ファイアーエムブレム風花雪月 番犬のカスパル 作:ヒラメもち
時が経つのはあっという間だ。
傭兵をしていた頃のことは、あまり覚えていない。
「師、準備ができたわ。」
べレトを独特の呼び方で『せんせい』と呼ぶ白髪の少女は、黒鷲の学級の級長であるエーデルガルトである。とある村に滞在している際に彼女と出会ってべレトは新任教師となって、少しずつ彼女はその胸の内を明かしてくれるようになっていた。
「そうか。」
「ふふっ、貴方に勝利を捧げてみせるわ。」
べレトが微笑むと、エーデルガルトも嬉しそうに笑みを返した。次期皇帝として日々研鑽する彼女にとってべレトの指導は必要ないかと思われたが、父譲りの采配の実力を確かめられて以降、慕ってくれている。
鋼の斧を軽々と振るう彼女には、生徒としても仲間としても信頼を置いている。
「先生、このフェルディナント=フォン=エーギルの栄えある戦いも見ていたまえ。」
フェルディナントは騎馬に乗って、開始を待つ。エーデルガルトへ何かと対抗心を持つ彼だが、いまだその槍術は彼女の斧術には敵わない。しかし馬術と合わせて戦うのなら、互角にまで達することができる。
周囲を見渡した彼は、ベルナデッタへ大きく頷いて安心させる。
「はいぃ、誰も見学に来てなくてよかったぁ」
ベルナデッタは胸に手を当ててホッとした雰囲気を見せている。彼女の領地付近にある戦場に着くまではビクビクしていた。学園生活によって少しずつ彼女の被害妄想は緩和してきているが、彼女が父から受けた傷はまだ癒えてはいない。
心優しい彼女だからこそ、学友のために理学を学んできた。
「これで一安心ね、ベルちゃん。」
ドロテアは元々、理想の男性と結婚して安泰な未来のために学園に入った。今となっては親友と一緒に理学を学ぶことを楽しんでいる。ベルナデッタが精密制御、そして彼女は高難度魔法というそれぞれの長所を身に着けた。
ため息をついて、うとうとしているリンハルトの肩を揺らした。
「心地いい平原だね。朝日が…まぶしい……」
落ち着いているリンハルトは、実は誰よりも学友を信頼していることをべレトは知っている。無茶をしてでも前に進もうとする親友たちをサポートするために、紋章学と白魔法を研鑽している。
杖を持った手で大きく背伸びをした。
「身、隠す場所、少ないです。」
流暢に話すようになってきたペトラは、冷静に戦場を見渡す。フォドラに人質の身として連れてこられた彼女だが、次期皇帝であるエーデルガルトと友達としての関係を築いていた。そして祖国の未来のために、ヒューベルトから言語と政治学を真剣に学ぶ姿をべレトは見てきた。
ペトラは、繊細な銀の弓の点検を終えた。
「前回のように、クロードの策に乗せられるわけにはいきませんからな。」
ヒューベルトは先にペトラと席を外す。エーデルガルトの従者としてその忠義は高いが、彼女の利益となるためならと独自に動くことも多いようだ。何かと裏の多い彼だが、今回の模擬戦に対する熱意は誰にも負けてはいない。
自分の魔力を刃とする特殊な籠手が、朝日に照らされて輝く。
「先生、よく見ているな。」
カスパルがベレトに声をかけた。
「父が、俺の教師像なのかもしれないな。」
傭兵団を率いた父を見ていたからこそ。
実力以外、生徒たちの個性をちゃんと見る。
エーデルガルトは準備が完了したと言っていたが、基本的にマイペースな生徒が多い。それが黒鷲の学級なのだ。互いのことをちゃんと知ろうとして、もっと役に立とうとして、長所を伸ばしてきた。
『おぬしは教師という職が似合っておるようじゃな。』
(傭兵としか比較できないがな。)
べレトは、彼ら彼女らの中心にいた。
生徒であり、仲間なのだ。
「皆、行くわよ!」
次期皇帝は、仲間と一緒に野を駆ける。
****
紋章学の権威であるハンネマンは今まで担任として、何人もの生徒を見てきた。帝国・王国・同盟それぞれの学級を受け持った経験から、その手腕は今年の青獅子の学級の生徒たちからも称賛されている。
今までで悩みを抱える生徒が最も多いこともあって、彼は予断を許さない毎日だ。
「先生、俺は戦えますよ。」
日々鍛錬するディミトリを見て、ハンネマンは目を細める。フォドラ十傑のブレーダッドから伝わる小紋章を持ち、鋼の槍を軽々と振るう彼の怪力は尋常なものではない。しかし彼が抱えている精神病とその症状は、本来戦いをできるようなものではない。
