ファイアーエムブレム風花雪月 番犬のカスパル   作:ヒラメもち

6 / 23
※残酷な描写あり。そういう描写に不快感を感じる読者様は読み飛ばしてください。


第6話 死神

赤き谷ザナド。

騎士団によると、ここに盗賊は逃げ込んだらしい。

 

深い谷底に落ちてしまえば、ひとたまりもない。

 

 

「やっぱり、あたし帰りますうぅ!」

「ベルちゃん、もうここまで来たんだから、がんばりましょ。ね?」

「安心したまえ。このフェルディナント=フォン=エーギルが守ってみせよう。」

「フェルディナント、頼りになる、なります。」

「うぅ……みなさんが痛い目に遭うのもいやぁ……」

 

 

ここまで登ってきただけでも、ドロテアやベルナデッタ、リンハルトには酷なことだ。空気が薄く、元傭兵のべレトでもかなりの体力を奪われていた。木製ではなくて鉄の武器を持って、初めての対人戦となる生徒は多い。

 

 

『時を巻き戻す力、おぬしに使わせてやろう。』

(……どういうことだ?)

『級長の少女を救ったときの力じゃ。際限なく使えるわけではないから気をつけよ。』

(……たすかる。)

『盗賊は討たねばならぬ、そんな気がする。』

(どうした、ソティス?)

 

 

先生がたまに俯く時があるのだ。

目線は、地面を向いているようで向いていない。

 

 

「……なあ。ここって何かの遺跡なのか?」

 

俺は、余裕の表情を見せているヒューベルトやエーデルガルトに尋ねる。

 

「いいえ、わからないわ。でもこの建築様式はどの時代でもない。」

「この戦場跡、一体どれほどの時が流れたのかわかりませんな。」

「そうか。まるで空中都市だと思ってな。」

 

『マチュピチュ』が思い浮かんだ。

ある程度広大な平地に、崩れた橋や柱が目立つ。

 

「帝国の歴史にない時代のものやもしれませんな。」

「そうね……歴史にも載らない民が暮らしていたのよ、きっと。」

 

 

途方もない歴史を、感じた。

エーデルガルトはその長い歴史に挑もうとしている。

 

 

それよりも今は、目の前の盗賊だ。

 

「皆、気を引き締めなさい。」

「情報通りですな。……追い詰められて何をするかわからない輩には、気をつけませんと。」

 

エーデルガルトやヒューベルトは、先生に視線を向ける。

盗賊と一番戦い慣れているのは、元傭兵の彼だ。

 

 

「……焦らず戦おう。ゆっくりと進軍すればいい。」

「そうね。すでに麓では騎士団が待機している。ここから逃げたのなら、私たちが討ち取るまでもないわ。……もし逃げたのなら、ね。」

 

山頂から盗賊を麓まで下ろさせる、そういう意味で騎士団は俺たちに任せたらしい。

 

 

「難儀なことですな。」

「くるぞ。」

「大丈夫よ、カスパル。」

 

エーデルガルトが斧を振るって矢を軽々と破壊する。

鋼の斧を持ち上げることすら、簡単ではない。

 

 

「すごい、です」

「これが、エーデルガルトの実力か……、遠いな。」

 

その実力にペトラたちも、盗賊たちも目を見開いた。

矢の軌道を完全に見切っているということだ。

 

 

「さあ、開戦よ。師は、皆のことを頼むわね。」

「おっしゃ! 切り込み隊長、番犬のカスパルいくぜ!」

 

先陣をきるエーデルガルトよりも先に、俺が躍り出る。

 

 

「こいつらを人質にとれば、俺たちはまだ!!」

「教会の言う限りじゃあ……」

 

飛んできた手斧は、俺の手刀で打ち落とす。

親父の拳に比べれば、簡単に見切れる。

 

「一体なんなんだよ、てめぇらは!?」

「殺してもいいらしいんだけど、な!」

 

 

その腹を殴って盗賊ぶっとばし、後方のやつにぶち当てる。

彼らの近くに着弾するのは、闇の魔法。

 

 

岩を砕き、砂埃が舞う。

 

「俺かヒューベルトに倒させてくれたなら、命はあるかもな。」

「ククク……エーデルガルト様は、手加減が苦手ですからな。」

 

出鼻をくじかれたエーデルガルトは、鋼の斧を手元で弄んでいる。

 

 

「こいつも、馬鹿力かよ……」

「最近の女の子は筋トレが趣味なのか?」

 

「……貴方たち。ずいぶんと失礼なことを言うわね。」

 

次々と武器を落としていく盗賊の男たちに、エーデルガルトは呆れるしかない。すでに戦意は失っているが、万が一のことはある。ヒューベルトと俺の拳骨で、気絶させられるだけマシと思ってほしい。

 

 

「さて。エーデルガルト様、どうしますかな。」

「師なら任せられるわ。この戦乱の世に、皆の『力』は必要よ。」

「はてさて。ついてきてくれるでしょうかな。私や番犬はともかく。」

「ヒューくんには、番犬って呼ばれたくねぇよ。」

「ククク、喧嘩を売っているのですかな。」

「貴方たち……わかっているでしょうけど、次が来るわよ。」

 

