ファイアーエムブレム風花雪月 番犬のカスパル   作:ヒラメもち

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第7話 現実と理想

あれから数日が経った。

少しずつとはいえ、生徒たちは『現実』を受け入れている。

 

 

『うーん、うーん』

 

セイロス教の崇める女神が民に与えたと伝えられる紋章によって、貴族の跡継ぎさえ左右されており、紋章はフォドラ全土に影響を及ぼしている。自分の出自も知らないべレトもまた、紋章を持つ者の1人だった。

 

 

フォドラの地ではそんなセイロス教が根付いている。その開祖セイロスは、1000年以上昔の戦争で解放王ネメシスを討って、アドラステア帝国の建国にも関わったとされている。

 

(何か思い出せたか?)

『さっぱりじゃ。』

 

セイロス教に関する話を教会の大聖堂で聞きまわってもなお、ソティスは自分の名前しか思い出せていなかった。セイロス教の女神も同じ名前を持つから、セイロス教こそが何かのきっかけになるかもしれなかったのだ。

 

 

「やはり、この像は美しい。特に聖セスリーンは見事の一言だ。そう思わないか、フレン。」

「なぜ、この像だけが輝いているのでしょうか、お兄様?」

 

厳格を表しているかのような人物である、セテスの声を耳にして、べレトは像の前で立ち止まってしまう。いつもよりずっと優しげであって、どこか甘ったるくて、聞き慣れない声だった気がするのだ。

 

「ま!先生が大聖堂に来るとは珍しいですわ。」

「ようやく主に祈ることを覚えたか。…………ところで先ほどのことは忘れろ、いいな。」

 

念押しするセテスに対して、言いふらすつもりもないべレトは黙って頷いた。枢機卿であるレアに近しい人物であるセテスと、その妹であるフレンである。フレンはレアに似た緑色の髪を持っているし、血縁関係があるのかもしれない。

 

『いやはやこの2人、存外仲が良いようじゃの。』

 

セイロス教の教えで、様々な逸話を残す4聖人の像の前で祈る人も多い。2人もそうなのだろう。

 

 

「この後、お兄様と一緒に湖へ釣りをしに行くのですわ。ご一緒にいかが?」

「まあ、待て。この者は新任教師として忙しいのだ。」

 

せっかく取れた、フレンとの兄妹水入らずの時間をセテスは邪魔されたくはない。

 

 

「……また機会があれば。」

「そうですの。では、私たちはお先に。」

「精進したまえ。」

 

厳格な言い方だが、悪いイメージを抱くことはない。

彼なりの激励なのだろう。

 

 

 

「主よ、私をお導きください……」

 

『あの少女、ずいぶんと熱心に祈るのう』

 

聞き込みを始める前から、彼女は祈りを捧げている。外部から、山の上の教会まで訪れる人も多いこともあって、休日は人で賑わっていた。そういう理由で、大聖堂の隅なのだろう。

 

なんとも、彼女らしい。

 

「……あっ、先生もお祈りを?」

「……通りかかっただけだ。」

「そうですか……」

 

『うーむ、何を祈っているのか、気になるのう。ほれ、聞いてみよ。』

「一体、何を祈っていた?」

 

もしドロテアに聞かれていれば、減点をくらう聞き方である。

まっすぐ見つめて、まっすぐ尋ねた。

 

「えっ、えっと……具体的には何も……主に感謝を捧げ、加護を願う……それだけです。」

 

『ほほう、祈るとはそういうものなのか。』

「……セイロス教のことは詳しいのか?」

 

「す、すみません……主に祈っているだけであって、セイロス教の信徒、というわけでは……」

「なぜ?」

「えっと、人と関わることが、苦手で……そういう性格で……特に理由はないのですが……」

「そうか。」

「すみません……、こんな私のために時間をとらせてしまって……」

「時間に余裕がないわけじゃない。」

「で、でも、あの、……私のことは気にしなくても構いません。―――先生も不幸になります。」

 

失礼します、と深々と頭を下げて足早に去っていく。

 

 

『不幸になるのかの』

(どういうことかわからないな。)

 

もちろん、べレトなら追いかけることは容易い。

 

なぜマリアンヌが辛い顔をして、他人に不幸が起こると案じてくれるのか。そんな疑問が芽生えてべレトは立ち止まっていた。彼は恐怖という気持ちが芽生えたことがなく、決して未来を恐れない。

 

 

もう少し話をしたいと思っていて、もっと不思議だった。

一体、彼女は何を恐れているのか。

 

 

「あの。先生、今節の課題に僕も連れていってほしいんです。」

「……理由を聞こう。」

 

