ファイアーエムブレム風花雪月 番犬のカスパル 作:ヒラメもち
フォドラの北部に位置する王都フェルディアへ、セイロス騎士団は移動を開始した。殺害の容疑をかけられた王族ディミトリの、王都移管に応じたことになる。
そして呼応するかのように、王都市街では民衆による暴動が勃発した。だがしかし、その暴動を鎮圧することもなく、コルネリアは兵力を王城の防衛に充てていた。過激派の民衆の血が城を染めていく。
「ここまでとはな。どうする?」
シルヴァンが低い声で、尋ねる。
「叔父上は、完全にコルネリアの虜というわけか。」
本来、ディミトリ自らが囮となって、コルネリアを討つつもりだった。しかしディミトリが復讐に囚われていたとき、王都から離れている期間に、政治体制は掌握されてしまっていた。
「親父殿も民衆の救援にかかりきりのようだ。」
フェリクスの実父を中心としたディミトリ派も、城の外へと追いやられている。
「ディミトリ殿下、この王都が戦場になることでしょう。」
「わかってるさ。ドゥドゥー。」
コルネリアは決して王に君臨しようとは思ってはいないのだろう。フォドラの戦力を削ぐため、そしてアガルタの民の理想郷を創るために、この王都で虐殺を起こそうとしている。
「殿下。」
イングリットたちペガサス部隊が、王都の外に築いた陣に降り立った。
「予想通り、魔導兵器の準備をしています。」
「そうか。情報とともに、皆が無事に還ってきてくれてよかった。」
「はい!」
軍として、私情を持ち込むことは間違っている。
それでも、それが彼の王道だ。
「セイロス騎士団の方も準備完了のようです!」
「殿下。我々も進軍の用意は整っております。」
アネットとその父が、ディミトリに報告する。
「わかった。俺で、いいんだな……?」
「私たちはディミトリがいいのよ。」
「……そうか。」
その一言で、ほどよい緊張感になった。
「我々も、あなたの号令を待っています。」
ディミトリが率いる王国軍に、アネットの父が率いるセイロス騎士団に加わったとしても100人にも満たない。それでも、自信が満ち溢れてくるのは、同じ志のもとに集ったからだ。
「青獅子遊撃軍隊長として、告げる!」
エーデルガルトの志もちゃんと受け取った。
「生きろ!そして己の心に従え!……以上だ!」
全員が声を荒げる。
ちゃんと自分で考えた正義のために、戦え。
「俺に、続け!」
ディミトリを追いかけるように、精鋭が戦場を駆ける。
****
コルネリアは、街を見下ろした。
「ちっ、あの坊ちゃん、絆されおってからに。可愛い姉君と殺し合っていればいいものを」
帝国軍や同盟軍と協力して王都を囲むなど、異常だ。
民衆は戸惑い、『王』を探す。
「忌々しいほど、正義感に満ち溢れていますね。」
青獅子の旗を見つけた民衆は、そちらへ誘導されていく。
「いいでしょう。あなたの故郷、滅ぼしてさしあげますわ。」
スイッチを押す。
王都市街にあった像が動き始めた。
アガルタの民の科学力を見せつける機会だ。
魔導兵器という名の『自立機械』
圧倒的暴力。
そして、魔道砲台『ヴィスカム』もある。
「運命を呪いなさい。」
嗤い声が静寂の王城に響いた。
****
黒い鎧を纏った像が、盾と剣を持って動く。
「あれがカスパルの言っていた、『機械』か……」
魔獣や魔物とは違い、金属製。
動力は魔力なのだが、どこから供給されているのやら。
「お前は猪らしく、まっすぐ行け。」
大剣を、神聖武器で弾くのはフェリクス。
「わかっているさ。」
「ふんっ」
信頼などしてはいない。
フェリクスは民衆を守るつもりもない。
「俺の『剣』がどこまで通用するか、それだけだ!」
紋章の力を最大限に発揮し、押し返す。
「これだ。これを求めていた。」
この腕の痺れが、生きた心地をくれる。
亡き兄より勝った剣士なのだと実感させてくれる。
「意外だ。俊敏なんだなッ!」
両手で握りこみ、振り下ろして罅を入れる。
何度も何度も
「その程度か! 意志無き『機械』ッ!!」
何度、怒りをぶつけたとしても。
疑問が浮かぶ。
「……俺は何のために戦っている?」
