図は受けん。』

 

「……そうか。」

「先生。フレンは奪還したぞ。」

 

横抱きしているフレンを、死神騎士は一瞥しただけ。

 

 

『これで遠慮する必要はないな。さあ!剣を抜け!』

『そこまでだ。』

 

べレトも見覚えのある紫色の閃光。

ワープの魔法で現れたのは全身鎧の仮面の男。

 

「また仮面のやつかよ……」

 

『これからいくらでも機会はあるだろう。直に騎士団も来るから、ここは退くことをおすすめする。』

 

その異質な声が地下で反響する。

 

『邪魔が入るんだよ?』

『……承知。』

 

「おいおい、挨拶もなしに帰るっていうのか?」

 

クロードたちも逃がす気はない。

 

「一体、貴方は何者かしら?」

 

『我が名は『炎帝』。世界をあるべき姿に還す者。』

 

 

「『炎帝』ですって!?」

「その名を語るとは、万死に値しますな。」

 

エーデルガルトは目を見開き、ヒューベルトは不敵に笑う。

 

 

『………怖いことを言うな。』

 

べレトたちは逃がすまいと武器を構えたが、それよりも魔法の発動が早かった。

 

 

 

「……逃げられたか。」

「なあ。エーデルガルト、炎帝のことを知っているのか?」

「師も、聞きたそうね。いいわ。……フォドラを統べる絶対無比の皇帝の完成形のことよ。」

「それってつまりあんたのこと、なのか?」

「ええ。聖者セイロスの小紋章、そして師と同じ『炎の紋章』を私は持っている。」

 

ハンネマン先生によって特定された紋章だ。解放王ネメシスから受け継いだとされている。

 

「……俺と同じ?」

「それよりも異質よ。私は、2つの紋章を持つ者の成功例なのだから。」

「信じられねぇけど、……信じるしかないよな……」

 

「貴方が信じる信じないはどうでもいいわ。多くの屍の上に私は立っていること、それは事実だから。」

「わるい。」

 

10人の兄弟姉妹だけでなく、コーデリア家の子どもたち、それよりも過去に生まれた子供たちがサンプルだった。リシテアは運よく成功して生き残っただけだ。彼女たちに対して強制的に行われた人体改造実験が、プロジェクト『炎帝』

 

 

「炎の紋章は解放王が持っていたものですからな。先生が、生涯独身だった、かの英雄の子孫とは考えにくいでしょう。」

 

『よもや炎の紋章とはな』

「……俺も何かされたのだろうか。」

 

レアも、そして父ジェラルトでさえも出自について何も言わない。

 

 

「……この剣はどうする?」

「いいえ。それは師の剣よ。紋章石のない剣を扱えるとは思っていないわ。」

「しかしとんでもないな。紋章の優劣があるからって、そこまでやるのかよ。」

「ここまでのことがこの世界の裏では起こっているのよ。……愚かな犠牲を二度と生まない世を創る。そのための皇帝に、私はなるつもり……だった」

 

彼は絶対に死なせない、と小さく呟く。

 

 

「……エーデルガルト?」

 

彼女は礎になって、果てるつもりなのだろうか。

 

 

「『炎帝』の名を知っている者は多くはない。私が入念に探っておきましょう。」

「ええ、よろしくね。」

「帝国絡みなら、あんたらに任せるしかないか。」

 

 

「……フレンを連れて戻るぞ。」

「それもそうだな。もう1つの棺に入っていた、赤髪の女子も息があるようだぞ。」

「どうやら、生徒のようですな。」

「外傷はないけれど、まだ油断はできないわ。急ぎましょう。」

 

炎帝を騙る仮面の男にはどこかで会った気がする、そうべレトは思わずにはいられない。

 

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