人数の少ない俺たちを優先したのか、盗賊の頭領はこちらへ来たようだ。血走った眼で、エーデルガルトを睨んでいる。憤る理由に頭の中では気づいてはいないだろうが、無意識に怒りを向けていた。

 

 

「苦労も知らねぇ貴族様が!!お前らも道連れだ!!」

「苦労を知っていれば相手を殺して良いと?―――貴方も屑ね。」

 

 

彼女の目つきが変わる。

首を落としに向かう彼女から、目を背けたくなる。

 

死に場所を求めているわけではない。今は。

 

 

「加勢しますよ。」

「おうよ!」

 

たぶん、このままだと俺は彼女と戦う時が来る。

守りたいから。

 

 

 

****

 

ところ変わって。

飛び出して行った3人ほどではないが、囲まれていた。

 

「くっ……」

 

いまだ時を戻す力は使ってはいない。

だがしかし、『守る』ことにべレトは慣れていなかった。

 

「はっ、所詮は貴族の坊ちゃんか!」

「ふっ、フェルディナント=フォン=エーギルは臆することはないさ!」

 

武器を落とした盗賊も、やがて武器を拾い直して立ち向かってくる。傭兵だった頃にべレトもその手を血で濡らしてきた。何も感情はなく、機械的にその命を奪ってきた。

 

『やらねば、やられるぞ?』

「ああ、そうだ。……かつてはそうだと思っていたんだ。」

 

だがしかし、命を奪うことを躊躇う生徒たちを見て、躊躇いの気持ちが芽生えた。剣が迷っていても、負けることはない相手だが、何度も立ち上がってくる盗賊たちには手を焼かされている。

 

(紛れているな、回復魔法の使い手……)

 

 

そして盗賊たちに、統制された動きがみられた。

 

「『計略』だ、気をつけろ。」

「計略……、この前、教えてもらった?」

 

知識としては、生徒たちは知っている。多人数の動きで少数を動揺させることが、『計略』だ。優れた指揮官がいてこそ発動できる技だが、盗賊なりの連携だろう。

 

 

「いくぞぉ!てめぇら!」

「くっ、盗賊なりの計略か。厄介だな!?」

 

数を活かして、攪乱される。

 

後衛を担っていた、ベルナデッタやドロテア、リンハルトと一緒に囲まれたことが問題である。どの方向からその凶器が迫ってくるかわからない。戦い慣れたべレトはともかく、生徒たちは身動きを取れない。

 

「どうした!」「どうした!」

 

「どうします!先生!?」

 

彼1人だったのなら、簡単に剣で切り抜けられる。

そうやって、今まで彼は戦ってきた。

 

「あーもう! なんでこんな目にいい!!」

 

限界を迎えたベルナデッタが泣き叫んで氷柱を造る。

咄嗟とはいえ、上級魔法を扱ってみせた。

 

『好機じゃ!』

「フェルディナント、氷に槍を振るえ!」

 

「そうか!わかった!!」

 

旋風のように、フェルディナントは鉄の槍を振るう。技を練習していたことは知っていたが、実戦でも成功したようだ。

 

 

 

砕かれた氷は礫と化して、周囲の盗賊を襲い、陣形を乱した。

 

「リンハルト、ドロテア! 閃光だ!」

 

「「はいっ!」」

 

上空へと、魔法を放つ。

光と雷の魔法が戦場を照らして、思わず盗賊は天を見上げる。

 

「ペトラ! 獲物を狙え!」

「はい!」

 

ペトラは指揮官へ、べレトは聖職者へ鉄の剣を振るう。

一連の行動で、冷静を保った者こそが、敵の要である。

 

「うぅ……」

「さすがにこれは、ね……」

「ベルナデッタ、ドロテア、休んでいろ。2人を頼んだぞ、フェルディナント、リンハルト。」

 

「ああ!任せたまえ!」

「僕なりには、がんばりますよ。」

 

フェルディナントですら、鮮血で動揺した。

貴族らしく耐えて、気丈に振る舞う。

 

守ることなら、今の彼らに任せることができる。

 

 

「ペトラ、やらないとやられる。」

「……そうですね。」

 

学び始めてたった2ヶ月の少年少女たちには、この死線は早すぎた。帰ったら少しくらいレアに文句を言ってもいいだろう、そう思いながらべレトは慣れ親しんだ鉄の剣を、両手で握り直した。

 

 

『生徒たちの前じゃ。やりすぎぬようにな。』

 

 

「……覚悟しろよ。」

 

盗賊たちは、怯む。

若くして機械的に命を狩る黒き鎧を纏った彼は。

 

「まさか、ジェラルト傭兵団の、『死神』……」

 

羽織った制服の上着を、べレトは今だけ捨てる。

 

攻撃こそ最大の防御。その紋章の力なのか、敵の血を得て、彼の傷は癒える。単騎で敵を斬り伏せることこそ、彼本来の戦い方だった。ジェラルトが制していたとはいえ、

 

ゆくゆく彼は、殺人鬼になっていただろう。

 

 

「運命を、呪え!」

 

もし血に染まったこの俺でも望むことが許されるのなら、自分の生徒には戦いをさせたくはない。

 

残酷な世界を、呪った。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。