ファイアーエムブレム風花雪月 番犬のカスパル   作:ヒラメもち

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第20話 光に満ちた魂

「寝坊助ドラゴンを叩き起こして、急いで来たんだが……」

 

青年は飛竜から降りた。

エーデルガルトとリシテアの前に立つ。

 

 

「ただいまって、言える雰囲気じゃないみたいだな。」

 

その横顔は、大切な少年の面影がある。

黒髪の青年の笑顔は。

 

 

「変わらないわね。」

「そうですね。」

 

危なっかしい彼を、2人で支えるべく両隣に立った。

 

 

「生きていてよかったわ。」

「無事でよかったです。」

 

たとえ強くなんかなくたって、隣にいてほしい人たちがここにいる。

 

 

「心配かけたな。」

 

ようやく『答え』を俺たちは見つけられた。

まだ遅くはない。

 

 

「そういえば。あんた、背が伸びてよかったですね。」

「ここ1年、私も背が伸びていないのだけれど。」

「ちゃんと食べていたら、2人もそのうち伸びるだろ。」

 

「………貴様らは欲しないのか?」

 

愚かな若さを目にして、アランデル公は不敵に嗤う。

 

「何をだ?」

 

「我々には1000年間築いてきた科学がある。人を力で捩じ伏せるための禁忌の魔導も、世界征服を容易に可能とする兵器も、そこの失敗作の命だって救える医学もある。この混沌とした世界を変えるためには、獣たちに頼らない人の世界を創るには、我々の力は必要だ。」

 

聡明な炎帝ならわかるはずだと、囁きかける。

 

 

「確かに、貴方たちの知識を利用するつもりだったわ。」

 

現状、偽りの女神にしがみついている世界だ。いまだに偶像を崇拝し、自分の価値観からくる判断を女神の言っていることなのだと当て嵌めて、それが正義なのだと執行する。だからフォドラの民に現実をつきつけて、ちゃんと自分の目で正しいことを見てほしかった。そのための『力』を欲した。たとえ、その道の果てで『屍』となって、自分は『礎』になってもよかった。

 

でも、異界の知識を安易に広めることは混乱を招くことを懸念している人がいて。

 

「その科学が混沌を呼ぶのなら、要らないわ。」

「そもそもあんたらが何もしなければ、いつか世界は変わっていましたからね。」

 

女神の眷属や十傑から継いだ、その血は薄まっている。いずれ紋章を持つ子どもはほとんど生まれなくなり、その価値も忘れられていく。紋章なくして、才ある若者は多い。また、航海技術の進歩によってブリギット諸島や他の島国、フォドラの喉元の先のパルミラ、フォドラの外とは少しずつ交流している。1000年かかったが、民主的な世界に向かって変化している。

 

 

「なんで加害者に頭を下げてまで、生かしてもらわないといけないんですかね。そんなことしたら、後悔して逝きますよ。」

 

過ぎていく時間を惜しみながらも、ちゃんと噛みしめたくて、だから未来を恐れる暇はない。

 

「平穏の時代を創った後は、私は1日ゴロゴロするつもり。この皇帝の地位も、紋章2つとも、捨てるのよ。私はリシテアと一緒に普通の女性になりたいだけ、今はそう思っているわ。」

 

 

―――私たちには、普通に生きてほしいって望んでくれる人がいる。

 

「小娘がっ! 温い理想を持ちおってからにッ!!」

 

「ええ。だから、現実にしてみせるわ。元・叔父上」

 

もう、利用し合う関係は終わった。

今はもうエーデルガルトは独りじゃない。

 

 

「ていうか、お前らは女神を排斥したかっただけなんだろ。」

「そういうことよ。フォドラを統べるという欲望は、彼らには嫌と言うほど見せつけられたわ。」

「だから私たちも個人的な事情なんですけど。受けた苦しみ、倍返しですよ。」

 

「貴方たち『アガルタ』の民とは、今日を持って決別するわ。」

「恐怖で、みんなを縛り付ける政治なんて、時代遅れだろ。オレもみんなを守るために、……俺もお前の正義に立ち向かう。」

 

女神は、いつの時代だって民を第一にして治世していた。そしてヒーローは、いつだって信念をぶつけるだけ。

 

 

「残念だ。愚かな者たちよ。」

 

「ああ。俺たちは愚かだ!」

 

今でも、わからないことが多い。

それでも。

 

「だから、転んで怪我してみないと判らない。時には道に迷い、間違えたとしても、それでも……、オレはまっすぐ立ち向かうだけだ。」

 

 

「お前は一体、何者なんだ!!」

 

計画の邪魔をする新たな敵を、アランデル公は指差す。

 

忌々しい。

才能のない『獣』ごときが、意見するなど赦されない。

それでいて1人なのだとは思えないほど、異質だ。

 

 

「番犬のカスパルだ!」

 

もう仮面で、自信に満ち溢れた表情も、戦うことを躊躇う顔も、隠すことはない。彼女たちを護るために、どんな鍛錬だって耐えられた。いつだって彼の隣には、一番に護りたい2人がいて、ちゃんと支えてくれる人たちがいる。

 

立ち向かう勇気をくれる。

 

 

「おっさん!」

 

意趣返しとばかりに、指差す。

 

「リシテアやエーデルガルトも、この国も! もう傷つけさせないからな!」

 

「ほざけ!」

 

お互いに譲れないものがある。

それを押し通すためには『力』が必要。

 

未来を斬り開くため、大切な仲間を守るため、閉鎖的な風潮をひっくり返すため、自分の意志を伝えるため。

 