優しげな顔をしているが、彼は死に場所を探しているのだ。
「殿下には、俺が付いていますから。」
ダスカーの悲劇以来、罪のないダスカー人は虐殺を受けた。その生き残りであるドゥドゥーはディミトリの従者である。表情は固く寡黙だが、根は優しい生徒であってディミトリのことを常に気にかけている。ディミトリの意志を第一に優先する彼は、今回も従うだけ。
「ちっ、猪も犬も引っ込んでいればいい。」
フェリクスも亡き兄のことをいまだ吹っ切れておらず、同族嫌悪としてディミトリを嫌っていた。フォドラ十傑のフラルダリウスから伝わる大紋章を持つ彼は、反応速度に優れている。剣の腕はべレトにも喰らいつけるほどだが、独断行動が目立つ。今回の模擬戦もまた、強敵に単身立ち向かっていくつもりだ。
「3人とも無茶はダメよ~」
メルセデスに優しく戒められて、彼らは苦い顔をする。フォドラ十傑のラミーヌの紋章を持つ彼女は、癒しの力に優れている。それは傷に対する治癒魔法だけではなく、優しい雰囲気にも表れていた。いつもより興奮している親友にも声をかけた。
「ごめんね。お父さんもいるから舞い上がっちゃった。」
努力家で空回りしやすい性格だが、友達想いのアネット。鍛錬ばかりする彼らをメルセデスと一緒に追いかけ回している。フォドラ十傑のドミニクから伝わる小紋章によって攻撃魔法に優れているが、魔道学院主席卒業なだけあって回復魔法についても十分な実力がある。
「メルセデス、アネット、君たちのことは俺が守って……イテテ!!」
シルヴァンは先日の兄のことについて、いまだ気に病んでいるのは確かだ。フォドラ十傑のゴーティエから伝わる小紋章を持つ者として、遺産の管理も担っている。学級以外の女性に声をかける頻度が多くなっているが、それは彼のトラウマを掘り起こしうる。
「シルヴァンはもう少し緊張感を持ちなさい。」
イングリットもフォドラ十傑のダフネルから伝わる小紋章を持つ者だ。彼女もまた領内の財政難で悩みを抱えており、婿を娶って実家を継ぐことと、夢の騎士になることの揺らぎで苦しんでいる。軽口を叩き合いながら2人はそれぞれ槍を持って、ペガサスと騎馬に跨る。
「あの人も見ているんですね……」
ロナート卿を討った人物であり、彼の息子を罪人として教会に連行した女性騎士を見ていたアッシュだが、首を振って戦場に目を向けた。この学級でどことなく平凡な彼は、弓や槍を学んでいるがまだまだ未熟だ。とはいえ、騎士に憧れる彼の実力はいつか花開くだろう。
「俺がいるからな。勝てるさ。」
どのクラスよりも勝つことが一番だと考えているのだ。優しくて、お互いに古い付き合いだからこそ、『強さ』を求め合って、そして生き急ぐ。また、力なき者のために戦おうとする騎士道精神に溢れる生徒が多い。王国の次代を担う者たちは、危うさと可能性を兼ね備えている。全員が暗い過去を抱えている学級は、新任教師のベレトには荷が重かっただろう。
「己が満足の行く戦いをしてきなさい。」
穏やかに、ハンネマンはそう告げるだけだ。
野を駆けていく若き俊英たち。
ままならんものだ。
教師という職業の重みは、いつも考えさせられる。
****
もう20年……、時が経つのは早いものね。
アドラステア帝国の有名歌劇団で歌姫をしていた彼女だが、今は教師兼医師として飛び出してきた。天性の歌声は永遠のものではないと気づいたからだ。同盟の次代の担い手たちを見ていると、若さを実感してしまう。
「今回はなんともやりづらいねぇ。俺はこれからもずっと白兵戦は苦手になりそうだ。」
おどけた仕草を見せるクロードは、よく作った笑顔を見せる。歌劇団に属していたマヌエラからすれば、それはお見通し。同盟の盟主リーガン家の嫡子だが、今までその存在は知られていなかった。隠し事を話してくれるまでの関係にまだ誰も至っていないのは、彼のガードが高い証拠。
「クロードの策も役に立たないようだな。前哨戦のように、この僕に任せていればいいさ!」
グロスタール伯爵家のローレンツはクロードが次期盟主となることをよく思ってはいない。その対抗心から、一貴族として日々研鑽している。プライドの高さは減点で、有能な女性を見出してはアプローチをかけていることは減点。まあ、根はいい少年だけどね。
「やる気だな! オデも負けてられねぇ!
