ファイアーエムブレム風花雪月 番犬のカスパル   作:ヒラメもち

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エーデルガルトとリシテア


第9話 幸せなひと時

 

 

今は亡きロナート卿のガスパール城で、レアの暗殺計画の密書が見つかった。カトリーヌや騎士団は黙っておらず、総出で教会の見回りを行っている。そして、女神再誕の儀が近づいていることもあって、多くの民で賑わっていた。

 

『うーむ、うーむ、どこも狙われそうじゃのう。』

 

教会の人口密度の高さによって、訓練場や教室で過ごす生徒が多い。まあ、ベルナデッタはいつもの自室だろう。黒鷲の学級では、何か別の目的があるのではと学院を調査している。

 

(食堂が怪しいとラファエルが言っていたな。フォドラ全土の中心地なのだから、貴重な食材があるかもしれない。)

『いや、食堂はないじゃろう。』

(……そうか。)

 

武器庫、宝物庫、温室、大聖堂、食堂……といった場所についてべレトもまた聞き込みをしていた。一早く場所を絞ってしまうことは視野を狭めてしまう。祝日を利用して、まずはより多くの候補を各自で集めていた。

 

 

中庭を通りかかったところで、エーデルガルトがいるのを見つけた。

 

「……なにかわかったか?」

「えっと、その、休憩をしていたのよ……」

 

頬を染めたエーデルガルトに首を傾げる。

リシテアと一緒にお茶会をしているようだ。

 

「先生、ちょうどいいところに。」

「……どうした?」

「私を解放するように言ってほしいんですっ!」

 

エーデルガルトの膝の上で、リシテアはそう訴える。

腕力の差は歴然だ。

 

「だめよ、もう少しだけだから。」

「……だが。」

「師、ここにある菓子は帝都から取り寄せたものよ。好きなだけ食べて?」

「わかった。」

 

彼にしては珍しい、即答。

 

「お菓子に釣られるんですかっ!?」

 

『おぬしは、菓子でなくとも美味しいものならなんでもいいじゃろうて。……うむ、なかなかの味じゃ。』

(……今日はオーダーメニューを食べていなかったからな。)

 

感覚を共有するという、器用な技でソティスもお菓子の味を楽しむ。べレトは食堂に食材を持ち込んでは、料理をオーダーする。ラファエルを越える大食感の彼と将来結婚する女性は苦労することだろう。

 

「はむ……まったく……先生は……エーデルガルトに甘すぎますよ。」

「……そうか?」

 

抵抗することなくお菓子を口に入れられるリシテアは、見事に餌付けされていた。

 

「おーっす、マリアンヌを連れてきたぞ!」

「ご苦労様。これが報酬よ。」

「先生のペースが速い……お菓子、足りますかね?」

 

先生も来たんだな、とカスパルは椅子に座った。

大食感2人目である。

 

「あっ……先生……」

「……久しぶりだな。」

「ごめんなさい、先に始めていました。」

「えっと……、遅れて……すみません。」

「構わないわ。今日も馬の世話をしていたのでしょう?がんばるわね。」

「えっと、……好きでやっていることなので。」

 

 

「……馬が好きなのか?」

「……動物が、好きです。」

「……そうか。」

 

静かな会話をする2人の隣では、3人での会話が始まっていた。

 

リシテアがカスパルに狙っていたお菓子を取られたと駄々をこね、エーデルガルトは彼女をあやしながらカスパルを責め、彼はただひたすらに謝る。やがて笑って仲直りする。

 

なんとも子供っぽくて、前節の課題の姿とはまるで異なる。

 

「やっぱり、お菓子なくなったじゃないですか!先生もあんたももう少し遠慮してくださいよ!」

「食堂にでも行って、頭下げるしかねぇな。」

「ほら、リシテア、貴方の好きな物を選ばせてあげるから。」

「むう……それで手を打ってあげます。」

 

そうして、べレトたちに一言残して離席した。

 

 

 

残されたのは、べレトとマリアンヌだけだ。

 

「あっ……」

 

微笑んでいるマリアンヌと目が合う。

髪に隠れている儚げな瞳が見えた。

 

「あの……先生は……笑ったこと、ないんですか?」

「……マリアンヌがそういうのなら、笑ったことはないのだろう。」

 

笑うということがわからないのだ。

 

「……気付いた時には俺は戦場で剣を握っていた。ずっと父の背中を追いかけていた。」

「子供の頃も、ないんですか……?」

「……子供の頃、か。」

 

