ファイアーエムブレム風花雪月 番犬のカスパル   作:ヒラメもち

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第19話 雪月風花

窓の外では、少し早い雪が舞っている。

 

大司教レアは、べレトの行方不明の報告を受けて、酷く憤りを見せた。自室に閉じこもることが多くなっていて、時折り『アガルタ』という言葉を口にしては、憎悪の声を部屋の外に漏らしている。

 

 

その事情は察することはできる。

だが今は、療養に専念するしかない。

 

「痛みはどうですか?」

「酒を飲んだら癒えると、俺は思うぞ。」

 

もし背中に盾がなかったら、もっと傷は深くなっていたはずだ。その特別な『血』と、マリアンヌの適切な応急処置があったからこそ、ジェラルトは生きている。もちろんいまだ未練があるから、死ぬつもりもない。

 

もう戦うことはできないという可能性が頭に浮かんだが、あまり気にはならなかった。

 

 

「その……あの……」

「わかった、従おう。」

 

バツが悪い感じがしたジェラルトは、酒を今日も控えることにした。ちなみにこの男は息子と同じ大食感であって、加えて、多くの酒場でツケを残しているほどの酒豪である。

 

 

「あんたの料理が美味いから、美味い酒のつまみにしたいんだ。」

「いえ、私なんかまだまだで……」

 

少しでも消化がいいように調理された、肉団子に被りつく。怪我人の癖して肉を食べたいと言えば、マリアンヌは手のこんだ料理を作ってきた。さすがに、酒の代わりになるようなものまでは思いつかなかったらしい。

 

 

「いいや。うちの息子の嫁に来てほしいくらいだ。」

「わ、私なんて……」

 

「鈍感、大食感、いずれは俺のような酒豪だろうな。知っての通り、いろいろなものを抱えている厄介者だ。そんな愚息や、こんなぐうたらな俺を支えてくれるんだ。傭兵として、目の前の宝をみすみす逃す気はないぞ。」

「でも、紋章のこともあって……」

 

「自信を持て。」

 

武骨な手で、頭を撫でられる。

彼女の亡き両親とも違う、温かさを感じた。

 

「紋章があろうとなかろうと、気にしないやつだって、あんたは知っているはずだ。べレトは必ず還ってくる。俺とあいつの息子が柔なはずはない。」

「……はい。信じていますよ。先生は約束を破らない人ですから。」

 

「ああ。傭兵は信用が大事だからな。そう教え込んでいる。」

 

剣で自分の道を斬り開く、つよい人。

だから、危うい。

 

ようやく心を取り戻してきた彼は、支えるべきものを増やして、多くの人から愛され、やがて女神のような存在になってしまう気がする。いつだったか、彼に人としての生き方を続けてほしいと思った時には。

 

引っ込み思案なはずなのに、べレトを支えたいと思った。

 

 

「雪が……?」

 

雪が止んだことを仲間に伝える声を聴いた。

 

広い大空へ飛び立つ鳥たち。そして、1匹の青い小鳥が大切なことをマリアンヌに伝えて、群れを追いかけていく。

 

 

「しかし歳を取ったな、俺も。あいつはもう、立派な教師なんだな……」

 

「はい。べレトさんは、みんなに幸せを運んでくれる人です。」

 

晴れ空の向こうに鳥たちが飛んでいく。

そして、扉が開いた音。

 

 

「先生、おかえりなさい。」

 

「べレト、お前無事でっ!?」

 

大司教レア、セテス、フレン、そして母親のような緑色の髪だ。身体には傷一つなく、人間らしさはより顕著になっていることが、とあることを言いづらそうにしている表情が物語っている。

 

子どもらしい表情だ。

 

「なにか……食べさせてほしい……」

 

お腹の鳴る音が、響いた。

 

『そこはただいまじゃろうが!』

『あたしの義娘になるマリアンヌちゃんなのよ!』

 

「ったく、騒がしく……なりそうだな……」

 

「父さん、ありがとう。マリアンヌたちを守ってくれて。」

「馬鹿野郎……、大切な義娘を、傷つけさせるかよ……」

 

「べレトさん。少し待っていてください、準備しますから。」

「ああ。助かる。」

 

彼女も嬉し涙を流しながら、静かに笑う。

目の前にちゃんとある幸せを噛みしめていて。

 

 

人間ではなくなる未来を恐れることは決してない。

 

 

 

****

 

今日は、月が輝く夜だ。

ただ無心に訓練場で槍を振るう。

 