そうやって理由をつける。

でも結局のところ、自分のために戦うのだろう。

 

だから。

時に、すれ違う。

 

でも。

帝国、王国、同盟の未来を担う若者たちは、1つの場所で過ごす時間に絆された。

 

 

 

「若造が、どこまで苛立たせてくれるッ!」

 

アランデル公の顔は、もう人の者とは思えないほど、怒りに歪んだ。彼はその悲願のために人間らしさを尽く失っていて、女神を信じる『フォドラの民』を殲滅せんと何年も必死に生きてきた。そして、炎帝の完成を持ってして、1000年以上かかった一族の悲願がようやく叶うはずだった。

 

「我々に逆らって、無事に済むと思うなよ!!」

 

20年も生きていない小娘たちによって、計画を台無しにされた。

 

 

「我が名はタレス。アガスティアのタレスなり!」

 

紫がかった肌を持ち、常に白目。

その禍々しい魔力の強大さは、リシテアをも超える。

 

 

「蹂躙せよ。巨魔獣よ!」

 

闇の魔法に包まれて、巨大な魔獣が2本足で立つ。実際に目の当たりにしたことはないが、恐竜のようだ。かつてマイクランが成り果てた魔物よりずっと巨大で、より強力な個体だろう。

 

「人工紋章石の完成形。これこそが我々の研究の成果だ。」

 

フォドラのあちこちに出没する魔獣は、放棄された個体。世界に混沌を呼ぶのはいつだって、欲望。

 

 

「さあ! 最後の戦争を始めましょう!」

「よっしゃー!切り込み隊長行くぜ!」

 

勢いよく、その懐に潜り込む。

渾身の拳は、その甲殻を打ち砕くことはできない。

 

「硬いな。」

 

「馬鹿め! 英雄の遺産も紋章も持たない貴様に何ができる!」

 

カスパルはバックステップで一度下がる。

咆哮とともに地団駄を踏み始めれば、宮城は揺れる。

 

 

青年は魔獣を見据え、拳を腰だめに構えた。

 

「ほう……」

 

カスパルはやがて、その構えを解いた。

父は敵を叩き伏せながら、感嘆する。

 

『戦鬼の一撃』という、父の拳の奥義は何度も見た。それでも、目の前の甲殻には届かない。だから、その上を目指す。背中を見せるように上半身を大きく捻り、光のオーラを全身から噴出する。

 

「カスパル、貴方も魔法を……?」

「温かい光、たしか天使の名を冠する魔法のはずです。」

 

 

「ふっ。生半可な魔法など、効きはせん。」

 

 

胸に右手を当て、オーラを伝える。

集中していて無防備な状態。

 

 

「何をしているか知らんが、隙だらけだ!やってしまえ!!」

 

 

満足の行く技の完成に、子供っぽく笑った。

そして、目を見開く。

 

 

「これがオレたちの、『華炎』!」

 

飛びかかってきた魔獣へ、オーラを纏った拳を突き出す。紋章石によって作り出されたアーマーを打ち破り、魔獣特攻の魔法が闇を打ち破って、光はその巨体を浄化する。

 

生命の冒涜から、解放されていく。

魔獣も元々は人間だったということだ。

 

 

「馬鹿な……ただの人間に敗れるだと……」

 

「鍛え方が違うんだ。」

 

光の残痕が、花びらのように舞う。

それが献花だと言わんばかりに。

 

 

 

「き、貴様も薄汚い獣の末裔かッ!」

 

事実を認められない、1人の敵幹部が激昂する。

その手に、『死』をもたらす禁忌魔法を掴む。

 

「これからの人の世に獣は必要ない。惨めに果てろ!」

 

 

「魔法剣!」

 

白いサイドポニーがたなびく。後衛だと信じて疑われなかったリシテアが、魔力の剣を振るった。

 

 

「最後の戦いです。紋章両方とも、とことんまで利用してやりますから。」

 

「ミュソン様!?」

 

側近に抱えられた敵幹部は立ち上がれないほどの、魔力ダメージを負っている。

 

 

「残りは貴方だけよ。」

 

キラーアクスを軽々と振るって、構えた。

 

宮城内で不審な動きを見せた者は捕らえるように命令している。どれほどの勢力が隠れているかは未知だが、その人員数は決して多くはない。そして、魔獣に対抗できる戦力も十分に温存できている。

 

 

 

「粋がるなよ。我々の執念は決して潰えんぞ……」

 

 

宮城へ、『光の柱』が墜ちた。

大きく揺らし、破損した天井が降ってくる。

 

 

「あいつに逃げられるぞ!?」

 

タレスは闇魔法で退いていったが、エーデルガルトやリシテアは追うことはしない。

 

 

「作戦通りよ。」

「あんたも、挑発ご苦労様です。」

 

「オレはさっぱりなんだが……あー、ミサイルの数を減らすためか?」

 

その意図を理解して、頭をかく。

 

「そういうことです。あんたが思いつきそうなことでしょう?」

「それは……、たぶん」

 

数十発ほど撃ち込んできている。

だが、残弾数は無限ではないようだ。

 

 

「でも爆発オチなんて、経験したくなかったけどな……」

「私の命、あんたにかかってますからね。」

 

手に汗を掻いていること、気づいているだろうか。

 

「それは責任重大だな。」

 

成長しても黒髪になっても、変わらない。

今も昔も、緊張している。

 

横抱きすれば、あの頃よりリシテアはずっと重く感じた。

 

 

「脱出よ。皆、絶対に生きて避難しなさい!」

 

歴史のある城が崩れ去ることよりも、民が脅かされることを避けた。

 

 

 

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