親を失くしているが、妹思いで楽観的な少年のラファエルだ。その筋肉は無造作に鍛えられていて体格が大きい。座学の授業では頭を抱えているが、騎士となることを目指す彼のガッツは若さの証よ。ムードメーカーな彼は見ていて楽しいが、まあ、恋愛ごとにはとことん向いていない。
「えー、クロード君がなんとかしてくれるんじゃないのー?」
甘え癖のあるヒルダとは意気投合した。片付けが得意で、マヌエラ自身は苦手なことも影響していて、代わりによく自分の経験談をしてあげている。級長のクロードに対する信頼は高く、彼とよく軽口を叩き合う。まあ、クロードが腹を割って話すようになるまではその仲は進展しないだろう。まったく、ガードの固い男はこれだから。
「我らが級長もこの地形じゃお手上げみたいだな。まあ、それはどこも同条件か。」
歴代最強の騎士団長と言われるジェラルトを師匠として慕うレオニーは、決して恵まれた出自ではない。男勝りな彼女は彼のような傭兵になるために日々鍛錬している。ジェラルトに指導を受けることが多いが、彼が多忙であることにはいつも残念そうだ。年の差もいいと思うわよ、あたくし。
「あはは……それにしても綺麗な場所だなぁ」
イグナーツは個性的な学友に囲まれている中で、平凡な少年だ。弓を扱えるが、お世辞にも戦いを好んでいるとも言えず、本人は余暇を作っては絵を描く。商人の親から、次男の彼は騎士となるように言われていてそのジレンマに押し潰されそうになっているが、マヌエラからすれば我が道を行けと言いたい。
「油断しないでください。何人かは一直線に来るでしょう。」
リシテアの、その若くして白い髪は、きっと理由があるのだろう。幸せそうな毎日を穏やかに生きるようになった彼女を見ていれば過去について問いただす気も起きない。入学当初よりも明るくなっているのは黒鷲の学級の生徒のおかげ。無茶ばかりしていた頃に寝不足で倒れた彼女を、保健室に必死な顔で担ぎ込んできた少年とは今も上手くやっているみたいね。
「先生。あの、大丈夫ですか?」
先日のケガを心配してくれるマリアンヌに対して、ウィンクで返す。
医学と白魔法について学ぼうと、いつも保健室に通ってくれる彼女とは生徒の中で一番仲が良い。入学当初は常に暗い表情をしていた彼女も、その想い人と同様に感情豊かになってきている。やがてその目にかかった前髪をばっさり切って、その美しい顔を皆に見せてくれる。恋は女を美しくするというのは本当だと思うわよ、あたくし。
「それじゃあ、策を発表するぞ。」
「おっ!まってましたー!」
「ようやくか。この僕を納得させてみたまえ。」
直前になってようやくクロードが本気の顔をすれば、ローレンツまでが真剣な表情で耳を傾ける。みんなあちこちの方向を向いているが、やるときはやる学級だ。次代の同盟はなんだかんだ言いながら、次期盟主の彼を慕うのだろう。マヌエラがやるべきことは、若き生徒たちの応援すること。
「気をつけて行っていきなさい。」
野を駆けていく生徒たちは我が子のように可愛い。
これだから教師という職業はやめられない。
みなさんなら、どの学級を選ぶ?
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黒鷲の学級
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青獅子の学級
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金鹿の学級