祝日でなお、黒き鎧を着こんで制服を羽織っているのはそれが慣れ親しんだ格好だからだ。腰の剣を片時も離すことはない。子どもの頃、ただひたすらに屈強な男たちの剣を見つめていた。

 

 

「……空虚な人生、なのだろうか?」

「そんなことありません! 先生はこんな私にもまっすぐ向き合ってくれます。だから、その、……」

 

いつもより、少し大きな声で彼女は主張した。

いつもより、明るい印象だ。

 

「……ありがとう。」

「い、いえ……」

 

「……いつも夢に出てくる少女だけは、記憶に残っている。」

『ほう、そうなのじゃな~』

(……ソティスのことだ。)

『わしの寝顔を見ていたというのか!?』

 

急に黙った彼を見て、マリアンヌは首を傾げる。

 

「えっと……?」

 

「ソティスという、口うるさい少女だ。」

『口うるさいとはなんじゃ!?』

 

「ソティス……それって女神様の名?」

 

「そうらしいな。女神らしさはないが、可愛げはある。」

『か、かわいいじゃと!?』

 

「ふふっ、女神様は可愛げのある方なのかもしれませんね。」

 

『そうじゃろう、わしみたいな美少女やもしれんな!』

「そうかもな。」

 

「もしかして、さっきから、その女の子と話しています?」

「そうだ。」

 

マリアンヌは片手で口を塞いで、背中を曲げる。

くすくすと言う声が聞こえた。

 

「どこか痛むのか?」

「いえ、先生が面白くって。」

「そうか?」

「ええ。信じられないようなことを真顔で言いますから。」

「信じられないか?」

 

彼女は大きく顔の前で手を振った。前髪に隠された瞳がべレトの目に入った。

 

「し、信じますよ!―――だって、先生ですもの。」

 

『そうじゃな。おぬしじゃから、信じてくれるのじゃぞ。』

「俺だからか?」

 

「はい!」

「そういうものなのか。」

 

マリアンヌは周囲をキョロキョロと見渡して、大きく息を吸い込んだ。

 

「ねぇ、先生。私も秘密を話していいですか?」

 

べレトはただ頷く。

寂しげな表情彼女に、問いただすことは決してしない。

 

「私は紋章を持っています。それも、呪われた紋章を。」

 

『紋章、か……』

(彼女の人生は紋章に狂わされたんだな。)

 

「呪われている、とは?」

「歴史から抹消された、『獣の紋章』、です。……それを持っていると知られるだけで、忌み嫌われます。」

 

「なぜだ?」

「あくまで噂なのですが……いつか私は獣と化してしまうんです。」

「だが、噂なのだろう。」

「はい。……でも、私、怖いんです。い、今すぐにだって、先生を、この爪で、傷つけてしまうかもしれない……」

 

可能な限り、深く切られている爪がべレトの目に入る。

 

「私に関わると、いつか不幸になってしまうかもしれない。だから私を1人にしてほしいんです……私のために……」

 

「俺は強い。たとえマリアンヌが獣と化しても、それでもマリアンヌは俺の生徒のままだ。少し、荒っぽい生徒だ。」

 

自然とべレトは口にしていた。

彼は『力』だけが、かつて存在意義だった。

 

「それに。今この瞬間、不幸なのか幸せなのかは、俺が決めることだ。俺には幸せがよくわからないが、別に不幸だとは感じていない。」

「ふふっ、そうですね。本当に、先生は強い人。」

 

『ほれ、褒められておるぞ。』

「ああ。悪い気分じゃない。」

 

「私、先生に出会えたことは、幸運です。」

 

不幸を振りまくと言った彼女は、幸せを自分で決めた。

 

『女神が応えてくれたのやもしれんな。』

「……女神が応えてくれたのかもしれない、そうソティスが言っている。」

 

「ありがとう、ソティスさん。」

 

『うむ!』

 

 

マリアンヌはハッとして、身体をべレトの方向から変える。

 

 

 

「よっしゃー!二次会だぞ、先生!」

「マリアンヌ、なんだか顔が赤いですよ?」

「い、いえ、何もありませんでしたっ!」

 

「さあ、リシテア。座りましょう。」

「いえ、カスパルと先生には負けていられません。本気で臨みます!」

「生徒といえど、手加減はできんぞ。」

「おっ。先生、やる気だな。」

「師、手加減してあげなさい。」

 

 

マリアンヌから、べレトは紅茶のカップを受け取る。

 

「あの……、先生。今度一緒にお料理しませんか? そうすれば、お腹いっぱい食べられるかと思って。」

「助かる。」

 

まっすぐ見つめられて、マリアンヌは顔を逸らしてしまった。

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