「はぁ…はぁ……」

 

いつもより集中できていない。

このままの『力』では何も成すことはできない。

 

「あなたはこれからどうするの?」

「メルセデス、か……」

 

英雄の遺産アラドヴァルを、強く握りしめた。

どの武器よりもずっと、重い武器だ。

 

先日届けられたその槍とともに知らされたのは、彼が王国で罪人として扱われていることだ。宮廷魔導師のコルネリアは少しずつだったとはいえ、王のいない王国を乗っ取っていた。強力な魔導兵器を開発したとして支持されているらしい。

 

「俺に、近づくな。」

 

ディミトリは気づけなかった。

復讐と、この学校での安らぎのせいだ。

 

「えっとね。私の弟が、帝国にいるのよ。あまり心地いい場所じゃないけれどね。」

 

いつもと変わらない、のんびりとした声だ。

 

「俺に、帝国などへ亡命しろと?」

 

ディミトリにとって、帝国は母を苦しませた国だ。父や多くの騎士を失ったダスカーの悲劇も、帝国からの干渉だと考えている。いつの日か、帝国の貴族を根絶やしにしたいとすら思ってここまでやってきた。

 

「エーデルガルトさんなら、受け入れてくれるわよ。きっとね。」

 

白い髪となったエーデルガルトと再会して、あの頃と変わらない彼女の笑顔を見て、ディミトリは動揺した。カスパルたちと軽口を叩き合う彼女は、普通の女の子に見えた。そして彼女たちならば、帝国を変えてくれるだろうと信じてしまった。

 

そんな彼女とは対等の国王として立とうとしたディミトリだったが、今の立場は罪人にすぎない。

 

「でも、それは私のわがままよね。」

 

「……どういうことだ?」

「あなたに生きてほしいというのは、私の願いだから。」

 

まただ。

心の『傷』が傷む。

 

いまだ、両親の仇を取れないのは自分のせいだと思っている。彼はここ数年の間、自分が生き残ったことを後悔している。だから、復讐者としていつか果てることを望んでいる。

 

「ねぇ。ディミトリは私に生きてほしいって思う?」

 

まただ。

彼女の優しさは、彼を苦しめる。

 

「どうしてっ! お前の運命を俺に選ばせるんだっっ」

 

同族嫌悪のようなものを感じる。

 

「ディミトリがどんな選択をしても、少なくとも私は付いていくわ。」

 

たとえそれが『死』だとしてもだ。

死なせないための、死ぬ覚悟。

 

だってメルセデスにとっては、大切な男の子だから。目の離せない弟みたいで、頼りになる兄みたいで、助け合いの関係を一番に結びたいと思った男の子。

 

 

「その短剣は!?」

 

新しい鞘に入った、古びた短剣は、いつの日にかディミトリがエーデルガルトに渡したものだ。剣で未来を切り開けと、決して立ち止まらないようにと、彼女にかけた『決意』と『呪い』の証。

 

「私が預かっておくわね。いい?」

 

「そうか、エル、君は……、懸けたのかっっ」

 

彼女の『呪い』を断ち切った男がいる。

自分の居場所を見つけることができたということ。

 

 

「あなたのことをよろしくって頼まれたわ。元々、そのつもりだったのだけれどね。」

「俺の……おれなんかのために……もう、誰も命を懸けないでよ」

 

『傷口』が、開く。

 

 

何度拒絶したとしても。

『愛』を、メルセデスは笑顔でくれる。

 

 

「おまえたちは、やさしすぎるだろぅ」

「あなたも、やさしいのよ。」

 

槍が手からするりと地面に落ちた。

雫でどんどん濡れていく。

 

 

「優しくなんか、ない……、おれのために、あいつらは……」

 

ダスカーの悲劇は、いまだ『傷み』を訴える。

 

王族のために命をかけることは、近衛騎士ならば当たり前のこと。その職務を全うしようと彼らが、苦痛に歪んだ表情のまま、息を引き取っていく光景を目の当たりにした。生まれ持った『血』だけが、当時のディミトリの持ちうるものであり、自分ではその価値を実感できない。フェリクスの兄を含む、多くの騎士の未来を奪って、今ここにいる。

 

破滅に向かう場合でも、付いてきてくれる。

運命に立ち向かう場合でも、付いてきてくれる。

 

命をかけて。

 

 

「おれは……どうすればいいんだぁぁ」

 

