ファイアーエムブレム風花雪月 番犬のカスパル   作:ヒラメもち

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第15話 鷲獅子戦

フォドラ最大の平原にある、とある場所だ。ベルグリーズ家の領地であって、親父との鍛錬の時にここを使ったこともある。ここには建物も小麦畑も1つもないのは、かつて帝国と王国の戦場として使われて血に濡れているからだ。

 

もちろん、その痕跡はもう見受けられない。

 

 

「先に行くぞ!」

「やっぱりこわいですぅぅ!」

 

フェルディナントがその後ろにベルナデッタを乗せて、馬で駆けていった。戦場中央の台地に設置された弓砲台と魔法砲台をどの学級も確保するべく動いている。シルヴァンやローレンツ、レオニーが騎馬で駆けて、空中ではイングリットがペガサスで空を翔ける。

 

戦力差で言えば、互角の人数。

ベルナデッタも絶叫しながら氷柱を突き立てている。

 

 

「おっと……?」

 

 

急に、騎馬の戦いは俺たちを避けるように戦場を変えた。これから戦場中央で行われることを予感して馬たちが必死に退散したのだろう。苦笑いしながら、台地の3方向で俺たちは立ち止まった。

 

 

「お前らを抑えられるのは、俺かヒルダかだからな。」

「まさか、あのクロードが前衛に来るなんてね。」

「ここで雌雄を決するのも悪くはないだろう?」

 

エーデルガルトとディミトリは武器をぶつけ合う。2つの紋章を持つ彼女に対して怪力で拮抗状態なのは、ディミトリがそれだけの修練を積んできたからだ。

 

 

「君と、こうして戦うとは思いもよらなかった。」

「そうね。これが模擬戦だからまだ良かったわね。」

 

 

「おいおい、王国と帝国は戦争でも始めるのか?」

 

1本の矢がその間を切り裂いた。

2人は鋼の武器を振り下ろし、台地に罅が入る。

 

 

「おっと!」

 

クロードは楽しそうにしながら、バックステップで躱した。

 

 

「クロードくん、無茶しすぎじゃないかなー」

「殿下の邪魔はさせんぞ。」

「はぁはぁ……オデも仲間に入れてくれよ。」

「おっ、ラファエルも混じるか?」

 

ドゥドゥーが3人の戦いを邪魔しないように時間稼ぎを行うことはクロードの策略だったらしい。ラファエルは肩で息をしながら、鋼の籠手を構えた。その彼の呼吸が淡い光とともに癒えたのはマリアンヌの遠距離回復魔法だろう。

 

「戦いを始めようにも、まずは避けないか?」

「あっちゃー、これは本気出さないとまずいかもね。」

「なんだなんだぁ?」

 

そう提案した直後に、数々の魔法と矢が着弾する。

 

これも三つ巴戦の醍醐味ということだろうか。各々の陣営は味方に当たらないように少し遠くに放っていて、前衛を信頼しているからこその援護だ。

 

 

 

「けほっけほっ。皆、容赦ないわね。」

「ああ、威力が高すぎるぜ」

 

エーデルガルト達や俺たちはその余波を避けきれずに傷を負うが、長距離回復魔法によって治癒していく。魔法が空中でいまだ飛び交う中、一度俺やエーデルガルトは下がって態勢を立て直していた。

 

「サンキュ、リンハルト。」

 

 

煙を裂いて振るわれる槍の柄を、俺は拳で叩く。

 

「俺たちの級長の首は、取らせねぇよ!」

「くっ!」

 

いまだ傷を負ったディミトリの動きは、ずっと鈍い。

見切ることは容易だ。

 

 

「私たちが先ってわけね。」

 

俺を狙った矢を、エーデルガルトは斧で軽快に落とす。

クロードは矢を片手で弄んでいる。

 

「あんたら。ヒューベルトをどこに隠したんだ?」

「常に私の指示を受けるわけではないわ。彼と違ってね。」

 

エーデルガルトの視線の先には、ラファエルと拳を交えるドゥドゥー。

 

 

「もらったぁ!」

「声出しながらかよ!」

 

ヒルダが斧を振り下ろせば、ちょうど岩があった。

その礫で対して俺は思わず目を閉じてしまう。

 

 

迫る危機を本能的に察知した。

 

「やべぇ!?」

 

「皆を勝たせるために!」

 

紫色の閃光、ワープで現れたのはマリアンヌ。

 

腹に鈍痛。

氷柱で宙を舞っているのか。

 

 

「カスパル!?」

 

視界が揺らぐ。

エーデルガルトの声がした。

 

俺がこのメンバーに喰らいつけているのは、オレが幼い頃からやっていた親父との鍛錬の賜物だったのだ。しかし最近は成長の伸びも次第に落ちてきて、どんどん成長していく皆に追い抜かれていく。

 

結局、俺は平凡なのだろう。

 

 

「油断したな! エル!」

 

気づけば俺は再びの衝撃の後、地面にぶつかる。

 

愛称、か。

 

ディミトリは俺の知らない彼女を知っているらしい。いつか未来で、フォドラを統べる皇帝と王として、『対等な名君』として、2人は隣り合って立つのだろう。

 

 

「ちくしょう……」

 

エーデルガルトが打ち上げられて、その身体は俺とぶつかったようだ。

 

 

「俺って足手纏いみたいだな……」

「立ち上がりなさい。貴方がここで立ち止まるはずはないわ。」

 