青獅子の学級の少年アッシュ。

課題協力を生徒自ら打診してきたことに、意識を向けた。

 

 

***

 

 

大量の本を抱えて、もっとも幼い少女は壁にもたれかかる。

 

「はぁはぁ……」

「リシテア、大丈夫!?」

 

リシテアのところへ駆けつけたのは、自分と似た白い髪を持つ次期皇帝だ。入学して以来、何かと声をかけてくれていた。お菓子をくれることは悪くはないけれど、彼女が優しさより、同情して接してくれる。

 

そんな関係をリシテアは嫌っていた。

 

「エーデルガルト……、またあんた?」

 

本を取り上げて、彼女は軽々と持つ。

紋章の『力』が魔導に偏っているリシテアとは違う。

 

「力仕事なら誰かに任せればいいのよ。同じクラスにラファエルやヒルダがいるじゃない。」

 

ここでヒルダを出す辺り、エーデルガルトも彼女の馬鹿力を知っている。

 

 

「子供扱いしないでくれます?」

「子供扱いなんてしていないわ。」

 

それに対してリシテアはもう我慢ができなくなった。

だから、踏み込んだ。

 

「ねぇ……あんたの髪色、昔からそうだった?」

「そうね、元々よ。」

「とぼけても無駄。わたしは、紋章を2つ宿したことで髪の色を失った。あんたもそうなんでしょ。」

「まあ、気づくわよね。……同じなのだから。」

 

人為的に、血の改造を施された。

決して、望まず。

 

「やっぱり。あんたもなんだ……」

 

それがわかってどうするというのだ。

 

運命が変わる?

一緒に苦しむ?

 

「ねぇ、リシテア、復讐をしたくはない?」

「こんな目に遭わせたやつらは許せない。こんな世界が憎くて仕方がない。」

「そうね。私も憎いわ。私は必ずこの世界の闇を討ち果たすわ。」

「でも、どうすればいいっていうのよ。」

 

私にはそれだけの時間も力もない。

 

「私に『力』を貸してほしい。変革をもたらし、紋章の価値を失くすつもりよ。ゆくゆくは貴族の制度も失くす。」

「エーデルガルト、あんたって……理想的」

 

エーデルガルトなら、この忌むべき『力』を正しく使ってくれると思えた。

 

「ええ。皆がいるから、理想を実現できる。」

「ねぇ、私とエーデルガルトでも……間に合う?」

「間に合わせるわよ、絶対に。」

 

それに、とエーデルガルトが続ける。

 

「リンハルトやヒューベルト、カスパルが私たちのために。今はハンネマン先生と一緒に紋章について研究してくれている。全てが終われば、紋章なんていらないわよね。」

「そうですね。紋章が消えても問題ない世界になるんですから。えっと、あいつも……、カスパルも?」

「珍しい発想の持ち主なのよ、彼。」

 

エーデルガルトは、額に手を当てた。

 

「その、本人は異世界から来たなんて、軽く口にしたの。もちろん私たちだけに。」

「異世界って……、どう見ても普通の男子ですよね、彼。」

 

あのチャワン蒸しも、彼の故郷の料理なのだろうか。

あれから何度か食べさせてもらっている。

 

「そうね。彼が常識人と思えるくらい、私の学級は個性的よ。」

「苦労してるんですね……。それで。あんたはなんでここに?」

「……実験に使う鼠が怖かったのよ。ちょっと訳ありでね。」

 

くすっと笑みが零れた。そこも私と同じなんだ。

 

「あんたも、かわいいところあるんですね。実は、女の子かどうか疑っていました。」

「正真正銘、女の子よ。あのヒューベルトが珍しく腹を抱えて笑っていたけれど、昔カスパルがくれたネコの人形がないと寝られないもの。………すぐに忘れなさい。」

「残念、記憶力はいい方なんですよ。そうですか、あいつがですか……」

 

 

気になっていた2人に、置いていかれたようなそんな気持ちだ。まあ、あいつもエーデルガルトもちゃんと手を引っ張ってくれる。2人のおかげで未来が開けたからか、どうにもそういう思考に陥ってしまう。

 

将来の夢を考えると、明るい気持ちになれるらしい。

 

 

「リシテア……?」

「1人じゃなかったんですね。私たち。」

「ええ。貴方も『力』を貸してほしい。」

「もちろん。」

 

抱きかかえてくれたエーデルガルトは温かい。

 

「ふふっ、いい子ね。」

「子供扱いしないでくれます? まったく。」

 

撫でる姉、拗ねる妹。

そう見えるだろうか。

 

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