民衆は王を求め、騎士は国を守るために戦う。
あの『ダスカーの悲劇』でも何も成せなかった。
「しまったッ」
雷魔法を受けたことにようやく気づく。
身体に痺れを感じた。
「くそっ、魔力砲台か!?」
無人で魔弾を発するという、奇怪な装置だ。
戦場には、剣と剣のぶつかり合いなどない。
『機械』との戦いは熱くなれない。
「無粋なものだ……戦争とは……」
フェリクスは、『剣』が好きだっただけ。
「無茶しないで!」
「おまえ……」
魔法の盾が、魔導兵器の一撃を防ぐ。
アネットはフェリクスよりずっと小さな身体だ。
勇気に満ち溢れている。
「なぜ助けた。」
「だって、仲間でしょう?」
「仲間、か……」
今この瞬間、足手纏いなのはフェリクスだ。
「フェリクス、もっと周りを見ろ!」
大剣と聖盾がぶつかる。
剣士の顔が、苦痛に歪んでいる。
「親父……」
魔導兵器は、決して目の前の1体ではない。
それぞれの魔導兵器と複数人の騎士が戦っている。血を流し、もう立ち上がることのない騎士もいる。自分の命をかけて、誰かの命を守るなど、意味のないことなのではないか。残された者に『悲しみ』を残すだけだ。
それならば―――
「アネット、無事か!」
魔導兵器が、衝撃に吹き飛んでいく。
「父さんも無茶ばっかり!」
「男とは無茶をしたがる性分なのさ、お嬢さん。」
巨大な槌も、英雄の遺産の1つだ。
しかし正統な使い手ではない。
「親父、貸せ。」
「ようやく使う気になったか。これは大紋章を持つお前の物だ。」
渡された盾が、フェリクスの血に反応して輝いた。
「今回だけだ。あの大剣を防ぐために必要だ。」
「じゃあさ、ついでに守ってよね。」
その小さな身体で、『打ち砕くもの』を担いだ。軽々とハンマーを持っているが、それは彼女の魔力を力に変換しているかららしい。
「だったら、お前の歌を後で聴かせろ。」
守ることに対価を貰うことは、傭兵らしいだろう。フェリクスは騎士よりも、べレトのような傭兵の方が性分に合う。
「もう!忘れてよぉ!」
恥ずかしそうにしながらも、アネットは頼りになる騎士に微笑んだ。
「ほら、防いでやったぞ。」
瞬時に反応し、大剣の振り下ろしに対して、輝く盾を構える。
「早速いくよ! 砕塵!」
英雄の遺産の一撃は、罅の入った魔導兵器を砕いた。
「我々も負けていられませんな。」
「そうですね。」
次代を担う若者は、ちゃんと育っている。
****
帝国軍を率いるフェルディナントはいまだ出陣せず、戦況を冷静に見ていた。
「さて……」
あの『魔導砲台』は一体どこから魔力を得ているのかどうか。
それを考えている時、水路が目に入る。
「『電気』……『導線』……、魔力の導線が地下にあるのか。」
カスパルがかつて言っていたことから、そのキーワードを紡ぐ。
異質な素材だが、あれらは精密機械。
どこかに魔力を管理する場所があるはずだ。
王城……いや、違う。
戦場になりづらい場所だ。
「ベルナデッタ、君なら大切な物を町のどこに隠す?」
物憂げに戦争を見ている少女に尋ねる。
「え?……えっと」
「この王都を1つの部屋と考えてみたまえ。」
「いや、あたしの部屋じゃないんですけど……」
「仮の話さ。」
「部屋の隅……でしょうか。」
「……そうか、城壁か!」
あくまで仮説だ。王都を守られているように築かれている城壁のどこかに、存在するのでは。
「さあ、行くぞ。ベルナデッタ。」
「うええ、私ですかあああ!?」
「君は目が良い。私では見逃してしまうかもしれない。」
それに、と言葉を紡ぐ。
「人と武具を交えることだけが、戦いではないのだ。」
「あたしでも役に立てるんですか?」
後ろから手を回した、彼女の表情は見えない。
「もちろんさ。人には最大限に力を発揮できる機会が必ず来る。」
ラファエルやイグナーツが率いる同盟軍、そしてアッシュが率いる王国の民兵たち、王都にいる民衆を少しでも多く救うために動いている。
「少なくとも、私は君を信頼している。」
「わかりました!ベルもがんばりますよぉ!」
一騎のペガサスが焦るように降り立った場所。
「まずはあそこを目指してみるか。」