母が病に伏せた時も、継母が自分を見てくれなかった時も、エルと別れた時も、父が目の前で殺されたときも、彼は泣くことはなかった。幼い頃から親しい者とも、どこか壁を作っていた。

 

 

王国を離れて、士官学校に入って。

(ほだ)された。

 

 

「よしよし」

 

固く鍛えられた両腕で少しでも力を入れれば壊れてしまう、そんな華奢な身体。

 

「メルセデス……」

 

ディミトリは弱々しくて、やさしく慎重に、両手を彼女の背中に回した。

 

「ドゥドゥー、フェリクス、シルヴァン、イングリット、アネット、アッシュ、エル……」

 

今残っているものが、零れおちないように。

大切な人たちの名を噛みしめる。

 

「わたしは、あなたを置いていかないわよ。」

「俺は、孤独じゃなかったんだな……」

 

決して傷つけさせない。

これ以上、大切な人は失うまいと、ここに誓う。

 

 

****

 

重苦しい空気から逃げるように、クロードは寮の屋上に登った。

 

遮るものはなく、身に染みる風は心地いいとすら思う。

寝転ぶ彼の側には、『英雄の遺産』の弓

 

 

「どうしたものか……」

 

フォドラの闇は、強大だ。

一体、どれだけの戦力を隠しているのやら。

 

これから、その導火線に火をつけることになるのかもしれない。

 

 

「さっむーい」

「なんだ、ヒルダか……」

 

顔を見なくとも、感情豊かに笑っていることはわかる。

彼女ならば、取り繕った顔をする必要もない。

 

「風邪引いたら、責任とって看病してよね。」

「俺もお前も、そんな柔な身体はしていないだろ。いつもは鍵で閉じているここに来られるやつは、そう簡単にいないが……ヒルダなら可能だな。」

 

「クロードくんがたまにひょいひょいと上がっているのを見て、できるかなーって。」

「よく見てるな。」

 

「だって目を離したら、すぐにどっか行っちゃうんだもの。」

「流浪人は気楽でいいぞ。」

 

「うん、そうだね。卒業すれば、もう会えないかもね……」

 

卒業後、特に同盟の連中はバラバラになる。

自分の領地を持つ奴が多いからだ。

 

 

「ねぇ、クロードくんは何のために入学したの?」

 

風で揺れる桃色の髪が視界に入るが、クロードは彼女の真剣な表情と向き合うことはない。

 

「次期盟主としての人脈づくり。」

 

すらすらと口から出た答えは、ありきたりなもの。

嘘ではないが、それは真実ではない。

 

「そういうヒルダは?」

「この学校に来たら見つかるかなーって。」

 

「なんだそりゃ。」

 

ヒルダには兄がいる。

だから、家を継ぐということもない。

 

「社交界で会った人と結婚して、子どもを産んで、そうして幸せになって。でも、やっぱりね。それだとなんだかなーって。」

「それで。何か夢は見つかったのか?」

 

「うん。同盟にね、みんなが通える学校を作ろうかなって。」

「へ……?」

 

その答えに、クロードは珍しく動揺する。

ヒルダらしくないと、そう言ってしまいそうになる。

 

「へぇ、そうなんだな……」

 

ちゃんと向き合っていない自分が、彼女らしさについて語るということはおこがましいことだ。

 

「カスパルくんが聞いてきたんだ。そういう学校は、同盟にはないのかってね。」

 

そんな学校は、彼の本当の故郷にもない。

 

貴族の女性が通う学校でもなく、士官学校でもなく、平民が通う学校を作ろうとしている。女性の識字率はあまり高くないのだから、多くの女性がいずれ社会に参画するということは革新的なこと。

 

「ははっ、あいつもおもしろい価値観の持ち主だな!」

「うん。でもカスパルくん行方不明だし、もし無事だとしても、帝国で学校を作るのに忙しくなりそうだし。」

 

甘え上手だ。

それでいて、ちゃんと頼れる人を選ぶ。

 

自分を頼れる人だと思って必要としてくれることは、悪くはない。

 

「ねぇ、クロードくん? 誰かに手伝ってもらいたいなーって?」

「いいぜ。その話、乗った。」

 

彼女と、フォドラの未来について話すのは悪くはない。

夢を語る彼女の笑顔は眩しい。

 

自然と笑みが零れている。

俺らしくない、そう思った。

 

「ほんと!」

「おいおい、俺は仲間には嘘はつかないぞ。」

 

「じゃあ、あたしたちは仲間ってことだね!」

「まあな。」

 