動じていない風に立ち上がって、彼女は斧を再び構える。

 

強い。生き方も、『力』もその扱い方も彼女はずっと成長していたらしい。俺の生きていた『現実』のこともどんどん吸収して自分の知識の1つに変えていく。彼女も俺が強いと思っているから、手を貸してくれることはない。

 

 

「決まったと思ったんですけどね。」

 

かつて虐げられた彼女の瞳は、今は輝いている。前を見据えていて、エーデルガルトと対峙しているリシテアは強くなった。彼女には俺の助けはもう必要はないのかもしれない。彼女も俺が強いと思っているから、手を貸してくれることはない。

 

 

俺は、いまだ誰かの手を掴むことを恐れているけれど。

 

『なに腑抜けてるんだ、オレ。そう難しいことを考えていても、わかんねぇよ。』

自分で自分に言い聞かせる。

 

オレは、立ち上がって拳を構える。

嬉しそうに、エーデルガルトは頷いた。

 

 

「さて、鷲獅子戦も終わりに近いわよ。」

 

矢と魔弾が、河川の向こうから的確に飛んでくる。ペトラとベルナデッタによる精密射撃が行われているのだ。ディミトリやクロードたちならともかく、他のメンバーは戦闘をしながらそれを避けることはできない。

 

「ヒューベルトの策か!?」

「これが次期皇帝の従者か。末恐ろしいな。」

「いつも通り、思いもよらない策を考えたわね。」

 

ヒューベルトは孤高だ。エーデルガルトに付き従っているが、独自に動くことは多い。エーデルガルトは彼の秘策を理解すると微笑んだ。弓砲台と魔導砲台の移動を画策しているなど、誰が思うだろう。

 

 

「エーデルガルト。あんたのクラスの、ベルナデッタ。面白い魔法を使いますね。」

「ええ。彼女らしい魔法よ。」

 

レスキューという高難度魔法が鍵だった。

 

 

縦横無尽に戦場を駆けていたフェルディナントは退いたように見せかけて、一度彼女を下ろす。戦場を駆けるあまり体力はないのだから、守り通す必要があったからだ。そして、再び中央に戻った彼を、飛び散っていた砲台とともにベルナデッタが後衛まで回収した。

 

 

 

圧倒的優勢。

それを判断したのか戦いの終わりを告げる音だ。

 

 

 

「やられたな。リシテアたちが上手く意表をつけたと思ったんだがな。」

「フェリクスに黒鷲の学級の後衛へ向かわせる手筈だったが、ヒューベルトに拒まれたか。」

「やはり、一筋縄ではいかない人たちね。紙一重だったということかしら。」

 

「いやはや、この経験が活かされないことを祈るばかりだ。」

「元々は、王国と帝国の戦をなぞったものだったな。」

「それも過去の話よ。ゆくゆくはこの行事も忘れられていくでしょうね。」

 

今この瞬間も、やがて遠い思い出となるのだろう。

 

 

「これからもずっと仲良くしようぜ、次期皇帝、次期国王。そうだな。この晴れやかな気持ちを忘れないよう、宴でもするか? 急いで修道院まで戻って食堂なんだけどな。」

「そうね。その提案を呑みましょう。」

 

「くくっ……宴なんだから、飲まないとやってられないよな!」

「戦勝国も同意しているからな。我々も、必要な物資と人員を確保しておこう。」

「そういうつもりで言ったのでは!……もう、勝手に笑いなさい」

 

学友たちのところへ駆けつける2人に、エーデルガルトも背を向ける。

 

 

「皆、お疲れ様。」

 

黒鷲の旗がグロンダーズ平原に掲げられている。

今は、勝ち負けはどうでもいいことだった。

 

 

****

 

べレトは半年前と同じくボロボロの制服を着た生徒たちを迎え入れた。あの頃と違うのは彼が満足そうな笑みを浮かべていることだ。生徒たちの満足そうな顔を見て彼も大きく頷いた。

 

今回のMVPであるヒューベルトの周りには人が集まっていて、彼もどことなく嬉しそうだ。なんだかんだいって、学園生活を満喫している1人なのだ。そうでなくては、本気の顔はしない。

 

「よくやった。」

「ええ。ありがとう。」

 

べレトとエーデルガルトは喉を潤して、一息つく。

 

「師、貴方の采配は私たちに必要みたいね。ずいぶんと危ない橋を渡ってしまったわ。」

 

「ああ。冷や汗の流れる戦いだった。」

『汗など掻いておらんじゃろうに。』

 

「そうね、どうせ私はまだまだよ。だから、もっと師に学ばせてもらわないとね。」

 

軽口を叩き合う関係をべレトは手に入れるなんて、かつての『死神』と呼ばれた彼は思っていなかった。自分をいい意味で変えてくれたのは、ソティスや生徒のおかげなのだろうと実感している。

 

 

「カスパル、宴に行くぞ。」

「お、おう。先生、なんか生き生きしてるな。」

 

時々、人となりが掴めないときがある。

 

エーデルガルトとリシテアをいい意味で変えたのは、彼であることはと確かだ。迷える生徒をべレトは導くだけ。たとえこの手を取ることを渋ろうとも、まっすぐ接していく、時間がかかったとしても………そうべレトは思っていた。

 

 

宴の途中、彼はいなくなった

 

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