魔弓を手に取った。

これは平和を作るための『力』だ。

 

 

「よしっ、まずはマヌエラ先生にでも意見を聞いてみるか。」

「うんっ!」

 

何かと気が合うヒルダと会えたのだから、フォドラに来たことも無駄じゃなかった。甘え上手のように思えて、実は面倒見がいい。表も裏も、強さも弱さも、ちゃんと見てくれる、そんな女性。いろいろと言葉の裏を考えてしまって、疑心暗鬼に陥って、めんどくさい自分を望んでくれる。

 

言わなくても伝わるとか心が通じ合うとかっていうのは、この現実ではやはり『理想』のままなのだろう。それでも。

 

 

「なあ、パルミラ王国って知っているよな。」

「『フォドラの喉元』の向こうの王国だよね?」

 

『本物』と呼べる関係を、ずっと求めてきた。

離れて暮らしている両親のような。

 

「俺が王様になりたいって言ったら、どうする?」

 

「どうするって………もしかしてパルミラまで駆け落ちするってことですか。たしかに社交界は嫌いじゃないけど知らない国はさすがに心の準備がいるし、それに兄さんがどういうかわかりませんから、今は決められません、ごめんなさい。」

 

「ずいぶんと早口だな。まっ、気長に待つとするさ。」

 

察しが良すぎる彼女は、なんだかんだ言いながら付いてきてくれるとわかっている。だから、こっちまで顔が熱くなる。

 

 

 

****

 

兄弟姉妹の墓へ、紅花を供える。

今となっては彼女の家族は父しかいない。

 

「私はたくさんの大切な人ができたわよ。もう独りなんかじゃない。」

 

カスパルから始まり、従者のヒューベルトとは新たな関係を結び、友人としてリンハルトやフェルディナント、そして士官学校に入った後は、ペトラ、ベルナデッタ、ドロテア、教師であるべレト。

 

絆は重なり合って、他の国の学友とも仲良くなった。

 

「エーデルガルト、そろそろ……」

「リシテアは、覚悟ができたのね……」

 

強くなんかなくたって、たとえ弱くたって、一緒にいたいと思える仲間だ。そのことをちゃんと自覚できたのは、大切な人を失ってからだ。満身創痍だったカスパルは無事とは思えず、べレト、ヒューベルト、リンハルトも行方不明のまま。

 

「身体の調子は、どう?」

「変わりはないのは、いいことなんでしょうね……」

 

少しでも延命すること。

紋章を消すこと。

枷を肩代わりすること。

 

そのために命をかけるほど必死だったなんて、知らなかった。たとえ、叶わないと思っていた『奇跡』が起きるとわかっていたとしても、その身を犠牲にしてほしいなんて思っていない。

 

 

「あの人たちが、そう簡単にくたばるとは思えませんよ。だって……馬鹿ですから……」

「ええ、ほんと……男の子って……」

 

目の前の女の子が泣いていることを、歪んだ視界で知る。

気丈に振る舞っていたとしても、女の子。

 

無事だとわからない今は、嬉し涙を流せるはずがない。

 

 

「行きましょう。」

「はい。」

 

士官学校の制服は、存在証明。そして、腰まで届く白い髪をサイドポニーに結んで、お揃いの髪飾りを身に着けた2人は、実の姉妹のよう。

 

重々しい空気が漂う宮廷に入る。

エーデルガルトはリシテアを伴って紅い絨毯の上を堂々と歩く。

 

 

「お父様。お辛い身体であるのに、お呼び立てして申し訳ございません。」

「いいや、構わない……ぁぁ……エーデルガルト、よく来たな……元気そうだ……」

 

 

イオニアス9世という名を持つ、エーデルガルトの父は、玉座に座ることさえ辛そうである。黄金の冠を身に着けてはいるが、傀儡の王として受けた精神疲労をその病的な顔が物語っている。彼自身もう長くはないことはわかっているが、エーデルガルトに皇位を継ぐまでは決して死ぬつもりはなかった。

 

「すぐに、終わらせますから。」

 

今もずっと、息子と娘が苦しめられたことについて、自分を責めている。

 

 

「エーデルガルト、此度はどうして我々を集めたのかな?」

 

「伯父様……いえ、アランデル公。皆をここに集めたのは他でもないわ。」

 

ここに、現在帝国を牛耳っている6人の貴族がいる。

宰相たちは急な招集に対して、格下の存在を睨む。

 

 

軍務を担うカスパルの父は目を閉じて腕を組んだまま、政務を担うリンハルトの父は顎に手を当てて、黙したままだ。

 

 

「皇位継承についてよ。」

「ほう……?」

 

アランデル公の訝しむ視線は、小娘たちを貫いた。

お前たちにそのような『力』があるのかと問う。

 

今すぐにでも捕らえて、自分たちに従属する気のないだろう、『炎帝』に枷をつける処置を行うつもりだった。

 

 

「次期皇帝として、ここに宣言する!」

 

父の隣に立って、振り向く。

 

「『血』は争えないということか。」

 

父の隣に立った小娘を見て、呟く。

アランデル公はあの忌々しい『白き獣』の面影を見た。

 

 

 

「父が皇帝の座を降りたのち、私が一時的に皇位継承するが……」

 

愚かな発言。

身を乗り出すように、怒りを見せたのはアランデル公。

 

「貴様ッ!血迷ったか!!」

「皇位継承だなんて、聞いていないぞ!?」

 

 

「民のため!すべての人のために! 一度、世界を壊すのよ!!」

 

凛とした声は、ざわめく彼らを黙らせる。

 

 

お父様は、どうか穏やかな余生をお過ごしください。

ああ、エル……、終わらせてくれるのか……

「いいえ。新しい時代の始まりよ。」

 

正式な手順などもう必要ない。

父から冠を受け取って、天に掲げた。

 

 

「帝国史上、最高最善の皇帝、我『炎帝』は、ここに最初の公務を宣言する。『貴族制度を廃止し、すべての民による安寧の世を築くこと』」

 

 

『革命』という言葉が、頭に浮かぶ。

 

紋章と貴族制度の打破。

民主制政治に向かって、君主自らの手で改革するということ。

 

貴族たちは唖然として、大きく口を開いた。

 

 

「それを、最後の公務とするわ。」

 

皇帝自らが、その地位をいずれ放棄すると宣言した。

 

 

「以上よ。」

 

「お供しますよ、エーデルガルト。早速、議会の体制を築かないと。」

「頼りにしているわ、リシテア。」

 

混乱する場に対して。

してやったりという笑みを2人でこぼして、背を向けた。

 

 

「と、捕らえろぉ!」

 

宰相直属の兵士が槍を構える。

だが、その場にいる衛兵全員ではなかった。

 

「ど、どうしたっ、貴様ら!?」

 

 

エーデルガルトやリシテアも無策ではない。

 

この数年で軍部はカスパルの父親や兄が、完全に掌握している。銀行を中心として、金融機関についてはリンハルトの父親が主導で立ち上げた。そして、ヒューベルトが構成した諜報部隊によって、帝国に潜む『闇に蠢く者』を炙りだす。

 

 

コーデリア家の領地から少しずつ。

男女問わず、民が学問を受ける風潮を広めてきた。

 

みんなが自分にできることをやったから、ここまで来れた。

 

 

「小娘たちは楽には殺さんぞ! 再びその肌を切り裂いて!その血を焦がして!今度こそ、貴様らを化け物に変えてくれよう!」

 

「この外道がっ……げほっげほっ

「イオニアス様、どうぞこちらへ」

 

近衛兵が激昂する先代皇帝を避難させていく。

 

 

「エーデルガルト、大丈夫ですか?」

「リシテアこそ。」

 

『傷み』は癒えてはいない。

でも、今は弱さを見せるときではない。

 

強くなければ、何も成せないから。

 

 

「反逆者をっ!殺せっ!!」

 

潜んでいた仮面の闇魔導士たちが現れ、手を翳した。

 

 

「皆の者、迎え撃ちなさい!」

 

「闇の魔導には気をつけて!」

 

手筈通り、味方に迎撃するように合図した。

 

 

 

「……来たか」

 

無言で腕を組んでいたベルグリーズ伯が、大きく口角を上げる。

 

 

「エーデルガルト、やっぱり彼はヒーローですよね。」

「ええ。私たちにとっては、間違いなくね。」

 

深い暗闇でも、雨の強い日でも、会いたいと思っていれば、いつかひょっこりと顔を出す。自然と『傷み』が和らぐのだから、駆けつけてくれる瞬間が何となくわかる。

 

今日も、光をくれる。

 

 

 

「飛竜の鳴き声だと? 貴様らは一体、何を企んでいる。」

 

「策略に関することを、俺はあいつに何も教えてはいない。」

 

 

轟音

 

 

大扉を貫いてでも進んできた、ドラゴンライダー

 

 

 

 

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